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植物

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12/7 2018

冬芽を10倍楽しむ観察のコツ!「冬芽ハンドブック」を使って識別に挑戦

冬。冬芽シーズンの到来だ。
 
冬芽(ふゆめ・とうが)とは、葉を落とした枝についているカプセル状のもののことを言う。冬芽を分解してみるとわかるが、中には小さく折りたたまれた葉や花の蕾が入っている。

コブシの冬芽

コブシの冬芽の断面

小さな葉をむき出しのままにして、冬を越そうとしても、寒さで凍りついたり、鳥や虫に食べられたりして、春を迎えることは困難だ。そうしたリスクを避けるため、樹木は厚い衣で葉や蕾を覆う、毛皮を着込むなどの対策をしている。その対策は長い進化の過程で獲得したもので、樹木の種類によってさまざまな方式があり、冬芽の形にもそれは表れている。逆に言えば、冬芽の形を調べることによって樹木の種類がわかるのだ。
 
すでに冬芽に興味を持ち、ある程度見方を覚えた樹木マニアにとっては、この時期は基本を復習し、新たな見方にチャレンジする絶好の機会である。
まずは基本の復習からはじめ、徐々にレベルを上げていこう。

基本その1
似たものをキチンと見わける

似た冬芽をなんとなく「これはこっちだ」などと見ていたら上達はおぼつかない。せっかく見るなら、どこがどう違うのか、人にも説明できるレベルを目指そうではないか。
 
たとえばこんな具合だ(拡大図は10倍程度のルーペで観察)。

ヤマグワとヒメコウゾの冬芽の比較

ヤマグワ:①芽鱗が3枚以上/②枝は無毛/③芽鱗も無毛
ヒメコウゾ:①芽鱗は2枚/②枝に微毛がある/③芽鱗にも微毛がある
 
観察すれば他にも違いが見えてくるだろうが、ここでは省略する。要は、実物を観察してどう違っているか、自分で見極めることが大切なのだ。
 
ウツギとマルバウツギ、ナツツバキとヒメシャラ、ムラサキシキブとヤブムラサキなど、似ている種について、自分なりの見方を確立させていくことが「コツ」のつかみ方につながる。自分ではなかなかわからない場合は図鑑類を参考にしてもよいが、頼り過ぎないこと。
また、違う点を1つ見つけて満足してはいけない。少なくとも3つ以上見つけるようにしよう。

基本その2
検索表の見方を覚える

読者の中には、冬芽ハンドブック(広沢毅/解説 林将之/写真)をお持ちの方もいると思うが、どのような使い方をしているのだろうか?
 
冬芽を見てこれは●●●と見当をつけ、あるいは誰かから○○○ですと聞いて、索引を引き該当ページをめくって確認する、という使い方が多いのではないだろうか?
 
しかし、これだと初めて見たものや教えてくれる人がいないとページに辿りつけないし、もし名前が違っていたら、また最初からやり直しである。
 
そうならないために、冬芽ハンドブックには「検索表」が収録されている。検索表とは、大分類 → 中分類 → 小分類 → 微細分類と分けていき、最終的に目的の「種(しゅ)」に辿り着けるように工夫された分類ガイドである。

「冬芽ハンドブック」に掲載されている検索表(p.2-3参照)

難しいように思うかもしれないが、この検索表ではトゲの有無から始まって、専門用語を極力使わないように作ってある。だんだん細分化され、最後は絵合わせで似ているものを探す、という構成なので、わかりやすいと思う。
 
検索表になれないうちは、いくつかの知っている種について「逆引き」をしてみるとよい。
 
逆引きとは、たとえば「ハナミズキ」という種を検索表の中で探し、そこから上へ上へと辿ってみることだ。そうすることによって、中分類ではこういうグループに入っているのか、その上はここから出発しているのか、ということがよく理解でき、検索表の構造が頭の中に入ってくる。
 
検索表の構造が理解できれば、上から下へという本来の目的に沿った使い方がスムーズに行えるようになる。ただし注意する点がある。「枝の太さ」だ。
枝の太さについては「太い」「中細」「細い」に分けているが、現実の樹木はそれほど単純ではない。検索表では「中細」のグループに入っていても、実際には「細い」こともある。それが現実であり、実際の樹木にはそうしたバラツキがあることを理解した上で、前後のグループにも目を通すことが重要なのだ。
 
次に、さらなる上を目指してチャレンジしてみよう。

チャレンジその1
知らない樹木に挑戦

フィールドを歩いていて、あれ?と思うような樹木に出会うことがある。下図のような枝と冬芽だったとする。さあ、検索表の出番だ。

まず、最初の表を見てみる。

①枝にトゲはない
↳②自立する木
 ↳③枝先は極太ではない
  ↳④冬芽は互生
「E」の図へ

⑤芽鱗が見える
 ↳⑥枝先は細い
  ↳⑦正面から見える芽鱗は4枚以下
「E-5」の図へ

Eの図:「冬芽ハンドブック」(p.5参照)

↳維管束痕は3個
図から、ヒメシャラは形が違う⇒却下
ヤナギ類は芽鱗が1枚⇒却下
ツノハシバミ、シラカンバ、ミズメ、カマツカ、イヌザクラ、ズミが候補として残る。
 
そこで、まずツノハシバミ・シラカンバ・ミズメが掲載されているページ(p.12,13)を見てみる。

「冬芽ハンドブック」(p.12-13参照)

ツノハシバミ・シラカンバ・ミズメをそれぞれ見て見ると、
•ツノハシバミは枝に毛がある→却下。
•シラカンバは維管束痕が不明瞭→却下。
ミズメは維管束痕が明瞭で似ている。
ミズメの説明文を読むと、「枝の切り口はサロメチール(サリチル酸メチル)の匂いがする」とあるので、匂いを嗅いでみる
確かに匂う→ミズメに決定!
 
という具合に検索表を辿っていけば、いままで知らなかった樹木の名前がわかる。
こうやって自力で名前がわかったときは本当にうれしい。そのうれしさが次に新しい樹木に挑戦しようというエネルギーになるのだ。

チャレンジその2
徹底的に観察して記録しよう

冬芽を観察しても、写真を撮ってそれでおしまい、ということがよくある。写真はすべてを写しているので、後でいくらでも調べられる…と考えるのは甘い。たとえば、冬芽は撮ったが、葉痕は写っていなくて後で「あっ・・・」ということもある。
 
そこでお勧めしたいのが「記録」である。
私は冬芽のスケッチと同時に記録を残している。ラフでも構わないので、スケッチするのが一番確実だが、スケッチなしでも記録はできる。

著者によるスケッチとメモ

[メモの一例]
コバノガマズミ 14.11.10、桧原村 対生、低木
枝:細い(1年枝は約1mm)、灰褐色、先端に果軸痕あり、仮頂芽(2個)、2年枝の先端に古い芽鱗が残る。皮目なし、稜なし
枝の毛:仮頂芽の下に短毛と星状毛あり。2年枝は無毛
仮頂芽:正面から見える芽鱗3枚、芽鱗に短毛と長毛あり、芽鱗の縁に長毛
側芽:小さい。毛は仮頂芽と同様
葉痕:灰褐色、半月~三日月形、維管束痕3個
 
この程度ならフィールドノートに書きこむことは難しくないだろう。なぜ記録が必要かというと、人間の目は意外と怠け者で見たつもりでも見ていないことが多い。そこで、要素ごとにキチンと見るよう目に強要?し、結果を残すわけである。
写真を撮るなら、記録したポイントが写るよう、構図や撮影枚数を決めればよい。このような記録を積み重ねていけば、あなたの観察力は一段とレベルアップすることだろう。人に教えるときにも、言葉で確実に伝えることができるようになる。
 
この記録と写真をデータベースに入力して、検索できるようにすれば、マイ冬芽図鑑が出来上がるのだが、そこまでは私もやっていない。どなたか作ってくれませんかね…。

チャレンジその3
離れたところから見て絞り込んでみよう

ベテランになると、いちいち冬芽を手にとって見なくても、近づいただけで名前を当てたり、ある程度絞り込むことを無意識的に行っている。
といっても、「霊感」のようなものが働いて、それで判る、なんてことがあるわけはない。冬芽以外の何かを見て頭の中であれかこれかを検討しているのだ。
 
 
まずは高木か低木かを見る。
高木なら互生か対生か…冬芽のつき方を見るのが確実だが、枝の出方でもわかる。次に樹皮、枝ぶり、枝の太さ、果実、残っている葉、冬芽の大きさ、トゲの有無などを見る。この木は、どうだろうか。

樹皮が比較的滑らかで縦の筋がある、枝は一箇所から放射状に出ている、互生、枝は鹿の角のように伸びでいる、などの特徴から、ミズキが第一候補として挙がる。
こういう見方から樹種を絞り込むためには、たくさんの樹木を見て特徴をつかんでおかなければならない。そして特徴を記録しておくことも忘れないようにしよう。ローマは一日にして成らず。ベテランへの道は一朝一夕には踏破できないのだ。
 
 
低木の場合も同じようなことだが、株立ちしているか、幹の色、冬芽の色などもポイントだ。

これはアブラチャンだが、株立ち、淡褐色の幹、細い枝から判別がつく。
離れて見分ける、あるいは絞り込むには経験が必要だが、ぜひがんばって欲しい。
 
じつは、私のノウハウを纏めようとしたことがあり、まだ未完成だが、こんな図鑑を作った。
http://inagiyasou1.la.coocan.jp/zukan/html/eng.html

「見分け方のポイント(手元で見られないとき)」を参考にして、自分で気がついたポイントがあったら、どんどん記録していこう。

おわりに

ネットで「この木は何ですか?」というお尋ねをよく見かける。
枝ぶりや葉は写っているのだが、似たものが何種類かある場合、冬芽がわかれば、ということが多い。
 
私は冬芽を通して樹木を覚えたので余計そんなふうに思うのかもしれないが、まだ冬芽の重要さが一般の方には伝わっていないのか、という気持ちになる。
少しでも冬芽の面白さ、冬芽で見わけたときの喜びを多くの方に広めていきたいと思う。
 
さあ、あなたも冬芽ワールドのもっと奥へ踏み込んでみませんか。

[本記事に登場した書籍]
冬芽ハンドブック(文一総合出版)
樹木図鑑は多々あれど、晩秋から冬、そして初春までの葉がない時期に使えるべんりで使える図鑑はないものか…。そんなとき、樹種によって様々な大きさ・色・形をした、枝につく休眠中の芽「冬芽」を手がかりに木の名前を調べよう! 身近な野生の樹木200種の美しい冬芽のスキャン画像を掲載した、初の冬芽図鑑です。

樹木の名前が知りたい場合は『冬芽ハンドブック』の写真を担当された林将之さんによる樹木鑑定サイト(このきなんのき)もとても参考になります。

Author Profile

広沢 毅

稲城野草散策の会世話役.専門は工学系だが,植物に興味を持ち独学で学んだ.植物をよく知るためスケッチを始める。最初は花を描いていたが,苦手だった樹木を克服するために冬芽のスケッチに移行.現在までに480種,約800枚の冬芽を描いた.それにより図鑑にはない冬芽観察のノウハウを蓄積できたと感じている.冬芽は奥が深いが,もっと判りやすく伝えてゆきたい.
著書に『冬芽ハンドブック』(林将之氏と共著)がある.

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