ボルネオの熱帯⾬林は1億4千万年前から存在する、世界で最も古いと⾔われる熱帯⾬林のひとつ。
ウツボカズラやラフレシアなどの植物、ボルネオゾウ、オランウータンなどの哺乳類で有名だが、両⽣類は180種以上、爬⾍類は300種以上とハペ(Herpetile ハーペタイル(両⽣類・爬⾍類)の略称)の多様性も⾮常に⾼い。中でも科レベルでボルネオに固有であるミミナシオオトカゲや近年再発⾒されたボルネオハイナシガエルが多くのハペ屋にとって憧れとなっている。
筆者は数年前に京都⼤学の合同調査に誘われたのがきっかけで、何度もボルネオに通うことになった。そこで今回は、かの地の両⽣類・爬⾍類をいくつか紹介したいと思う。
ボルネオはマレー半島の東、フィリピン諸島の南⻄に位置する東南アジアの島だ。⾯積725,500km² で(⽇本の国⼟の約1.9倍)、島としてはグリーンランド、ニューギニアに次ぐ世界で三番⽬の⼤きさ。政治的にはマレーシア、ブルネイ、インドネシアの3か国の領⼟となっている
マレーシア領サラワク州の街並み。ボルネオは⻑くイギリスとオランダの⽀配下にあり、その影響が今でもコロニアル様式の建物に残っている。こうした⽂化の違いに触れることも、海外フィールドの魅⼒のひとつ。ちなみに⾷べ物もとても美味しい
熱帯雨林を流れる川。夜に川沿いのトレイルを歩けば、容易に多くのヤモリやカエルを観察することが出来る。 昼行性のスキンク(ニホントカゲの仲間)やアガマ(キノボリトカゲの仲間)などのトカゲも生息するが、体温が上がり活性が高くなると見つけるのは難しいので、午前中に探索するのが基本。というよりそもそも尋常じゃなく蒸し暑いので、昼は動きたくない。よって夕暮れから午前中まで生き物を探して、昼に寝るのである。悲しいかな、ハペ屋の生活は不健康だ
アカマクトビガエル
アルフレッド・ラッセル・ウォレスの「マレー諸島」に登場する、ワラストビガエルでよく知られるトビガエルの⼀種。しかし実はこのトビガエル、日本のモリアオガエルやシュレーゲルアオガエルと同じアオガエル属に属するのである。
参考:逆ハーレム? 樹の上に卵!?見てみたいモリアオガエルの恋愛模様
アカマクトビガエル Rhacophorus pardalis
これらの他のアオガエルと比較して、トビガエルの仲間は指の間の水かきが発達していて、木から飛び降りる際に水かきを広げて飛膜として利用し、トビガエルの名の通り滑空するのだ。とはいえ実際トビガエルの滑空はそこまで自由に移動出来るわけではなく、どちらかというとパラシューティングのように緩やかに落下するイメージ。ちなみに同じハペでもアガマ科のトビトカゲはトビガエルに⽐べてかなり⻑い距離を滑空可能で、滑空する⽅向や着地位置もある程度コントロール出来るらしい。
産卵するアカマクトビガエルのペア。モリアオガエルのように、池などの⽔上の葉や枝に泡状の卵塊を産む
写真のアカマクトビガエルは茶褐色〜オレンジ色の非常に美しいカエルだが、同じボルネオの低地熱帯雨林に生息するワラストビガエルやボルネオトビガエルと比べると、見る機会は多い。はっきり言って普通種である。とはいえ普段は樹冠で生活しており、繁殖のため池に降りてきた個体以外を見つけるのは非常に難しい。
ホソユビヤモリ
ホソユビヤモリは東南アジアに広く分布するヤモリで、現時点で250種を含むヤモリ下目で最大の属。ボルネオにも多くの種が分布するが、まだまだ未記載種がいるらしくこれからも種数が増えそうだ。
眼を舐めるキナバルホソユビヤモリ Cyrtodactylus baluensis。ボルネオ北部の熱帯雨林に生息する、中型のホソユビヤモリ。写真の個体は興奮して色が黒ずんでいる
ホソユビヤモリは木や岩の上で活動するが、日本人にとって馴染みの深いニホンヤモリと違い指の薄板(指の裏にある器官で岩や壁などに貼り付くことが出来る)が発達せず、その名の通り細長い指の爪を引っ掛けて木や岩に登る。ニホンヤモリとは違い民家など人工物には生息しないが、ボルネオの熱帯雨林では最も目にする機会が多いヤモリの仲間だろう。
イトコホソユビヤモリ (幼体)Cyrtodactylus consobrinus。頭胴長125mmに達する大型のホソユビヤモリ。幼体は黒地に金色のラインが入り非常に美しいが、成長すると地色は茶褐色、ラインは白く変化する。太い木の幹に張り付いて活動することが多い
オオアオムチヘビ
最後はヘビ。最近でこそヘビが好きな人が増えてきたようだが、きっと苦手な人もまだまだ多いだろう。ただムチヘビのコミカルな外見であれば、気持ち悪いと思う人も少ない気がする。
オオアオムチヘビ Ahaetulla prasina
ムチヘビは樹上性で、細く側扁した身体は樹上での活動に適している。ヘビの中で最も視力が良いと言われており、正面を向いた大きな目は立体的にものを見ることが可能。
ちなみにボルネオはヘビを見つけるのが非常に難しい。筆者や知人らの経験では、一週間滞在しても一人では5、6匹見れるかといったところ。正直地元の里山の方がたくさんいる。しかしその割に種数は非常に多く、現在記載されている種数は150種以上。日本のヘビと比較して、ものすごく生息密度が低いのだろうか。
最後にこれらのハペの観察方法だが、国立公園を散策するのが安全。夜間はボルネオのほとんどの国立公園では林道への立ち入りは制限されているが、ガイド付きのナイトウォークツアーも行っている場所も多いので、利用するといいだろう。旅にトラブルはつきものだが、海外のフィールドでの無用なトラブルは特に避けるように心がけて欲しい。
Author Profile
越智 慎平
1987年生まれ.兵庫県在住.日本爬虫両棲類学会会員.オーストラリアで生物・環境保護を学び,帰国後サラリーマン生活の傍ら両生・爬虫類をメインに撮影.最近の撮影テーマはボルネオの両生類・爬虫類の他に,地元のタワヤモリとカスミサンショウウオ.
Twitter:@Nyandful2
Web site:https://nfulochi.wixsite.com/neko