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6/15 2018

ムササビ・モモンガ入門
――今さら聞けない2種の違いと野外観察のコツ

みなさんは「空飛ぶ哺乳類」と聞いてなにを思い浮かべますか? コウモリ……? それとも…
 
今回、ここで紹介するのは「ムササビ」と「モモンガ」。どちらも空を飛ぶ日本の哺乳類です。
名前くらいは聞いたことがあると思いますが、混同されることもある両種。そんな2種の違いと野外での出会いかたについてこの記事では紹介します。

モモンガとムササビ。どっちがムササビでどっちがモモンガだか分かりますか?

里の生きもの?ムササビ

最初に紹介するのは、ムササビ。ムササビはリス科ムササビ属の動物で、国内に棲むリスの仲間としては最も大型の哺乳類です。体重は800~1200gあり、体長と同じくらいある尾を入れると全長は約70~80cmもあります。江戸時代には、身体が大きく、まるで襖が飛んでいるみたいなので、「野ぶすま」なんて呼ばれていました。
顔の正面にある特徴的な目は、立体視に長けていて、樹上で生活するのに適していると言われています。

冬芽を食べるムササビ

飛ぶときは木と木の間を身体にある「皮膜(ひまく)」と呼ばれる膜で風を受けて滑空移動します。この皮膜は首から前肢、前肢と後肢、後肢と尾の間でつながっています。また尾が太く丸い形なのもムササビの特徴です。
滑空する距離は、普段は数十メートル程度ですが、最大で120mほど飛び、場所によっては200m滑空した記録もあります。

滑空するムササビ

主に大木の生えた山林に生息しますが、低地の神社やお寺に残された“社寺林”など人の生活圏に近い環境でも暮らしています。私のフィールドでも住宅地のすぐ横にある樹齢500年ほどのスギ林が残った神社に多く暮らしています。
 
食性は植物食で1年を通して様々な樹種の葉、冬芽、花、果実、つぼみなどを食べています。糞は真ん丸の形で大きさと形から「正露丸」にたとえられることもあります。

山の生きもの?モモンガ

モモンガ(ニホンモモンガ)はリス科モモンガ属の動物で、ムササビに比べると小型で、体重は180g前後、尾を入れた全長は約30cmと手のひらサイズしかありません。

巣穴から顔を出すモモンガ

ムササビと同じく夜行性で、樹上で生活しており、皮膜を使って滑空移動をします。皮膜は前肢と後肢の間でのみ発達しており、尾は平らです。
滑空する距離は普段は数十メートルですが、身体の大きさの割にムササビに負けず劣らず最大で100mほど飛んだ記録があります。

モモンガの滑空

ムササビに比べ主に山地に生息していますが、場所によってはムササビと同じような人里近い社寺林にも生息しています。私の暮らす神奈川県では最も標高の低い場所で標高400mほどの山林、多くは標高500m以上の丹沢山地で確認されています。とはいえ、東京都では標高250mほどの社寺林で出会ったこともあります。
 
食性はムササビと同じく植物食で1年を通して様々な樹種の葉、冬芽、花、果実、つぼみなどを食べています。糞は、俵状で少し細長い円形状をしておりムササビに比べて一回り小さいです。

空を飛べるワケ

ムササビもモモンガも空を飛びます。が、厳密に言うと飛んでいるわけではありません。「滑空飛行」をしているのです。滑空というのは鳥のようにはばたいて自分の力で飛ぶのではなく、高い所から落ちる力を利用する「紙飛行機」のような飛び方です。
 
ムササビもモモンガも身体の脇に発達した「皮膜」を広げることで、風を受けて遠くまで移動することができます。さらに、前脚の付け根にも滑空できる秘密があります。
皮膜をよく見てみると前足首の根本ではなく、さらに外側まで広がっていることが見て取れます。前脚の付け根には「針状軟骨」という軟骨がついていて、滑空する時はこれをめいいっぱい開くことで、より多く風を受けることができるようになっています。

ムササビの前脚の骨。長く飛び出ているのが針状軟骨

ムササビとモモンガの見分け方

雰囲気が似ているため、混同されることの多い2種ですが、違いをまとめるとわりと異なった姿や生態をしていることが分かります。
 
まず1つ目の違いは身体の大きさです。よく言われるのが、ムササビは座布団、モモンガはハンカチの大きさです。
2つ目は目の大きさ。ムササビに比べモモンガは顔に対してとても大きく目が発達しています。
3つ目は皮膜の発達。ムササビは、前肢と後肢、後肢と尾の間に発達していますが、モモンガは前肢と後肢の間で発達しています。
4つ目は糞の形。ムササビは真ん丸の糞をしていますがモモンガは俵状になっています。

ムササビの糞(撮影:松山龍太)

モモンガの糞(撮影:松山龍太)

5つ目は生息場所ムササビは人里近い環境から山地まで広く生息していますが、モモンガの方はより山地を好む傾向があります。が、生息が被っている場所もあります。
ムササビとモモンガが同所的にいるところを見かけたことがありますが、両種は特段お互い気にしている様子も見られませんでした。このことから、同じような生態をしているものの、直接の競合はしていないようです。

観察をしてみよう! でもその前に…

観察しにフィールドに行きます。夜行性なので観察は夜に…とはならず、まずは昼のうちに下見に行きましょう。
下見では姿を見るのではなく「名探偵」になってムササビやモモンガのいる手掛かりを探します。昼間のうちにまずはムササビやモモンガの住めそうな大きな樹のある林を探してみましょう! お寺や神社には“社寺林”という古い林が残っていることが多いので近所にお寺や神社があればそこを探してみるのが良いでしょう

ムササビが暮らす神社。手前のスギに空いた穴で生活をしている

小さな巣穴で生活するモモンガ

次に住めそうな穴のあいた樹をじっくり探してみましょう。樹の下に先ほど紹介したフンを見つけたら観察するまであと一歩。また、木の下には植物を食べた痕跡、「食痕(しょっこん)」が落ちていることもあります。
 
ムササビであれば、アラカシなどの葉を折りたたんで食べるので、真ん中に穴のあいた葉っぱが落ちていると、そこにいる証拠になります。またスギなどの球果(きゅうか)も中の種子を食べるため、木の下に齧った球果が落ちています。

アラカシの葉に残るムササビの食痕

スギの球果を食べた食痕

観察の方法 

巣穴のある木の下で待っていれば、ムササビやモモンガが顔を出します。顔を出す時間ですが、一般的には「日の入りの30分後」と言われています。ただし、ムササビもモモンガも私たちと同じで個性があり、早く出るのもいれば、のんびり屋の個体もいるので、目安位に思っておきましょう。
 
顔が見えたら、騒いだり、懐中電灯を当てっぱなしにしたりして、驚かさないようにしましょう。あとは出てくるまで静かにしてじっと待つことです。出てくるとまず身体を反転し、木を登って行きます。運が良ければその後、木から木へ飛び移る滑空を見ることができます。このとき夢中になりすぎて、上ばかりに気を取られて転ばないように気をつけましょう。
 
出巣(しゅっそう)が終わって林の中のムササビを見つけるときは、自分の目の横に懐中電灯を持っていきます。この持ち方をすると動物の目が反射して見つけやすくなり、ムササビがこちらを向いていれば2つの光が見えるはずです。

スギの上で見つけたムササビ。ライトを当てると目が光る

ムササビとモモンガは夜行性の動物なので観察するときは夜になります。観察に行くときは必ず次の6点に注意しましょう。
 
①ムササビ・モモンガが出巣するのは日暮れの30分後、真っ暗な夜間です。安全のためお子さんだけでの観察はしないこと。
②足元に十分気を付けて園路や散策路など道から外れないように観察しましょう。
③ムササビ・モモンガを驚かさないようにライトは赤いフィルムで覆うか赤く塗って赤い光が出るようにしましょう。
④ムササビ・モモンガを驚かすような行為(木を叩く、蹴る、大きな音を出すなど)は決してしないでください。
⑤ライトを他の人や近所のお家に向けることはしないでください。
⑥夜になると気温が下がります。防寒をしっかりとし、決して火は使わないでください。
 
以上のことを守りながらぜひ皆さんもフィールドでムササビやモモンガを探してみてください。
動物たちの痕跡を見つけ、その動物たちと出会ったとき、きっとわくわくがとまらなくなると思います。

ムササビの天敵

最後に、私がムササビのことで調べているテーマ、「ムササビの天敵」について少し紹介します。
大型の樹上性動物であるムササビ、そんなムササビがある日、何者かに捕食された状態で見つかりました。2012年のできごとでした。調べてみるとムササビが捕食された正式な記録は少なく、フクロウとテン、クマタカの捕食記録があるのみでした。その後、神奈川県内でも何カ所かで捕食された状態でみつかり、何者かに捕食される動物という事がわかってきました。
2016年、アオダイショウが何かを飲んでいると連絡があり、急行してみると、なんとムササビが飲まれている最中でした!!
ヘビがムササビを捕食するという決定的な瞬間を目にしただけでなく、国内の報告としてはヘビがムササビを食べる初記録となりました。その後も2017年に「ハクビシンによるムササビ幼獣の捕食」という報告書がリスとムササビで発表され、ムササビの仔がハクビシンに襲われている姿が撮影された報告が出たりと少しずつ解明されています。

アオダイショウによる捕食

皆さんが観察している時にもなにか初めての発見があるかもしれません。
ぜひ観察してみてください!

 
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Author Profile

清水 海渡

1989年、神奈川県生まれ。高校生の頃に部活動の一環で参加した動物調査をきっかけに興味を持ち東京農業大大学野生動物学研究室へ進学。動物ばかり追いかけて、気づいたら就職が無かったがひょんなことから(財)進化生物学研究所研究員を一年経て、公園自然解説職員へ。今も暇があれば動物へ出会いに。農大動物研究会幹事、日本野鳥の会神奈川支部研究報告編集委員。

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