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11/21 2019

冬の海が楽しくなる観察方法、ビーチコーミングってなに?

海に落ちているものを観察する「ビーチコーミング」は、冬こそ本番。歩くだけでOK! そんなビーチコーミングの楽しみ方を、漂着物学会会員で福井県海浜自然センタービーチコーミング講座講師の林重雄さんに紹介していただきます。

ビーチコーミングとは

ビーチコーミングとは「浜辺を歩いて打ち上げられた漂着物を集めたり、観察すること」を言います。もとは英語圏の言葉で、「浜辺」のbeach(ビーチ)と「櫛(くし)けずる」のcombing(コーミング)を合わせたもので、「浜辺を櫛けずるようにていねいに見ていく」というところから名づけられたものです。

ビーチコーミング@海水浴場

ビーチコーミングという言葉が定着してきたのは2000年以降で、最近では新聞や雑誌の見出しにも登場しています。そしてビーチコーミングを楽しむ人たちをビーチコーマーと呼んでいます。子どもたちが浜辺に行くと色や形の美しい貝殻を見つけ、夢中になって貝拾いをすることがあります。それがまさにビーチコーミングですね。

真夏以外に、海水浴場を歩いてみよう

ビーチコーミングを始めるのなら、歩きやすい季節に身近な浜辺を歩いてみるのが一番。手始めに身近な海水浴場を歩いてみてはいかがですか。夏場には色とりどりの水着でにぎわった浜も、秋から冬になれば訪れる人はグッと減り、釣り人、サーファー、それに散歩の人や犬に出会うくらいです。

福井県・水晶浜海水浴場。夏には多くの人で賑わう美しいビーチ

ビーチコーミングに適した海岸は、やはり歩きやすい砂浜です。岩石海岸の磯は、歩き難いだけではなく、海が深く漂着物が上陸しにくいのです。そんな場所でも、ポケットビーチと呼ばれる小さな砂浜があればビーチコーミングは楽しめます。逆に、ビーチコーミングに一番向かない季節は真夏。そんな時期には浜を歩くよりも海に入ったほうが気持ち良いですものね。

どんな格好で?

ビーチコーミングを始めるにあたり、難しいスキルや特別な用意は必要ありません。秋から冬にかけては散歩に出かける服装に加え、浜辺は風が強い場合があるので、ウインドブレーカーなど防風の上着日差しや風も防ぐ帽子を加えればOKでしょう。

どんな場所がおすすめ?

浜辺に立つと、波打ち際に並行して、打ち上げられたものが帯や線のように見える場所があります。そこが漂着物を探すビーチコーミングのポイントです。波打ち際はまだ砂や小石が濡れており、次の波が高ければ水没してしまう場所です。そこから陸側に目を向ければ、別の帯が見られます。一番陸寄りにある帯は大荒れで波が高いときにできたものでしょう。

漂着帯(渥美半島)

何が見つかる? 動物や植物

こうした浜辺にできた漂着物の帯をたどっていくと、さまざまなモノが見つかります。貝、カニ、ウニなどの無脊椎動物、魚、そして海鳥、まれにイルカやウミガメなどの脊椎動物、そして陸貝や昆虫などの無脊椎動物、イノシシやタヌキといった脊椎動物も珍しくありません。

ツグチガイ(静岡県御前崎)

オオブンブク。ウニの仲間(福井県美浜町)

左:鯨の椎骨、右:アカウミガメ(愛知県田原市)

浜辺は海と陸との狭間にあり、生物の死体が最も多く見られる場所です。陸の生物が海に入れば身投げとなり、また海の生物が陸に打ち上げられれば、これも身投げとなります。普段陸上であまり見かける機会のない生物の「仏さん」に普通に出会える浜辺は、異界と言えるのかも知れません。
 
動物だけではなく植物も多く見られます。海の海藻・海草はもちろんのこと、河川から流れてきた葉、小枝、流木の他に種子も見つかります。植物の中には水散布で分布域を広げる植物も多く、はるか南方のマングローブ域から、ヒルギ、サキシマスオウ、ゴバンノアシ、それに島崎藤村の「椰子の実」で知られたココヤシに遭遇するのも珍しくありません。

左:ココヤシ、右:ゴバンノアシ(渥美半島)

人工物:マイクロプラスチックや陶磁器、ビーチグラス

帯状になった漂着物をたどっていっても、自然物ばかりが見られるわけではありません。残念ながら人工物は自然物の数倍も落ちていることがあります。その中でも目立つのはプラスチック類! 今流行の言葉を使えば、紫外線や風や波の力で壊されて小さくなったプラスチック片・マイクロプラスチックがいたる所に見られます。マイクロプラスチックとは5㎜以下のプラスチック片のことで、立って見ていてはわからなくても、しゃがみこんだり、座ればいくらでも見つかります。

左:浜辺のマイクロプラスチック+発泡スチレン片、右:海ゴミ漂着(福井県美浜町)

水に浮く軽いプラスチックだけではなく、水よりも比重のあるガラス、陶磁器も見つかります。これらは不要になって捨てられたものがほとんどですが、時には難破船の積荷が見つかることもあります。こうした重いものは、長距離を移動することは少ないのですが、嵐の時など海底にあったものが揺り動かされて徐々に浜辺に近づき、打ち上げられることがあります。

ビーチグラス(福井県美浜町)

ガラス玉。漁網を浮かせたり目印としての浮き玉として使われる(福井県美浜町)

浜辺に捨てられたガラス瓶が割れ、その破片が波や砂、小石にもまれて摩耗し、角が取れて丸くなったものをビーチグラスと呼んでいます。これはクラフトやアクセサリーの素材になるなど、ビーチコーマーの中でも人気の高いものです。

ビーチコーミングなら漂着物学会

さて、実際に浜辺を歩いて気になったモノが出てくると思います。ビーチコーマー(ビーチコーミングをする人)の団体に、私も参加している「漂着物学会」があります。学会と言うと何だか堅苦しいイメージがありますが、全国の会員には、中学生から主婦、そして海洋研究者までさまざまな人がいて、学会というよりは「楽会」。

学会ビーチコーミング(北海道)

そんなわけで年に一度開かれる総会では、研究発表の他に作品などの販売、漂着物やお土産を奪い合う? ジャンケン大会、夜を徹しての懇親会+二次会、そして参加者総出で歩くビーチコーミングもあります。2019年の総会は新潟の柏崎市で開催され、ビーチコーミングは高浜海岸で行われました。そんな会員のビーチコーミングのお目当てはさまざまでした。

人によって違う楽しみ方

とりあえず、気になったモノだけ拾う人もいれば、ポイントを絞ってモノを拾う人もいます。たとえば、関東のKさんはプラスチック大好き! 使用済みの歯ブラシとか、浣腸容器まで拾う強者なので、漂着物学会のビーチコーミングでは何を拾うのだろうかと気になっていました。そうしたら、今回のお目当ては使い捨てライター! ライターには広告の文字が記されているので、流出地が判明しやすいのです。日本のモノだけではなく、韓国やベトナムのライターもあったそうです。
 
一方、九州のHさんは貝好き! そしてどんな浜辺でも腹ばいになって拾うスタイルは、カメラマンの絶好の被写体になっていたようです。関東のFさんはウニ好き、かわいらしいウニやオオブンブクなど、クラフト作りの素材にするために、袋イッパイ詰め込んで大喜びでした。他には浜辺で磨かれたメノウなどの石を拾う人などなど、10人のビーチコーマーがいれば、10通りの楽しみ方があるようです。

秋から冬は、日本海側がおすすめ

さて、これから冬に向かう季節は、日本海側のビーチコーミング・シーズンが始まります。夏は南風が優勢で、黒潮の運ぶ漂流物を太平洋側に運んでくれます。けれども秋から冬にかけては北西の季節風が、日本海に停滞して浮いていた漂流物や、対馬暖流の運んできた漂流物を日本海側の浜辺に運んでくれるのです。日本海側のビーチコーマーは、漂着物の少ない夏場を「漂着の冬」と呼ぶほど、シーズンの到来を心待ちにしています。

アオイガイ(福井県小浜市)

日本海側の各地にいるビーチコーマーに冬の訪れを告げるのはアオイガイです。このアオイガイはタコのメスが作る産卵のための「ゆりかご」で、非常に薄い石灰質の殻です。黄金比に近いフォルムと美しいらせんをもつ白い殻は、ビーチコーマーの心をとらえて離しません。アオイガイのように決まった季節に出現する漂着物は、ビーチコーマーの歳時記にもなりますね。

ビーチコーミングの花形、アオイガイを探してみよう

対馬暖流に乗って北上してくるアオイガイは漂流を続けながら成長します。しかし秋になると徐々に海水温は低下するので、これによって弱った個体が浜辺に打ち上げられるのです。温暖化の進む最近では北海道周辺まで北上しますが、さらに海水温の高い年ですと北海道最北の宗谷岬を回り込み、オホーツク海側を南下することもあります。
 
一般的には海水温の低下とともにアオイガイの漂着前線は南下し、北海道から東北、北陸から山陰へと下っていきます。また一部は津軽海峡を抜けて太平洋側に出て南下するルートを辿り、関東あたりまでやってくるコースをたどる個体もいます。

北朝鮮の帽子、アオイガイ、モダマなど(福井県美浜町)

これから冬に向かう日本海側の浜辺、今日もどこかでアオイガイが打ち上げられているかもしれません。インターネットの普及した現在、「#アオイガイ」で検索すれば、全国の漂着状況を知ることができます。今度の休日、そんな情報を参考にアオイガイを探しに日本海側でのビーチコーミングはいかがですか?

Author Profile

林 重雄

幼少時より海や自然と親しみ、拾い物に目ざめる。1990年より福井県恐竜発掘調査に参加、その後富山県でも恐竜発掘調査に参加、現在に至る。学生時代にAmos WoodさんのBeachaombing for Japanese Glass Floats を知り、アメリカ人が日本の浮き玉に興味を持っているのを見て驚く。初代漂着物学会会長である故・石井忠先生の著作を通して、漂着物に関心が湧き、その後、石井先生を師匠と仰ぎ、日本海側と太平洋側でビーチコーミングや布教活動を行う。
漂着物学会員、福井県海浜自然センタービーチコーミング講座講師
WEBページ・https://beachcomberjp.jimdo.com/
インスタグラム・https://www.instagram.com/shigebeachcomber/?hl=ja

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