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両生類・は虫類

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4/25 2018

逆ハーレム? 樹の上に卵!?
見てみたいモリアオガエルの恋愛模様

複数のオスが集まるモリアオガエルの産卵。産卵時は天敵のヤマカガシやシマヘビが木に登ってくる

樹の上にいる! モリアオガエル

1年中カエルを追いかけている筆者ですが、田んぼに水が入る4月ごろから本格的にカエルのシーズンが始まったなと感じます。それが一段落し梅雨時が近くなると、田んぼから少し目をそらして川や森の中の池などのカエルに注目します。その中でもおすすめなのが、モリアオガエルです。とても魅力的な姿と不思議な生態を持っています。
モリアオガエルはアオガエル科の日本固有種で、本州や佐渡島などに生息しています。北海道、四国、九州、沖縄など、モリアオガエルが分布していない地域の方、ご免なさい。

大きさはオスでだいたい4~6センチ、メスで6~8センチと、メスがかなり大きいです。長い脚と大きな吸盤を持ち、普段は樹上で生活しています。近縁のシュレーゲルアオガエルと姿がよく似ていますが、モリアオガエルの方がかなり大型です(同じところで見つかることもあります)。

黄緑色が鮮やかな日本海側のオス(新潟県)

モリアオガエルの恋の季節

特徴的なのは産卵生態で、樹上に大きなクリーム色の泡状の卵塊を産みます。夜間に水中などで待機していた大きなメスが樹木を登り、高い場所での産卵を目指します。樹上で鳴いている小さなオスがメスに飛びつきペアになり、理想的な葉や枝に到達すると産卵が始まります。樹上のオスが産卵中のペアに次々に割り込み、何頭ものオスが1頭のメスに群がって産卵が続けられます。その産卵する姿は新聞などのマスコミにも梅雨時の風物詩として取り上げられることもあります。
地方自治体の天然記念物に指定されている地域も多く、比較的大きめなサイズと、とてもわかりやすい黄緑色の体色も愛される要因と言えるでしょう。モリアオガエルはひっそりした森の中の池で産卵するイメージですが、山を背にしたお寺や神社の池などにも産卵にやってきます。寺院の雰囲気や日本庭園にもマッチし、各地で古くから大切にされてきたことから、文化的にも人気者のカエルです。

樹上に産みつけられた卵(埼玉県)

日本のほかのカエルと違い、わざわざ高いところに登り樹上に産卵するはどうしてなのか、最初から水中に産卵した方が効率的なのではないか、と考えてしまいます。
実は、池の中には卵の天敵である魚類、イモリなどがうようよしていることが多いのです。卵は自分で逃げることができないので、水中にあると天敵にあっという間に食べ尽くされてしまうかもしれません。しかし、卵塊が樹上にあれば、雨が期待できる季節柄、泡状の卵塊はある程度の乾燥に耐えることができ、水中の天敵を回避することができます。降雨によって湿気が保たれ、卵が発生してオタマジャクシに成長すると、オタマジャクシは樹上の卵塊から直下の池にダイブして水中生活をスタートさせます。ところがイモリは落ちてくる小さなオタマジャクシを狙って口を開けているので、モリアオガエルにとっては、カエルになり上陸するまでの手ごわい存在です。

地域ごとのいろいろな違い

また、モリアオガエルの姿は地域差が大きいことも知られています。特に日本海側と太平洋側では、外見や大きさにかなり差異があります。一般的には、太平洋側では大型で、斑紋が目立つ個体が見られます。日本海側はやや小型で、ほとんどが斑紋のない黄緑色が鮮やかな体色です。特に太平洋側のメスは立派な体格をしているので、迫力満点のカエルと言えるでしょう。

斑紋が目立つ太平洋側のメス(埼玉県)

斑紋型と無斑紋型のオスが同時にみられるケースも(埼玉県)

モリアオガエル観察のすすめ

これからの季節のおすすめとして、モリアオガエルが産卵にやってくる池に足を運んでみてはいかがでしょうか? 昼間は樹上で葉にくっついて休んでいたり、水中に潜っていたり、鳴き声が聴こえても見つけにくいカエルではありますが、日が暮れて、あたりが真っ暗になるとどこからともなく樹上に姿をあらわします。鳴き交わすオス、樹上の産卵に適した枝を目指し登っていくメス、そして運がよいと産卵シーンにも出会えるかもしれません。
おまけかもしれませんが、水中のイモリも観察ポイントです。残念ながら産卵期から外れる秋~早春にかけてはめったにその姿を見かけることはありません。いったいどこにいるのやら、というぐらい見事に姿を消してしまいます。
とにもかくにも5~7月がおすすめです。冷涼で、森林や湿地などの豊かな自然があるスポットには、自然観察をアシストするビジターセンターなどの施設がたくさんあります。観察会も行われていますので、ガイドブックやインターネットで探してみましょう。動画サイトなどで鳴き声を確認したら、いざフィールドです。くれぐれもツキノワグマやニホンマムシにはご注意を。

Author Profile

藤田 宏之

1969年生まれ,兵庫教育大学修士課程修了.民間企業勤務を経て,埼玉県立川の博物館学芸員.カエル・サンショウウオの保全生態学,外来種問題,地方自然史が専門.日本全国の両生類・爬虫類を求めて四季を問わずフィールドで活動している.

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