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魚・甲殻類・貝類

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6/19 2018

カタツムリのツノって何? 目玉はどこにある?

雨の日のカタツムリ(セトウチマイマイ)。雨が降っているときや雨上がりに元気に活動する。カタツムリは足の裏側から粘液を出しながら這っており、這った跡には粘液が残る

これからの季節、人間にとってはジメジメして憂鬱(ゆううつ)な季節かもしれませんが、梅雨の時期に元気になる生きものもいます。その一つがカタツムリ。カタツムリは、晴れているときにはどこかで休眠していて、雨が降ると元気に這いまわります。
 
♪でんでんむしむし かたつむり
おまえのあたまは どこにある
つのだせ やりだせ あたまだせ
 
有名な童謡「かたつむり」の歌詞ですね。
子どものころ、カタツムリの頭をつついて遊んだ、という人もいるのではないでしょうか。カタツムリは頭をつつくと、びっくりして殻の中に引っ込んでしまいます。しばらくすると、恐る恐る頭を出します。一方、ツノだけをつつくと、いったん引っ込めてすぐに伸ばします。この歌詞からは、そんなふうに子どもたちが遊ぶ様子が目に浮かびます。
カタツムリの別名である「でんでんむし」という呼び名は、子どもたちの「出よ出よ」というはやし言葉が由来だと言われています。昔から、子どもたちはカタツムリをツンツンして楽しんでいたのでしょう。そして、頭やツノを引っ込めたり、また出てきたりというユーモラスな動きが、人気の秘密ではないかと思います。

アジサイの咲くころに活発になるカタツムリ(ツクシマイマイ)。梅雨の時期のイメージにぴったりなのでよくアジサイと組み合わせて描かれるが、特にアジサイが好きなわけではない

カタツムリのツノと目玉

さて、先ほどの童謡「かたつむり」の歌詞の中でツノと呼ばれているものは、じつは触角です。カタツムリには2対、4本の触角があります。大きく目立つのが大触角。その下に小触角が2本あります。

コベソマイマイ。この仲間はしばしば体をグーッと長く伸ばす

童謡「かたつむり」2番の歌詞には、「おまえのめだまは どこにある」とありますが、カタツムリをじっくり観察したことのある人なら、きっとおわかりになると思います。そう、大触角の先端に小さな目玉がついています。長い触角の先端についていて遠くまで見通すことができそうに思えますが、残念ながらはっきりものが見えているわけではなく、明るさを感じられる程度と言われています。
大触角は目玉を支える柄というだけではなく、周囲の障害物を察知する役割もあります。カタツムリの進む様子を観察すると、大触角を左右に振りながら進み、ものにぶつかるとびっくりしたように触角を引っ込めます。そして、安全であればまた触角を伸ばし、方向を変えて進みはじめます。
一方の小触角は、臭いや味を感じることができます。観察していると、小触角で地面を探りながら進みます。食べられるものを探しているのでしょう。

触角が2本のカタツムリ

さて、ここまではあくまで私たちがよく目にする「一般的な」(有肺類というグループに属する)カタツムリの話。じつは触角が2本しかないカタツムリもいるのです。それがヤマキサゴの仲間と、ヤマタニシなどの仲間で、彼らの目玉は触角の付け根についています。

ヤマキサゴ。目玉は触角の先ではなく、根元についている

アオミオカタニシ。触角の付け根にあるつぶらな眼がとってもキュート

ツノや目玉からわかるカタツムリの進化

そもそも、カタツムリというのは何の仲間でしょう?「でんでんむし」とも呼ぶので「カブトムシ」や「クワガタムシ」と同じ昆虫でしょうか? 背中に貝殻を背負っているので、ヤドカリと同じ仲間でしょうか? いえいえ、カタツムリはサザエやタニシなどと同じ巻貝の仲間です。元々は水中で暮らしていた巻貝が、陸上で生活できるように進化したのがカタツムリなのです。カタツムリが一般に乾燥に弱く、雨が降ると活発に動くのは、水中で暮らしていたことの名残です。
カタツムリは、大きく3つのグループに分けられます。1つはヤマキサゴの仲間で、アマオブネという海の貝に近いグループ。もう1つはヤマタニシやゴマガイの仲間で、淡水にすむタニシに近いグループ。そして最後が、マイマイ類やキセルガイ類など、多くのカタツムリが含まれる有肺類というグループで、海の貝でいうとカラマツガイに近いグループです。
陸上にすむ巻貝のことを十把一絡げに「カタツムリ」と呼びますが、「カタツムリ」という1つのグループがあるわけではなく、系統的には離れたいくつかのグループが含まれているのです。すなわち、水中から陸上への進化は、1度だけではなく、何度も起こったのです。
話を戻すと、ヤマキサゴやヤマタニシなどの仲間は、触角が2本しかありません。また、彼らはフタを持っていて、殻の口をふさぐことができます。このように有肺類とは異なる体のつくりをしていることは、有肺類とは別に陸上に進出したことを物語っています。このように、カタツムリのツノや目玉からは、彼らの進化の道筋を垣間見ることができます。

ちなみに、歌詞の中の「ヤリ」は、一説には「恋矢(れんし)」だと言われています。恋矢は一部のカタツムリが交尾の際に相手を突き刺すのに使います。石灰質で先がとがっており、まさしくヤリの形(写真はツルガマイマイの恋矢)

出かけるのがおっくうな雨の日こそ、カタツムリと出会うチャンスです。『カタツムリハンドブック』を片手に、近所にどんなカタツムリがいるのか探してみませんか。そして、カタツムリを見つけたら、ツノや目玉に注目して観察してみてください。
最後に1つ注意です。カタツムリには、広東住血線虫という寄生虫がつくことがあります。人間が広東住血線虫に寄生されたカタツムリを食べると、人間にも寄生することがあります。手から口に入る可能性もあるので、予防のためにもカタツムリに触ったあとはよく手を洗ってください。
 
「カタツムリ」という言葉は専門用語ではなく、厳密な定義がありません。ここでは、「陸上にすむ貝(陸産貝類)のうち、貝殻を持つもの」という意味で使っています。

雨の日はカタツムリを見つけるチャンス(写真はツクシマイマイ)

カタツムリのことを調べたい方には、『カタツムリハンドブック』(文一総合出版・西 浩孝さんと武田晋一さんの共著)がおすすめ!

Credit  西 浩孝・文 武田晋一・写真

Author Profile

西 浩孝

1976年生まれ,宮崎県出身.京都大学理学研究科博士課程(生物科学専攻)修了,博士(理学).大学での研究テーマはカタツムリの生態やDNAを使った系統地理.現在,豊橋市自然史博物館で貝類担当の学芸員.

Author Profile

武田 晋一

1968年,福岡県生まれ。山口大学理学部生物学科卒業.大学院修士課程を修了後,フリーの写真家としてスタートし、主に水辺の生き物にカメラを向ける.著書は『水と地球の研究ノート・全5巻』(偕成社),『うまれたよ! カタツムリ』(岩崎書店)他多数.
ホームページ:http://www.takeda-shinichi.com/
Twitter:@TakedaShinichi 

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