羽毛恐竜たちが続々と発見されたことで、「鳥は恐竜の子孫」という事実は周知の事実として広まりつつあるが、いきなり恐竜から今の形に進化した訳ではない。スズメやハトの形になるまでにどのような紆余曲折を経たのだろうか。鳥と恐竜の間にいた、今はもう見られない鳥類の姿を想像してみよう。
(以下、BIRDER2019年8月号特集「絶滅鳥類事典」より「鳥たちの障害物レース〜人類登場以前に消えた鳥たち」から一部抜粋。)
中生代から新生代の鳥類進化の概略図
鳥類の出現は今から約1億5000万年前といわれている。恐竜の中に羽毛をもつものが現れ、それが翼となり、やがて鳥へと進化していったらしい。だが、およそ6600万年前―それはティラノサウルスなどが生きていた白亜紀※1と呼ばれる時代のこと、地球に巨大隕石が衝突した。衝突による大爆発の威力はTNT火薬1億メガトン相当と推定され※2、大規模な火災が起きた。さらにその衝撃は大津波を引き起こし、地球規模の天変地異となり、恐竜を含む約70%の生物が絶滅したのである。
“鳥類は恐竜の生き残り”ともいわれるが、鳥類も無傷でこの絶滅事件を乗り越えたわけではなかった。鳥類は白亜紀にはかなり多様化していたことが化石記録から明らかになっており、当時は「エナンティオルニス類」と「真鳥類」という、今日我々が目にするものとは違うグループが栄えていたのだ。
エナンティオルニス類は白亜紀の鳥類の大部分を占めるグループで、南極を除く、すべての大陸から化石が発見されている。その多くは樹上性で、高度に発達した翼をもち、既に渡りを行っていたものもいたようだ。一方の真鳥類も多様で、中には飛ぶことをやめて潜水に特化したものも知られている。これだけ聞くと現在の鳥類と何ら変わらないように聞こえるが、嘴に歯をもつものも多く、魚や甲殻類など、それぞれの食性に応じてその歯を特殊化させていたようである。しかし、両者とも白亜紀末期の絶滅事件という巨大ハードルを乗り越えられず、恐竜たちと同じ時期に絶滅してしまったのだ。
では、現在の鳥類はどこから現れたのだろうか? 現生鳥類は「新鳥類」と呼ばれるグループに属し、真鳥類から派生したと考えられている。最古の新鳥類として、南極の白亜紀末期の地層からカモ目の化石が発見されており、現生種の分子構造に基づく研究からも、キジ目やカモ目はこの時期には既に出現していたと推定されている。つまり、新鳥類だけが白亜紀末期の絶滅事件を生き抜いたようなのだ。その理由は未だわかっておらず、研究者も頭を抱えている。だが、近年挙げられた興味深い仮説がある。
実は絶滅事件の直後、新生代初期の地層から見つかる初期の新鳥類は比較的脚(腿〜かかと)が長く、地上性であった可能性が高いというのだ。このことから、隕石衝突による大規模な火災が森林を焼き尽くし、エナンティオルニス類を含む樹上性の鳥類のすみかを奪ったのに対し、地上性の新鳥類はこの天変地異の中を生き延びることができたという説が提唱された。また、生態系の崩壊により、多くの生物は食物不足に陥って絶滅したといわれているが、焼け野原となった大地でも、種子は地中に残る傾向がある。このことから、歯をもたない種子食の鳥類がこの飢饉の中で有利だったとの見方もある。つまり、地上性の歯のない新鳥類が絶滅の危機を脱し、新生代での森林の回復に伴い、飛翔性のものが出現したというのだ。なるほど、越えられないハードルはくぐり抜ければよいのだ。しかし、絶滅した鳥類の中にも歯をもたないものがいたし、恐竜も地上で暮らしていたことを考えると疑問も残る。おそらく、生き残りの理由は1つではなく、複数の要因が含まれていた可能性が高い。理由はどうであれ、新鳥類は生き残った―つまりは現生鳥類の時代の幕開けである。
※1:地質年代の数え方には単位があり、中生代までは「紀」、新生代以降は「世」を使う。例えば現在は「新生代第四紀完新世(かんしんせい)」、恐竜が絶滅したのは「中生代白亜紀後期」となる
※2:TNT換算は爆発で放出されるエネルギーを表している。なお,広島に落とされた原子爆弾は同15キロトン、長崎は同22キロトンとされる
(以上BIRDER8月号より一部抜粋。執筆:青塚圭一)
この先も鳥類は熾烈な生き残りレースを続け、現在私たちが目にする鳥たちが生き残っていくのだが……この話の続きはBIRDER8月号でのお楽しみだ。
BIRDER2019年8月号の特集は「絶滅鳥類事典」! 美麗なイラストで紹介した「絶滅“巨大”鳥類図鑑」は必見だ。
表紙を飾るフォルスラコス類や、ティラノサウルスのミニチュアといわれるディアトリマといった恐鳥類、歯をもつ巨大ペリカンのペラゴルニス類、翼を開くと6mになる巨大コンドルのアルゲンタヴィス、ペンギンそっくりで日本からも化石が出土しているホッカイドルニス、体高が1mにおよぶフクロウのオルニメガロニクスなど、羽毛恐竜たちにも負けないロマンをもつ巨大鳥類たちをたっぷり紹介した。
また、これらの鳥たちに実際に会うための「絶滅鳥類“出会い方ガイド”」も掲載。大英自然史博物館,パリの自然史博物館で出会えるドードーやエピオルニスの模型や骨格標本、剥製などを紹介するほか、リョコウバトやオオウミガラスといった人間によって絶滅させられた鳥や、日本の絶滅鳥類なども網羅した「絶滅鳥類事典」となっている。
8月号のグラビアは夏の暑さを吹き飛ばす「南極・亜南極にくらすペンギンたち」。気持ちのよい青空を見上げるペンギンの群れや、野性でもどこかコミカルでかわいらしいアデリーペンギンなどの写真がぎっしり! 野鳥ファンはもちろん、ペンギンファンにもおすすめ。
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生き残れ! 鳥たちの障害物レース(文:青塚圭一)
絶滅した日本の鳥たち①(文:梶田 学)
1. カンムリツクシガモ
絶滅“巨大”鳥類図鑑(イラスト:川口 敏,かわさきしゅんいち,箕輪義隆)
絶滅した日本の鳥たち②(文:梶田 学)
2. リュウキュウカラスバト/3. オガサワラカラスバト
人類の欲望が滅ぼした鳥たち(文:柴田佳秀)
絶滅した日本の鳥たち③(文:梶田 学)
4. オガサワラガビチョウ/5. オガサワラマシコ
絶滅鳥類“出会い方ガイド”(文・写真:川口 敏)
Author Profile
青塚 圭一
東京大学大学院博士課程在籍。恐竜好きの幼少期を過ごすも、恐竜は鳥へと進化したという説に刺激を受けて化石鳥類の研究を始める。主に化石種の分類や生態復元に関する研究を行っている。本稿を執筆しながら、「僕が鳥類の研究をするのは様々な苦労や挫折を乗り越えてきた点にシンパシーを感じるからなのかもしれない!」と思った感受性豊かな男の子である。