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5/30 2018

必見!カメムシのかしこい子育て術【動画あり】
子を護り、孵化させ、餌を与えるツチカメムシの生態

幼虫を保護するエサキモンキツノカメムシの雌親。ミズキなどの葉の裏に卵を産み付け、その上に覆いかぶさるようにして保護する

子育てをする昆虫たち

多くの昆虫の親は、卵を産みつけたあとどこかへ行ってしまうため、子の成長を見届けることはない。
しかし、いくつかのカメムシの仲間では、親が子を護り世話をする子育て行動がみられることをご存知だろうか?
 
子育てをする昆虫と聞くと、アリやハチのような社会性昆虫が真っ先に思い出されるかもしれない。働きバチやアリがせっせと食べ物を巣に持ち帰り、巣の仲間と協力して「女王」が産んだ子の世話をする。このような生態とは異なり、カメムシは多くの場合、親が自分自身の子のみの世話をする。なかでも、ツチカメムシ科に属するカメムシでは、献身的な子育て行動がみられる。これらの親は、卵を護り、孵化を助け、さらに孵化後も子(幼虫)に餌を運び与える。まさに、私たちヒトを含む哺乳類や鳥類のような、過保護なまでの子育て行動をみせてくれる。

シングルマザーの奮闘

ツチカメムシの雄は、交尾が終わるとすぐに立ち去ってしまう。そのため、子育ては雌親単独で行われる。春、雌親はまず、土の窪みなどのわずかな隙間を利用して巣をこしらえる。そこでたくさんの卵を産み、その卵をボール状にまとめてひとつの卵塊をつくる。このとき雌親は、卵が孵るまでの10日間以上ほとんど餌を食べることもなく卵塊のそばに付き添い、アリやクモなどの天敵から卵を護り続ける。

卵塊を保護するミツボシツチカメムシの雌親

卵がほんのりとピンクに色づき、幼虫の赤い眼が透けて見られるようになると、孵化はもう目前だ。それまでじっと卵塊を抱えていた雌親は落ち着きをなくし、卵塊を抱えたまま体を揺らし始める。振動は、一定の間隔でリズミカルに繰り返され、徐々に間隔が短く激しくなっていく。そして、雌親が振動を開始してわずか数分後、次々に幼虫が殻を脱ぎ捨て、一斉に孵化をする。
この現象は、卵のなかの子(胚)に雌親が振動シグナルを与えて孵化のタイミングを知らせる、親と胚のコミュニケーションと考えられている。
 
 


孵化直後の幼虫は、雌親のおしりの付近に群がる。雌親は、「栄養卵」と呼ばれる卵を産み、幼虫に与える。栄養卵は、幼虫の最初の餌として特別につくられたものであり、孵化後限られた期間しか与えられない貴重な栄養源となる。
孵化後しばらくすると、雌親は餌である植物の種子を探しに出かける。おなかをすかせた幼虫たちに与える上質な種子を探して、ときには巣から遠く離れた場所に行き着いてしまうこともある。雌親は、周囲の景色を手がかりに自分のいる位置を特定することができ、餌を見つけたあとは素早く正確に、幼虫の待つ巣に帰ることができる。

ホトケノザの種子を持ち運ぶフタボシツチカメムシの雌親

巣に戻った雌親は、特別な振動で巣材を揺らし、自分が外敵でないことを幼虫に知らせる。幼虫はこの振動を検知すると大急ぎで雌親のもとに集まり、われ先にと、雌親の持ち帰った種子を食べるのである。雌親による餌の運搬は、命がけだ。雌親は、1日に何度も巣と餌場を往復し、中身の詰まった種子を引きずるようにして運ぶ。このとき雌親は無防備な状態となり、捕食者に食べられてしまうこともある。このような給餌行動は、幼虫が自分で餌を探せるようになる3齢頃まで続く。

巣内で幼虫を護るフタボシツチカメムシの雌親

骨肉相食むきょうだい争い

子育てをするツチカメムシの仲間では、餌として利用する植物の種類が限られるため、餌をめぐる競争は熾烈である。植物が十分に種子をつけず餌が少なくなると、同巣内のきょうだい間でも競争が生じ、お互いを食べあう「共食い」がみられることもある。特に、脱皮の前後には身体が柔らかく動きも鈍くなるため、共食いの餌食となることが多く、ときには自分より成長の遅い若い幼虫に襲われてしまう。

脱皮したばかりの幼虫がきょうだいに食べられる様子

集団を形成し、親の世話に依存するようになった一方で、身近に存在するきょうだいという近縁個体を犠牲にしてしまうリスクを背負っているのだ。雌親による一斉孵化の誘導や栄養卵の一時的な供給は、幼虫の成長を均一化し、共に生きるきょうだい同士の争いを和らげるための戦略と考えられている。
お母さんカメムシの懸命な子育て行動は、生きものの美しさと巧妙さ、そして厳しい自然のなかで生き抜く逞しい力強さを、私たちに気づかせてくれる。
 
じつはこの子育てツチカメムシ、私たちの身近でも観察することができる。ミツボシツチカメムシという種類は、体長5mm程度の黒くて小さな虫だ。ホトケノザやヒメオドリコソウの種子を餌にして、田畑の脇や草原に暮らしている。春、これらの植物が種子をつける頃、根際をそっと覗いてみよう。あなたも、子を護るお母さんカメムシに出会えるかもしれない。

Author Profile

向井 裕美

国立研究所開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所・任期付研究員.昆虫や植物を対象にした行動生態学,感覚生理学が専門.生きものがそれぞれにもつ感覚世界に興味をもっている.2014年に第4回日本学術振興会育志賞を受賞.

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