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1/11 2019

タヌキ・アナグマ・アライグマ・ハクビシン入門 ――4種の動物の違いと暮らし

すぐ近くに棲んでいるあの子たち

2018年6月14日
愛知県岡崎市にある人間環境大学。校舎下に仕掛けた自動撮影カメラに、なにやら小さな動物が写った。


黒っぽい小さな動物を発見。耳を澄ますと声が聞こえる

さらに映像を進めると、遊んでいる様子も収められていた。


全部で6匹。手袋を引っ張って遊んでいるようだ。楽しそうな声が聞こえる

2018年6月19日
校舎下に仕掛けた自動撮影カメラに、またなにやら大きな動物が写った。



頭が茶色で目からほほにかけて黒い動物が来た。鳴き声が聞こえる

2018年6月21日
ハンディカムをもって、動物が写った場所に一番近い窓から外を見た。すると間もなく、黒くてふわふわな小さな動物と、茶色と黒のネコくらいの大きさの動物が動くのが見えた。どうやら親子のようだ。



親子だったようだ。子どもが転がったりじゃれたりする姿がかわいらしい

窓を挟んで2mくらいのところにも関わらず、こちらに気づいていないのか気ままな姿を見せている。
 

謎の動物の識別に挑戦!

ところで皆さんは、動画に写っていた動物がなんだか分かるだろうか?
日本にいるネコぐらいの大きさの野生動物には、在来種のニホンアナグマとタヌキ、外来種のアライグマとハクビシンの4種類がいる

日本にいる中型食肉類の比較。上から頭、尾、前脚の順。 尾・アライグマ前脚(撮影:岩下明生)

一見すると大きさや体型が似ているため、どれも同じに見えるが、顔や尾を比べてみれば違いがよくわかる。実際に動画に写った親を見分けてみよう。
 
まず、アニメ「ラスカル」で人気のあったアライグマには、尾に白と黒の縞模様があるはずだ。動画の親の尾には縞がないので違う。
 
ハクビシンは漢字で「白鼻心」と書くように、鼻先が白いはずだし、鼻先から尻にかけてと同じくらい長く細い尾があるはずだ。親の顔は茶色と黒で、尾は体よりだいぶ短いので、これも違う。
 
残るはタヌキとアナグマである。
タヌキとアナグマは、どちらも茶色で混同されがちな動物である。とはいえ、2種にも違いがある。タヌキは茶色の頭に黒い頬で、茶色い尾の縁には黒っぽい毛が生えることが多い。
 
一方、アナグマは目の上下が黒く、茶色の尾の表面を白っぽい毛が覆うことが多い。もうお分かりだろう。今回写った、黒いふわふわの子やその親は・・・タヌキだ。
 
余談だが、このタヌキの親子が来るすぐ前は、アナグマがこの穴を使っていた。『同じ穴のムジナ』という言葉がこの2種からできたのが頷ける。
 


アナグマ。交尾時にオスがメスの背中を嚙む。そのときの傷だろう

中型食肉類の食生活

在来種であるタヌキやアナグマに、外来種であるハクビシンとアライグマを加えた中型食肉類は、私たちの近くにもひっそりと棲んでいる。
 
ここからは、私たちのすぐ近くに棲む彼らの暮らしぶりを見てみよう。野生動物の暮らしは、行動や社会、繁殖方法など様々な側面からとらえるものであるが、まずは食べないと生きていけない。そこで私は、彼らの食べ物を調べてみた。
 
一般に、タヌキ・アナグマ・ハクビシン・アライグマはどの種も雑食性で、手に入るものならなんでもよく食べると考えられている。しかし、実際に調べてみると、種ごとに少しずつ食べるものが異なるのだ。
 
例えば、里山や住宅地の広がる東京の郊外では、タヌキは季節に合わせて食べ物を変え、夏にはムカデやオサムシなどの節足動物を、秋にはカキなどの果実を、冬から春にはカキなどのほかにペットフードや残飯などの人工物を食べていた。

タヌキの夏の食べ物の例

タヌキの冬の食べ物の例

一方、ハクビシンは、年中果実を食べているが果物の種類が変わり、夏にはビワやクワなどの果実と節足動物を、秋にはカキなどの果実を、冬にはカキなどの果実とペットフードなどの人工物を食べ、春には柑橘類などの果実、鳥類、ナメクジなどを食べていた。
 
アナグマは春にはミミズ、夏から秋にクワなどの果実を食べていた。アライグマについては調べていないが、地域によってザリガニなどの水生動物や、果実などを中心に食べているようである。
 
一見同じように見える中型食肉類が、異なるものを食べているのはなぜだろうか。もちろん、好き嫌いもあると思うが、私は木登り能力の違いが重要だと考えている。そこで、野生の中型食肉類たちの木登り能力を比較するために、木の幹に約50cm間隔で餌を巻きつけて、木登り能力を比較してみた。


▲タヌキ



▲アライグマ



▲ハクビシン

タヌキは木に登らずに地上にいたが、アライグマはゆっくりと登り、そのままずるずると下りた。一方、ハクビシンはするすると登り、頭を下に向けて垂直に下りていた。残念ながらアナグマは撮影されなかったが、手の形を考えると土は掘れても木登りはできないだろう。
このように、ハクビシン、アライグマ、タヌキとアナグマの順で木登りが得意と考えられる。食べものとの関係をみると、彼らの暮らしがより鮮明にみえてくる。
 
ハクビシンは木登りが得意で果樹を食べ、アライグマは樹上と地上で、果実や水生動物を食べる。一方、タヌキは節足動物や落ちた果実など地上にあるものを食べ、アナグマは落ちた果実や地中のミミズを食べる。
 
研究で示されたものではないが状況証拠を集めていくと、中型食肉類は樹上、地上、地中という異なる場所を使い分けているようだ。

ロードキル

私たちのすぐ近くにいるとはいえ、動物たちに直接出会う機会はそう多くない。野生動物の研究者であってもそれは同じである。多くの野生動物は夜行性であるため、すぐ近くにいてもなかなか人目につかないものである。そんな中、比較的よく人目に触れるものがある。ロードキルだ

タヌキのロードキル

かわいそうなことではあるが、毎年かなりの動物が車に轢かれて死んでいる。轢かれた動物は、交通や衛生の観点から道路管理者や自治体によって収集され焼却されることが多い。
タヌキ(と間違えられたニホンアナグマを含む)だけでも、1998年のデータで、日本全国で年間11万頭から37万頭が轢かれたと推計されている。
 
2014年に私が全国の650(約40%)の市町村に年間のロードキル収集数を聞くアンケート調査を行った結果、解答のなかった市町村や種名を記録していない市町村もあった中で、少なくても平成25(2013)年度にはタヌキ5,703頭、ハクビシン1,165頭、アライグマ119頭が収集されていた。道路上で収集されるのは轢かれた動物の一部であることや、市町村が収集するのは一部の道路だけであることを考えると、毎年この何倍もの動物が轢かれていると考えるのが妥当だろう。
 
このような話をすると、こんなに轢かれていたら絶滅してしまうのではないかと心配する人もいるが、絶滅に向かって個体数が減っていればロードキルの収集数も減りそうだが、タヌキについては毎年変わらず多くの個体が轢かれているようだ。アナグマについては情報がないのでよくわからないが、外来種のアライグマやハクビシンについては、各地に分布が広がっていることから増えていると考えていいだろう。タヌキ、ハクビシン、アライグマは、轢かれながらも人の生活圏を巧みに利用することで、良くも悪くも私たちの周りで暮らしているたくましい動物なのだ。
 
タヌキ・アナグマ・ハクビシン・アライグマのような中型食肉類については、シカ、イノシシ、サルと比べて研究が進んでない面が多い。この記事を読んだみなさんが、少しでも中型食肉類に興味を持ち、たくましくもあり、ちょっとまぬけな彼らの新たな一面を発見してもらえれば幸いだ。

 
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Author Profile

立脇 隆文

1987年生まれ。横浜国立大学博士(環境学)。人間環境大学講師。麻布大学で野生動物の研究の世界に入り、兵庫県森林動物研究センター協力研究員を経て、2016年から人間環境大学。中大型哺乳類などの生態調査や、ロードキルなど野生動物管理に関する研究に取り組んでいる。

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