春が近づいてくると、日に日に花を見かける機会が増えます。
中でも節分の頃から賑やかになる梅の花は、まさに初春の風物詩。たくさんの梅の花を観るため、梅園に花見へ出かける方も少なくないのではないでしょうか?
ただ梅園を歩くだけでも楽しめますが、梅の基本的な種類がわかると、それだけで楽しさは倍増します。そこで今回は、日本梅の会会長で『ウメハンドブック』の著者、大坪孝之さん(以下、大坪先生)に梅の種類とお花見するときのポイントを教えてもらいました。
日本梅の会会長の大坪先生
梅園に行くと「一重・八重」「白い花・赤い花」など多種多様な梅を見ることができます。
花を鑑賞することが目的の“花ウメ”と果実の収穫が目的の“実ウメ”があることは、ご存知の方も多いと思いますが、では観賞用の梅(花ウメ)は日本にどれくらいあるのでしょうか?
「分けかたでいくらか差はありますが、確認されている花ウメでだいたい300品種くらい。まだ名前がついていないものをちゃんと調べたら、少なくとも400〜500品種はあるんじゃないでしょうか。」
「もともと花ウメは、昔の植木屋さんが自分で名前をつけていたのが基になっているので、鑑賞目的に品種が非常に細かく分かれています。ただ、一部の実ウメを除いて、果樹などのように品種登録されている訳じゃありません。だから、なかなか正確な数を把握するのは難しいんです。」
「花ウメの分類は時代によって紆余曲折があり、未だにコレと言う定義が固まっている訳ではありませんが、花や枝の特徴から3つの系統に分けるのが一般的になっています。」
その3つの系統(系)は以下の通り。まず、いわゆる梅の原種(Prunus mume)の特徴をもつ「野梅系」。加えて、木質部が赤くなる品種をまとめた「緋梅系」、梅とアンズ(Prunus armeniaca)両方の特徴をもつ「豊後系」です。
花ウメの大まかな分類(写真提供:亀田龍吉)
■野梅系(やばいけい)
多くの品種が属するグループで、さまざまな特徴をもつ品種がある。この系統に属する品種は若枝の陽光面が少し濃い色をしている。一方、陽が当たらない裏面は緑色。
※品種によって程度の差が大小ある
野梅系の若枝。陽が当たる面は日焼けしたような色合いになる
■緋梅系(ひばいけい)
枝の髄が赤いのが特徴で、そこを確認できれば判断は簡単。髄の色を確認できない場合、若枝が全体的に浅黒いのが見分けポイント。“緋梅”という名前がついているが、白花の品種も一部あるので、注意が必要(※白花でも枝の髄が赤ければ緋梅系に分類するため)。
梅の枝断面。髄が赤い左の枝が緋梅系(写真提供:亀田龍吉)
■豊後系(ぶんごけい)
遠目に見ても全体に枝が赤っぽく(特に若枝)、節がごつごつするのが特徴。また、アンズの血が混じっているため野梅系や緋梅系に比べると開花が遅い品種が多い。
豊後系の枝。若枝は全体が赤い色をしていて、太い枝は節がゴツゴツしている
「花ばかりに注目しがちですが、品種を見分けるときは枝など花以外の特徴も大切になってきます。」
「系統よりさらに細かい分類に「性(しょう)」という分けかたがありますが、性の分類は、はっきりしないものも多く、区別するのが難しいので、まずは基本の3系統を見分けるところから始めるのがいいと思います。」
「花見と言うとどうしてもサクラばかりが注目されますが、全体を観るサクラの花見と違って、ウメの花見は1つ1つの花を楽しむ良さがあります。“梅一輪”と言うようにじっくり見ると、色々な花を楽しむことができます。」
では、梅園などで梅を鑑賞するにあたって、おすすめの時期や見頃の目安などはあるのでしょうか?
「花見に行くなら、2,3分咲きと言われる頃が充実した花が多く、花も混み合っていないので、じっくりと花を見られます」「梅は冬に養分を蓄えていますが、最初に咲く花の方がたくさんの養分を使えるので充実した花になりやすいんです。」
「一般的に言われる“満開”は、ほぼすべての蕾が開いた時という感じだと思いますが、じつは、その頃だと1つ1つの花はもう終わりかけで、綺麗な花をあまり楽しめません。なにより、満開と言われる頃は、花見客も多く、じっくり観るのも一苦労です…」
「花の違いを理解するうえで大切なのは“花のステージ”、つまり咲き具合を揃えること。梅は咲き始めから咲き終わるまでに、花の形(開き具合)や色が変化する品種が多いので、品種を比較するときは、できるだけ咲き具合を揃えたいところです。」
開花具合の比較(表面):右に向かうほど新しい花。色がだんだんと薄くなっているのが見て取れる
開花具合の比較(裏面):右に向かうほど新しい花。裏面も時間の経過によって色が変わることがある
「写真を撮るときや品種の違いを比較するときの目安は、葯(おしべの先端)が、花全体で見て50%、少なくとも20〜30%は展開している状態がいいです。」
見頃より少しだけ早い状態。中央の葯がまだ開いていない
「せっかく写真を撮っても、咲き終わりの葯が古ぼけた花じゃ、もったいないです。なるべく、一輪一輪の花の状態を確かめながら、じっくり梅の花見を楽しんでもらいたいです」
梅のお花見にお出かけの際は、今回のポイントをもとに、じっくりとそれぞれの品種の違いに注目してみてはいかがでしょうか?
小田原フラワーガーデンや郷土の森博物館では、毎年、ウメの開花時期に合わせて大坪先生の園内ガイドが行われています。
大坪先生の著書『ウメハンドブック』。ポケットサイズで、梅園に出かける際など持ち運びに便利
ウメの品種が知りたい場合は、大坪先生が執筆された『ウメハンドブック』がオススメ。庭木や梅園で定番の120品種の花ウメのほか、詳しい見分けかたや梅の管理方法が収録されています。この一冊でウメの基本をバッチリ押さえることができます。
▼文一総合出版のHPからも購入可能です。
https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-8142-9/Default.aspx
Credit 取材協力:大坪孝之