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植物

Plant

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2/7 2020

冬に植物は凍らないの? 植物が寒さを生き延びるしくみ

冬、氷点下(気温が0度以下)になる地域では、植物はどうやって生きているのでしょうか? じつはより厳しい寒さの中では、植物の体内の一部は凍ってはいるのですが、その場合、どの部分に氷の結晶ができるかが生死を分けるポイントになります。
 
氷点下の世界を生き抜く、植物の驚きのメカニズムについてサイエンスライターの保谷彰彦さんが解説します。

霜のついたタンポポの葉。タンポポは冬の間、ロゼットを広げて過ごす。

凍る? 凍らない? 氷点下の植物たち

冬の霜がおりた朝、いろいろな植物の葉には氷がついている。例えば、タンポポは冬の間も葉を広げている。寒い朝、葉の表面に氷がつき、葉はしおれたようになり、色は濃い緑色をしている。そのまま黒ずんで枯れてしまうかと思えば、日が昇り表面の氷が溶けると、再び葉がシャキッとする。葉の色も緑色に戻る。実際にタンポポの一種であるセイヨウタンポポの葉は、-10〜-15℃もの寒さに耐えられることが、北海道で行われた研究から明らかにされている。

また、畑で育てているホウレンソウやコマツナ、ダイコンの葉なども同じように、朝に霜がついて、しんなりしていても、日中にはシャキッとしている。寒い冬を過ごす植物たちは、時には氷点下の気温の中で生きている。
いったい、どのようにして植物たちは氷点下の世界を生きているのだろうか? 氷点下の温度で、体内は凍るのだろうか? それとも、凍らないのだろうか?

ヒメオドリコソウの葉。霜がびっしりついていても元気に過ごす。

植物には「凍りにくくなる」しくみがある

最初に結論を書くと、植物は体内の一部分が凍ってしまうこともあるが、さまざまなしくみによって、細胞の内部が凍ってしまうことを防いでいる。
 
じつは、氷点下の冬を過ごす植物は、体内の凍結を回避したり、あるいは凍結しても生きられる能力をもっている。これを耐凍性(たいとうせい)という。意外に感じるかもしれないが、耐凍性をもつ植物でも、夏の低温には弱い。耐凍性を得るには冬支度が必要となるからだ。冬支度とは何だろうか?

植物の戦略① まずは冬支度 〜低温馴化

植物たちの冬支度は、秋から冬にかけて穏やかな低温にさらされることから始まる。具体的には、0℃以上の凍結しないほどの低温(2〜4℃)や日長の変化などを感じとると、細胞内に糖類やアミノ酸、タンパク質などが蓄えられる。
 
それだけでなく、細胞膜の成分が変化することも知られている。細胞膜はリン脂質や膜タンパク質といった成分でできているが、それらの種類や組成が、より凍結の悪影響を受けにくいものへと変わる。これらの冬支度のことを低温馴化(ていおんじゅんか)といい、低温馴化によって耐凍性を得た冬季の植物細胞は、夏季の細胞と比べて状態が異なっている。このようにして、冬の前に氷点下への準備が整うのだ。

植物の戦略② 内部は凍らせない

気温が氷点下になると、植物の体内はしだいに凍結していく。冬の寒さの中で生きている植物は、体内に40%以上の水分を含むといわれる。そのため冬支度なしに氷点下にさらされると、細胞内が凍ってしまい、細胞は死んでしまう。
 
ところが、先ほど述べたように低温馴化を経た冬の細胞には糖類やアミノ酸などが蓄えられているため、細胞の内部が凍りにくくなっている。というのも、糖などがたくさん溶けているほど、水は凍りにくくなる性質があるのだ。そのいい例がホウレンソウで、冬に葉を広げるホウレンソウは甘くて美味しくなる。これは細胞の中に糖類などを蓄えているからで、ホウレンソウが低温を耐え抜くのに役立っていると考えられる。
 
ところで、細胞が凍ると何が起こるのだろうか?
細胞の中には生命を維持するのに必要な、細胞膜や核、葉緑体、ミトコンドリア、液胞などのさまざまな構造物がある。細胞内に氷の結晶ができ凍ってしまうと、それらの構造物が壊されて、細胞は致命的なダメージを負う。特に危険なのは細胞膜が傷つくことで、細胞の内容物がもれ出てしまう。こうなると、細胞は回復できなくなり、その細胞は死んでしまう。

植物の戦略③ 凍らせるのは外側 〜細胞外凍結

では、細胞内が凍らないようにするために、他にどのようなしくみがあるのだろうか?
 
それが細胞外凍結という現象だ。氷点下の温度がさらに下がると、体内の水分が凍り始める。そのとき、最初に氷の結晶ができるのが、細胞間のすき間や、あるいは細胞壁である。驚いたことに、植物細胞の外側に氷の結晶ができるのだ。(植物細胞には細胞膜の外側に細胞壁がある。これは動物細胞との大きな違いだ。このため、植物では隣り合う細胞どうしは細胞壁で接しており、その細胞壁と細胞壁の間にすき間があり水分などが含まれている)
 
この現象は、低温馴化により細胞の中に糖類やアミノ酸など様々な物質が溶けていることとも関係している。というのも、水分中の糖類などの濃度は細胞内では高くなり、細胞外では低くなっている。すると、物質の濃度の低い細胞外の水分のほうが先に凍りやすくなるというわけだ。
 
細胞外に氷ができると、周囲の水が引きよせられて、氷の結晶は次第に大きくなっていく。氷の周りの水は、氷に引きよせられていく性質があるのだ。やがて細胞内の水も、細胞外にできた氷の結晶へと移動していく。そして、細胞内は脱水状態となるので、ますます凍りにくくなる。こうして、細胞外凍結が起こる。

細胞外凍結した植物の細胞。細胞が脱水状態となり、細胞全体が縮まる。参考資料4を改変。

植物の戦略④ 大切な花芽を守る 〜器官外凍結

バラ科やツツジ科の植物の冬芽には、氷点下を耐える別の仕組みがある。これらの植物の冬芽には、内部に花芽(かが:花のつぼみとなる部分)があり、その花芽は鱗片葉(りんぺんよう)という特別な葉に包まれている。氷点下になると、この鱗片葉や、花芽の付け根部分に氷の結晶ができる。すると、花芽に含まれる水分が、その氷の結晶へ引き寄せられ、花芽の細胞は脱水状態になるのだ。こうして氷点下でも、冬芽の中にある花芽自体は凍結しにくくなる。これを器官外凍結(きかんがいとうけつ)という。

サンシュユの冬芽。器官外凍結することが報告されている。冬芽から花が咲こうとしている。

植物の戦略⑤ 雪のかまくら効果

厳冬期、地表面近くに葉を広げる草などは雪に守られることがある。雪は冷たいが、雪におおわれた地面の温度は、0℃より下がらない。雪で作るかまくらの中が寒くないのと同じだ。つまり雪におおわれた植物は、氷点下にならずに過ごせるというわけだ。いわば、雪のかまくら効果とでもいうようなイメージだろうか。

植物の戦略⑥ 種子で越冬

もう一つ、植物の越冬で忘れてはいけないのが種子だ。種子の中にには乾燥に耐えられるタイプのものがある。そういった種子では、内部に凍結するような水分がほとんど含まれていない。そのため、かなりの低温でも生きられることがわかっている。
 
 氷点下の世界を生きる植物にとって、凍結は大敵である。何より危険なのは細胞内が凍結すること。それを避ける主な仕組みを紹介してきた。植物たちの越冬にはいろいろな戦略があり、深くて面白いヒミツがたくさん隠されている。
 
 
主な参考資料
(1) 酒井昭(2003)『植物の耐寒戦略』(北海道大学図書刊行会)
(2) 酒井昭(1995)『植物の分布と環境適応』(朝倉書店)
(3) 上村松生(2014)「植物の低温馴化および凍結耐性メカニズムに関する基礎研究」(『低温生物工学会誌』vol.60, p1-8.)
(4) 今井亮三(2004)「植物の低温馴化の分子機構」(『植物化学調節学会誌』vol.39, p174-188.)
 
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Author Profile

保谷 彰彦

東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。サイエンスライター。専門はタンポポの進化や生態。農業環境技術研究所、国立科学博物館植物研究部でのタンポポ研究を経て、企画と執筆の「たんぽぽ工房」を設立。現在、文筆業の他に大学で生物学の講義などもしている。著書に『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。新刊『有毒!注意!危険植物大図鑑』(あかね書房)発売中。
http://www.hoyatanpopo.com

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