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2/27 2019

コウモリはこんなに面白い! 意外と知られていない生態と観察法

洞窟の天井にぶら下がるオリイコキクガシラコウモリたち

日ごとに春めいてくるこの季節、虫たちが飛びまわるようになってくると、この虫たちを狙って、コウモリたちもまた飛びまわる季節がやってきます。
 
この記事では、我々の身近な場所に住んでいるにも関わらず、意外と知られていない「コウモリ」の生態と観察方法をご紹介します。

夕暮れになると飛びかうコウモリたち

4月頃になると、まだ薄明るい夕暮れの街中や川辺の空で、パタパタと不規則にひる返しながら飛びかうコウモリたち。
この姿は誰もが一度は家の近くで観たことがあるのではないでしょうか?

薄暗くなってから飛び出してきたアブラコウモリ

江戸時代、空を飛ぶコウモリの仲間は鳥類の仲間に分類されていました。しかし、ご存知の通り、コウモリはれっきとした夜行性の小型哺乳類の仲間です。
 
多くのコウモリは視覚に頼らず暗闇を飛び、人間の耳で聞き取ることがほとんどできないほどの超音波(エコーロケーション・コール)を発して、その反響してくる声を頼りに餌である「虫」の追跡や、周囲の環境を認識しています。
 
日本では昔から、家を守る動物が「ヤモリ」、井戸を守るのが「イモリ」と言われてきたように、川辺を守る動物は「かはもり→コウモリ」と伝えられてきたと考えられています。昔の人々はコウモリが虫を食べてくれることで、病気から人を守ってくれていると思っていたのかも知れませんね。

川の上を飛びながら虫を探すモモジロコウモリ

コウモリの仲間

現在、日本に生息する在来の哺乳類は100種類以上が知られ、外来種を含めれば130種類以上が生息していると言われます。コウモリはそのうち35種もの生息が確認されています(※研究者によって分類が異なります)
日本に生息するコウモリの大きさは、体重3~60gの小型のコウモリから、体重300~530gにもなる大型のコウモリが生息しています。
 
ちなみに、吸血コウモリとして知られるチスイコウモリの仲間は、南米に生息するナミチスイコウモリ、シロチスイコウモリ、ケアシチスイコウモリの3種類のみで、全世界に980種類近くいると言われるコウモリ類全体の、たった0.3%ほどにしかすぎません

コウモリの翼は手のひら?!

コウモリの翼は、じつは「手のひら」が進化したものです。指と指の間には油紙のように薄い皮膜(飛膜)が広がっています。またコウモリは、「飛翔」することのできる唯一の哺乳類でもあります。
※ムササビやモモンガも空を飛びますが、あれは飛翔ではなく「滑空」です。

アブラコウモリの翼(手)の構造

顔のかたちや耳のかたちなどが特徴的で、外見から種判別できるコウモリがいます。
例えば写真のニホンウサギコウモリは、その名前の通り、まるでウサギのような耳をしていますし、キクガシラコウモリは、鼻葉(びよう)と呼ばれるひだのような鼻が特徴的です。

ニホンウサギコウモリ

キクガシラコウモリ

ですが、じつはほとんどのコウモリは身体の各部位の長さを計測するなど、頭骨や歯のかたちを比較しなければ種判別がかなり困難なものばかりです。そのため、コウモリたちは生態だけでなく、生息確認が難しいために分布情報すら謎の多い生き物なのです。
 
暗闇を飛び、小さいうえに種判別まで難しいコウモリたち。そんな生態すらほとんど知られていない謎の多さに、コウモリの魅力を感じられますね。

コウモリを見てみたい!と思ったら?!「観察方法」

コウモリを観察するなら、まずは川原へ行ってみるといいでしょう。季節は春から秋までの夕方がベストです。コウモリが超音波を使って虫を探しながら飛んでいるはずです。川原へ行ったら、虫がよく飛んでいる街灯を探しておくと、そこへコウモリが飛んでくる可能性があります。

ガを追跡するコキクガシラコウモリ

街灯へやってきたユビナガコウモリ

虫がたくさん集まる街灯

コウモリの超音波は人間の耳では“ほとんど”聞こえません。ですが、耳のいい人や小学生ぐらいの年代の人では、コウモリが餌を追跡する瞬間のわずかな「ジジジ……」という鳴き声が聞こえるかも知れません。
 
コウモリを観察するための道具や図鑑もあります。
コウモリの超音波を人間の耳に聞こえる音(可聴音)へ変換できるバットディデクターという機械があります。また、『コウモリ識別ハンドブック』(文一総合出版)というコウモリだけの図鑑もあります。バットディデクターを手に入れたら、『コウモリ識別ハンドブック』に記載されているコウモリの超音波の領域(エコーロケーション・パルス)を調べてみて、ダイヤルを調整してみましょう。

バットディデクターとコウモリハンドブック

ットディデクターで録音したコウモリの音声は次のようなものです。


↑コキクガシラコウモリの音声
 

↑キクガシラコウモリの音声

機械を通して聴くと、まるで宇宙人の交信音のような声が!? まっ、宇宙人の声は聞いたことも、ましてや姿を見たこともありませんが!!
初めてバットディデクターでコウモリの声を聴いたときの感動は今でも覚えています。

案外知られていないコウモリのねぐら

•葉の中にいるコテングコウモリ
枯れて垂れ下がっている葉を見つけたら、その中でコウモリが休んでいるかも知れません。起こさないようにそっと観察してみましょう。

葉の中にいるコテングコウモリ

•建物の隙間にいるヒナコウモリ
山沿いにある建物の隙間にもコウモリが潜んでいるかも知れません。建物の隙間をよくよく覗いてみると、コウモリが休んでいることがあります。
 
春先の少し温かい昼間や秋ごろに、建物の隙間から「キーキー……」と金属音のような声が人間の耳でも聞こえたら、その周辺にコウモリがいるかも知れません。コウモリのねぐらの真下には、糞が散らばっていることがよくあります。
 
皆さんは写真のなかにヒナコウモリが写っているのが分かりますか?

建物の隙間に入り込んでいるヒナコウモリ

真下に散らばるヒナコウモリの糞

•洞窟にいるコウモリたち
コウモリと言えば、洞窟をイメージする人も多いのではないでしょうか?
コウモリは飛ぶための翼はもっていますが、歩くことは苦手です。筋肉のほとんどない後ろ脚は、ハンガーのように壁に引っかかって休憩することができます。ときどきこの細い脚で、「毛づくろい」することもあります。

洞窟のなかで昼間休んでいるキクガシラコウモリたち

洞窟のコウモリのコロニーの真下に堆積した糞塊(バット・グアノ)

洞窟に入らなくても、「洞窟にいるようなコウモリ」は観察することができます。春から秋にかけて山沿いにあるような、劣化によって亀裂があるコンクリートや手彫りの古いトンネルでは、コウモリが隙間に挟まるようにして昼間の休息に使っていることがあります。
 
ライトと双眼鏡を使って探していくと、トンネルの天井にひっそりとコウモリが休んでいます。コウモリが活動をはじめる夕方になるまでじっと待っていると、コンクリートの亀裂から徐々に顔を覗かして、夜空へ飛んでいくコウモリを観察することができます。

昼間トンネルの中にいたモモジロコウモリ

テングコウモリ

トンネルではなくても、道下にあるような水抜き穴にもコウモリが昼間休んでいることがあります。
写真の中の水抜き穴で、コウモリが休んでいるのが分かりますか?

水抜き穴で休んでいるキクガシラコウモリ

夜中だけやって来るコウモリたち

昼間はなにもいないトンネルですが、夜中にそっとコウモリを探しに行くと、夜の間だけ休みにやってくるコウモリと出会うこともあります。隈なく探すと、コンクリートの亀裂に休んだままのコウモリが見つかるときもあります。

夏場、トンネルで休んでいるモモジロコウモリを観察している様子

沖縄に行くとオオコウモリの仲間の、オリイオオコウモリに出会うこともできます。夜になると公園などの木に集まってきて餌を食べているのを見ることができます。
 
ちなみに、オオコウモリの仲間は小型のコウモリと違い、果物などの植物を食べ、超音波ではなく視覚を頼って飛んでいます。

オリイオオコウモリ

外国のコウモリたち

ボルネオ島にあるグヌン・ムル国立公園では、洞窟から飛び立つオヒキコウモリの群れを観察することができます。日没近くになると、洞口から途切れることなく飛び立つ様子が観られます。

洞窟から飛び立つオヒキコウモリの仲間

謎の多いコウモリですが、その気になれば、ご紹介したように色々な場所で観察することができます。
皆さんもぜひコウモリを探しに探検に行ってみてはどうでしょうか!

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Author Profile

松山 龍太

1988年生まれ。首都大学東京大学院の動物生態学研究室を修了後、富山大学の野生動物保全学研究室で1年ほど研究生として小型哺乳類の勉強を行い、現在は東京都檜原都民の森管理事務所に勤務。

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