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9/2 2019

これはハエ? アブ? 蚊? それとも…… 間違われやすいハエ類の見分け方

暑い時期には特に見かける、ハエのなかま。蝿(はえ)や蚊(か)というのはなんとなくわかっても、はたしてあなたが見ているのは本当に「ハエ」なのでしょうか?
ハエの情報サイト「知られざる双翅目のために」を運営している熊澤辰徳さんに、ハエ類の見分け方や基礎知識を教えてもらいます!

「あ、ハチが部屋に入ってきた!」
こう言われて私がその辺の袋などを手に向かうと、時々言われた名前と違う虫を見つけることがあります。そう、入ってきた虫はハナアブ。ハナアブはハエの仲間なのですが、「これはハチじゃなくてハナアブだから大丈夫」などと私が言うと、「ハチじゃないの?」という反応をされることも多く、「これはアブなの? 刺すの?」と言われることも。そんな時は「ハナアブはハチとは違ってハエの仲間で…」と毎回一から説明したいところですが、そういう解説を求められていなさそうな場では静かに虫を窓の外に追い出しながら、よく間違われる彼らの知名度の低さを痛感します。

ミナミヒメヒラタアブ。ハナアブの仲間が花に訪れる様子はよく見られる。

この例のように、カ、アブ、ハエといった仲間(分類学的には『双翅目』(そうしもく)という)はとても大雑把に認識されていることが多いようです。体のサイズが小さいことや、よく似た外見のものが多いこと、そして何よりハエやカに(好意的な)興味がある人が少ないために、蚊や蝿、蜂などは一緒くたに扱われ、最初のハナアブのように正しく区別されていないことも珍しくありません。
 
カ、アブ、ハエと聞くと、血を吸う、不潔、気持ち悪いといったネガティブなイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。そのイメージは正しいといえば正しいのですが、実害がある種は双翅目の一部で、実際には双翅目の姿かたちや生態は極めて多様であるため、イメージに合わない種も非常に多くいます。
 
そこでこの記事では、そもそもカやハエとはどんな生き物か、どう間違えられているのかを中心に、双翅目という昆虫の分類群について、その知られざる世界の一端を簡単に紹介しようと思います。
なお本文では、一般的なイメージとして語られる時は漢字(蚊、虻、蝿、蜂)で、分類学的な用語として使う場合はカタカナ(カ、アブ、ハエ、ハチ)で表記することとします。

アシナガバエの一種。美しい姿をしているが、研究は進んでおらず、この種も名前がまだない。

双翅目ってなに?

「ハエって何種類くらいいると思いますか?」と私はたまに人に聞くことがあります。虫にあまり詳しくない方からは、「蝿ってそんなにいろいろいるの?」と返されることが多く、中には「15種類くらい?」という反応もありました。15種類だとペンギンの種類より少ないですし、あまりの認識されていなさに複雑な気持ちになったのを覚えています(ちなみにペンギン目の現生種は18種)。他の虫でも同じような反応かもしれませんが、いずれにしても蝿や蚊の区別は「大きいギンバエと、小さいコバエ」くらいの認識ということがよくあるようです。ハエの魅力を伝えたい私からすると残念な話ではありますが、逆にここまで知られていないと魅力の伝え甲斐があるというものです。ちなみにギンバエというハエもコバエというハエもいないのですが、この話はまたいずれ。
 
本題に入りましょう。一般に蝿、虻、蚊などと呼ばれる種は、前述したとおり双翅目(ハエ目)という分類学上のグループに属しています。つまり広い意味ではカもアブもハエも同じグループに属しているといえます。このグループは大きく長角亜目(ちょうかくあもく カ亜目、カの仲間など)短角亜目(たんかくあもく ハエ亜目、ハエやアブの仲間など) に分けられます。その名のごとく、触角が長い(実際には触角の節の数が多い)のが長角亜目、短い(節の数が少ない)のが短角亜目です。なおハチは膜翅目(まくしもく:ハチ目)という別のグループに属して、ハチやアリが含まれます。ちなみにハチとアリは同じ亜目(細腰亜目:ほそこしあもく)なので、ざっくり言えばハエとアブくらいの違いといえます。なおアリは、分類学的にはスズメバチと比較的近縁です。
 
カやハエは当然世界中にいますが、それぞれの亜目に含まれる種は、知られているだけで長角亜目で5万5千種以上、短角亜目で10万種以上、合わせて約16万種います。昆虫の既知種が約100万種とされているので、昆虫の10種に1種以上は双翅目ということになります。さらに、この数字はあくまで「現在知られているだけで」であり、実際にはまだ発見されていない種が何万種という単位でいると言われています。ちなみに日本で見つかっている双翅目は約7,600種で、未知の種はそれに加えて1万種程度いると見込まれています。当然、姿かたちや生き方はさまざまで、汚いものに集まる蝿、血を吸いに来る蚊、に当てはまらない種は無数にいます。
それではこれから、蝿や蚊全般のイメージを軌道修正していくべく、よく誤解されている双翅目たちを紹介していきましょう。

『ジュラシック・パーク』でも間違われていた! 蚊と思われている仲間たち

夏によく見かける双翅目のひとつが蚊です。双翅目の中では最も知られた存在ですが、その知名度ゆえか、見た目が似た印象の双翅目はなんでも蚊の仲間と思われている節があります。映画『ジュラシック・パーク』でも、カと他の双翅目が誤って登場しているシーンがあるくらいです。
では具体的にどんな種がカと誤解されているのか、『ジュラシック・パーク』で何が間違われているのか、これから紹介していきましょう。
 
カ・ユスリカ
カは、長角亜目のカ科に属する種の総称で、世界で約3,700種、日本では110種ほどが知られています。白黒模様のヒトスジシマカや褐色のアカイエカなどのメス成虫は、産卵のためのエネルギー源とするためにヒトの血を吸い、さらには伝染病を媒介するため、悪名高い害虫として知られています。マラリアやデング熱など、カが媒介する伝染病による死者は年間約70万人と言われ、害虫としての重要性が高いため、最も研究が進んでいる分類群のひとつです。なおオス成虫は血を吸わず、花の蜜などを吸って生きています。

アカイエカ。カの種名を決定(同定)するのは実は難しい。アカイエカにもよく似た亜種のチカイエカという種がおり、正確に区別するには顕微鏡が必要。

しかし、オオカ属などカ科のメスの中にも血を吸わない種はおり、さらにユスリカやヌカカ、ブユなど他の長角亜目の仲間は、いっしょくたに蚊とくくられて認識されているきらいがあります。広く長角亜目(カ亜目)の仲間だといわれればそれまでですが、血を吸う厄介者としてのカと間違えられるのは、他の無害な種にとってイメージダウンであり、誤認退治にもつながるため、カのそっくりさんにとっては死活問題です。もっとも、山や沢などに多いヌカカやブユは、同じくヒトなどの血を吸い、しかもカより痒みが長引くこともあるので、カと同様かそれ以上に厄介者扱いされています。しかし念のため書き添えておくと、現時点で日本にはブユの仲間は約80種、同じくヌカカの仲間は約250種おり、その中には血を吸わないものも多くいます。
 
ちなみにユスリカは血を吸わない仲間で、カのように口が長く伸びていないので、頭部を見ればカとは簡単に見分けがつきます。なお春先に川沿いなどに現れる蚊柱はユスリカの群飛であることが多く、カではありません。もちろん、ユスリカは人を刺すことはありませんので、蚊柱に突っ込んでも血を吸われることはありません。ただしユスリカに触れてアレルギーになることはあるので、無闇に突っ込むのはおすすめしません。

ユスリカの仲間。日本だけで1,200種以上が知られるが、まだまだ新種が見つかっている。血は吸わない。

ガガンボ
さて、ユスリカとならんでよく誤解されている長角亜目の仲間が、ガガンボです。ふつうガガンボというと、ガガンボ科やヒメガガンボ科など複数の科の総称で、日本にはおよそ700種以上が知られています。しかし発見されていない種も多く、日本だけでも1,000種以上の未知種がいると見込まれています。
 
ガガンボの仲間はカより体長が大きいものが多く、数ミリ程度の種から、脚や翅を広げると数センチくらいあるものもいます。ちなみにギネス記録に認定されている最大のガガンボは、ミカドガガンボというガガンボ科の種の仲間で、脚をひろげた長さを含めて25.8cmです。日本の森や林、川沿い、市街地などどこにでもいる仲間で、長い脚をふらふらさせて飛んでいるのを見かけることが多くあります。

マドガガンボ。脚を広げて止まるガガンボの仲間はどこでもよく見られる。

その出で立ちから、しばしば「大きい蚊」と呼ばれたりして敬遠されていますが、ガガンボは血を吸うことはありません。成虫の口は小さく、一部の種は花の蜜を吸うと考えられていますが、何も口にしないで数日で寿命を迎えるものが多いとされています。多くの種では幼虫の時代に植物の根や植物遺骸を食べて蓄えた栄養を使って、交尾・産卵までの時間を過ごしているのです。カゲロウのような儚い命を生きている彼らに、せめて血を吸うと勘違いされてむやみに退治されないことを願うばかりです。キリウジガガンボなど、幼虫がイネなどの作物の根を食害するものもいるので、必ずしも無害な種ばかりではありませんが……。
 
 
ジュラシック・パークのカ、実は……
さて、ここまで蚊と間違えられている双翅目を紹介してきましたが、最初に触れたジュラシック・パークでは、何が間違われていたのでしょうか。
 
1993年公開の映画『ジュラシック・パーク』は、言わずと知れた恐竜映画の名作ですが、科学的な知見をもとに描かれた恐竜たちのリアルな姿に比べ、カは作中で非常にぞんざいな扱いを受けています。大英自然史博物館のエリカ・マカリスター博士の著書『蠅たちの隠された生活』で指摘されていますが、この映画には二つの間違いがあります。
 
まず一つ目、恐竜の血を吸った蚊がコハクに閉じ込められているのが見つかり、蚊のお腹から血を吸出すべくコハクに穴を開けるシーン。血から得られたDNAをもとに恐竜を復元しようという、物語のベースとなる大事な場面です。しかしここで使われているカは、あろうことか血を吸わないオオカ属の種(!)、それもオス(!!)、ということで、残念ながら恐竜の血は間違いなく吸っていないでしょう。
 
さらにそれに続くシーン、穴を開けたコハクに注射針を刺し、お腹から血を吸出すカットでは、明らかにさっきのカとは違う昆虫にすり変わっています。細い体に長い脚、確かに蚊に見えなくもないですが、これはカではなく、ガガンボです。
 
当然、お腹には恐竜の血どころか何も入っていない可能性が高く、注射針で吸い上げたガガンボの体液のDNAをもとに、太古のガガンボが復元され、「ジュラシック・ガガンボ」がオープンすることになってしまいます。映画自体は疑う必要のない名作ですが、はからずも、カやガガンボがいかに雑に認識されているかがわかる映画となってしまいました。

この虻・この蜂刺しますか? → 刺しませんしアブでもハチでもありません

アブやハチはヒトを刺すので警戒されています。特にスズメバチやミツバチなど、集団で暮らす社会性を持ったハチに、刺されると危険なものがいることはよく知られています。この危険性が認識されているのはヒト以外でもそうらしく、昆虫の捕食者である鳥なども、ハチに見える虫は敬遠する傾向にあります。そのため、進化の過程で姿かたちや飛びかたがハチそっくりの昆虫が現れています。カミキリムシやガ、そして双翅目ではハナアブやツリアブ、メバエ、デガシラバエ、それにベッコウガガンボなど、ハチ風の見た目のものがいます。故事成語でいうところの「虎の威を借る狐」、生態学でいうところの「ベイツ型擬態」です。

ホリカワクシヒゲガガンボ。ふらふらと飛ぶ様子も含めてハチのように見えるが、もちろん人は刺さない。ハチと違って翅が2枚であることがわかる。翅の付け根あたりに平均棍が見える

ケヒラタアブ。体色はハチに似ているが、翅が二枚なのでハチでないことがわかる。

シロコブアゲハヒメバチ。ハチの仲間は4枚の翅がある。ちなみにハチは全部人を刺すと思われていることも多いが、この種のようにほかの昆虫に寄生するタイプのハチ(寄生蜂)など刺さないハチは多い。

特によく見るのはハナアブです。短角亜目ハナアブ科の一群で、日本の既知種は400種以上います。近年愛好家や研究者が増えつつあり、分類学的な研究が進んできていますが、まだ新種や新記録種がしばしば発見されています。名のごとく花を訪れて蜜や花粉を餌とする種が多く、花粉を運んで受粉を助ける送粉者(ポリネーター)として知られる種もいます。ハナアブなどの双翅目は、ハチに比べて送粉者としての注目度は低かったのですが、近年、考えられている以上に植物の繁殖への貢献度が高いと認識されてきており、研究が進みつつあります。
 
ハチとの見分け方は翅の枚数です。ハナアブを含む双翅目は翅が2枚ですが、ハチには翅が4枚あります。双翅目は進化の過程で4枚の翅のうち2枚が、平均棍という飛行のバランスをとる器官に変化しているため、翅の枚数が少ないのです。これは一部の翅の無いハエ以外で共通する特徴ですので、翅の枚数を見れば双翅目とハチなどを間違えることはありません。また、血を吸うアブとハナアブの違いは、顔や口の形(口先の尖ったアブvs舌のように平たい口のハナアブ)などを見れば区別できます。飛んでいる姿ではわかりにくいかもしれませんが、ハナアブは花や葉に止まっていることがよくあるので、見かけたらそっと観察してみましょう。
 
さて、ハナ「アブ」と聞くと、花に来る虻? 刺すのでは? と思われがちですが、ハナアブの成虫の多くは花の蜜や花粉を食べています。そのためもちろんヒトは刺しません。そしてそもそも虻の仲間でもありません。
 
ハナアブだけでなく、双翅目全体をみると、アブという名前のハエの仲間、ハエという名前のアブやカの仲間がよくいます。分類学的には、長角亜目の種がカに近い仲間、短角亜目のうち直縫短角群(ちょくほうたんかくぐん)というグループがアブの仲間、環縫短角群(かんぽうたんかくぐん)というグループがハエの仲間、と大まかに分けられます。まとめると以下のようになります(ただしこれは伝統的な分類で、遺伝子情報を反映した最近の系統分類学では少し異なる分け方をすることがあります)。
 
・カに近い仲間:長角亜目の種
・アブの仲間:短角亜目のうち直縫短角群というグループ
・ハエの仲間:環縫短角群というグループ

ハナアブは環縫短角群なのでハエの仲間ということになりますが、見た目の印象でアブという和名になっているようです。同じように、アタマアブというハエの仲間、アシナガバエやオドリバエというアブの仲間、キノコバエやチョウバエというカの仲間、と、名は体を表さないものがしばしばいます。昔の図鑑などでハナアブを「アブバエ」、チョウバエを「チョウカ」などと呼ぶよう提案されたこともありましたが、普及するには至っていません。

チョウバエの一種。家の水回りでもよく見られる。蛾のようにも見えるがれっきとした双翅目。

というわけで、ハナアブは人を刺さないしアブでもないわけですが、アブと呼ばれる仲間でも人を刺して吸血するのはアブ科の一部で、他のアブと名が付く直縫短角群の仲間は人を刺さないものが大半です。
 
そうしたアブでよく見られるものでは、ムシヒキアブ科の仲間がいます。名の通り昆虫を捕まえる肉食のアブで、自分より体の大きい昆虫も容赦なく襲うハンターです。大きい体の種は、アブ同様に近くを飛ぶと羽音がするので恐ろしげに感じるかもしれませんが、こちらから無闇に近づかなければ、普通ヒトを刺すことはありません。体型や顔つきがアブ科とは異なるので、姿をきちんと見れば見分けは難しくないでしょう。

シオヤアブの雄。夏に多いムシヒキアブ科の仲間。腹部先端に白い毛が生える。

また、春先に公園や草地などでよく見られるビロードツリアブ(ツリアブ科)も直縫短角群で、丸っこいハチのように見えるかもしれませんが、長い口で花の蜜などを吸う無害なアブです。よく見るともふもふの毛で覆われ、大変キュートな姿をしています。刺されませんので、見かけたらじっくり見てみて下さい。ちなみにビロードツリアブの幼虫はヒメハナバチ類の幼虫に寄生して餌にするため、ハチからするとキュートどころか天敵です。

交尾中のビロードツリアブ。もふもふした毛が生える。複眼が接するオスと離れるメスで顔の印象が異なる。

双翅目の知られざる世界の入り口へ

ここまで、いくつかの双翅目の仲間を紹介してきましたが、身近にいるのに認識されていないハエたちはまだまだたくさんいます。世界の誰も存在を知らない種もその辺りにいるかもしれません。実際に日本でも毎年新種や新記録のハエが何種も報告されており、その中には都市公園など身近な場所で見つかっているものもいます。甲虫やチョウなどの目立つ昆虫に比べ、双翅目を採集したり研究したりする人は多くないため、身の回りにたくさんいる割には、その多様性について解明されていない謎がたくさん残っているのです。
 
ハエやアブ、カの仲間は、素早く飛び回り、体が小さいものが多いので、日常生活で注意して見る機会は少ないかもしれません。そもそも、刺される、汚い、気持ち悪いなどのイメージもあり、近づいて観察することに抵抗がある人もいると思います。しかし、今回は紹介しきれませんでしたが、そんな固定観念を覆す美しさ、かっこよさ、それに興味深い生態をもった双翅目は、実はたくさんいるのです。
 
ハエかハチのような虫を見かけたら、ぜひともほんの少しだけ目を向けてみてください。ここまでこの文と写真を見てきたあなたなら、きっと知らなかった双翅目との出会いに気づけるはずです。
 
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熊澤 辰徳

1988年生。大阪市立自然史博物館外来研究員。『ニッチェ・ライフ』編集委員。二児の父。会社員として仕事をしながら、余暇を使って主に双翅目の調査研究活動を行っている。特にアシナガバエ科の分類研究に取り組む他、ハエやアブといった双翅目の認知度やイメージを向上させるべく、ウェブサイト「知られざる双翅目のために」などで情報発信を行っている。編著に『趣味からはじめる昆虫学』(2016年、オーム社)ほか、荒木優太(編)『在野研究ビギナーズ』(2019年、明石書店)(分担執筆)。
Twitterアカウント(@K_Tatz

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