「鳴き声だけで、なんの鳥がいるのかわかったらいいのになあ…」
と思っていても、なかなか覚えられないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、「あの声ってこの鳥だったんだ!」と思い出すこと間違いナシ!の身近な鳥6種の鳴き声とともに、日本野鳥の会の理事であり長年野鳥観察に携わる松田道生さんが、野鳥の鳴き声の覚え方やコツについて解説します。
(本記事は書籍『鳴き声から調べる野鳥図鑑』から抜粋、作成しています。文・音声:松田道生、写真:菅原貴徳)
鳥は、よく鳴く生きものである。鳥たちのコミュニケーションの方法が、音によるものだからだ。
それだけに、鳥たちはいかに声を遠くまで広く届かせるか、さまざまな工夫をしている。また、声を出すための器官──鳴管(めいかん)が発達している。おそらく、音を聞き分ける聴力もいいはずだ。
そのため、鳴き声がわかると、鳥たちの種類や生活の様子を知ることができる。たとえば、自分で行ったある日の調査データを見てみたら、声による発見が68%だった。これは、樹木の多い公園での調査であり、残りの32%は池にいるカモや、芝生にいるムクドリたちだったことがある。季節や環境にもよるが、野鳥の発見から識別まで、鳴き声が大きなウエイトを占めていることになる。
ムクドリ よく聞く声は、「キュル、キュル」「リャー、リャー」など
声をおぼえるためには、鳥の声に気がつくようになりたい。鳥の声は高い音が多いので、高い音に反応するようになるといい。たとえば、自転車のブレーキの音を、カワセミの声と聞き間違えるようになったらしめたものだ。家で、ドアのきしる音が気になるようになったら、鳥の声を聞き逃すことがなくなるだろう。
カワセミ 鳴き声は一年中、聞く。よく聞かれる地鳴きに相当する声は、水面の上を低く飛びながら「チィーッ」、あるいは「ツィーッ」と聞こえ、鋭く高い金属がきしるような音
いちばんの早道は、探鳥会や自然観察会に参加して、ベテランの指導者から教わることだ。自然のなかで、生の声を聞きながら指導を受ける実習の効果は大きい。探鳥会のリーダーは、聞きなしを教えてくれるはずだ。聞きなしは、鳥の声を人の言葉に置きかえて、おぼえる方法だ。
「見なす」があるのだから、「聞きなす」があってもいいと考えたのが、戦前の鳥類研究家の川口孫治郎(1873〜1937年)である。”聞きなし”は、鳥の鳴き声を人の言葉に置き換えて伝えるものである。川口が自著の『飛騨の鳥』(1921)や『続 飛騨の鳥』(1922)などで、昔話や民間に伝わる“聞きなし”を紹介したのがはじまりである。たとえば、ウグイス(の「法、法華経(ホー、ホケキョウ)」と言えばわかりやすいだろう。
野鳥の声をおぼえるためには、生の声を聞きながら、聞きなしを口で反復して言ってみるのもいいだろう。あるいは、CDなどで鳥の声を聞きながら、野鳥図鑑に書いてあるカタカナの表記を読むというのも、勉強法としては有効だと思う。
いずれにしても、フィールドにたくさん出て鳥の声になじむことが、鳥の声をおぼえる早道になる。
ちょっとした林でも見かける シジュウカラ
さえずりは透き通った澄んだ声で、同じ音を2音続けて出したあと、別の高さの音を1音続けて出すなど。「ツーツーピィー、 ツーツーピィー」「ツーピィー、ツーピィー」あるいは「ピーツィー、ピーツィー」と聞こえる
シジュウカラのさえずりは、東京と日光では、どちらがきれいか? ここでいう“きれい”とは、声が大きい、「ツピー」の回数が多い、音域の幅が広いなどである。多くの人は、自然の豊かな日光と答えるが、正解は東京。たとえば、70ヘクタールの明治神宮では50個、9ヘクタールの六義園でも10数個のなわばりがある。日光では、1つの山に1つという感じで、密度が低い。密度の高さが競争のはげしさとなり、さえずりを発達させているのだ。
田んぼや畑から聞こえてくるあのさえずり… ヒバリ
さえずりは、テンポが速くはげしい抑揚のある節まわしで、長く絶え間なく鳴く。声は「ピィーチブ」あるいは「チュルル」という声をくり返し、「チィー、チィー」あるいは「リュ、リュ」などを入れ、変化に富む
小鳥が長く鳴き続けられるのは、喉に鳴管(めいかん)があり、息を吸うときも吐くときも音が出るからと言われている。しかし、多くの鳥のさえずりは、節と節の間がけっこう空くのだ。このときにゆっくりと息を吸えば、長く鳴くこともできるだろう。しかしヒバリは、途切れることのない長い節で、だいたい5分間はさえずり続ける。ただ、ヒバリの声紋をよく見ると、短いながらも0.1秒ほどの間がある。この間に息を吸っている可能性がある。
河川敷で聞こえてくる鳴き声はこの鳥? オオヨシキリ
声は大きくややにごりのある音で、テンポのいい節まわし。同じ節を何度もくり返し、長く鳴く。「ギョギョシ、ギョギョシ、ギョギョギョ」などと聞こえる
オオヨシキリのさえずる期間は夏鳥のなかでは長く、4月下旬に渡ってきて、旧盆の8月中旬まで鳴き続ける。多くの夏鳥が、7月中に鳴きやんでしまうのにくらべて長い。オオヨシキリは一夫多妻。多いときは、1羽の雄が5羽の雌とペアになるという。これは、ヨシ原という天敵の多い環境で、少しでも子孫を残すための巧みな繁殖戦略といえる。それだけに、なわばりを守り、雌に存在をアピールするために、よくさえずるのだ。
一度は見てみたい森の小鳥 オオルリ
10程度のパターンを不規則にくり返し、全体として複雑な印象を与える。たとえば「ピーリーリー、ポイヒーピピ、ピールリピールリ、ジェッジェッ」など
私の録音記録のなかで、もっとも長いのはオオルリのさえずり。午前5時から鳴きはじめ、鳴きやんだのは7時22分。途中、1分ほど途切れること数回、およそ2時間半、鳴き続けていた。ふつうオオルリのさえずりは、長くても30分ほどである。それでもほかの鳥にくらべれば長いほうである。以前、観察会でオオルリのさえずりをみんなで聞いていたら、あっという間に30分がたってしまった。おかげで、その日の行程は大幅に狂ってしまった。
見た目とギャップがある鳴き声? オナガ
さえずりと地鳴きは不明瞭。ふつう群れで「ゲーイ、クイクイクイ」「グェーイ、ツイツイツイ」と聞こえる声で鳴く
オナガの世界分布は、興味深い。日本をはじめ中国など東アジアが中心だが、遠く離れたヨーロッパのイベリア島にもわずかに分布している。ヨーロッパのオナガは、尾の先が白くないなどの違いがある。では、鳴き声はどうだろう。Webサイトにアップされているアジアのオナガの声は、中国も韓国も日本と同じように聞こえる。しかし、ヨーロッパのオナガは、全体に音が高く、にごりが少ないのだ。はじめて聞いたら、オナガとはわからないだろう。
あの声か〜。 ホトトギス
大きくはっきりした鳴き声で、つまずいたような短い音を連続し、特有の抑揚がある。聞きなしの「天辺かけたか」や「特許許可局」と聞こえる
『万葉集』で、もっとも多く詠まれている鳥はホトトギスだ。以前、「あんなけたたましい声が、なぜ好まれたのか?」と聞かれたことがある。確かに、鳴いている木の下で録音したときは、うるさいと思った。しかし、里山の風景が広がるなか、遠く山の向こうからホトトギスの声が聞こえてくると趣は違う。緑の絨毯となった田んぼの上をツバメが舞い、遠くから響くホトトギスの声は日本の風景にぴったりはまる。ホトトギスの声は、遠くにありて聞くものである。
鳥の鳴き声についてもっと知りたくなったら…
『鳴き声から調べる野鳥図鑑』
身近な野鳥85種の鳴き声がわかる図鑑。付属のデータCDには、さえずりや地鳴き、警戒の声など、250以上の声を収録。解説も鳴き声に特化しているため、初心者でも楽しみながら野鳥の声をおぼえることができる。鳴き声にまつわるエピソードも楽しい一冊。
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Author Profile
松田 道生
1950年、東京都生まれ。日本鳥類保護連盟、日本野鳥の会の職員を経て、日本野鳥の会理事。放送、出版、講演、フィールドでの指導を通じて野鳥保護活動を行っている。本書のテーマに関わる主なものは、文化放送の番組『朝の小鳥』の収録構成。『日本野鳥大鑑鳴き声420』を共同執筆。野鳥録音の入門書『野鳥を録る』を執筆。日本野鳥の会からCD6枚セットの『鳴き声ガイド日本の野鳥』を発行。
Author Profile
菅原 貴徳
平成2年、東京都生まれ。幼い頃から生き物に興味を持って育ち、11歳で野鳥撮影をはじめる。東京海洋大学、ノルウェー北極圏への留学で海洋生物学を学び、名古屋大学大学院で海鳥の行動生態学を学んだ後、写真家に。国内外問わず、様々な景色の中に暮らす鳥たちの姿を追って旅をしている。著書に『図解でわかる野鳥撮影入門』(玄光社)がある。
HP [Field Photo Gallery]:http://tsugawarakaiyo.wixsite.com/pechi-fieldphoto