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魚・甲殻類・貝類

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11/14 2018

刺身にアニサキス? 魚によくいる寄生虫6種とその対策

はじめまして、とある魚屋で働いている泉と申します。今年は昨年よりもサンマや鮭など秋の海の幸が豊潤ですが、皆様お魚はお好きでしょうか。
 
ここ数年さまざまな動きのある水産業界ですが、その中でも大きかった事件の一つが2017年のアニサキス騒動です。著名な芸能人の方の被害報告から始まり、その劇的な症状とショッキングな絵面が各種メディアでそれはそれは大々的に報じられました。……結果、魚屋や一部の寿司屋界隈では売上が極端に落ち込み、苦しい年となったのでした。
 
自分の中で、この騒動は一般消費者の方の寄生虫に対する認知度や誤認について改めて考える契機にもなりました。というのも、魚屋にとってアニサキスをはじめとする魚類寄生虫というのは、本当に日常的に、毎日のように目にする存在なのです。だからこそ、件の騒動があそこまで直接的に売上に影響するということが衝撃でした。
野菜と違い、農薬を撒いたりできない天然の魚介類には当たり前のように寄生虫がいます。しかし、当然食品に付いていればお客様に不快な思いをさせてしまいますし、アニサキスなどは健康被害にも直結しますので魚屋では商品に寄生虫が混入しないよう毎日目を光らせております。
 
そんな魚類の寄生虫たちについて、一般に誤解されている種類、魚屋が日々行う対策などを簡単にご紹介したいと思います。
 
※以下寄生虫の写真が多く登場します。苦手な方は御注意ください※

●魚屋がよく出会う寄生虫

これから紹介するのは、すべて魚屋でいつも出会う寄生虫たちです。中には名前が混同されている種類も見受けられます。この機会にイカしたメンバーを覚えてあげてください。(ちなみに、寄生虫=いわゆる昆虫ではありません。虫という言葉が付いてはいますが、分類的にはまったく別のグループです)
 
 
アニサキス(Anisakis)

マダラの切身から出てきたアニサキス線虫。右側先端が頭部

オールシーズン現れる出現率の高さと、生きたまま誤食した際の激しい腹痛・嘔吐などの症状が相まって、名実ともに厄介な魚類寄生虫の代表格です。ただし人体で成虫になることはありません。特にサバ、サケ、タラ、スルメイカなどには高い確率で寄生していますので、これらの魚種は通常魚屋では加熱用として販売されます。しめ鯖などは冷凍処理加工でアニサキス対策を行います。大手スーパーや百貨店などのしめ鯖はほぼ確実に冷凍処理が行われていますね。
 
アニサキスは主に内臓表面に寄生しているので下処理の段階で大部分は除去できますが、時間が経つにつれ内臓から筋肉部分へと移動してしまいます。これを見つけるのがなかなか難儀。スルメイカやヒラメなどは光に透かすことで寄生部位が影になるのでかなりの確率で取り除けますが、肉厚なサバやカツオ、サケなどではこの方法は使えません。ここ数年ではブラックライトによる検知器などが導入されていますが、それも100%とはいかないのが現実です。近年では刺身で人気のアジ、イワシ、サンマ、カツオ、ヒラメなどの寄生率が高まり魚屋界隈では警戒を強めています。結果として、アニサキス被害を恐れてこれらの魚の刺身用販売をやめる魚屋も出てきました。
 

ニベリニア(Nybelinia

ニベリニア(左上は爪楊枝の頭)

スルメイカに寄生するニベリニア

スルメイカやマダラ、スケソウダラなどにも高い確率で寄生する条虫の仲間。4本の吻(ふん:口のような部位)を宿主の筋肉に突き刺し、寄生しています。よく米粒みたいな虫が動き回っている、といったクレームがありますが、ほとんどの場合このニベリニアと後述のテンタクラリア条虫です。
 
ニベリニアは間違って生きたまま誤食してもアニサキスのような症状は起きません。まれに吻が口内にひっかかるといったこともあるそうですが、気づかなければ無害なタンパク質です。新鮮なスルメイカに付いているニベリニアは活発に動き回るので、観察するとなかなか面白いです。
 

テンタクラリア(Tentacularia)

テンタクラリア

カツオの腹側の筋肉に寄生するテンタクラリア

前述のニベリニアと同じ条虫の仲間で、見た目もよく似ています。多くはカツオの内臓や内臓周辺の筋肉に寄生していて、写真のように一見すると白い点として目視できるので、包丁の刃先で簡単に取り除けます。こちらも誤って生きたまま食したとしても目立った害はありませんニベリニアほど活発には動かず、確認・除去も容易なので一般的にはあまり存在を知られていない種類かもしれません。
アニサキスが台頭してからというもの、ニベリニアやテンタクラリアもアニサキスと混同される方が多くなりました。
 

ブリ糸状線虫(Philometroides seriolae

天然ブリの切身から取り出したブリ糸状線虫

廃棄されたブリ糸状線虫と寄生部位

その名の通りブリ、イナダ、ハマチなどブリの仲間に寄生しています。生きたまま誤食しても特に害はありませんが、こちらも魚屋にとっては非常にやっかいな寄生虫。というのも、サイズは5cmから60cm前後とかなり大きくなる上に、多くが内臓ではなく筋肉に寄生しているのです。大きいものが寄生した部位は穴が空き(写真の円の部分)、周辺の筋肉は変質してしまうのでその周辺部分は廃棄するしかありません(食べても特に問題はありませんが)。寄生の仕方も厄介で、魚体に沿って一匹が伸びて寄生することもあれば、団子状に丸まって寄生している場合もあります。後者の場合、厚く切った切身や柵の中にそのまま混入してしまい、お客様がいざ食べようとした時にまるごと出てきてしまうことも……。こうなると多くの場合、返品・交換・クレームの対象となります。
 
このブリ糸状線虫をアニサキスと混同されている方は結構多いようです。おそらく、アニサキスの知名度が上がった際に「魚に寄生する細長い虫=アニサキス」という印象が広まったのではないかと推測しています。ブリ糸状線虫は宿主(魚)の体液を吸っているため、多くは赤色をしています(ただし死んだあとや加熱調理で白色になる)。アニサキスは魚類に寄生している段階では大きくても3cm程度なので、それ以上の大きさで魚がブリやカンパチ、イナダなどから出てきた虫はブリ糸状線虫と思っていいでしょう。
 
大きな見た目の衝撃が強いため、トラウマになった……というお客様の話も耳にします。魚屋としても注意はしているのですが、筋肉中に潜られると見つけようがなく、ある意味アニサキスより厄介な寄生虫と言えるかもしれません。
 
万が一、買った魚からズルッと出てきてしまって、食べる気になれないと思ったら、買ったお店に連絡して返金か交換をしてもらいましょう。ただ、この寄生虫は天然のブリの仲間には本当に普通にいる寄生虫ですので、魚に問題があったわけでもなく、魚屋が怠慢を働いたわけでもないという事実だけは御承知おき頂ければ嬉しいです……。

●その他の寄生虫

サンマヒジキムシ(Pennella

サンマヒジキムシ

拡大

サンマヒジキムシの頭部。寄生時はサンマに突き刺さっていて見えない

これは目にしたことがある人も多いはず。食用魚の中では主にサンマとメカジキなどに寄生しており、その他の魚ではあまり見かけません。サンマヒジキムシは年によって多い年と少ない年があり、多い年は虫のサイズ自体も大きいのでパック詰めする際には困らされます。写真のように「かえし」のついた頭部が深く突き刺さっているため、無理矢理取ろうとすると頭の付け根でちぎれてしまいます。間違って食べてしまっても特に害はありませんが、頭部は固く美味しくありません。
 

ディディモゾイド(Didymozoidae)

マダイの筋肉部分に寄生したディディモゾイド

ディディモゾイド拡大

なんだか日曜朝アニメの敵キャラクターのような名前ですが、これまた厄介。吸虫類と呼ばれる仲間の一種で、生きている時は黄色ですが死後には黒っぽく固い棒状に変化します(球形の状態で鰓などに寄生していることもある)。マダイやカツオ・カジキなどに寄生していることが多いのですが、そこまで頻繁には出現しません。ヒトには寄生せず誤食による健康被害なども報告されていませんが、写真のように広範囲に渡り寄生していると見た目もよろしくないので魚まるごと廃棄処分となります。このためか、一般の方にはあまり認知されていない寄生虫です。

●魚屋視点から見る魚類寄生虫とその対策

一種の生物として見れば、これらの魚類寄生虫も興味深い生物なのですが、魚屋にとっては一言で表すなら「厄介者」。これに尽きます。
 
魚屋に入ると最初にアジやイワシの三枚おろしなどを教わりますが、ほぼ同時期に寄生虫についての最低限の知識も叩きこまれます。どんな魚のどの部位に多く寄生しているか、クレームになりやすいのはどの種類か、危険なのか……などなど。これらの寄生虫の多くは、体表面だけでなく組織の中に隠れていることも多いので、魚屋はその隠れた寄生虫を探し出すサーチ能力も最低限身に付けなければなりません。
 
また、大抵の魚屋は異物混入を防ぐために内臓処理を行う俎板(まないた)と生食用の魚肉を扱う俎板を明確に使い分けます。大きな厨房を持っているお店なら作業場そのものを隔離することで、内臓表面のアニサキスが刺身や寿司ネタに混入しないように注意を払っています。
 
しかし、秋の生鮭などには正直取りきれないぐらいの数のアニサキスがいることもままあり、また前述のLEDやブラックライトを用いたところで身の奥に潜った個体は見つけられません。それが時間差で這い出てきてしまうのも日常の出来事なのです。結果、日々の売場チェックをくぐってお客様に届いてしまうこともあるわけです。
 
このように、高確率でアニサキスがいる魚種は必ず「加熱用」として売場に並んでいますが、このお店に管理上の問題があるわけではありません。できれば条件反射で魚を捨ててしまうのではなく、魚屋さんに相談して、なるべく魚の命を無駄にしないでくれたら……と切に願うばかりです。

●何をどこまで注意したらいいのか

魚屋で見つかる寄生虫対策の大前提として、
 
・加熱調理でほぼ間違いなく無力化できる
※ただしアニサキスアレルギーなど寄生虫体そのものにアレルギー体質がある場合は除く
 
・−20℃ 24時間冷凍(家庭用冷凍庫なら48時間推奨)で死滅する
 
・魚類寄生虫が付いていたとしても魚自体には問題が無い場合がほとんど
 
この3点が基本です。とにかく魚に付く寄生虫ですから熱には弱く、通常の加熱調理で大丈夫。対して、半端な塩漬けや酢漬けなどの処理だけでは不十分ですので注意が必要です。最も気を付けなければならないのは刺身や寿司など生で魚を食べる場合ですね。一度冷凍すれば安全は確保できますが、お店もすべての魚を冷凍してから出すということはできませんし、冷凍すれば当然味は落ちてしまいます。アニサキス被害はしめ鯖が原因となるケースが非常に多いのですが、多くは味を優先し冷凍処理が行われていなかったためと考えられます。
 
ここまで紹介した出現頻度の高い寄生虫のうち、生で食べて直接的な害があるのは実はアニサキスぐらいです。(※1) そして、アニサキスが寄生している魚類にはかなりの偏りがあります。例えば魚屋が日常刺身で提供するタイの仲間や大型のマグロ類、スズキやヤリイカなどではほとんど見かけません。また、アニサキスはオキアミなどの小型のエビを介して魚類に寄生するため、人工飼料で育てられる養殖魚ではアニサキスの心配はほぼ無いと言っていいと思います。
 
このように、魚屋は長年積み重ねてきた知識や経験則でアニサキスが多い魚・少ない魚を認識し、かつ冒頭で述べたような対策を重ねた上で、リスクが低いものを生食用・刺身用として提供しています。基本的に、消費者の方がスーパーや鮮魚専門店などでお刺身を買う時に、それほど警戒する必要は無いでしょう。さらにリスクを減らそうとするのであれば、
 
・自宅で刺身をスライスする際にはしっかり確認
・食べる直前にもう一度よく目視確認
 
をすることです。魚類に寄生しているアニサキスは必ず肉眼で確認できますから、ここまですれば被害にあうリスクは最小限にできるはずです。
 
※1  生食して軽い食中毒症状を起こす海産魚類の寄生虫にクドア・セプテンプンクタータという寄生虫がいます。しかしこちらは肉眼では確認できず報告されている被害の多くが一部の養殖平目に限られているため今回は紹介しませんでした。詳しくは東京都福祉保健局のHP「食品衛生の窓」を御参照下さい。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/musi/29.html

さいごに

ここまで愚痴混じりに長々と綴ってしまいましたが、魚類寄生虫をそこまで極端に怖がらなくてもいいよ ということが伝わりましたでしょうか。しかし、なんといっても寄生虫ですから、魚屋としても食品に付いていて「気にするな」などという気は毛頭ありません。たとえ健康被害が起きない種類だったとしても、食べ物に付いて動いていたら不快な思いをされるのは当然です。そういった事態を防ぐためにお店では日々対策をして商品づくりを行っています。
 
魚類寄生虫は自然下では当たり前のようにいる存在。健康被害があるのも事実ですが、その症状や見た目をただ恐れるのではなく、正しい対処法を合わせて理解して魚を美味しく食べて頂けたら嬉しいです。

Author Profile

泉 翔

水産系学科卒 都内鮮魚店勤務 販売・POP作成を主に担当。
趣味で「見て楽しい・食べて美味しい魚介類」のイラスト・グッズを作成しイベント等で出展活動を行う(現在活動休止中)。
2016年 イベント出展時に同人誌「身近な魚の寄生虫」を発刊。翌2017年のアニサキス騒動を経て加筆した「身近な魚の寄生虫 大漁版」を再度発刊。
普段は魚を調理したり魚を捕まえて野外で水槽を作ったりいきなりマグロ型のケーキを作ったりする。
Blog:https://toro-magurobussanten.blog.so-net.ne.jp/
委託通販:工房暖簾gallery http://www.koubounoren.com/html/newpage.html?code=85

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