最近、「アーバンイノシシ」や「都心にハクビシン」のような哺乳類の出没が話題になっています。もともと彼らは街中はもちろん里山や身近な林にもすんでおり、ひっそりとその痕跡を残しているものです。
この記事では、哺乳類をフィールドサインが見つかりやすい場所と、「食べ跡」「生活痕」について、『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』著者の熊谷さとしさんに解説していただきます。(後編)
前編では、哺乳類のフィールドサイン(野外での痕跡)のうち「足跡」と「フン」について解説した。
しかしこれらのフィールドサイン、逆に「哺乳類の痕跡を見つけよう!」というときにはいったいどこを探したらいいのだろうか? 後編では、まずフィールドサインが見つかりやすい場所についてご紹介する。
① 御神木のある神社やお寺
ムササビやフクロウ、コウモリの暮らす樹洞が見つかるかもしれない。社殿の天井裏には、野生動物の出入り口があるかもしれないので、柱も見てみよう。住んでいれば、細かい爪痕がついているはずだ。上のほうだけ「ささくれ」がある場合はムササビ、下からある場合はテンなどが考えられる。
神社(左)とテンが出入りしている天井裏の穴(右)
② お墓やお稲荷様
お彼岸や初午の直後だと、キツネやタヌキ、アナグマ、ハクビシンがお供えモノを狙ってやってくることがある。
お稲荷さん
③ 登山道やハイキングコース・キャンプ場
人間の歩きやすい登山道は、動物にとっても歩きやすい道だ。シカやカモシカの足跡やフン、登山道の真ん中ではタヌキのためフンが見つかる。リスが松ぼっくりを食べた痕「通称・エビフライ」も拾えるだろう。
雑木林(左)とタヌキのためフン(右)
④ 畑・ビニールハウス・ゴミ捨て場・たい肥場
ゴミ捨て場やたい肥場の周辺には、アナグマやタヌキ、イノシシがやってくる。農家には困ったことだが、タヌキやアライグマが農作物を食べた痕もあるかもしれない。
たい肥場(左)と畑に残るタヌキの足跡(右)
⑤ 民家の物置・資材置き場
使われていない物置は、タヌキが巣穴に使っているかもしれない。古い家屋の周辺には、コウモリのフンが落ちていることがある。
物置(左)と周辺で見つけたコウモリのフン(右)
⑥ 田んぼのあぜ道・稲刈り直後の田んぼ
カエルやザリガニを捕まえにタヌキやアライグマがやってくるので、泥場を注意して見よう。
⑦ 河川敷の細かい砂の上や泥の上・ 街中のドブ川
橋の下の泥の上には、イタチの足跡がついているかもしれない(左)。河畔林にクルミの木がある場合、リスやアカネズミの食べ痕が見つかる。また、川原のススキやカヤの中には、カヤネズミの巣があるかもしれない(右)。
⑧ 近所の公園
野生動物の足跡が見つかる可能性は少ないが、鳥やイヌ、ネコの足跡が見つかるので、フィールドに出たときのトレーニングになる。
動物食の動物の場合は食痕が残りにくく、残した主に辿り着くのは難しい。でも、植物食の動物では、特徴的な食痕が残ることがあり、さらに植物の種類や部位がわかると、残した主を調べるときの重要な手がかりになる。
リスがまつぼっくりを食べた痕で、鱗片をむしって根元の種子をたべるため、エビフライのような形になる。
ムササビもリスと同じような食痕を残すが、木の下に鱗片がばらばらと落ちていたり、エビフライの途中が落ちていたらムササビかもしれない。ムササビは木の上で食べていて、落としても拾いに降りてこないからだ。
ムササビは葉っぱを二つ折りにして食べるため、V字の歯形や、丸く穴が開いているので誰にでもわかるフィールドサインになる。
神社の境内や参道に小枝が散らばっていて、枝の切り口が斜めにスパッと切れていれば、ムササビが冬芽を食べるために枝をかじった痕だ。
上を見上げれば、小枝が魚の骨のようになっているのがわかる。フィールドサインは足元だけを見るだけではないのだ。写真はムササビの食痕。
アカネズミがクルミを食べた跡(左)。左右から穴を空けるので特徴的な痕が残る。一方、リスは人間のように2つに割って、まるでお茶碗を重ねるように抱えて食べる(右)。
東屋や民家の鴨居に柿が置いてあったら、これはテンの仕業だ。知人が仕掛けカメラを置いていたら、テンが柿をくわえて柱を登る様子が写っていたそうだ。はたして後日、テンが思い出して食べに来るかどうかはわからない。
マヨネーズの空き容器やサンダル、カップ麺の容器が散らばっていたら、「だれだ?こんなところにゴミを捨てたのは」と人のせいにせず、じっくりと調べてみよう。誰が食べたのかはわからないが、タヌキやキツネ、アナグマの歯型が残っていることがある。
サンダルや靴が落ちている場合、これはキツネが子どもに運んできたおもちゃで、巣穴まで点々と落ちていることがある。
ノウサギの休み場。大きな石のあるほうがお尻側で、こちらを向く。背石の陣! 真田丸ならぬうさぎ丸。
日当たりのいい土手には、土を持ち上げた痕がたくさん見つかる。これを「モグラ塚」という。
塚と塚の間を掘ってみるとトンネルが続いているのがわかる。
森の中に直径3メートルほど下草が集まっていたら、これはイノシシの巣だ。地域によって落ち葉やササの葉など素材は違うが、私が観察している場所ではヒサカキの小枝を集めていた。
イノシシがミミズを捕るために掘った跡に雨が降って水がたまれば泥場になり、イノシシやシカのお風呂になる。これを「ヌタ場」と言い、泥浴びをして体についているダニを落とす。そしてその水たまりは、そのままヤマアカガエルの産卵場所になる。
イノシシが通った跡。5〜6頭の群れで行動しているので、嵐が過ぎた後のようだ。
段々になって樹皮がむかれている場合、これはムササビの巣材木だ。ムササビはスギやヒノキの樹皮を巣材(お布団)に使う。
【注意!!】
イノシシの巣やシカ・イノシシのヌタ場には、ダニがいるのでなるべく近づかないように。
哺乳類は、意外とわたしたちのすぐそばにたくさんの痕跡を残している。この記事で紹介した場所にちょっと気をとめてみて、ぜひフィールドサインを発見してほしい。
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Author Profile
熊谷 さとし
1954年、宮城県仙台市生まれ。日本野生動物観察指導員・自然保護運動図画工作執筆家。動物の専門学校、大学でメディア学の教鞭を取り、里山の動物観察会、講演会を開催するかたわら、30年間ニホンカワウソを追い続け、韓国、サハリン、カナダでフィールドワーク、現在は対馬で調査観察をしている。主な著書に『ニホンカワウソはつくづく運が悪かった!?』『身近に体験!日本の野生動物シリーズ』(偕成社)、『足跡学入門』(技術評論社)、『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』『飛べ!ムササビ』(文一総合出版)ほか多数。