2020年、日本を襲っているコロナウイルスの脅威。これから春から夏にかけての季節は生きもの観察にぴったりの時期ですが、あまり遠くには行けない……!
こんなときこそ、家のまわりでも見られるイモムシ・ケムシに目をむけてみませんか?
イモムシとケムシの情報を発信するサイト「芋活.com」を運営し、伊丹市昆虫館の学芸スタッフをつとめる前畑真実さんに、イモムシとケムシの魅力と発見のポイントを教えてもらいます!
左:ササをめくると並んでいたクロコノマチョウ、右上:ササの葉裏でじっと動かないヒメキマダラヒカゲ、右下:ウスキシャチホコ
BuNaさんから「イモムシ・ケムシの探し方」について教えて欲しいというお話をいただいたときには、私自身のイモムシ・ケムシとのかかわりあいの楽しさを皆さんにどうお伝えようかとわくわくする気持ちでいっぱいでした。
でも今、外出自粛中の皆さんに「自然がいっぱいのフィールドでイモムシ・ケムシを探そう」と言えなくなってしまいました。これからいい季節なのに、残念でなりません。
そこで今回は(次回があるとは限らない)、身近なイモムシ・ケムシの魅力を重点的にお伝えしたいと思います。
家から歩いて行ける範囲でも、イモムシ・ケムシと遭遇することもでき、お散歩しながら探すのも楽しいと思います。もしお散歩コースに手すり(擬木と言われる人工物でできた柵や、低い木の柵)やフェンスがあり、その近くに樹木や雑草がある場所ならば、そこに潜むイモムシや手すりをひょこひょこと歩くイモムシに会えるかもしれません。
手すり(擬木と言われる人工物でできた柵)
この時期、子育てを始めた野鳥がイモムシをくちばしにくわえている姿をよく見かけます。他にも昆虫やクモ、カエルやトカゲなど、イモムシを狙う生き物は本当にたくさんいます。イモムシたちも黙って食べられているわけではありません。闘う? いいえ、ほとんどのイモムシは逃げます。どうやって逃げるかというと、落ちて逃げるのです。
イモムシをヒナに運ぶヤマガラ
ゴミムシの幼虫に食べられるイモムシ
みなさんは、木の上から糸でぶら下がるイモムシを見たことがありませんか? 風に吹かれて落ちているイモムシもいるかもしれませんが、多くの場合は天敵に襲われ落下して逃げているイモムシがほとんどでしょう。
そういうものたちが集まってくることもあり、この季節の手すりでイモムシたちを見かける機会が増えるのです。
左上:ニトベエダシャク、左下:ハスオビエダシャク、右上:トビモンオオエダシャク
普段は葉っぱをめくりながらひたすら探さなければ見つからないのに、手すりを見ているだけでたくさん見つかるなんて、手すりは最高の観察ポイントです。
もしかすると、手すりを歩くイモムシがさらに天敵に襲われる瞬間も観察できるかもしれません。なぜ、手すりにいるのか、理由を考えながら観察してみると、そこに面白い発見があるはずです。
手すりの観察と言えばこちらの本です。とても参考になりますよ。
※「手すりの虫観察ガイド」(著 とよさきかんじ/文一総合出版)
意外かもしれませんが、手すりの次に穴場の観察場所は街路樹です。低木〜中木の街路樹は観察もしやすく特におすすめです。
街路樹
公園の植込み
たとえば、最近、街路樹の種類にクチナシ(常緑低木)が多くなったような気がします。なぜだか理由はわかりませんが、そのクチナシを食草とするスズメガ科のオオスカシバの幼虫もよく見かけるようになりました。私はオオスカシバの幼虫も成虫も好きなので、見つけるととてもうれしくなります。
街路樹に巻き付くつる性の植物にも、イモムシを見つけることができます。ヤブガラシにセスジスズメやコスズメ、ヤマノイモにキイロスズメ、アケビにはアケビコノハというように、場所によって様々な出会いがあります。
私は樹木だけではなく、その街路樹の隙間に生えてきた別の種類の植物にまで目が行くようになりました。ツツジ(中低木)の植込みにまぎれたエノキ(落葉高木)の幼木でゴマダラチョウの幼虫を見つけたこともあります。思わぬところで思わぬイモムシと遭遇出来るのも街路樹観察の醍醐味です。街中で植込みをじろじろ見つめているとちょっと怪しいですが、慣れてくると風景に溶け込めるようになりますよ。
セスジスズメ・コスズメ・オオスカシバ
どんな街中にでも歩道の脇や公園などに樹木はありますよね。ただ、歩いてるだけではもったいないです。植込みに潜むイモムシを発見した時の喜びを皆さんにも味わっていただきたいです。
イモムシの撮影をする筆者
イモムシ・ケムシの魅力は何といってもその姿です。
イモムシは、そう簡単には見つかりません。なぜなら彼らは擬態の天才なのです。
その姿・形は一見、別の何かに見え、そう簡単には見つかりませ
〇植物に擬態する
ここにいます!
どうみても枝 クワエダシャク
ヨモギの花の時期に花を食べて成長するハイイロセダカモクメ
シャチホコガ(枯れ葉に擬態?)
ギンモンスズメモドキ(枯れ葉に擬態?)
〇動物の糞に擬態する
スカシカギバ 細かい部分まで鳥の糞
〇昆虫に擬態する
アオバセセリ(アワブキの葉を綴って、隠れている。頭部がテントウムシに擬態していると言われている)
ヒメシャチホコ(若齢は集団で過ごしており、アリの群れのように見える)
ケムシは毒のない物がほとんどですが、わからない時は触らないようにします。私は少しくらい痛くても…という気持ちで手に乗せてしまいがちですが、チャドクガだけには近づきたくありません。なぜならば近づきすぎて風に飛んだ毒毛にやられ全身蕁麻疹が出てしまったからです。チャドクガが大好きなツバキ科の植物には気を付けてくださいね。
イラガはとても美しく、観察や撮影をおすすめします。触ってしまっても、痛いですが、しばらくひりひりする程度でした。
チャドクガ(毒の毛を飛ばします)とクロシタアオイラガ(触れるとピリピリする痛みが)
毒のないケムシの種類がわかってからは、ケムシがとても好きになりました。堅い毛の種類もいますが、柔らかい毛の種類もいて、手に乗せると癒されます。
シロヒトリとマイマイガ(初齢だけ毒あり)
ケムシに毒があるかどうかは図鑑やインターネットで調べます。
私が一番よく使う図鑑は、イモムシハンドブックです。毒がある種類には「注意」と記載されています。1〜3巻まであり、3巻には1巻と2巻で紹介された種類がまとめて掲載されていて、フィールドに持ち歩くには3冊もなぁというときは3巻だけ持って行けばいいので便利です。
次はこんなイモムシに会いたいという思いをはせながら図鑑を見るのも楽しいですよ。
※「イモムシハンドブック1〜3」
新鮮なエサを入れた飼育セット(ケースは100均などで売っているケースでも大丈夫です)。忘れないよう、採集日と脱皮した日、蛹になった日などを記入しましょう。
図鑑で調べてもわからない種類のイモムシに遭遇した時は、飼育することもあります。
イモムシは脱皮を繰り返して成長しますが、図鑑には終齢(蛹になる直前の齢)の写真しか載っていないことが多いので、若齢を見ても種類がわからない場合があります。飼育してみて初めて種類がわかるイモムシもいるのです。私はいつ、イモムシと出会ってもいいように、カバンにはイモムシと食草を入れるタッパーを持ち歩くようにしています。
もちろん、そのイモムシが何を食べているのかがわからないと飼育はできません。持ち帰っても与えるエサが違っていると食べられずに死んでしまいます。”十分なエサを確保できるか”という事が飼育する際には最も必要不可欠な要素です。
イモムシを飼育するには、新鮮な食草と清潔な飼育ケースが必要です。これだけあれば飼育はそう難しくはありません。毎日様子を見ながらなるべく新鮮なエサをあげます。
時にはエサを食べなくなることもありますが、それは脱皮をする前で、イモムシの頭部をよく見ると、下から新しい顔が現れ、古い顔がずれています。そのまま観察を続けると、脱皮をする瞬間を目撃することができるのです。脱皮という行為は、外敵から狙われても逃げられない状態の時なので、天敵の少ない夜のうちに行うことが多いのです。観察するにも気力と体力を消費しますが、その分観察できた時の感動は大きいでしょう。
イモムシはいっぱい食べて、いっぱいウンコして成長します。そのちょっとした動きにも生きるパワーを感じ、癒され、元気をもらえるような気がします。
飼育したイモムシすべてが成虫になるわけではありません。
途中で死んでしまったり、寄生されていて、別の生き物が生まれてくることも多々あります。
そんなときでも、色々な発見につながり、飼育することは決して無駄ではありません。
寄生する昆虫の事を知るきっかけにもつながります。
世界中にいったいどれだけの種類のイモムシ・ケムシが存在するのかを想像するだけで胸がときめきます。日本だけでも、6000種以上のガやチョウがいて、その種類の数だけイモムシ・ケムシが存在するのです。身近なイモムシ・ケムシたちの中にもまだ知らない事があふれていて、私の探求心はとどまることを知りません。
みなさんには、散歩しながらイモムシ・ケムシを探してみようとおススメしましたが、やはり外出する時には、人との距離をしっかりとってくださいね。当分の間は、なるべくお家で図鑑や本などを読みましょう。「こんなイモムシやあんなケムシを見つけてみたい」と予習をし、また安全な世の中に戻ったときにはぜひフィールドに出て探しに行きましょう。
一日も早く安全な日常が戻りますように。
前畑さんの著書はこちら!
『癒しの虫たち』
かわいいイモムシたちの姿が満載! 癒されること間違いなし。(著:川邊 透、前畑 真実 /repicbook)
Author Profile
前畑 真実
兵庫県生まれ。
伊丹市昆虫館の学芸スタッフ 鳥の追っかけ中に、エサのイモムシ・ケムシに心を奪われ今に至る。
著書「癒しの虫たち」repicbook
HP イモムシ・ケムシの専門サイト「芋活.com」http://www.imokatsu.com/
Twitter:@montachun