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植物

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7/9 2019

タイムラプス動画で見る、モネが愛したバラの開花 〜バラの花が見せる意外な動き〜

印象派の画家クロード・モネも愛したバラ‘マーメイド’。その開花のようすを『野ばらハンドブック』の著者・御巫由紀さんと大作晃一さんに解説していただきます。

タイムラプス動画で見るバラの開花

植物といえばふつうあまり動かない印象ですが、じつは意外と動いています。動きがわかりやすそうな一重咲きの園芸品種のバラ、‘マーメイド’の開花をタイムラプス動画(※)にしてみました。
花が開くのは朝か昼か、1日で散ってしまうのか、2日もつなら夜は閉じるのか? それとも3日以上頑張るのか? 15秒間隔でインターバル撮影。1時間を4秒で再生しているので、つぼみが開いて花弁が散るまでの62時間が4分ほどの動画になっています。ごゆっくりご覧ください。
 

 
静止画はこちら→ https://buna.info/article/2825/

※タイムラプス動画とは、秒単位でインターバル撮影した写真を動画再生することで、ゆっくりした植物の動きも早送り動画のように楽しめます。最近のスマホやデジカメは、タイムラプス動画を撮影できるものが多くなってきました。

夜明けとともに開花

つぼみが動き始めたのは夜9時頃。7時間ほどかけてゆるゆると花弁がほどけ、夜明けとともに開花した。隣りどうしの花弁先端のハート形の凹みが、器用に組み合わさっているのが愛らしい。

2019年6月1日4:25 日の出。花が開く瞬間、隣りどうしの花弁先端の凹みが器用に組合わさっていることがわかる。花弁があと2枚まだ開いていないうちに1匹目のハナアブ(?)到来、以後、正午までたくさんのハナアブが頻繁に訪れ、花粉を集める。はじめふっくらと黄色かった葯が、どんどん茶色くなっていく。

2019年6月1日7:10 シャッターチャンス。 (撮影:大作晃一) 開いたばかりの花の葯(やく)はふっくらとしていて黄色いが、ハナアブ(?)が次々に訪れて花粉を持ち去り、葯はどんどん茶色くしぼんでいく。

正午には閉じ始める

花弁は波打つように動きながら反り返るが、早くも正午には閉じ始める。内側の花弁から順に閉じて夜8時、5枚のうち4枚は完全に閉じたが、あと1枚はほかの花弁が邪魔して閉じることができない。花弁を閉じるのが夜露や雨から柱頭と葯を守るためだとしたらこれでじゅうぶん目的は果たせているが、本当のところはどうなのだろう。

2019年6月1日20:00 花弁閉じ完了、右下の1枚は閉じなかった。(撮影:大作晃一)

再び開花

夜11時、再び花弁は動き始める。2日目も夜明けとともに開花。閉じる前に比べて、葯はかなり濃い焦茶色になっている。

2019年6月2日6:40 シャッターチャンス。 昨晩、花が閉じたときにはまだ淡かった葯の色が、開いたときには完全に褐色。(撮影:大作晃一)

1日目と同様に花弁は開いて、ぐっと反り返る。午後1時、反り返った花弁が再び閉じ始めるが、日が暮れても花弁全体がほぼ平らになるまで戻るのがやっと。
 
閉じないままで3日目の朝を迎えるのか?と思われたが、夜11時近くにいちばん内側の花弁が1枚だけ閉じた。
 
しばらくして再び開こうとした瞬間、その花弁は無理な動きに耐えきれなかったように、はずれて落ちた。

2019年6月2日23:48 花弁1枚目落下、1枚だけ閉じた左上の花弁が、再び開こうとしたが散った。 左右で新しいつぼみが開き始める。(撮影:大作晃一)

1枚、また1枚と花弁が落ち、夜があけて、最後の1枚が落ちた。‘マーメイド’の花は、2日間の命だった。

野ばら撮影のシャッターチャンス

5月のバラの時期になると、よく1日中バラ園で撮影して過ごします。特にここ数年は、『野ばらハンドブック』の撮影で足しげく通ってさまざまなバラの写真を撮りましたが、野ばらはどうがんばっても1日に2種類程度。あまりたくさんは撮影できないのが、悩みのタネです。
 
花弁が多い園芸品種のバラに比べて一重咲きの野ばらの花の寿命は短く、‘マーメイド’と同じくふつうは約2日。稀にもう少し長く咲くものもあります。しかし、撮影のシャッターチャンスは開花1日目、午前中のわずかな時間に限られます。咲いたばかりだと花弁が伸びきっていないし、かと言って油断しているとすぐに花弁は反り返る。雄しべの葯は時間とともに茶色くなって、新鮮さが失われてしまいます。撮影に最適な時間帯は、案外短いのです。
 
‘マーメイド’の動画で開花1日目の6時50分から、10分ごとに画像を切り出してみました。7時から花弁がいい状態になりますが、7時30分にはもう花弁の反り返りが気になってきます。たかが10分で、花の姿はどんどん変化していくことがわかります。撮影は本当にもたもたしていられないですね。

‘マーメイド’の花の変化(撮影:大作晃一)

‘マーメイド’というバラ

‘マーメイド’はイギリスのウィリアム・ポール&サン社が作った、淡黄色一重咲きのつるばらです。作出年は確かではありませんが、1917年に英国王立ばら会のゴールドメダルを受賞していますので、その頃作られたと考えられます。交配に用いられたのはカカヤンバラと、黄色い八重咲きのティーローズ(品種名は不明)。当時の雑誌『ガーデニング・イラストレイテッド』は‘マーメイド’を「極めて強健なつるばら。花は直径5インチ(12.7cm)を超える大輪で香りよく、優しいカナリア色の花弁に、金色の葯がよく映える」と讃えています。

‘マーメイド’の花の枝(撮影:大作晃一)

印象派の画家クロード・モネも‘マーメイド’が好きでした。晩年に暮らしたジヴェルニーの庭は睡蓮の池が有名ですが、モネの寝室の窓辺には‘マーメイド’が今も咲いています。遅咲きではありますが、花の美しさ、光沢のある黄緑色の葉の美しさ、秋までぽつぽつと繰り返し花をつけること、耐病性があることなどが好まれて、世界中で栽培されています。
 
交配の片親がカカヤンバラ(Rosa bracteata J.C.Wendl.)であることから、‘マーメイド’はハイブリッドブラクテアータ系統に分類されます。カカヤンバラは別名ヤエヤマノイバラ。日本の石垣島から台湾、中国南西部、南はフィリピンまで、つまり、世界の野ばらのうちでもっとも暖かい地域に自生しています。バラ属植物では珍しく、萼筒(がくとう)が苞(ほう)で覆われるのが特徴で、写真3右のつぼみの断面を見ると、苞が何枚も重なっているのがわかります。カカヤンバラの子どもの‘マーメイド’も、萼筒が苞で覆われています。雄しべの美しさも明るい葉の色も花期の長さも、すべてカカヤンバラ譲り。それまでバラの育種には用いられることがなかった野生種と交配することで、新しい遺伝資源の導入に成功した画期的な品種です。

カカヤンバラのつぼみ、花、実(撮影:大作晃一)

石垣島のカカヤンバラ

石垣島では島の北部の牛の放牧地で、カカヤンバラを見ることができます。刺を嫌って牛たちが食べ残すのです。こんもりとしたマウンド状に点々とカカヤンバラが群生しています。4月から秋まで連続的に花を咲かせ、葉は常緑です。本州等、寒い地域で栽培しても、寒さに備える習性がないためか、冬になって霜にあたるまでは葉を落としません。亜熱帯性の植物と言ってよいでしょう。

カカヤンバラの自生地(石垣島。撮影:御巫由紀)

カカヤンバラと石垣牛(石垣島。撮影:御巫由紀)

カカヤンバラを親として育種された園芸品種は‘マーメイド’のほかにもいくつかあり、比較的よく栽培されているのは‘マリア・レオニダ’(ルモイン, 1829)、‘ピンク・サプライズ’(レンズ, 1987)、‘ホワイト・サプライズ’(レンズ, 1987)等です。耐暑性品種の作出が期待されている今、カカヤンバラは遺伝資源として重要な野ばらです。いつか石垣島を訪れるチャンスがありましたら、ぜひ島の北部まで足を伸ばして、野に咲くカカヤンバラを探してみてください。ただそのときは牛たちを怒らせないように、くれぐれもご注意を。

タイムラプス撮影風景(佐倉草ぶえの丘バラ園バックヤード。撮影:大作晃一)

 
もっと野ばらについて知りたい方はこちら
『野ばらハンドブック』
日本の野外で見られる「野ばら」とその仲間のすべて、全34種類がわかるフィールド図鑑!

文一総合出版公式 野ばらハンドブック解説ページ

Author Profile

御巫 由紀

千葉県生まれ。千葉県立中央博物館主任上席研究員、農学博士。千葉大学大学院在学時からバラの野生種やオールドローズに魅せられる。世界バラ会連合ヘリテージローズ保存委員会前委員長、国際香りのばら新品種コンクール(国営越後丘陵公園)審査員、NPOバラ文化研究所理事等。著書に『魅惑のオールドローズ図鑑』(世界文化社)、『野ばらハンドブック』(文一総合出版)がある。

Author Profile

大作 晃一

1963年千葉県生まれ。生物写真家。東海大学理学部卒業。きのこや植物の写真を独自の方法で撮影、とくに白バックで撮影された花やきのこは美しく、一幅の絵画を髣髴させると、高い評価を博している。著書に『小学館の図鑑 NEO改訂版きのこ』(小学館)、『きのこの呼び名事典』(世界文化社)、『野ばらハンドブック』(文一総合出版)等多数。

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