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植物

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3/11 2019

東日本大震災と海岸の自然 ―海浜植物を保全するための取り組み

海浜植物からみた津波

東日本大震災から8年が経過しました。復興工事の進捗状況などは報道されますが、海辺の植物たちが、津波によってどのような影響を受け、その後どのように再生・変化してきたのかをご存知でしょうか?
 
東日本大震災津波のような自然界にも人間社会にも大きな影響を及ぼす大きな津波は、甚大な災害ではあるものの頻度が低い自然現象です。津波常襲地と呼ばれる三陸地方でも数十年に一度の頻度ですので、台風や洪水といった災害に比べると低いと言えるでしょう。
 
津波は、海辺に生活する海浜植物にとって生育環境が文字通り根こそぎなくなってしまうできごとであり、生育に大きな影響を与える場合があります。しかし、砂浜という環境は、そもそも常に変動している環境であり、海浜植物や海辺に暮らす生物たちにとって耐えられない自然現象ではなかったと考えられます。

被災当年のハマナス(野田村十府ヶ浦2011年8月)。地上部は津波で流失したが、地下茎から再生した

津波からの再生

その一例として岩手県釜石市鵜住居川河口の根浜海岸を紹介します。震災以前、この海岸は海水浴場として賑わう砂浜だったのですが、東日本大震災による津波や地盤沈降によって、ほとんどが消失してしまいました。しかし、その砂浜の一部の砂が100mほど内陸側の河川堤防に流れ着き、もととは異なる位置・形状で小規模な砂浜が再生しました。

河川堤防に流れ着いた砂浜(釜石市鵜住居2012年3月)

河川堤防に流れ着いた砂浜(釜石市鵜住居2013年3月)

すると、その新しくできた砂浜に海浜植物も再生してきました。運ばれた砂の中に、根茎や種子が混じっており、そこから再生したと考えられます。ほかの海岸でも、砂浜が残存しているところでは、海浜植物の再生が順調に進んでいることが観察されました。つまり、海浜植物にとっては砂浜という「場」がなければ、生育することができないことが理解できました。

河川堤防に流れ着いた砂浜の津波7年後(釜石市鵜住居2018年7月)

地震・津波・復興工事による影響

岩手県南部や宮城県北部の三陸地方では、地震による影響で数十cmも地盤沈降し、砂浜の幅が狭くなった場所が多く見られます。さらに津波の力によって砂浜の幅や面積が大きく減少した場所も見られました。このような場所では、海浜植物もあまり見られません。

海岸林跡が砂浜のようになった大船渡市吉浜(2011年7月)

また、復興工事によってより強固な防潮堤が構築されることになりました。三陸地方では防潮堤の高さが標高12mになるところもあります。今回の津波の被害を受けて、裾の広い防潮堤によってより強度を増すという考え方で構築されています。

宮古市金浜海岸の防潮堤(標高10.4m)砂浜は20mほど防潮堤へと変化した

砂浜を守るために防潮堤の位置を陸側に下げたところもありますが、ほとんどの防潮堤は同じ位置に再建されることになりました。そうすると砂浜の幅が減少してしまうことになります。さらに防潮堤工事は砂浜側から行うことも多く、震災後再生した海浜植物群落の生育場所が工事用地になり、生育面積が減少したケースもありました。

2011年の十府ヶ浦(7月)

2015年の十府ヶ浦(4月)

このように三陸地方における海浜植物は、生育基盤である砂浜が地震や津波によって減少することで影響を受け、残存した砂浜において再生した植生も、復興工事による人為的改変によって面積を大きく減らしているというのが現状です。

海浜植物の保全対策

岩手県では、復興工事に伴い影響を受ける砂浜のうち、いくつかの場所で海浜植物の保全を行っています。
どの場所も岩手県に理解いただいて、工事作業の中で取り組んでもらっているものです。おおよそ以下のような項目があります。①現地保全、②重機を使った根茎や種子を含んだ砂ごとの移植、③地元の種子による苗作り。以下で簡単に説明します。
 
①現地保全:工事用地の一部にもともとあった海浜植生をそのまま保存します。

海浜植生の現地保全区(十府ヶ浦2016年5月)

②砂ごとの移植:砂の表層30~40cm程度、重機を用いて掘り取り、工事用地以外の場所に仮移植しておきます。根茎や種子を含んでいるので、そこから海浜植物が再生してきます。工事は数年に及ぶため、仮移植先で芽吹き、花を咲かせます。工事終了後、仮移植した砂をもとの海岸に戻す方法です。多くの海浜植物にとっては有効な方法であることが確認できました。

重機による海浜植物の掘り取り(十府ヶ浦2015年1月)

砂浜近くに仮移植した1年後の様子(十府ヶ浦2016年5月)

③地元の種子による苗作り:①・②の保全対策の補助的な手法として、行っているものです。地元の小学校に呼びかけて、海浜植物のタネ蒔き、育苗、植栽といった作業を授業の一環として取り組んでもらっています(この取り組みの一部は、富士フイルム・グリーンファンドの助成を受けて実施)

海浜植物の種子集め(十府ヶ浦2015年10月)

小学校の授業での苗づくり(山田町船越小学校2016年6月)

小学校の授業での苗の植栽(陸前高田市広田小学校2017年10月)

はじめは手探りでしたが、このような手法を取ることで海浜植物の保全ができることが分かってきました。岩手県では海辺の工事の終了時期がようやく見えてきました。これから海辺への海浜植物の移植が本格化します。今後は海辺での定着状況などを確認していくことにしています。

南三陸町を中心にした住民参加型調査試み

植生学会では、「東日本大震災プロジェクト フェーズ2」というプロジェクトを行っています。このプロジェクトでは震災後の海浜植生保全に向けて、これまで得たデータの整理・公開や追跡調査、地域向けのセミナー・ワークショップの開催、小学生向け海浜植物授業の教材開発などを行うことにしております。

植生学会のプロジェクトの一環で行っている地域向けセミナー(南三陸町海のビジターセンター2019年3月)

この活動の一環として、2019年度から地域の方とともに海浜植物の分布を調べ、タネを集め、苗を作り、海浜近くに植栽する活動を始める予定です。まずは、海浜植物という普段は見逃している植物を、知ってもらえるきっかけ作りになればと思っています。

この活動をはじめ、広く海辺の植物に関する情報交換を行うために、以下のFacebookを開設する予定です。ぜひ多くの方にフォローいただければ幸いです。
 
とうほく海辺の植物研究会
https://www.facebook.com/TSPstudygroup
 
これらの研究・活動が海辺の原風景を回復させる一助となり、地域の方々の心のよりどころとなるような海辺の再生を目指してお手伝いができればと思っています。



【詳しく知りたい方へ】
東日本大震災による地震と津波が生物や環境にどのような影響を与えたのか、より詳しく知りたい方は筆者が編集された書籍『生態学が語る東日本大震災(日本生態学会東北地区会編)』がおすすめです。
文一総合出版HP:https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-7104-8/Default.aspx

Author Profile

島田 直明

岩手県立大学総合政策学部准教授。景観生態学、植生学が専門。里山の植物・植生の分布とヒトの関わり合いを研究しているが、震災後は砂浜の海浜植物の研究・活動を重点的に取り組んでいる。『生態学が語る東日本大震災(日本生態学会東北地区会編)の編集に関わる。

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