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7/5 2019

新種発見!? ハエトリグモ博士と手すりの虫を観察してみた

夏といえば虫の季節! とはいえ「そもそも草むらに入るのはちょっと…」「虫はこわい」と及び腰になってしまう大人のみなさんも多いのではないでしょうか。
 
でも、やっぱり虫が見てみたい……!
 
そんなあなたにおすすめしたいのが、「手すりの虫観察」です。ここで言う「手すり」とは、野外の公園や遊歩道にある金属・木製の柵や、擬木柵(ぎぼくさく:木を模した人工的な柵)」などのことを指します。
 
手すり観察の長所はなんといっても、虫を探しやすいこと。歩きながら、目線の高さにある手すりをチェックするだけでOK。
 
今回は、手すりの虫観察を極めて『手すりの虫観察ガイド』を出版するに至った著者・とよさきかんじさんと、マイナー生物の図鑑としては異例の1万部を突破した図鑑『ハエトリグモハンドブック』の著者・須黒達巳さんに、手すりで虫を探すコツをうかがってきました!

左:とよさきかんじさん 右:須黒達巳さん。 とよさきさん「2年くらい前にこの手すりの前で偶然、須黒さんにお会いしたことがあります。良い手すりは人を呼ぶんですね(笑)」

虫を探しやすい!

編集部:手すりといっても、どんなところで虫を探したらいいですか?
 
とよさきさん:さすがに周りにまったく植物がないところだと虫がいないので、できるだけ植生が多い公園や林の近くの手すりがおすすめです。それと、できれば今日みたいに午前中に観察するのがいいですね。午後には暑くなるし、夏はある程度涼しい方が虫の出もいいので。
 
あとは日なたすぎず、暗すぎないようなまだらに陽がさす場所の手すりには虫が多い気がします。

日陰と日光がまだらになっている場所の手すりがおすすめ

ここにも……

裏側にも!

ウスキホシテントウ。手すりには小さい虫がたくさんくっついているので、目を慣らしながら見つけてみよう(写真:とよさきかんじ)

ペン先にいるのがカメムシの仲間であるヨコバイの一種。小さいものはすべてチェック!

 
手すりの虫観察でまず驚くのは、小さな虫の多さ! 草むらや林の中では小さすぎて気がつかない虫も、手すりなら背景に混じらず見つけやすいのです。肉眼では見えない虫も多いので、スマホのカメラやデジタルカメラ、ルーペで拡大しながら観察するのがオススメ。
 
編集部:うーん、思ったより虫が小さい……これは撮るのが難しい!
 
須黒さん:僕は、図鑑で先に見ていた生きものを実物で見てちっちゃかったときの方が喜びがありますね。『うわーこんなちっちゃいんだ! 超よくできてる!』って。カタオカハエトリというハエトリグモを初めて見たときにこんなちっちゃいのか! って驚きました。
 

※以下、ちょっとケムシが登場します!
 
とよさきさん:マイマイガの幼虫だ。幼虫が小さいときには毒があるんですが、これくらいの大きさになると毒はないんですよ。ときどき大発生してニュースになりますが、ものすごくいろんな樹種の葉っぱを食べる広食性なので、どこでも増えちゃうんでしょうね。今年は特に多い気がします。

一瞬ぎょえー! と驚く大きさの、マイマイガの幼虫。各地で大発生し、ときどきニュースになる。(写真:とよさきかんじ)

 
須黒さん:うっ……ケムシは苦手なんですよね……昔実家で大発生したことがあって……(手すりからやや遠のく)。
 
 

ハエトリグモ的に、手すりは「最強」!?

そうこうしているうちに、アリ…のような虫を発見!
 

この虫、実はアリではなくハエトリグモというクモの仲間。
 
アリにしか見えない!!!!!
 
とよさきさん:アリグモのオスの造形はかっこいいですね。クモの中で一番好きかもしれません。
 
須黒さん:手すりには、ふだん木の上にいるハエトリ(=ハエトリグモ)も現れるし、石を乗り越えてくる延長なのか地面にいるはずのハエトリも手すりにはよく現れます。アリに似ている種類もよく手すりで見られますが、よーく見ていると立ち止まったりきょろきょろしたり、バックしたりしているので気付きますね。なんとなくアリとは挙動が違います。
 
編集部:そうなんですね……手すりでこんな簡単に発見できるなんて、手すり、スゴイ。この時期、他にはどんなハエトリグモが見られるんでしょうか。
 
須黒さん:これから(6月中旬以降)はチャイロアサヒハエトリとかを見つけられるでしょうね。7月はいろいろといるんですけど、カラスハエトリとか。ただ、7月しか見られないというハエトリグモはいなくて、1年で何回も発生するものが多いです。
意外とビーティング(枝や草を叩いて落ちた昆虫をネットで採集する方法)で捕れなくて、見つけ捕りでしかとれないというハエトリグモもいます。そういう意味でもハエトリグモについては手すりが““最強””で、海外に行ってもそれは同じです。
 
編集部:さ……最強!(ゴクリ)
 
そう、クモ好きの間では知られているのですが、手すりはハエトリグモ観察の聖地なのです。その証拠に、続々とハエトリグモが出現!

チャイロアサヒハエトリのオス(写真:とよさきかんじ)

アリグモのオス。遠くから見るとアリにしか見えない!  メスと違い、あごのような長い食肢をもっています(写真:とよさきかんじ)

須黒さん:アリグモはメスの方がアリっぽいです。動きが止まらないので、撮るのが難しいですね。
 
とよさきさん:アリグモの仲間はアリに似すぎて、ヒアリと間違えられて殺されちゃったりするんですよね……。よく見てみてほしいですね。

ヤガタアリグモのメス。フォルムがまさにアリ!(写真:とよさきかんじ)

アオオビハエトリ。体に美しい青い帯が入っています(写真:とよさきかんじ)


手すりのほかにも虫がいるかも?

取材したこの日はお天気もよくさまざまな虫に出会えましたが、なかなか手すりに虫がいないときも。そんなときは、近くの人工物や植物を見て回るのもオススメ。
 
 
人工物
 
手すり以外にも、もちろん看板やイス、樹名板(ネームプレート)の裏のような、人工物はすべてチェックポイント!

看板の裏もチェック!

 
コンクリート

手すりと反対側にある人工的な崖

とよさきさん:お、ヤチグモの巣がある。
 
コンクリートの隙間の中にクモの巣らしきものを見つけ、リュックからゴソゴソと何かを取り出すとよさきさん。
 
編集部:すみません、これはなんですか?
 
とよさきさん:音叉です。
 
お、音叉……? 音叉というと、あの理科の授業でワイングラスを響かせたり割ったりするやつでしょうか。
 
とよさきさん:ちょっとやってみましょうか。

ハンディ音叉

 

 
おお、クモが出てきた!!!!!
 
とよさきさん:獲物の虫の羽音と勘違いして反応してくるらしくて、クモ屋さんにとっては常識みたいです。

 
植木や植物
 
とよさきさん:手すりの周りに生えている植物には、手すりの上にいる虫と大体同じ種類がいます。手すりに虫がいないときは、こういう葉っぱの上やら面をチェックすると楽しいですよ。

とよさきさん:「このへんの高さに植物があるとgoodですね」

手すりと同じ高さの葉上で休むアカスジキンカメムシ(写真:とよさきかんじ)

近くのアジサイに何か発見!

ヨツスジハナカミキリ。交尾中……のはずが、なぜか3匹くっついています。(写真:とよさきかんじ)

『手すりの虫観察ガイド』で調べる須黒さん。「ヨツスジハナカミキリ。……63ページ! おお、載ってる。さすがですね」

未記載種発見!

 
観察を続けていると、「……あ!!!!!」と今日一番の須黒さんの声が。手すりの上にはハエトリグモが1匹。
 
須黒さん:これは未記載種なんですよ〜。これはすごい収穫です。
 
編集部:え、こんなところに!?
 
とよさきさん:例のアイツですね。僕もこの公園で見るのは初めてです。
 
 
※未記載種:新種としての名前がついていない生物

未記載種のハエトリグモ(写真:とよさきかんじ)

 
なんと手すりで未記載種発見!
 
須黒さん:このハエトリは7年くらい前から何回か採集したことはあるんですが、まだ採集数が少ないのと似たような種類の未記載種がいくつかいるので、まとめて新種記載しようと考えているところです。
 
実は今回訪れた公園は、かつて須黒さんが日本初記録種として報告した「クモマハエトリ」を手すりで採集したところ。奥地の山やジャングルに行かないと新種はいないというイメージがあるかもしれませんが、まだまだ身近で知られていない虫も多いのです。
 
須黒さん:今回は出会えませんでしたが、メスは青白い体から鮮やかな黄色い脚が生えており、その色の組み合わせが雲の間から陽の光が差すようなので「クモマ(雲間)ハエトリ」という名前がついています。

取材時に出会ったクモマハエトリのオス。(写真:とよさきかんじ)

『手すりの虫観察ガイド』p.14掲載 クモマハエトリのメス

 
そして、観察も終盤に近づいてきたころ、今日一番の大物が!
 
編集部:あ! あれ見てください!

コオニヤンマ(写真:とよさきかんじ)

 
とよさきさん:え〜、この公園では珍しい! コオニヤンマだ。逃げないから羽化直後なのかな?
 
須黒さん:カッコイイ……。パシャパシャ(写真を撮る)

大人も夢中になるほど大きくてカッコイイ!

トンボは種類を見分けるのにお腹の模様が必要になるので、横からも撮影しておきたい。(写真:とよさきかんじ)

 
編集後記
 
目線の高さで虫を探し、いなければ手すりに沿って進んでいくだけ。そんな虫探しの方法・手すりの虫観察で今回見つけた虫は、なんと約30〜40種類。そして未記載種のハエトリグモも発見!
1匹、また1匹と虫を見つけていくのは宝探しのようで、まだ何かいるかも…と夢中になる楽しさ。あなたもぜひ、今日から手すりで虫を探してみませんか?
 

手すりの虫観察ガイド
手すりの上にいる虫300種を集めた日本初のガイドブック! 豆知識やイラストが豊富で、虫探しの入門書としてもオススメ。
今回記事に登場した虫ももちろん収録。虫が登場する季節ごとに分かれているから、何の虫か探しやすい。
 

ハエトリグモハンドブック
須黒さんが約5年かけて採集・撮影した日本のほぼすべてのハエトリグモを掲載。オス・メスの見分け方やハエトリグモの基礎知識が、これ1冊でわかります。

 
 
取材協力
●とよさきかんじ
Twitter(日本野虫の会):@panchichi3 
イベント情報:
・2019/07/14 (日)
本屋B&B(東京/下北沢)
とよさきかんじ×金井真紀

「虫と和解せよ! 〜元ヤンと虫ぎらいが本を作るまで〜」

『手すりの虫観察ガイド: 公園・緑地で見つかる四季の虫』(文一総合出版)刊行記念
http://bookandbeer.com/event/20190714a/
 
・2019/8/10(日)
「みんなの知らない手すりの虫+関西虫事情の最前線」
ロフトプラスワンWEST(大阪/なんば)
 
 
●須黒達巳
ホームページ:ハエトリひろば
Twitter:@haetorihiroba

Author Profile

BuNa編集部

株式会社 文一総合出版の編集部員。生きもの、自然好きならではの目線で記事の発信をおこなっている。

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