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魚・甲殻類・貝類

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3/19 2019

ウグイ類のメスが派手な理由 〜魚たちのお見合い実験奮闘記〜

ウグイ類(ウグイ、エゾウグイ、マルタウグイ)をご存知ですか? ウグイ類は河川の中流〜下流で普通に見られる魚ですが、繁殖期には乱婚状態になり、一度に多くの個体が入り乱れて繁殖活動をするという特徴があります。さらに驚くべきことに、繁殖期にはオスだけでなくメスも派手な見た目になるという珍しい特徴をもっています。
 
では、なぜウグイ類はメスも派手になるのでしょうか? この謎を筆者が研究した結果、「他の似た種類の魚のオスに求婚されないようにメスも派手になる」という、新たな説が浮上したのです!

派手な見た目になるのは、オスだけじゃない

生き物はなぜ、しばしば派手な見た目になるのでしょうか? クジャクやマンドリルをはじめ、メスの見た目は地味だけどオスは派手、という生き物は数多くいます。派手な見た目には天敵に見つかりやすくなるというデメリットがありますが、オスにとってはメスを惹きつけるというメリットがあるとされてきました。つまり、自分の夫・父親としての質の高さを、自身の派手さによってアピールをするということです。
しかし、オスだけでなくメスも派手になる生物がいます。たとえば、日本の身近な淡水魚・ウグイ類がその一例です。彼らは非繁殖期には灰色・銀色の地味な見た目ですが、オス・メスともに、繁殖期になるとオレンジ色や黒色の帯を体に発色させます。この繁殖期にだけ現れる派手な色彩パターンを、婚姻色と呼びます(図1)。

図1:ウグイ類のメスの婚姻色。オスも同じような色彩パターンで、ウグイは黒帯2本・オレンジ帯3本、エゾウグイは黒帯2本でほほがオレンジ、マルタウグイは黒帯1本・赤帯1本

なぜメスも派手になるのか?

メスが派手な見た目になる理由は、研究者の間で長く議論されてきました。この理由として有力な説は2つあり、1つめは派手になる遺伝子説です。これは、「見た目が派手なオスが繁殖やエサ場をめぐる競争で有利なら、派手になる遺伝子が進化するはずだ。そうすると、オス・メスのほとんどの遺伝子は共通するから、たとえメスに派手になることのメリットがなくても、派手になってしまうのではないか」という説です。もう1つはメス同士のバトルで有利!? 説で、「メスは派手になることで、繁殖時の良いオスをめぐるメス同士のバトルで有利になる。あるいは、群れ内で偉くなるための社会的ポジションをめぐるバトルを有利に進められるのではないか」という説です。
 
この説をウグイ類で考えてみましょう。冒頭に書いた通り、ウグイ類は多くの個体が入り乱れた状態で繁殖します。そんな群れの中で、「より色がきれいなこの異性と繁殖しよう」なんて考えている暇はないでしょうし、意中の相手を見つけたところで次の瞬間には見失っているかもしれません。そうすると、一つ目の派手になる遺伝子説は、ウグイ類については重要ではなさそうです。また、ウグイには群れの階級や縄張りもないことが知られているので、二つ目のメス同士のバトルで有利!? 説もそもそも成り立ちません。このように、ウグイ類のメスの見た目が派手な理由は、これまで有力とされている説では説明できないようです。

メスの派手さは交雑を避けるため?

この代わりに私が考えたのは、「交雑回避説:メスが派手な見た目をすることで自分の種(※)を相手に知らせ、別種のオスからの求婚を回避する」という説です。違う種と繁殖することを交雑と言いますが、交雑には交尾時のケガやせっかく産んだ子が生存・繁殖でうまくいかないなどのデメリットがあります。そのためか、ウグイ類は同じような時期・場所で繁殖するにもかかわらず、異なる種間の子ども(雑種個体)は自然河川にはあまりいません。ということは、なんらかのメカニズムで彼らはお互いの種を識別し、違う種との繁殖を避けているはずです。そこで私は、ウグイ類はそれぞれの種独自の婚姻色をもとにして、互いの種を識別しているのだろう、と考えました。
 
この私の仮説は、おそらく生き物の進化を調べている研究者からすれば単純極まりない説だろうと思います。しかし、多くの論文を読んだ限り、そのようなシンプルな考えが今までに一度も試されていないであろうことに気づきました。これなら面白い研究になる! と北海道大学の博士課程に入りたての私は興奮し、ウグイ達を研究の対象にすることを決めたのでした。
 
※種(しゅ):ウグイ・エゾウグイ・マルタウグイなど、同じようなグループの生物であっても別々の名前で呼ぶことのできるそれぞれの種類のことを、生物学では種と言います(厳密には複雑な解釈・定義がありますがここでは割愛します)。

お見合い実験スタート。しかし、会場(水槽)がない……

私は、この説が正しいかどうかを、ウグイたちにお見合いをさせて確かめようと考えました。つまり、オスに同種のメスと別種のメスの両方を見せ、相手の近くに滞在した時間の長さを計測し、オスがどちらを好むのか(どちらで滞在時間がより長いのか)を調べようとしたのです。しかし、そこまでには多少の苦労がありました……。
 
まず立ちはだかった難題は、ウグイのお見合いを行う水槽の確保です。そもそもウグイ類はそれなりに大きな魚で、だいたい20~25㎝、大きければ30㎝を超えます。さらに、研究に必要なお見合い水槽の条件として、相手に近づいていると判断していいゾーンと、そうではなくてなんとなく泳いでいるだけだと判断していいゾーンが必要です(図2)。泳いでいるだけのゾーンが相手に近づいているゾーンより小さいと、この結果は怪しいということになってしまいます。また、お見合い相手に実物の魚を使うのであれば、相手が泳げるゾーンも作らねばなりません。ということは、少なく見積もっても長さ1.5mの水槽が必要。結局、この研究を進めようとした初めの年には、そのような水槽が見つかりませんでした。研究テーマを変えるならば今……。しかし、手柄をあげようと焦っていた当時の私は、「今更テーマなんて変えられんわ!」と思考停止していました。
 
そこに手を差し伸べてくださったのが、北海道大学苫小牧研究林の岸田准教授でした。初めてお会いした学会で岸田さんの発表について色々質問をしていると、「ところで君は誰? 何を研究しているの?」と尋ねられました。研究のあらましから水槽がなくて困っていることまでをペラペラ喋ったところ、10年以上放置されている巨大水槽が苫小牧研究林にあることを教えてくださいました。そして、翌年シーズンの春にはその巨大水槽を苫小牧研究林の技官さん方が直して下さり、実験を始めることができました。技官さん方は、食に窮する我々貧乏学生にジビエを分けて下さるなど、研究のみならず生活面でも大変良くしてくださいました。

図2:この研究で使った水槽の間取り

図3:実験に使った巨大水槽。ドーナツ状になっていて、内側から水槽を360°観察することができる

アニメのメスには興味なし

次に問題になったのは、オスがメスに反応してくれるかどうかです。実は、当初の実験では生きているメスを見せるのではなく、ウグイ類各種の婚姻色のメスのアニメーション動画を見せることにしました。というのも、アニメでは魚の色・形・動きを自在に制御できるため、アニメ動画をお見合い相手に使えば、形や動きではなく本当に色が大事なのかを調べることができます。アニメ実験をするためには、ウグイがアニメ動画を認識しているのか、本格的な実験シーズンの前に確かめておく必要がありました。そこで、サケのふるさと千歳水族館にお願いして、閉館後の夕方にアニメ実験を試させていただきました。魚の絵を描き、ウグイ・エゾウグイそれぞれの婚姻色のバージョンと、非繁殖期での灰色のバージョンを描き、それをパワーポイントで動かすという単純なアニメを用意して、それを水槽前のウグイ達に見せました(図4)。だがしかし。ウグイ達は、私は作ったつたないアニメにはあまり反応してくれませんでした……。絵の魚に寄っては来るけど、2秒くらいで飽きてどこかに行く。これでは無理だ。仕方がないので、やはり実際の異性をお見合い相手にすることにしました。

図4:試しに描いた絵。ウグイ達の反応は芳しくなかった

魚が手に入らない!

まだ問題は続きます。私の当初の研究目的は、ウグイ・エゾウグイ・マルタウグイの3種の、オス・メスそれぞれが、見た目に基づいて同種・他種を識別できるかを調べることでした。そのためには、3種ペア・2性の6通りすべての実験を行う必要があります。「偶然ではなく、彼らは同種を好んでいるのだ」と主張するためには、おおむね20尾以上のデータが各組み合わせで必要です。ということは、最低でも120尾のお見合い実験をこなさねばなりません。焦った私は、とにかくウグイ類を探し回りました。最大の課題は、マルタウグイを見つけることでした。実験をした前年、つまり研究を始めた最初の年に、札幌の豊平川をドライスーツで川下りして探しましたが、いるのはサクラマスとウグイ・エゾウグイばかり。意中のマルタウグイは1か所、しかも数匹しか見つけられていませんでした。実験をした年には、まず初年度にマルタウグイを見つけた場所で網を投げ続けました。しかし、何度投げてもマルタウグイは網に入りません。己の無力さに途方に暮れた私は、釣り人に聞き取りをすることにしました。片っ端から話しかけ、多くの方の話を基にしてようやく、マルタウグイの居場所を突き止めることができました。その場所では親切な釣り人の方々からマルタウグイをいただくこともできました。

図5:投網を投げればウグイはボリボリ捕れます。サンプリング中に弱らないよう、車に乗せるギリギリまで、洗濯網に入れて川に戻しておきます

さらなるピンチ

なんとか魚を手に入れた私は、お見合い実験を始めました。水槽にウグイ達を入れてみると、確かに同種のお見合い相手のほうに引き寄せられているように見えました。これに安心しきってしまった私は、自分の目では実験を見ずにビデオで記録をとり続ける、という戦略に移行しました。この利点は、ウグイ達が人の目を気にせずお見合い相手に集中できるようになることと、私が好きな時間でデータをとれるようになることです。そして、ビデオは逐次確認したほうがいいという岸田さんの諫言を無視し、ビデオ鑑賞を実験完了後にまとめてやると決めた私は、週末は札幌でウグイ達を捕まえ(札幌のほうがウグイ達を捕まえやすかったのです)、夜のうちに苫小牧に運び入れ、平日はひたすら実験をする、というスケジュールで研究を進めました。
 
このビデオ後回し作戦がのちに悲劇を生みます。岸田さんの予言は的中しました。のちにビデオを見て発覚したのは、マルタウグイが、実験の間ほとんど寝転んでいるだけで異性に興味を示していなかったことでした(図6)。結果、マルタウグイを使った実験のデータは、お蔵入りとなってしまいます。さらに悲劇は続きます。ウグイのオスを対象にしたお見合い実験が順調に終わり、エゾウグイのオスを対象にした実験を始めようとしていた矢先、あろうことかエゾウグイ達が動物に食べられてしまったのです普段魚を飼っている水路を掃除するため魚を水路の外に出した、たったの一晩の凶行でした。これには途方にくれました。というわけでエゾウグイのオスのデータも取れず。結局、十分に取れたデータは、ウグイのオスだけでした。

図6:水槽でごろごろするマルタウグイのオス

実験結果

さて、実験に戻りましょう。この実験では、ウグイのオスを入れた細長い水槽の両端に、ウグイ・エゾウグイのメスをそれぞれ入れた水槽を置きました(図2)。別の水槽内にメスを入れることで、オスがメスの匂いに引き寄せられる可能性を排除できます。そして、オスがメスの近くで過ごす時間を、18分の間測りました(図7)。あらかじめメスを入れた状態で、お見合い動画を20分間録画していますが、オスを水槽に入れた最初の2分は両者が水槽に慣れるための時間とし、残りの18分の動画をデータ化しました。すると、被験者であるオスのウグイ36尾は、別種メスの近くよりも同種メスの近くで、平均して11.7倍も長い時間を過ごしていました。よって、ウグイのオスは、メスの見た目に基づいて同種を好んだと言えます。

お見合い風景。オスはメスに近寄って水槽にアタックしたり、真横に寝そべったり、立ち去ったり。

 
メスの見た目の特徴は、色以外にも形・動きがあります。色に基づいて選んだのだ、というためには、形・動きがウグイ・エゾウグイのメスの間で違わないことを示す必要があります。そこで、メスの体形が種間で違わないか、写真を基に調べました(図8)。さらに、お見合い中1分ごとに、メスが水槽中で泳いでいる位置やオスへの向き、泳ぎのスピードを記録し、これらをお見合いメスの種間で比べました。

図8:写真を基にした体形分析(ランドマーク分析)に使った部位。それぞれの部位の座標を写真から得て、部位の位置同士の関係を種間で比べました

すると、メスの体形・動きともに種間の違いが見られませんでした。ということは、ウグイのオスがメスの種識別をするうえで、メスの色パターンが役に立った可能性が高いと考えられます。つまり、ウグイ類のメスが派手になること(=メスの婚姻色)は、交雑回避に役に立っていると考えられます。
 
今回の研究では、ウグイ類がオスもメスも派手な婚姻色をもつ理由を、交雑の切り口から調べました。しかし、ほかにも様々な理由があり得ます。例えば、派手な色であることで自身のマズさや毒がある可能性を天敵に覚えこませようとしている、とも考えられます。繁殖場所を見ていると、浅瀬で多くのウグイ類が群れている割に、それを襲う鳥は稀です。鳥がそばにいても、カラスやカモメ、サギが数羽ずついるくらいです。もしかすると、川魚の天敵である鳥にとってウグイ類はマズいのかもしれません。また、乱婚時の短い間で互いの種を判別するというよりも、乱婚が起こる前から見た目が同じような魚同士が集まることによって、結果的に乱婚時に別の種類が混じりにくくなり、交雑が回避されているのかもしれません。もちろん、最初に否定した繁殖相手をめぐる争いが密な群れの中で起こっている可能性も、科学的な検証がなければ完全には否定できません。
 
ウグイ類は身近でありふれた魚であるにもかかわらず、まだ謎の多い生き物です。今回ご紹介したように、身近な生き物でもまだまだ多くのおもしろい発見があります。普段見慣れている人からすれば当たり前のこと(オス・メスとも繁殖期にだけ派手になる)であっても、進化生物学的にはとてもおもしろい特徴だったりするのです。ウグイ達を通して、少しでも生き物の進化に興味をもっていただければ幸いです。
 
 
 
この研究は、様々な方の補助とコンペを通じて頂いた研究費から成り立っています。特に、3か月以上にも及んだ実験では、10年以上放置された朽ち果てた水槽の修理からジビエの施しに至るまで、北海道大学苫小牧研究林の皆さんより本当に多くのサポートをいただきました。この場を借りて、深く感謝申し上げます。
 
この記事の基になった論文(査読を経ていないプレプリント):Atsumi, K., Kishida, O., & Koizumi, I. (2019, January 18). Visual-based male mate preference for conspecific females in mutually ornamented fish: possible importance of species recognition hypothesis. https://doi.org/10.32942/osf.io/3nyhm

Author Profile

渥美 圭佑

1992年愛知県名古屋市生まれ。北海道大学水産学部・東京大学農学院(大気海洋研究所)を経て、現在北海道大学環境科学院の博士課程です。このウグイ研究まで魚を研究に使うことにこだわっていましたが、昨年度から両生類を使った生態学の研究も始めました。主な興味は「種間交雑はなぜ起こるのか、起こるとどんな進化・生態的なイベントが起こるのか」「集団が多様な個体で構成されることはどんな生態インパクトを持つのか」です。
HP:https://ugui-guigui.wixsite.com/ugui-guigui

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