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植物

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10/11 2019

『岐阜県植物誌』が100倍楽しめる! 岐阜県博物館特別展に行ってきた

2019年8月24日、『岐阜県植物誌』(文一総合出版/岐阜県植物調査会編著)がついに刊行された。

(A5判/上製/カラー口絵32ページ/本文936ページ/本体12,000円+税)
https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-8806-0/Default.aspx
 
この本、厚さ5cm、重さ2.8kgもある。70名の調査員が約20年をかけて、13万点もの植物標本を用いた調査研究によって完成した大作だ。
 
そもそも、植物誌とは、ある地域に見られる植物の総目録のこと。
 
『岐阜県植物誌』では、
・岐阜県の植物の総説
・種ごとの検索表
・掲載種の県内分布図
・代表的な植物の植物画
・貴重な植物のカラー写真
を掲載し、岐阜県だけでなく日本の植物の現状を知る上で基礎的な資料として、質の高い植物誌となっている。
その発刊を記念した特別展が、岐阜県博物館で2019年8月20日〜11月17日に開催されている。
http://www.gifu-kenpaku.jp/kikakuten/gihuwanihonnodomannaka/
 
8月20日には特別展開場式が挙行され、筆者も参列して特別展を見学してきたので、その様子をご紹介しよう。

岐阜県博物館正面入り口

岐阜県博物館は岐阜駅からバスと徒歩だと約1時間、自然あふれる岐阜県百年記念公園内にある人文・自然を扱う総合博物館だ。まず、とても立派な建物に圧倒され、期待が高まる。
http://www.gifu-kenpaku.jp/guide/access/

岐阜県博物館の皆さん

博物館に入って2階が特別展会場、広いフロアーに多数の展示物が並べられていて圧巻。
展示は「岐阜は日本のど真ん中 その理由は植物にアリ」、「ど真ん中 岐阜の植物」、「岐阜は日本のど真ん中を語った岐阜県植物誌とは」の全部で3章から構成されている。かなりのど真ん中おしだ。

第1章「岐阜は日本のど真ん中 その理由は植物にアリ」の展示

まず第1章では、なぜ岐阜が日本のど真ん中なのかが詳しく紹介されている。
 
日本の真ん中がどこかについては、一説によると全国30以上もの自治体が名乗りを上げており、それぞれ根拠があるようだ。今回の展示では、まず日本の「人口重心」が岐阜にあることから「日本の中心」である、とされている。
(人口重心とは、人口の1人1人が同じ重さを持つと仮定して、その地域内の人口が全体として平衡を保つことのできる点をいう。「総務省統計局HPより」)
 
たしかにこれはひとつの有力な根拠となるだろう。
しかし、それだけでなく「植物」という観点から見えてくるものがある。それが本展示の真骨頂となっている。

岐阜県の気候帯を色別したジオラマ

シオラマ展示でわかり易く紹介されていたが、岐阜県では太平洋側と日本海側の植物、西日本と東日本の植物がちょうど岐阜県内で分布の境になっている、あるいは重なり合うなどして、2359種という豊富な植物が見られるそうだ。

第2章「ど真ん中 岐阜の植物」の展示

第2章では具体的に岐阜にはどのような植物が生育しているのかが、多数の写真やレプリカ、標本で紹介されている。
 
ご存知の通り、乗鞍岳、焼岳、御嶽山、伊吹山、穂高岳、槍ヶ岳、白山など、岐阜県には百名山に数えられる高山が多くある。
そこにはミネウスユキソウ、イワベンケイ、コガネイチゴ、クロユリ、コマクサなど豊富な高山植物が生育し、日本固有の種も数多く見られる。
 
もちろん、岐阜では高山以外に「東海丘陵要素植物(とうかいきゅうりょうようそしょくぶつ)」と呼ばれる植物が分布しているのも大きな特徴だ。
 
「東海丘陵要素植物」とは、「伊勢湾を取り囲む地域で、鮮新世後半〜更新世(およそ350〜1万年前)に形成された丘陵、台地、段丘に広がる砂礫層が地表面に出ている地域に見られる特異な湿地を中心に分布している植物」(特別展図録より)とのこと。
 
代表的な種には、ミカワシオガマ、シラタマホシクサ、ハナノキ、シデコブシ、ヒトツバタゴ、ミカワバイケイソウなどがあり、それぞれ写真や標本、レプリカが展示されている。

まるで本当に生きているように見える東海丘陵要素植物のレプリカ

また、個人的に興味深かったのは、岐阜県のみに分布する固有種ミノシライトソウの展示だ。ミノシライトソウはシライトソウを基準変種とするユリ科の変種で、本州から九州の山地でときどき見かけるシライトソウと比べて小さく、細長い白色の花被片が明らかに短いように見える。個体数が少なく、絶滅が危惧される種だ。
 
両種類は生育環境が異なるため野外で一緒に見ることはまず不可能だが、今回の展示では見事なレプリカと標本のセットで対比できるように並べて展示されていて、違いが一目瞭然だった。
 
植物の室内展示は、生きている状態を表現しにくい点があるが、このようなリアルなレプリカで比べることができると理解が深まってありがたい。

ミノシライトソウ(左2株)とシライトソウ(右)のレプリカ

その他にも、「岐阜県を中心に分布する植物」や「岐阜県と隣接する県に分布する植物」、「岐阜の地名が名につく植物」など数多くの植物や、キノコなどの菌類も紹介されている。
 
そして、いよいよ第3章「岐阜は日本のど真ん中を語った岐阜県植物誌とは」では、この特別展展示内容の基本データとなった『岐阜県植物誌』が紹介されている。

今回の特別展を企画された岐阜県博物館学芸部の可児美紀さん

冒頭で述べたように、植物誌とは、ある地域に見られる植物の総目録のことだ。
歴史は古く、古代ギリシャの時代から薬草などの有用植物を紹介する目的などで作成されてきた。日本でも江戸時代には岐阜県大垣市出身の医者、飯沼慾斎(いいぬま・よくさい)が著した『草木図説』など、すぐれた植物誌が刊行された歴史がある。
 
現在では植物研究者を中心に都道府県や市町村単位でまとめられることが多く、その地域のすべての植物(ふつう栽培植物は除く)を科学的な研究に基づいた最新の分類方式で掲載している。
 
岐阜県ではこれまで市町村単位の植物誌は刊行されていたが、県としてまとめたものはなかった。つまり、『岐阜県植物誌』は記念すべき岐阜県初の植物誌なのだ。

『岐阜県植物誌』の実物展示

以上は展示のごく一部なので、ぜひ実際の展示をご覧になってみてほしい。
 
漠然と「植物」全体を紹介するのとは異なり、今回の展示のように岐阜県というフィルターを通して眺めたときに、植物の異なる姿が浮かび上がってきて興味深く感じられるだろう。私自身は2時間ぐらいじっくりと見学して、ひじょうに楽しむことができた。
 
以下は余談。

文一ハンドブックシリ-ズ発見! 会場に備え付けられていた。

博物館入口を入ってすぐ左にある売店の井上好章さん。先ほどの『岐阜県植物誌』も売っていました。

岐阜県植物誌
各種について和名、学名、解説、分布、県内分布図を記述し、属や種の検索表、精細な植物画も掲載。植物研究や環境調査など、多方面にわたる基礎データとして必須の文献。
→文一総合出版の商品紹介ページ

Author Profile

BuNa編集部

株式会社 文一総合出版の編集部員。生きもの、自然好きならではの目線で記事の発信をおこなっている。

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