2020年は干支でいうと子(ねずみ)年。干支に入るほど身近な存在のネズミですが、実は、リスもネズミの仲間だって知っていましたか? リスとネズミ、それぞれの暮らしと進化の歴史を紹介します。
(本記事は『リス・ネズミハンドブック』(飯島 正広・土屋 公幸 著)から、2015年時点の情報を引用・一部編集して構成しています)
世界には5,416種もの哺乳類が知られているが、そのうちの41%、2,277種がリス・ネズミの仲間(ネズミ目もしくは齧歯類)で、日本には外来種も含めると31種が知られている。
リス類:樹上生活をし、目が大きく、尾は毛で覆われている。寒帯〜 熱帯まで広く生息する。
エゾモモンガ(タイリクモモンガ)
ハムスター類:四肢と尾が短く、頬袋を持ち、歯は生涯伸び続ける。アメリカとマダガスカル以外では、中近東と中国の乾燥地帯に生息する。
クロハラハムスター
ハタネズミ類:夜行性で尾が短く、草食性。寒帯〜温帯地域に生息する。
エゾヤチネズミ
ネズミ類:夜行性で尾が長く、雑食性。寒帯〜熱帯と世界中に生息する。
アカネズミ
リス類は、森林を主な生活場処として分布を拡げたが、一部は木のない乾燥地帯や山地などにも適応して分布した。
ネズミの仲間は、世界中で人が生活をする環境のすべてに分布している。それらは住宅地、倉庫、田畑、原野や山林、乾燥した荒れ地や島嶼、高山にも生息している。
リスやネズミ類の特徴は、前足の親指を欠き、かぎ爪をもった小さな獣で、切歯(せっし:ヒトでいう前歯の部分。門歯ともいう)が上下顎に各1対あって無歯根で一生成長し続ける。その前面はエナメル質からなり、後側は少し柔らかな象牙質なため、物をかじると後側が早く磨り減って自然にノミ状になる。
リス・ネズミの歯には切歯と臼歯(きゅうし)があり、
・リス・ヤマネ類は上下顎に臼歯が4対
・ネズミ類は臼歯が3対
である。
なお、リス・ネズミ類は鳥獣保護法等の規制により、原則的に捕獲できないので注意が必要である(特定外来生物は駆除目的なら可能)。
リス・ネズミ類の歯(上顎左側)
種を識別するには、身体の各部位の長さを測る必要がある。近縁の種間では、頭胴長(とうどうちょう:全長-尾長=頭胴長)と尾長(びちょう:尾の付け根に物差しを当てたときの、そこから先端までの直線長)や後足長(かかとから指先までの直線長。爪は含めない)を比較すると判別しやすい。長さを測るときは、ステンレス製の物差しを使い、毛は含めない。
リス・ネズミ類は切歯に歯根(しこん:ヒトでいう歯ぐきの中の歯の根元部分)がなく、生涯伸び続ける。祖先は、リスによく似た姿態をもつ原始哺乳類の一群である多臼歯類(たきゅうしるい)で、1億6千万年前から樹上生活をしていた。しかし、6500万年前頃、リス類の祖先と考えられるプレシアダピスPresiadapisからリス類が現れたため、多臼歯類は絶滅した。
昼行性のリス類は樹上生活で分布を拡げ、一部は手足の間に皮膜を得て滑空する種類も現れた。地上に降りたリス類は、山地草原や荒地などにジリス、タルバガン、マーモットなどが分化した。
一方、5500万年前ころ、北アメリカで樹上生活をしていた原始ネズミ類のパラミスParamysが、地上生活を始めて夜行性になり、身体は小型になり地中にトンネルを掘って生活をするハムスター類が現れた。この仲間は、固い殻を持つ種子類を主食とするため臼歯も生涯伸び続け、世界中に分布を拡げた。
この仲間から、さらに進化して草食性になったハタネズミ・ヤチネズミ類が現れ、ハムスター類を駆逐しながら分布を拡げた。
その後、さらに進化したネズミ類が現れたが、アメリカ大陸やマダガスカル島は、すでに孤立した島になっていたため、そこには進出できなかった。このため、アメリカ大陸ではハムスター類が適応放散して進化し、ネズミ類と同じような環境にすむものは、ネズミ類に形態も近似したアメリカネズミ類となって繁栄している。
マダガスカル島でもハムスター類が適応放散して、独自のアシナガマウス類として繁栄している。しかし、ユーラシア大陸ではネズミ類の繁栄により、ハムスター類は中近東や中国地域の乾燥地帯で細々と生活をするようになった。
アカネズミ
日本を代表するネズミで日本固有種。全国に分布し、低山〜高山帯までの森林、畑、田、河川敷などさまざまな環境に生息する優占種。黒部川と天竜川を境界にして、東側には性染色体数2n=48、西側には2n=46の個体が分布する。夜行性で地上生活者。同じような場所にすみ、樹上生活をするヒメネズミとすみ分けている。多くの肉食動物の餌にもなり、生態系維持のための重要な位置を占める。捕まえても鳴かない。
生息環境:低地〜高山までの下草、特にササ類が密生しているところを嗜好する。
雑食で根茎部、種子、昆虫などを食べる。樹上生活が得意でなく、地表や倒木の上を駆け回る。
カヤネズミ
ユーラシア大陸に広く分布し、日本では本州中部以南〜九州に分布する。日本で一番小型のネズミ。体重は9〜16g、500円硬貨とほぼ同じ。水田、畑、休耕田、河川敷などの背丈の高い葉の多い草原、イネ科やカヤツリグサ科の繁茂した湿地に球形の巣をつくり、繁殖する。尾を巧みに操り、細い草を移動する。泳ぎも巧み。近年の耕地整理や護岸工事で生息域が減少している。
生息環境:ススキやチガヤを巣材として使うため、これらの植物が繁茂する場所に多い。
イネ科の種子や小昆虫を食べて暮らしている。家の中に入ることはなく、草原でひっそり暮らしている。冬は地下のトンネルで暮らす。
『リス・ネズミハンドブック』
日本に生息するリスとネズミ(齧歯類)のすべて、31種を掲載。身近にいながら見る機会の少ない彼らの姿を、豊富な写真で紹介します。野外で拾った骨で識別可能な頭骨写真や識別にべんりな検索表も充実。
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Author Profile
土屋 公幸
1941年生まれ。農学博士。元東京農業大学野生動物研究室教授。