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植物

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6/24 2019

リンゴの芯はじつは果実。知っているとおもしろい花と果実の植物用語学

植物観察のときはもちろん、家で果物を食べるときにも、植物学用語を正確に知っていると、観察がより身近に、より一層楽しくなります。学術用語は、一般用語と違いはっきり定義されていて、あいまいさがなく、意味を正確に知っていれば、すべての人が共通して理解できます。植物学用語を知っていると、自分なりの発見があるかも知れません。今回は花と実を例に、世界が広がる植物学用語を紹介します。

まずはおさらい。花のつくりと名前の復習

はじめに、花のつくりを知っておきましょう。花は外側から萼片(がくへん)・花弁(かべん)・雄しべ雌しべからなり、それら全体を台(この台を花托=かたくといいます)の上に載せた構造になっています。ただし、1つの花にこれらのすべてがそろっていない場合も多くあります。花托には柄(花柄=かへいといいます)があり、その基部には苞葉(ほうよう:花の下の葉で、普通の葉と色・形・大きさが異なる葉のこと)があります。また、雌しべは柱頭(ちゅうとう)・花柱(かちゅう)・子房(しぼう)の3つの部分からなりますが、子房の中には受精後、種子になる胚珠(はいしゅ)があり、やがて子房は果実になります。

花の各部の名前

フヨウの子房の横断面(左)と縦断面(右)。白いつぶつぶが胚珠です。胚珠は受精後、種子になり、子房は果実になります。

私たちが食べるイチゴは、子房ではなく花托がふくらんだもの

イチゴの場合、花には雌しべがたくさんあり、それを全部載せるために花托は大きくなっています。実がなる際に花托はさらに大きくなり、赤くなります。私たちが食べている部分は、花托が大きくふくらんだものです。なお、果実になると花托は果托といいます。そして、食用部分の上にあるつぶつぶは、雌しべの子房が成長したもので、植物学的には種子ではなく、果実です。種子は果実の皮の内側にピタッとくっついた状態であります。このように果実の部分がごく薄く、種子にピタっとついている果実を痩果(そうか)といいます。なお、イチゴのように子房以外の部分が一緒に肥大した実を偽果(ぎか)といいます。野山に出かけたおり、ヘビイチゴの仲間やシロバナノヘビイチゴを見ることがあるでしょう。イチゴとまったく同じ構造をしています。なお、オヘビイチゴはヘビイチゴの仲間ではないので、イチゴのような実はなりません。

イチゴの実(左)と断面(中)と果実の拡大(右)。赤い食用部分は花托が発達したものです。緑の部分は萼(がく)と副萼(ふくがく)。1つ1つのつぶつぶが植物学上の果実(痩果)です。果実の先には雌しべの花柱が短く残っています。子房以外の部分が一緒に肥大した実を偽果といいます。

ヘビイチゴの花(左上)と中央部分の拡大(左下)とオヘビイチゴ(右)。5枚の花弁の内側に黄色の葯をもった雄しべが円形にたくさん並んでいます。中央の盛り上がった淡橙桃色の部分が花托で、それに雌しべがたくさん生えています。オヘビイチゴはヘビイチゴの仲間ではないので、イチゴのような実はなりません。

ブラックベリーの実の断面。ブラックベリーの果托は、イチゴの実ほどには発達しません。中央の白い部分が果托。また、イチゴの痩果と違い、ブラックベリーは果実1つ1つ小さいながらはっきりとした液果(液質または果肉質の果実)になっていて、それぞれの中に種子が入っているのがわかります。

リンゴを切ったときに捨てる芯は果実

リンゴの実(植物学上の果実ではなく、一般用語の実)を見る場合、まず子房と花托の位置関係を知る必要があります。花のつくりのところで述べたように、雌しべの子房が花托の上に載っている場合、上位子房(じょういしぼう)といいます。子房は受精後、中に種子を収める大切な部分ですから、これを保護するため子房を花托が包むようになっている植物があります。これを下位子房(かいしぼう)といいます。リンゴは下位子房で、受精後に実がなる場合、下位子房を包む花托がふくらみます。私たちが食べる部分は花托がふくらんだもので、イチゴと同じく偽果です。植物学的には、食べる際に切り落とす、中心部分のいわゆる(しん)が果実です。したがって、花のときに萼は花托の上についているので、リンゴの実の柄の反対側の先に萼の名残があるのです。ナシも実の全体の構造は同じですが、なぜかナシでは萼がすべて落ちてしまい、萼の落ちた痕(あと)が円形の線になって残ります。花に萼がある植物の場合、実になるときに萼は次の3つのタイプのどれかとなります。
 
①イチゴのように萼が実に生き生きと残る。
②リンゴのように萼が乾燥したり枯れた状態で残る。
③ナシのように萼の落ちた痕がある。
 
ただ、わかりにくい場合もあります。萼の落ちた痕が実の上側にあれば下位子房、下側にあれば上位子房です。イチゴは萼がそのままの状態で残っているのでよくわかります。

下位子房の模式図

スイセンの花(左)とカタクリの花(右)(花の中が見やすいように手前の3枚の花被片を除去してあります)。下位子房を有する植物の花では萼(花被片=かひへん)の下側に通常、少しふくらんだ部分があります。これが子房(下位子房)です。スイセンやタンポポなどの花で見られます。これに対し、ユリやカタクリなどでは子房は上位なので、萼(花被片)より上側に子房(上位子房)があります。カタクリの場合、子房は緑色の部分です。

リンゴの実の断面(左)と上部の拡大(右)。食用部分は花托がふくらんだもので、芯の部分が植物学上の果実です。イチゴ同様、リンゴの実は偽果です。右写真の三角板状のものが、萼が乾燥した状態で残ったもの。その下のひげ状のものが雄しべの名残です。

ナシの実の断面(左)と上部の拡大(右)。リンゴと同じく、食用部位は花托がふくらんだもので、芯が植物学上の果実。リンゴと違って萼はまったく残っておらず、落ちた痕が線状に残ります。

桃のタネ(核)には、果実と同じ場所に、縦に割れている部分がある

果実は一般に3層からなり、外層を外果皮(がいかひ)、中層を中果皮(ちゅうかひ)、内層を内果皮(ないかひ)といいます。モモの果実の場合、外側の毛が生えている皮が外果皮で、おいしい果肉部分が中果皮、中の硬く木質化した核の部分が内果皮です。核の中には俗に天神さまといわれる種子が入っています。このような核をもつ果実を核果(かくか)と言います。また、モモの場合、雌しべの心皮(しんぴ)*は1つです。1つの心皮からなる核果は縫合線(ほうごうせん)*がはっきりわかるものが多いです。モモでは実の表面に縦に半周する凹んだ線があり、これが縫合線です。
 
*心皮・縫合線:萼片(がくへん)や花弁(かべん)は葉が変形してできたものです。このように花を形成するため変形した葉を花葉(かよう)といいます。雌しべも花葉からできており、雌しべを形成する花葉を心皮といいます。1つの雌しべは、1つまたは複数の心皮でできています。通常、心皮が複数でできている場合、心皮の端どうしは互いにくっついて、1つの雌しべを形成します。心皮の端どうしがくっついた部分、言うなれば糊しろに当たる部分を縫合線といい、複数の心皮でできている果実では通常、同数の縫合線があります。1つの心皮でできている雌しべでは1つの心皮の端と端がついて、1つの縫合線となります。

モモの果実(左)とモモの果実の縦断面(右)。左の写真の半周する凹みの線が縫合線です。

モモの果実の横断面(左)とモモの核(右)。内果皮は核となっており、モモは核果であることがわかります。食用とする果肉部分は中果皮です。内果皮(核)にも明らかな縫合線があり、外果皮の縫合線と場所は一致します。

セイヨウミザクラの果実。モモほどにははっきりしませんが、さくらんぼ(セイヨウミザクラの果実)でも縫合線が何となくわかります。核果の核(内果皮)はどれもよく似ていて、縫合線はほぼ同じ感じです。

スナップエンドウの果実(左)と横断面(右)。マメ科の莢(さや:果実)は1つの心皮からできていることはなんとなく見当がつきます。左写真の中央にある豆のついている部分が縫合線です。右写真の上側が縫合線で、豆がついています。マメ科植物では果実(莢)の反対側にも縫合線のような線(これを外縫線といいます)があります。これは花葉の主脈に当たる部分です。豆が熟して、中の豆を飛ばすときに縫合線ともども裂開する部分です。なお、モモなどの実の核にもはっきりした外縫線があります。

パッと見は花びらのように見えるのに、じつは雄しべ!?

夏から秋にかけて、カンナの花をあちこちで見かけます。ぜひ花をじっくり見るようにしてください。花を外側から見ると、緑色の小さな萼片が3つあり、その内側に舟のような形の小さな花弁が3つあります。そのさらに内側から大きな花びら(花弁ではなく、一般用語の花びらです*)4枚と、それらよりはるかに小さい花びら1枚が出ています。この5枚の花びらこそ、カンナの雄しべなのです。ただ、大きな4枚には葯はなく、花粉(かふん)を出しません。このように雄性(ゆうせい)の生殖機能を失った雄しべを仮雄しべ(かりおしべ)といいます。小さい1枚の花びらの側面を見ると葯があり、ちゃんと花粉を出します。そして、花の中央に平たい棒状の雌しべが1つあります。これがカンナの花のつくりです。熱帯アメリカ原産のダンドクという植物がわが国でも温かい地方で植えられたり、野生化した状態で見られますが、これもほぼ花のつくりは同じです。
また、ミョウガはカンナの応用形として見るとわかりやすいでしょう。ミョウガの場合、5つの雄しべのうち1つだけが正規の雄しべで、雌しべを包むように筒状になり、下側に葯があります。残り4つが合体して1枚の大きな花びら(唇弁=しんべんといいます)になっています。
*一般には、虫や鳥に花の存在を知らせるためにある花葉などを花びらといいます。花弁の場合が多いのですが、萼片が花びらとなっているものも多く、カンナのように雄しべが花びらになっている場合もまれにあります。

カンナの花。大きな花弁状のもの4枚は仮雄しべ。それよりかなり小さく中央にある花弁状のものが正規の雄しべで、側面に葯があります。真ん中の棒状のものが雌しべです。

ミョウガの花。花の中から出ている筒状のものが正規の雄しべで、下側にある褐色の部分が葯です。雌しべはこの雄しべの筒の中にあり、柱頭だけが先から出ています。その下にあるスプーンの先の形をした、大きな花弁状の1枚は、4つの仮雄しべが合体してつくられたものです。

以上、主に果物を例に挙げて説明しました。野山の植物の実について学ぶ場合、まずは果物や果菜(カボチャ・ナス・オクラなど実を食べる野菜)を使って観察することをおすすめします。果物や果菜は比較的容易に手に入れることができ、調べたければ必要に応じて買ってくればよいので、手軽に使える素材です。また、果実や果菜は一般に大きく、見やすいというメリットもあります。学術用語のごく一部かも知れませんが、果実関連の用語を正確に定義を知り、はっきり理解できるようになるでしょうし、果実や果菜を見る楽しみも生まれるでしょう。そして、山野で見かける植物の実に応用ができることが多々あると思います。
 
さいごに、果物・果菜を使って観察するコツを紹介します。まず、観察する場合はもちろん、写真を撮るときも、すべての実を果柄(かへい:子房が果実になると、花柄は果柄と呼ばれるようになります)を下に向けた状態で見るようにします。すべての実を統一してこのように見ると比較しやすく、理解しやすくなります。また、写真を撮る際は、同じ果物・果菜を2つ用意し、写真を撮ります。まず、全体と部分部分を接写して撮ります。そして、1つは縦に切り、もう1つは横に切って、写真を撮ります。果実・果菜を味わいながら、植物学用語の定義を覚えることができ、植物のおもしろさや不思議を感じられることでしょう。ぜひ試してみてください。
 

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Author Profile

柴田 規夫

1941年、東京都生まれ。東京教育大学にて園芸学を専攻。種苗会社・緑化資材会社勤務後、現在はNHK文化センター・池袋コミュニティーカレッジなど数か所のカルチャースクールで植物観察などの講師。環境カウンセラー・緑花文化士・森林インストラクター。主な監修書として、『くらしに役立つ木の実図鑑』(PHP)、『野山で見かける山野草図鑑』(新星出版社)、『押し花花図鑑』(日本ヴォーグ社)など。執筆書は『植物なんでも事典』(文一総合出版)、『四季を楽しむ花図鑑』(新星出版社)ほか多数。

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