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3/11 2020

日本のサクラの種類と見分けかた 自生のサクラと栽培品種

あなたが見ているサクラは、どのサクラ? ソメイヨシノからちょっと変わった種類まで、ハンディサクラ図鑑『サクラハンドブック』からサクラの基礎知識と見分け方のコツを解説します。
 
文・写真/大原隆明
(本記事は『サクラハンドブック』を一部抜粋・改変して作成しています)

サクラとは

サクラとは、バラ科サクラ属中のサクラ亜属というグループに分類される樹木の総称。サクラ属にはウメやモモなども含まれており花の特徴も似ているが、これらは別の亜属に分類され、通常サクラとしては扱われない。
 
サクラ亜属と他の亜属とは果実の特徴で区別されるが、サクラ亜属のものはふつう花の柄(小花柄)が長く、萼筒(がくとう)が大型という特徴がある。野生種のミヤマザクラや果樹として栽培されるユスラウメもサクラ亜属に分類されるが、この点で一般的なサクラのイメージとは異なる。

各部位の名称・用語

自生のサクラと栽培されるサクラ

日本でみられるサクラは、国内の野山に自生している「野生種・自然交雑種」と、国内では栽培のみが知られる種類とに大きく分けられる。さらに、栽培のみが知られる種類には「国外産の野生種」と、野生種や交雑品の中から人間が園芸価値が高いものを選び出した「栽培品種」とがある。種類の名前を調べる上では、その3つを区別して扱うことが重要である。
 
①【野生種・自然交雑種】(ヤマザクラ、オオシマザクラなど)
1種類の中でも遺伝的な変異が非常に大きく、さまざまな個体が含まれる。識別する時には個体間の変化が多い部分(色や形)にはこだわらず、変化の少ない部分(後述する花の3つの部位や花と若葉の開くタイミング、萼片など)の特徴だけに注目する。
 
②【国外産の野生種】(カンヒザクラ、シナミザクラ)
国内産の野生種ほど顕著ではないが、遺伝的な変異がある。識別する時には上記と同様、変化の少ない部分の特徴のみを重視する。
 
③【栽培品種】(上記以外の種類)
ほとんどが接木や挿し木などで増やされたクローンなので、1種類内は遺伝的にほぼ均一で変異が非常に少ない。各品種を見分けることは人間でいえば個人識別と同じであり、細かい部分まで特徴を観察する必要がある。

日本のサクラ

日本で見られる野生種・栽培品種のサクラ6種を見てみよう。

野生種
 
エドヒガン 〜全国各地に巨木が残る長命なサクラ
エドヒガン 【江戸彼岸】
Prunus spachiana (Lavallee ex E. Otto) Kitam.

小型の花が集まってつく。満開の時には葉はほとんど伸びない。(富山市 07/4/2)

本州、四国、九州に広く分布するが自生地は限られている。大河川沿いの斜面に生育することが多い。「根尾谷の薄墨桜(ねおだにのうすずみざくら)」など有名な古木のサクラの大半は本種で、ソメイヨシノの一方の親としても有名。

ヤマザクラ 〜赤い若葉と白い花のコントラストが雅やか
ヤマザクラ 【山桜】
Prunus jamasakura Siebold et Zucc. var. jamasakura

赤みの強い若葉は白い花と同時に開いてよく目立つ。(富山県中央植物園 07/4/11)

本州、四国、九州に分布。温暖な気候を好み、低山や丘陵に多い。西日本では最も一般的な野生のサクラ。白い花と同時に開く赤みの強い若葉が美しく、古来より詩歌に多く取り上げられている。
 
ソメイヨシノの登場以前に温暖な地方で主な花見対象とされたのが本種。赤い若葉と白い花がちらちらと混ざり合う繊細な風情を楽しんだ昔のお花見は、淡いピンク色一色に染まるソメイヨシノを対象とした現代の花見とはかなり風情が違っていたのかもしれない。

オオシマザクラ 〜香り高い大きな白い花が咲く
オオシマザクラ 【大島桜】
Prunus speciosa (Koidz.) Nakai

芳香のある大きな白い花と、緑〜茶色の若葉が同時に開く。(魚津市 06/4/15)

伊豆〜房総の海沿いに多く生育するが、薪炭材や園芸品種の接木用台木として栽培もされ、東北以南の各地で野生化したものがみられる。花は大型で香りがあり、多くの栽培品種の親となった。
オオシマザクラの葉は厚く、毛がない点が食用に適しているので、桜餅を包むための塩漬けに加工される。全国シェアの大半は伊豆半島で生産されている。桜餅の葉は、本種の特徴である葉縁の鋸歯の伸びがあまり目立たないが、これは徒長枝の葉を使用しているためである。

 
栽培品種
 
ソメイヨシノ 〜現代人に最も馴染み深いサクラの代表品種
ソメイヨシノ 【染井吉野】
Prunus × yedoensis Matsum. ‘Somei-yoshino’

葉は花後に伸びるので、木全体が花に包まれたように見える。(富山県中央植物園 07/4/8)

最も広く栽培される現代のサクラの代表品種で、北海道南部〜九州に至る各地で気象台の開花観測の対象となっている。江戸時代にエドヒガンとオオシマザクラが関与して誕生したと考えられている。

 
イトザクラ 〜古来から愛され続けた風になびく花枝が優美なサクラ 
エドヒガン ‘イトザクラ’ 【糸桜】
Prunus spachiana (Lavallee ex E. Otto) Kitam. ‘Pendula’

特徴はエドヒガンと同様だが、枝が垂れるので繊細な風情がある。(富山県中央植物園 07/4/2)

エドヒガンのうち、枝の成長が速く下向きに垂れる栽培品種。優美な風情から古くより各地で栽培されており、さまざまなクローンが存在するので花の色や大きさには変化が多い。一般にシダレザクラと言われる。
 

カンザン 〜桜湯にも使われる豪華な八重咲きのサクラの代表品種
‘カンザン’ 【関山】
Prunus ‘Sekiyama’

東京の荒川堤から広まったといわれる栽培品種。赤みの強い豪華な花が印象的で、現在では八重咲きのサクラといえばこの品種を連想する人が多い。開きかけの花は塩漬けに加工し、桜湯の原料とされる。

サクラを見分けるポイント〈花〉

①野生種・自然交雑種、②国外の野生種の場合
どうしても花弁に目がいきがちだが、野生種では花弁の色や形は個体による変異が大きく、種類の識別にはあまり役立たない。
花時に種類を調べる上で特に注目したいのは下記の3つの部分の特徴である。この他にも、花と若葉の開くタイミングや萼片にも注目しよう。

1 蕚筒(がくとう)
それぞれの種類の特徴がよく表れる、種類を調べる上で最も重要な部分。全体の形や、毛の有無を確認する。
 
2 小花柄(しょうかへい)
毛の有無や、有毛である場合にはその毛の長さ、向きに注目。
 
3 最下の苞(ほう)
注目されることは少ないが、種類ごとに独自の特徴がある部分。形や縁の巻きこみ方、上部の縁にある鋸歯の状態に注目。

蕚筒のさまざまな形

③栽培品種の場合
栽培品種の名前を調べる場合には、野生種より詳細に特徴を観察する必要がある。上の「野生種の場合」で挙げた3部分はもちろん、下記の部分にも注目することが大切である。
野生種と同様に、花と若葉の開くタイミングにも注目。

雌しべのさまざまな状態

1 花弁
枚数や形、大きさ、色、しわなどに注目する。ただし、色や大きさは栽培環境によって多少変化することを意識しておく。
 
2 萼片
形や大きさ、縁の鋸歯の有無や状態に注目。
 
3 雌しべ
本数や色、葉に変化しているかどうかを観察する。また、雄しべと比較しての長さ(長い、短い)についても注目する。

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Author Profile

大原 隆明

1968年愛知県春日井市生まれ。東京都立大学理学部博士課程中退。富山県中央植物園主任。サクラ属の分類学的研究に携わるかたわら、富山県のフロラ調査にも精力を注いでいる。

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