文一総合出版が満を持して、児童書分野に参入。その第1弾となる「森の小さな生きもの紀行」という、粘菌、きのこ、コケ、3冊の写真絵本シリーズの、写真(粘菌のみ写真+文章)を担当した。
今回は「個人的偏愛粘菌ベスト10」の続編で、きのこバージョンをお届けしよう。選んだきのこの中には、一般的には、なかなかお目にかかれないものもあるかもしれないが、「どうしても見たい」という人は新型コロナウイルスの災禍が落ち着いたら、ぜひ、北海道の阿寒湖へ行っていただきたい。きのこや粘菌、そして、広大な天然の森をお楽しみいただけることうけ合いである。
きのこの詳しい生態は、2021年1月25日発売の『いつでも どこでも きのこ』をご覧いただくとして、まずはのきのこの「見た目」の魅力をお楽しみいただきたい。
ドクベニタケ
森のあちこちで見かけるが、ベニタケの仲間は、似たような種がたくさんあって、正確に同定するのはなかなか困難だ(この写真のきのこも然り)。
きのこ初心者としては、傘が赤く、柄が白く、触るとボロボロと崩れるようなきのこを見つけたら、ベニタケの仲間だと覚えておけばいいと思う。
赤い傘のきのこと森やコケの緑との相性は抜群で、見つけたらいつだって、うっとりせざるをえない。
ドクツルタケ
「1本で家族4人を殺した」という例もある、日本有数の猛毒きのこ。と聞くと、なんと恐ろしいと思うかもしれないが、その美しさは筆舌に尽くしがたい。
純白で、シルクのドレスを思わせるような柄のダンダラ模様がたまらない。
英語圏では「Destroy Angel(殺しの天使)」などと呼ばれている。きのこはフランス語では男性名詞だが、あえて「きのこ界の貴婦人」と言いたい。
ヒナノヒガサ
街中から原生林までいろいろな場所で見かけるが、共通しているのはコケの間から発生すること。
傘の直径が1cmもないくらいの、とても小さくて可憐なきのこ。よくよく見ると、傘や柄の表面を細く白い毛がおおっている。これがまたなんとも可愛い。
小さくかわいらしい見た目ではあるものの、ごくごく微量に毒性物質であるシロシビンが検出されているので、れっきとした毒きのこだ。
ロクショウグサレキン
森を歩いていると、ところどころが青く染まっている広葉樹の落枝をよく見かけるが、これこそが、ロクショウグサレキンのしわざである。
きのこの本体である菌糸も青っぽい色をしていて、夏から秋にかけては、耳かきの先っぽくらいの、小さな小さな子実体の姿を見ることができる。きのこ界において、ここまで青いものはとても貴重であり、大きさは極小ながらも森の宝石といいたくなるほど美しい。
シロキツネノサカズキモドキ
この写真のみ、群馬県南部で撮影。毎年、春になると、雑木林の傾斜地にある同じ落枝から発生するので、定点「観賞」しているのだ。雑木林は阿寒の原生林とは違って、背景が雑多でなかなか絵にならないので「きのこを主役にして生育環境を含めた美しい写真」を撮るのが難しい。
赤い色といい、白い毛といい、形といい、心をぎゅっと鷲掴みにする萌え要素がそろっているきのこである。きゅん。
アラゲコベニチャワンタケ
きのこの和名について話をするときに、例として挙げたくなるのがこのきのこだ。漢字で書くと「荒毛小紅茶碗茸」。見た目そのまま、荒い毛が生えた小さな紅色の茶碗のような形をしたきのこ、というわけだ。
それにしても、お皿の周りに密集して生えている「毛」がなかなか艶めかしい。西洋では「eyelash cup」などと、まつ毛に例えられている。さもありなん。
ベニテングタケ
一般的に「きのこ」と聞いて、最初に思い浮かべるビジュアルは(食用を除けば)真っ赤な傘に白い点々がついている、このきのこの姿ではなかろうか。森の地面に、こんなに可愛らしくて美しいきのこが生えていたら、誰だって心をときめかすに決まっている!
有名な毒きのこではあるけど毒性はあまり強くない。アートなどのモチーフとしても大人気だ。関西以西ではあまり見られないやや北方系のきのこ。
アシグロホウライタケ
落葉や落枝から発生する、傘の直径が数mm程度と、思いっきり小さなきのこ。
きのこが発生している葉っぱなどを手に取ってよく見てみると、傘の裏側には間隔の空いたヒダがあるのがはっきりわかる。「こんなに小さいのに、きのこらしくしているんだなぁ」と感動もひとしお。
柄を足に見立て、それが黒いので「アシグロ」ホウライタケという名前がついている。自然の造形に乾杯!
ホシアンズタケ
初めてこのきのこを見たときの衝撃ときたら、もう。
湿地に倒れ込んだヤチダモの倒木から発生している、ショッキングピンクのきのこ!迷宮のような傘のシワ! 大宇宙の真理が、生命誕生の神秘が、ここに集約されている! と、までは思わなかったけど(笑)、とても感動したことをはっきり覚えている。
けっこうレアなきのこで、日本広しといえども、北海道といくつかの県でしかまだ見つかってないとか。
コウバイタケ
ある沼へ出かけた帰り道、近道をすべく森をショートカットしたら迷ってしまったのだが、林床が一面コケに覆われている、天国のような場所を発見! さらに、そのコケの間にピンク色の可憐で美しいきのこを発見!
それが、コウバイタケとの出会いだった。不幸中の幸いどころの話ではない。この10年くらいで数万枚は撮影している、大大大好きなきのこです、はい。
新型コロナウイルスの影響で遠出がしづらい昨今だが、たとえ街中でも、公園や街路樹など身近な場所で、いろいろな生きものに出会えるはずだ。
「密」にならないように注意しつつ、ぜひ、観察、観賞に出かけてほしい。
きのこ、粘菌、コケをはじめとする隠花植物に興味がある人は、『きれいでふしぎな粘菌』『いつでも どこでも きのこ』(保坂健太郎・著)、『あなたの あしもと コケの森』(鵜沢美穂子・著)の3冊シリーズの写真絵本「森の小さな生きもの紀行」を活用して、野外観察のための「イメージトレーニング」をしていただけたら幸いである。
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『きれいで ふしぎな 粘菌』
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Author Profile
新井文彦
6月から10月までの間は、北海道で、毎日森に通って、きのこや粘菌の写真を撮っています。冬の間は、群馬県で、年老いたメスの柴犬のはなさんと暮らしています。たくさんの人に粘菌を好きになってほしいです。『きれいで ふしぎな 粘菌』(文一総合出版)、『もりのほうせき ねんきん』(ポプラ社)ほか著書多数。