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菌類・粘菌

fungi, Slime mold

  • 菌類・粘菌

2/3 2020

見方が変わる!美しいカビ宇宙写真のひみつ

まるで宇宙!?
カビを育て、宇宙に見立てた「カビ宇宙写真」を撮り続けるMark fujitaさん。カビの基礎知識とともに、今までのイメージとは違うカビの美しい写真とその魅力について語っていただきます。

カビ宇宙写真を撮る楽しさ

ごくごく身近に存在するカビたち。
極めて身近な隣人でもあるに関わらず、彼らのことはあまり見向きもされません
しかし、そんな彼らを視点を変えて写真を撮ってみると、その美しさ、面白さ、スケールの大きさ、それはまさに宇宙です。
筆者はそんなカビたちの写真を撮ることにはまり、「カビ宇宙写真」を撮影し続けています。今回は、みなさんにそのカビの魅力についてご紹介します。

まるで広大な宇宙の広がり……のようですが、あの「カビ」なのです。

今まさに星が爆発した神秘的な宇宙……!のように見える、美しいカビ。

カビってなに?

カビという生き物は、真菌類の中でも目に見える子実体(キノコ)を作らない菌糸(細い糸のような見た目)状の生き物の通称です。

身近な真菌類 キノコや酵母

意外かもしれませんが、食材であるキノコも真菌類です。実際にキノコを裂いてもらえればわかるのですが、キノコは菌糸の塊で出来ています。さらに、パンを膨らますために使われる酵母も真菌類なのです。
現在、発見されている菌類だけで12万種、将来的には150万とも1,000万種とも推定されていますしかし、その中でも培地(ばいち)で増やすことが可能な種類は、ごくごくわずか。
その培地の中でも色とりどりの多様な菌類がおり、菌類同士が関わり合い、成長の早い戦略をとるもの、遅いもの、攻防を繰り広げる菌もいれば、あまり関係なさそうな菌もいる。そんな菌たちの関わり合いで培地の模様がかわってゆく様子は美しく、神秘的です。
菌と菌が作る模様が毎回違い、1シャーレごとに一つの宇宙が毎回作られてゆく。それがカビ宇宙の魅力です。

菌糸がつくるさまざまな形

菌類の多様な生き方を支えるのが菌糸(きんし)という形です。ひとえに菌糸と言えどもさまざまな形があります。
 
動物の毛のような生え方から、植物の根っ子や枝ぶり、雷などを連想させるものもいます。
さらに周りのカビたちの関わり合いからその生え方も変わり、菌糸を見ているだけでも毎回違った感動があります。美しいだけではなく、機能的でいてシンプルで洗練されています。

カビを育てる楽しみ

カビを育てていて楽しみな瞬間は、最初に生えてきたカビたちを見る時。
今回はどの様なカビたちが生えているのか? 見るまでワクワクが止まりません。
 
研究などと違い特定のカビではなく、身近に存在しているカビたちを無作為に生やすので、毎回違う世界が現れます。生えたてのカビたちはまだ小さく、非常に可愛らしいです。その光景は透明な空に浮かぶ星たちのようです。この一つ一つの小さなカビたちが、我々と変わらない生命なのです。

 
さらに胞子(ほうし)の形成も、種によりさまざま。まるで花を思わせる形もあります。
自然の創り出す造形に圧倒されます。

これらが色々な形で組み合わされ、それぞれのシャーレ内に一つ一つの世界が作られてゆくのです。
それぞれ独立した惑星のように、別々の全く異なる光景が広がってゆきます。

普通のカビがおもしろい

常に撮りたいと思っているのは、なんの変哲もない普通のカビです。どこにでも存在し、実は身近でよく見ているはずのカビたち。
 
日常生活においてカビを発見する時、まず汚いといった嫌悪の感情が込み上げそれ以上の観察をする事はないと思います。それもそのはず、カビは食べ物を駄目にしたり、アレルギー原因物質になりえたり、病原性のもの、カビ毒などもありますので、その感情はその感情で正しいものだと思います。
 
しかし、嫌悪の感情で止まってしまっては勿体無いくらいの面白い生き物であり、美しい生き物なのです。それなので本来日常生活で見ているはずのカビたちのまた違った姿、汚いイメージを越えて本来の美しい姿、面白さを知っていただきたく普通のカビたちを主に撮っております。

カビ宇宙(培地)の作り方

培地の作り方はさまざまで、多様な菌類がおり、特定のごくごく条件の限られた環境でしか培養出来ない菌類もいます。むしろ、培養条件がわかっていない菌類がほとんど。中には一番搾りオリーブオイルでしか培養出来ない菌もいるくらいです。
 
今回は、その中でも一般的な培地の作り方を紹介します。
 
もっとも一般的なものは、ポテトデキストロース寒天培地、PDAと呼ばれるものです。
この方法では多様な種類の菌類が培養出来て、よく育ちますが、勢いよく育ちすぎるので、宇宙感は出ないかもしれません(それでも面白いのではあるのだけれど)。
 
作り方
1. 水1リットルに対し、皮をむいたジャガイモ200gを入れ20分間茹でる。
2. それをガーゼで濾過
3. 1リットルになるよう水を足し沸騰させ、それに寒天15gブドウ糖20gを混ぜて固めれば完成。
 
また、別の方法としてゼリー培地と呼ばれる作り方があります。作り方は単純に、沸騰した水1リットルにゼリー(ゼラチン)20gとブドウ糖20gを混ぜて固めれば完成。透明度が高く、クリアで美しいです。
しかし、よくゼリーが溶けてしまう上に、ゼリー自体がタンパク質なので、人にとってはリスクの高いもの(害を及ぼす可能性があるカビ)も生えてくるため注意が必要です。
 
他にも、寒天に日常にあるさまざまなものを混ぜて培養してみても面白いですよ。
きっと予期せぬ発見があるかも?
 
※カビを観察する際は、どのような培地にしても病気の原因になることもありますので、胞子を吸い込みすぎないようお気を付け下さい。

菌類はどこからくるのか

菌類の胞子は常に空気中にたくさん浮遊しています。菌糸もいたるところに存在し、採取自体はとても容易です。簡単な採取方法としては、空中落下菌測定法や希釈培養法があります。
 
・空中落下菌測定法
読んで字のごとく、培地を置き、そこに菌の胞子を落下してくるのを待つだけ。
 
場所を変えたり、培地を空気にさらす時間に変化を与え、条件を変え、生えてくる菌を観察してみるとおもしろいです。場所によって取れる菌に違いが出るかも?
それを応用し、シャーレを持ったままお散歩するのも楽しいです。ただし近所の人と鉢合わせする注意が必要。
 
・希釈培養法
この方法は、胞子を培地にくっつけて培養します。
まず、土など希釈したいものを水に溶かして混ぜ、その混ぜた水の中から10mgスポイトなどで少し水を吸い出し、その吸い出した水を別に用意した90mgの水に入れて混ぜます。さらにその水の中から10mgを吸い出し、別に用意した90mgの水に入れて混ぜる、を繰り返します。
 
希釈する回数を変えてみたり、希釈する水に葉っぱなど、その他色々なものを入れて希釈し、培養すれば、さまざまな菌たちに出会えるかもしれません。

身近なカビたち

・アスペルギルスの仲間
日本酒や、味噌、醤油などの精製に欠かせない、日本の国菌にも制定される日本麹菌(アスペルギルス・オリゼ)もふくまれるグループで、分生子(胞子を作る部分)がぼんぼりのような形状をするのが特徴です。

・ペニシリウムの仲間
何億人もの人々の命を救うこととなった初の抗生物質ペニシリンを精製するカビの仲間たち。
胞子が一方向に作られ、線状に分生子が作られるのが特徴です。

・トリコデルマの仲間
他の菌類の生育を妨げる物質を出し、きのこ栽培などに被害をもたらす。
しかし、よく見ると美しい。
胞子の形成が複数方向に向かって作られ、ススキの穂のような形状になるのが特徴です。

他にもさまざまなカビが現れるので、是非挑戦してみてください。

Author Profile

Mark fujita

または藤田雅博 主にカビ写真撮る人。第66回ニッコールフォトコンテスト 特選 ピクトリコ フォトコンテスト2017-2018 秀作 日本自然科学写真協会会員 日本菌学会会員
Twitterアカウント @Mark45310926

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