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10/1 2020

スズメバチに刺されたらどうする? 危険生物図鑑 〜いざというときの対処法〜

アウトドアを楽しむ前に、知っておくべき危険生物と対処法(ファーストエイド)

秋の行楽シーズン、屋外に出てアウトドアを楽しむ人も多いだろう。
身近な危険生物にどんなものがいるのか、その対処法といっしょに見ていこう。
(この記事は『危険生物ファーストエイドハンドブック 陸編』(文一総合出版)からの引用記事です。文章・写真・イラスト:NPO法人 武蔵野自然塾)
 
危険生物とは
危険生物とは人間にとって危ない生物、すなわち刺されたり、咬まれたり、かぶれたり、中毒に遭うなどの可能性がある生物である。陸域で特に危険度の高いものにはスズメバチ、毒ヘビ、大形哺乳類などが挙げられ、これらは年間数十人の死亡事故が起きている。また、命に関わらなくとも、小さな虫に刺されたり、ヒルに吸血されたり、植物のトゲが刺さったりといった出来事は、毎日のようにどこかで起きている。近年では外国から日本に定着した外来生物や、気候の変化によって分布が変わってきている生物の中にも危険生物がいることもある。
 
いざというときのファーストエイド
不運にも危険生物の被害に遭ってしまった際は、本記事を参考にファーストエイドを実践したい。ファーストエイドとは、(自身を含む)傷病者に対して行う最初(first)の手当(aid)であり、人工呼吸や止血法、テーピング法などの応急処置のことをいう。被害者の苦痛を和らげたり、医師による専門の治療へスムーズにつなぐ重要な行動である。

身近な危険生物図鑑

Fire:1 オオスズメバチ

生息地:北海道~九州
環境:森林の土の中や木の根元などに巣を作るが、近年は市街地でも見られる。樹液にもよく集まる。
形態:働きバチは約34cmと人間の親指ほどもある。女王バチはさらにひと回り大きい。
被害:スズメバチの中では攻撃性が強く、餌場に近づくだけで襲ってくることもある。
刺されたときの痛みも激しい。さらにアナフィラキシー・ショックを起こすと死に至る場合がある。
 
●ファーストエイド!
ハチがまだ近くにいれば急いで安全な場所まで避難する。(約1020m離れ、ハチが周囲にいないことを確認してから手当に移る)
アナフィラキシー・ショックが疑われる場合(緊急)
①大至急、救急車を呼ぶか、車で最寄りの病院へ行く。エピペン®(アドレナリン自己注射キット)があれば早急に打つ。
②(救急車を待つ間)その場で体を横たえ(回復姿勢)、足を少し高くする。嘔吐がある場合は顔を横にし、窒息しないようにする。ポイズンリムーバーなどで毒を吸い出す。
③上気道の浮腫(むくみ)が疑われる場合は窒息死の可能性もあるので、気道の確保・人工呼吸を必要に応じて行う。
ショック症状が現れなければ
①毒を吸い出す。ハチの毒は水に溶けやすいので、毒を絞り出しながらよく水洗するか、ポイズンリムーバーを使う。
②抗ヒスタミン剤、およびステロイド剤を含んだ外用薬があれば塗る。
③傷口を冷やす。
 

毒を吸い出し、傷口を冷やすまでの手順

口で毒を吸い出すのはNG。消化管から毒が吸収されることはないが、口内に傷があると傷口から毒に侵される可能性がある

アナフィラキシー・ショックの症状
自覚症状
・体のしびれ、めまい、けいれん、耳鳴りなど、神経系に障害が出る
・体の末端が冷たくなる
・胸や喉がふさがった感じで息苦しくなる
他覚症状
・全身にじんましんが出る
・顔面そう白などのチアノーゼ
・ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音
・意識障害
 
●予防(ゼロエイド)
オオスズメバチは木の根元や地中に巣を作るので、近づくまで気づきにくい。辺りを飛び交う個体が急に多くなったり、一定方向に飛ぶようになったら地表付近に巣がないか注意する。

目立たないところにある巣

●ハチ類共通のゼロエイド
・黒っぽい衣服や帽子、整髪料や香水はハチを誘引しやすいので避ける。
・ハチに手を出さない、また近づいてきても手で払ったりしない。
・周りを飛び回り「カチカチ」という音を出していたら、巣が近い証拠なのでゆっくり後退する。

Fire:2 チャドクガ

生息地:本州~九州
環境:幼虫はツバキ、サザンカ、チャなどのツバキ科の葉を食べるため、それらが植栽された都市部の公園、庭、街路樹などで見られる。若齢幼虫は白っぽく、葉に群れている。
形態:終齢幼虫は体長2530mmで、若齢より黒い部分が多い。
成虫は開張2535mm。黄色~黒褐色で、翅先に2個の小さな黒点がある。
被害:幼虫~繭~成虫のすべてが毒針毛をもち、特に幼虫による被害が多い。
毒針毛に触れると、じんま疹のように赤く丘疹ができてかゆくなる。
さらに毒針毛は風で飛ぶため、直接触らなくとも近くにいるだけで被害に遭ったり、干している洗濯物等に付着することもある。

左上:卵塊 右上:若齢幼虫 下段:成虫 卵、幼虫、繭、成虫すべてのライフステージで毒針毛をもつ

●チャドクガがよく見られる植物

オオヤブツバキ

サザンカ

●ファーストエイド!
①セロハンテープなどの粘着テープを何度もあてて毒針毛(肉眼では見えない)を除去するか、流水でよく洗い流す。
②炎症がひどい場合は、抗ヒスタミン成分を含むステロイド外用薬を塗る。

チャドクガのファーストエイド手順。 水で洗う or テープで毒針毛を取る→外用薬を塗る

万一、目に入ってしまった場合はこすらずに水で洗い流す

かゆくてもこすったり、かくのはNG (毒針毛が残っていると広がってしまう)

●予防(ゼロエイド)
サザンカやツバキに近づくとき(特に幼虫が発生しやすい時期)は注意する。幼虫を駆除する場合、市販の毒針毛固着剤を噴射してから駆除すると死骸や脱皮殻から毒針毛が飛ばない。
成虫は夜間、灯火に飛んでくるので素手でつかんだりしない。

Fire:3 ヤマビル

生息地:本州(秋田・岩手以南)~南西諸島
環境:落ち葉の堆積したあまり整備されてない道やけもの道、沢沿いの道などでよく見られる。
形態:全長約23cm、伸びると約8cmにもなる。全体に茶褐色で黒い3本のしま模様がある。
被害:皮膚の柔らかいところから吸血する。毒はなく、痛みも感じないので気づきにくい。
 
●ファーストエイド!
①ヒルがまだ付着している状態であれば、ヒル忌避剤や虫よけスプレーをかけてはがす。
②道具がなければ、爪でこそぎ落とすようにしてはがす。
③ヒルが離れた後は、ヒルが注入するヒルジンの作用により出血が止まりにくい。ポイズンリムーバーがあればヒルジンを吸い出す。
④傷口を水洗し、圧迫止血でも血が止まらない時は、絆創膏(止血効果のあるもの)を貼る。抗ヒスタミン剤を含む外用薬があれば、塗っておくとかゆみを抑えられる。
 
●予防(ゼロエイド)
人の吐く二酸化炭素に反応して、衣服や靴のすき間から侵入するので、足回りや袖口、裾などを時々チェックして、ヒルの有無を確認する。靴やソックス、ウェアなどに虫よけスプレーを散布しておくと効果がある。

Fire:4 ニホンザル

生息地:本州~九州
環境:主に山地の森林に生息するが、都市部に出没することもある。
形態:全身茶褐色の毛で覆われ、顔と尻部は赤色味を帯びた皮膚が露出している。雄は雌よりひと回り大きい。
被害:爪による引っかき、および鋭い犬歯による咬みつき。
 
●ファーストエイド
①傷口をきれいな水で洗った後消毒する。
②包帯などをしっかり巻いて止血し、化膿するのを防ぐ。
 
●予防(ゼロエイド)
「ガッ・ガッ・ガッ」という鳴き声や、「ガサガサガサ」というサルが木の枝を揺する音が聞こえたら、不用意に近づかず、サルのほうから逃げるまで待つ。
サルの目をじっと見つめるのは怒りを触発させるので逆効果。

Fire:5 ツタウルシ

生息地:北海道~九州
環境:山地に生育、ツル性で木や岩をはい上がるほか、地面に広がることもある。
形態:ツル性で気根を出してほかの樹木などをはい上がり、日の当たる場所にくると枝を広げる。
葉は三出複葉で、成木の小葉は全縁だが、若木の葉には粗い鋸歯があり、秋には美しく紅葉する。
被害:樹液に触れることにより数時間から12日後に遅れて発症することが多い。かぶれた後に発赤、激痛におかされる場合がある。

幼木の葉には鋸歯がある

若木の小葉には粗い鋸歯がある。秋には赤や黄色に紅葉する

●ウルシによるかぶれ
ツタウルシはウルシ類の中でも、塗料用栽培種をのぞいて、最もかぶれが強い。
ウルシのかぶれの成分の強さは、ウルシ>ツタウルシ>ヤマハゼ>ハゼノキ(リュウキュウハゼ)>ヤマウルシの順で、稀にヌルデでかぶれる人もいる。
 
●ウルシに似ているが無害な植物

ナツヅタ 葉先に赤色味を帯びた鋭いトゲ状の鋸歯がある

ミツバアケビ ウルシと同じ三出複葉だが、形が異なる

●ファーストエイド!
①症状が軽い場合は患部を水で洗い、抗ヒスタミン成分を含むステロイド外用薬を塗る。
②水がない場合、樹液を塗りひろげないようティッシュで液をていねいに吸い取り、その後、アルコールテイッシュでさらにきれいにぬぐい取る。
③腫れやかゆみは、患部を氷やタオルで冷やすことで軽減できる。

ツタウルシのファーストエイド手順 水で洗う→外用薬を塗る→冷やす

目をこするとひどい皮膚炎をおこすため、よく水で洗う

患部をこすったりかいたり、樹液がついた手で体のほかの部位に触れてはいけない。ひどい皮膚炎を起こす

●予防(ゼロエイド)
樹木などに絡まる三出複葉のツルを見たら、まずはこの種を疑う。
入山するときは長袖、長ズボン、手袋等を着用し、肌の露出を最小限にする。
不用意に触れないことが最も重要だが、敏感な人は少し離れていてもかぶれることもあるので、近づかないほうが無難。白色ワセリンを肌に塗っておくのも予防策となる。

危険生物とファーストエイドについてもっと知るならこの本!
危険生物ファーストエイドハンドブック 陸編

・約120種の危険な動植物を紹介
・環境別の注意ポイントや傷痕からの検索、役立つ道具一覧など、応急手当てに必要な情報がたっぷり
・さらに、スズメバチなどの代表的な危険生物では、実際に起きた被害と取られた対応策をケーススタディとして紹介
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Author Profile

NPO法人 武蔵野自然塾(むさしのしぜんじゅく)

2003年2月に結成し、2004年7月にNPO法人の認可を受けた団体。自然環境保全と自然環境教育を主な活動としており、活動している会員数は50名。学校ビオトープのメンテナンスや授業、行政と連携した多摩地域の森林の保全と活用などを行う。メンバーには生物分類技能検定や森林インストラクター、上級救命技能検定の資格保有者が多数在籍している。武蔵野市内に「むさしの自然観察園」を開園。

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