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魚・甲殻類・貝類

Fishes, Crustacea, Shellfish

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2/28 2020

海の生物を美しく撮影する方法

Twitter上でたくさんの美しい生物の写真を発表しているゆうじ(@sea_slug_0509)さん。色鮮やかな海の生物撮影のコツは…なんと「白いお皿」だった!? 海の生物を見つける醍醐味と、生物を写真におさめるコツを解説していただきました!

沖縄本島に旅行した際、潮が引いた磯のタイドプールで観察した色々な生き物

磯にいる生きものを見つける楽しさ

大潮の日に磯のタイドプール(干潮のときに岩などのくぼみに海水がたまる場所)を覗くと、いろいろな生き物が見つかります。一見何もいないような小さな潮溜まりに転がる石を動かしてみると、小さなカニやエビ、たくさんの種類の小魚や美しいウミウシ、得体の知れないゴカイのようなウネウネとして生き物など、驚くほどさまざまな生き物が簡単に見つかります。
 
さらに一歩踏み出してシュノーケルを付けて少し海に潜れば、そこにはさらに見たこともないようなたくさんの生き物がいることでしょう。私の最近の趣味は海で生き物を探し、見つけた生き物を一匹一匹図鑑風の白バック(白背景)写真で撮影することですが、その魅力をご紹介させていただければと思います。

図鑑風の写真が撮れる、白バック撮影

私は海で生き物を採集したら白バック撮影という手法で撮影しています。見つけた生き物を白い背景の上に乗せて撮影することで背景を白抜きし、図鑑のように生き物だけが目立つようにして撮影した写真のことを便宜上白バック写真と呼んでいます。

2019年に高知県の磯で観察したウミウシやヒラムシ、貝類などの軟体動物をまとめた図鑑風の画像

2019年に高知県の磯で観察した甲殻類(エビやカニの仲間)をまとめた図鑑風の画像

子供の頃から生き物の図鑑が大好きで、事あるごとに親にねだってはたくさん集めていましたが、きちんと条件を整えることで自分でもこの図鑑風の写真が撮れるようになりました。私の写真はあくまで趣味のためプロが製作した図鑑とはクオリティの差はありますが、子供の頃に読み込んだ憧れの図鑑のような写真が自分でも撮れるのが面白く、まるで見つけた生き物を一種類ごとに写真としてコレクションしていけるようで、最近では大潮のたびに海に生き物を探しに出かけては見つけた生き物をこの手法で撮影するのを楽しみにしています。

まず、生きものを採集

磯の生き物の採集に必要な道具は色々ありますが、基本的には小さな手網が一つと採った生き物入れるためのケースがあれば十分です。
 
採集する場所は砂浜や漁港になっている場所よりもゴツゴツした岩が露出していたり、遠浅で潮が引いた際にタイドプール(潮溜まり)ができるような場所の方がたくさんの生き物が見つかります。インターネットで情報を検索したり、衛星写真で海岸線を眺めたりしながら週末に出かけるポイントを探すのも楽しいものです。

高知県西部地域に広がる美しいサンゴ礁の海。磯にゴロゴロと岩が転がっており、ひっくり返すとたくさんの生き物が隠れている

私の住んでいる高知県や和歌山県の南部、伊豆半島周辺など太平洋側の黒潮の影響を受ける地域は場所によってはサンゴ礁が大きく発達し、そういった箇所も生き物探しには面白い場所です。「○○県 シュノーケリングスポット」「○○県 磯遊び」などで検索すると良いかもしれません。
 
小さな生き物を効率良く見つけるためには生き物と同じ目線になることが重要なため、ウェットスーツにシュノーケルと足ひれを付けて海に潜って生き物を探すこともあります。

海の生きもの撮影のコツ

採集した生き物は小分けケースに入れ、クーラーボックス内にエアーポンプを使用して入れておくと弱ってしまうことがありません。ある程度生き物の採集にケリがついたらその場で撮影を始めます。
 
写真の撮影は、デジタル一眼レフカメラにマクロレンズをつけて白バック写真を撮影しています。生き物の採集のためにシュノーケルを付けて海に潜ることはありますが、撮影自体は陸上で行うため水中撮影用のハウジング等の特別な機材や装備は必要ありません。私が特に重要視していること以下の3つです。
 
1. 背景には白いお皿を使う
 
2. 外部ストロボとディフューザーを使用する
 
3. 画像編集ソフトで最終的な仕上げをする
 
この3つについて、以下に詳しく説明していきます。

1.背景には白いお皿を使う

白バック写真のキモとも言える白い背景には、白いお皿を使用しています。白いお皿に海水と採集した生き物を生かしたまま入れ、そこにストロボの光を強めに当てて撮影することで生き物以外の余計な情報を一切入れないようにしています。
 
また、ボール状の白いお皿はレフ板のように光を反射し、被写体全体に光が均一に回ります。使用するお皿はある程度の海水が入る深さの真っ白なボール状のお皿なら使用できますが、マクロレンズで拡大して撮影した際、一般的な陶器製のお皿だと表面の釉薬の粗が目立ってしまうため、強化ガラス製のものが最もおすすめです(製パン会社のキャンペーンで貰える白いお皿が非常に都合が良いため使用しています)。

白いお皿の中に海水と採集した生き物を入れた様子(入っているのはカニとウミウシの仲間)

上の画像の生き物を実際に撮影し、編集するとこのようになります

水を張ったお皿の中で採集した生き物は当然自由に動き回ってしまうため撮影しづらいですが、標本写真とも生態写真とも違う、生きたままの自然な姿を図鑑風に撮影できるのが最大の魅力です。

高知西部で採集したメガネゴンベ。魚はこのように真横から撮影した方が本来の姿が伝わりやすい

また、魚などは真上からの撮影するよりも横から撮った方が生き生きとした本来の姿が分かりやすいため、白いお皿に薄いガラス板を耐水性ボンドで貼り付け、簡単な水槽状にしたものを使用しています。よくあるお魚観察ケース状のものでも良いのですが、素材が通常のアクリル板だと表面に傷がつきやすく、撮影した際に傷が写り込んでしまう欠点があります。

お皿にガラス板を貼り付けて作った手作りの撮影台

海水と生き物を入れた様子

撮影用で使用する白いお皿や生き物の汚れ取りに使う歯ブラシ、お皿を立てかける本立て、水滴を拭くためのティッシュなど

2.外部ストロボとディフューザーを使用する

私が使用している撮影機材はCANONのデジタル一眼レフカメラ(EOS 7D)と中望遠マクロレンズ(EF100mm F2.8Lマクロ IS USM)になりますが、特に機材やメーカーへのこだわりはありません。また必ずしも一眼レフカメラである必要もありませんのでコンパクトデジカメでも撮影できると思います。
 
ただしカメラ本体の内蔵ストロボは使用せず、外付けの外部ストロボを使用することが重要です。内蔵ストロボは発光量が小さいことに加え、マクロ撮影の場合、被写体との距離が極端に近いためカメラやレンズが陰になってしまい、うまく被写体全体に光が届きません。私はツインタイプのストロボをフレキシブルアームの先端に付けて使用しています。こうすることで被写体と発光面との距離を自由に調整することができます。ストロボの光を直接被写体に当ててしまうと反射でギラギラとしてしまい、被写体本来の色や質感が再現できません。
 
そのため光を柔らかく拡散するためにディフューザーの使用が必須になります。このディフューザーの存在が非常に重要で、カメラやレンズ、ストロボなどはある意味既製品を使用するだけなのでそれほど工夫の余地はありませんが、このディフューザーは既製品もあるものの自作のものを使用している方も多く、それぞれ工夫があって面白いものです。
私もプラスチックや布、紙コップなど様々な素材や形状のものを使用してみましたが、個人的には一番気に入っているのが厚めのトレーシングペーパーを使用して自作したものです。トレーシングペーパーを切ったり重ねたりし、好みの形状に変形したものを使用していますが、これも一枚では十分ではなく、組み合した複数枚を距離を離して使用するようにしています。

使用しているカメラやストロボなど。白い紙のようなものがトレーシングペーパーで自作したディフューザー

実際に撮影している時の様子

3.画像編集ソフトで最終的な仕上げをする

海で生き物を採集したら白いお皿に適度な量の海水と目当ての生き物を入れ、そこにディフューザーを噛ましたストロボの光を当てて、シャッターを切れば撮影は終了です。アングルを変えて撮ったり、別のポージングで撮ったりと1個体の撮影に多いときは数十枚撮影することもあります。撮影後、採集した生き物は私は飼育することも研究用に標本にすることもしないためなるべく元いた場所に戻すようにしています。
 
一度採集に行くと500枚くらいの写真を撮りますが、自宅に帰ったらこれらの撮影した写真を画像編集ソフトで編集して最終的に白バック写真が完成します。私はAdobe社製のPhotoshopを使用して画像編集していますが、一定の機能があれば特定のソフトにこだわる必要はありません。
 
色調補正機能の一つであるトーンカーブの補正項目の一つに「白色点を設定」がありますが、この機能を使用すると指定箇所を完全な白にし、それに基づいて周囲の色調の帳尻を合わせてくれるため特に複雑な操作をすることもなく、ワンクリックで一気に補正が可能です。週末に撮りためた大量の画像を少しずつ整理したり、画像編集するのが平日の夜の日課であり、楽しみになっています。

どうして海の生物を撮影するのか

左写真:小学生の頃、カブトムシを捕まえた私。右写真:大学院生の頃、ジャングルでテナガコガネを捕まえた私

私は物心ついた時からとにかく昆虫が大好きで、これまで30年近くひたすら昆虫採集をしてきました。大学でも昆虫の研究を専攻し、東南アジアのジャングルやアフリカのサバンナにも昆虫採集に行きました。
にも関わらず、子供の頃から不思議と海に行った記憶はほとんどなく、海に住む生き物というのは私にとっては全く未知の存在でした。目の前にいくらでも広がっているなんでもない海が、私にとってはジャングルやサバンナにも匹敵するフロンティアのように感じました。保育園に入る前から空き地の石の下をひっくり返してはまだ見ぬ虫をひたすら探していましたが、大人になった今は海底の転石をひっくり返しては生き物を探しているので不思議な感じがします。
 
親や妻は呆れていますが、楽しいのだから仕方がありません。私は現在高知県在住ですが、高知県の海は本当に豊かで、荒々しい磯や美しい砂浜、小さな生き物の揺り籠のような干潟や足の踏み場もないほどのサンゴ礁など、様々な環境が広がっています。そこに暮らす生き物も少し探しただけで見たこともないようなものばかり見つかります。
 
その一方でSNSなどで同じような趣味を持つ他県の方を覗いてみると、高知県で普段私が見ているのとはまた全く違った生き物を観察していて驚きます。北海道には北海道の海が広がり、関東には関東の、関西には関西の、沖縄には沖縄の海が広がって、そこにはそれぞれ様々な生き物が暮らしているのだと驚かされます。日本を取り囲む広大で豊かな海の、不思議で魅力的な生き物の世界をほんの少しだけ切り取らせてコレクションしてみるととても楽しいものです。

Author Profile

片山 雄史

1984年愛知県名古屋市生まれ。愛媛大学大学院農学研究科修士課程修了(環境昆虫学)。
高知県内で会社員として働く傍、週末は海で素潜りして生き物を採集、白バックで撮影するのが趣味。
一番好きな生き物はウミウシ。
Twitterアカウント:@sea_slug_0509

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