「てんとう虫(テントウムシ)」といえば、春から冬にかけてよく見る身近な虫。
そんなテントウムシの基礎知識について、日本のテントウムシがわかるハンディ図鑑『テントウムシハンドブック』から、種類、生活、特徴などをご紹介します。(文:阪本優介 編集:BuNa編集部)
※本記事は『テントウムシハンドブック』からの引用記事です。
テントウムシは、コウチュウ目ヒラタムシ上科テントウムシ科(Coccinelidae)に分類される昆虫の総称で、世界では約6,000種が知られ、日本では約180種が確認されています。いまだに生態がよくわかっていない種が多く、半数以上は5mm以下の小さなテントウムシです。赤や黄色といった派手な色彩をもつものが多く、「春の訪れを告げる虫」と言われることもあります。
漢字では「天道虫」と書き、太陽へ向かって飛んでいくことから、「太陽神の天道」が由来とされ、縁起のいい虫とされます。英語では「Ladybirds」と呼ばれ、聖母マリアの鳥を意味します。さまざまな由来や言い伝えなどから、世界各国で「幸せを運ぶ虫」として親しまれているテントウムシですが、農作物の害虫として嫌われている面もあります。他国から侵入してきた移入種として注目される種もいれば、生物的防除のため人為的に導入されたテントウムシもいます。
ウンモンテントウ
テントウムシ科の特徴はいくつかありますが、触角は短く先端が棍棒状であることは、特に触角の長いハムシ科と対比され、ほかの甲虫と見分けるポイントの1つです。また、腹部第1節にある腿節線と呼ばれる弧状の顕著な隆起線は、テントウムシ科のみに現れる形質で、科の指標となるだけでなく、種の分類にも使われる特徴です。
テントウムシ科の♂交尾器は、ほかの甲虫と大きく異なる特有な形状で、分類の指標となるだけでなく、種レベルの変化が大きいため、必ずといってよいほど新種の記載には♂交尾器の図が必要になります。
テントウムシ♂の交尾器(ナミテントウ)。♂交尾器は、サイフォと呼ばれる釣針状の陰茎と、それを包み込む包片からなる
テントウムシの食性は、大きく肉食性・菌食性・草食性に分けられます。
肉食性のテントウムシは、アブラムシ類やカイガラムシ類、キジラミ類を含む半翅目や、鱗翅目・甲虫目の幼虫、ダニ類などを捕食することが知られています。餌がない場合は、同じテントウムシ科の幼虫や蛹などを食べてしまいます。
菌食性のキイロテントウは主にうどんこ病菌を食べることが知られ、草食性のニジュウヤホシテントウは、ジャガイモやナスなどの葉を食べます。
アブラムシを捕食するクリサキテントウ
ウリ科の植物を食べるオオニジュウヤホシテントウ
日本で見られるテントウムシは、ほとんどが年に2化※以上し、成虫で越冬するものが多く、夏季に休眠するものも知られています。
このような生活史は、餌となる生物の発生にも大きく関係し、肉食性のテントウムシでは、餌となるアブラムシ類やカイガラムシ類が発生する春と秋に繁殖するよう適応していると言われています。もちろん気温や日長も関係し、冬季でも暖かい日は活動するテントウムシが見られます。
※…1年で2世代が経過すること
例えばナミテントウは、4〜5月ごろに越冬明けの個体が活動を再開し、交尾・産卵し、6月ごろには成虫になります。この成虫は高温の期間である夏は休眠(越夏)し、9月ごろから再び活動し、交尾・産卵を経て、新成虫が10〜11月にかけて誕生します。冬季はそのまま成虫で越冬します。
基本的にテントウムシは昼行性ですが、メツブテントウ族では夜間に活動する種も知られています。
交尾するナミテントウ
テントウムシと似ている虫たち
「テントウムシかと思ったらクロミジンムシダマシ(写真中1)だった!」なんて経験、よくありますよね(笑)。
テントウムシに似ている虫は多く存在します。ヒメテントウ類のような小さなテントウムシはよく似た小さな虫が多いので、ルーペや顕微鏡で確認するまでテントウムシとわからないこともあります。
中にはテントウムシに擬態している虫もいます。テントウムシに擬態する虫はハムシ科やゴミムシダマシ科の仲間に多く見られます(写真中2〜4)。
テントウムシを触ると関節から出す、アルカロイドを含んだ黄色や赤色の液体は独特の臭いと苦みがあり、鳥などの外敵はこれを嫌います。逆にテントウムシは、あえて目立ちやすい警戒色をもち、外敵にアピールすることで身の安全を確保しています。擬態する虫たちは、そのテントウムシに姿を似せることで、外敵から身を守っているのです。
テントウムシ科の幼虫は、同じ科の幼虫とは思えないほどさまざまな姿をしています。ハムシ科のように6本の脚があるイモムシ形や、鋭い分岐突起を複数もつタワシのような形、全体がワックス質の綿状分泌物でおおわれたもの、背面が少しふくらんだワラジ形のものなど多様です。
ナナホシテントウの幼虫
テントウムシを見つけるには、まず「餌の有無」が重要です。「去年はこの木にたくさんいたのに、今年はいないなぁ」なんてことがよくあります。
マツに依存するアブラムシ類やカイガラムシ類を捕食するテントウムシはマツで見られ、アザミの葉を食べるテントウムシはアザミの葉上で見られます。まずはテントウムシの生態をよく知ることが、見つけ方のポイントの1つとなります。
【春】
テントウムシが活動をはじめる春は、さまざまな場所で観察することができます。ヤナギやクルミの木を見てまわると、大きなカメノコテントウが見られるかもしれません。石がごろごろした河川敷の水際では、ナナホシテントウそっくりのアイヌテントウがいるかもしれません。4〜5月ごろは、タマカタカイガラムシがびっしりついたウメの木を見つけたら、アカホシテントウがいるかもしれません。
河川敷とアイヌテントウ
【夏〜秋】
夏の暑い日は、葉の裏などで涼んでいるテントウムシが見つかります。涼しくなってきた秋にも、テントウムシは活発に動きます。いろいろな場所で見かけるナミテントウは斑紋の変異が多く、激レアな横帯型や縁黒型はめったに見られません。普通種のナミテントウですが、変わった斑紋を見つける楽しみがあります。
★テントウムシのことがもっと知りたくなったら★
テントウムシハンドブック
日本に生息するテントウムシ115種がわかる識別図鑑。
細部までくっきりと見える深度合成写真に識別ポイントをわかりやすく記し、種によっては卵や幼虫、蛹、斑紋のバリエーションも紹介します。
識別の難しいヒメテントウ類は交尾器の比較イラストも掲載。採集や観察のコツなど、テントウムシが丸ごとわかる本です!
amazon
ヨドバシカメラ
honto