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11/9 2020

非日常を体験! 航路で海鳥を見る

海鳥を見に行くと、特別に高揚した気分になる。船に乗って鳥を探すのは非日常的で、ちょっとした冒険に出るような感覚だ。海鳥は、ふだんの生活で目にすることなどめったにない、ちょっと縁遠い存在。そんな彼らの姿を見たいあなたに、観察のコツを紹介しよう。

オオミズナギドリ(千葉県沖)。日本近海で見られる代表的な海鳥の1つ。写真は海面に降りて採食しているところで、中央手前の1羽は潜水している。

海鳥って、どんな鳥のことですか?

“海鳥”とは、どんな鳥だろう。定義はまちまちだが、広い意味では文字通り、海に生息する鳥全般を指して海鳥と呼ぶ。狭義には、沖合で生活するネッタイチョウ類やアホウドリ類、ミズナギドリ類、ウミツバメ類、グンカンドリ類、カツオドリ類、トウゾクカモメ類、ヒレアシシギ類、ウミスズメ類、一部のカモメ類やアジサシ類などを指し、沿岸部に生息するシギ・チドリ類やサギ類、海ガモ類、多くのカモメ類などは含まないことが多い。海鳥は繁殖期の一時期を除く多くの時間を海上で過ごし、海の中の生物を捕食して生活している。

海鳥を見るなら船に乗ろう

海岸から沖の海鳥を見ることもできるが、存分に楽しむには船からの観察がおすすめだ。例えば、北海道苫小牧から大洗、八戸、名古屋をそれぞれ結ぶフェリー航路、伊豆諸島や小笠原へのフェリー航路では、アホウドリ類やミズナギドリ類、トウゾクカモメ類、ウミスズメ類などの海鳥がよく観察できる。もちろんほかの航路でも観察できるのだが、おおむね日本海側より太平洋側のほうがいろいろな海鳥に出会える可能性は高い。航路によって高速船も運行されているが、窓が開けられないうえ、速度が速すぎるなど観察には向かないので、事前にどんな船かを確認するのもお忘れなく。

フェリーからの眺め(大洗-苫小牧航路)。中央の海面にハシボソミズナギドリの群れが見える。

場所によっては、海鳥や鯨類の観察を目的にしたウオッチング船も運航している。例えば、北海道根室市や羅臼には、小型船で海鳥や鯨類を観察するツアーがあり、この海域ならではの海鳥——例えば、落石クルーズではエトピリカやウミバトなど——が期待できるので、チャンスがあればぜひ体験してほしい。ウオッチング船は海面までの距離が近く、より間近に鳥を観察できる。何より観察対象が出現したときに、鳥を驚かせないように距離を保ったうえで減速・停止してくれるのは、フェリーとの大きな違いだ。なお、どのような船を利用する場合も、ほかの乗船客の邪魔にならないよう三脚など機材や荷物の管理や行動には十分注意して観察して欲しい。

海鳥や鯨類を観察するウオッチング船(北海道羅臼町沖)。近くで波しぶきを立てたのはイシイルカ。海域によってはオットセイやアザラシなどの鰭脚類、ウミガメなどを観察できることもある。

海鳥観察の道具選び

海鳥を見るのに、特別な装備は必要ない。ただ船では、観察中に海水の飛沫を浴びる可能性があるため、双眼鏡は防水機能を備えたものを選ぶと良い。カメラは濡れると故障の原因になるので、レインカバーやビニールで覆うなどの対策と、使用後の手入れは必須。フェリーでの観察は基本的に長期戦になるので、快適に観察するなら折りたたみ椅子があると便利だ。また長時間、屋外で風にさらされると体が冷えるので、厳冬期でなくても防寒や雨対策は万全に。

フェリーのデッキから海鳥を探す(大洗-苫小牧航路)。5月の海はまだ冷える。厳冬期ほどではないが、フリースや手袋などは必要だ。寒さを感じながらの観察は楽しめないので、十分な装備で臨みたい。

海鳥観察の基本

フェリーの場合、見晴らしの良いデッキから海鳥を観察する。船首に近いほうが観察しやすいが、船によって構造が違うので、乗船したらまず最適なポジションを探すところから始めよう。
海鳥観察の基本は、双眼鏡で海上をスキャンして鳥を探すことだ。一人でこの作業を続けるのは結構しんどいが、何人か同行者がいれば見る目も増えて一層効率的に探すことができる。遠くから近づいてくる鳥をいち早く発見できれば、長く観察できる上、カメラを準備する余裕も出てくるだろう。

ハイイロヒレアシシギとアカエリヒレアシシギの群れ(大洗-苫小牧航路)。船と並ぶように飛んでくれた。ハイイロヒレアシシギの中に、少し小柄なアカエリヒレアシシギが画面上・右下に計6羽写っている。

千里の道も普通種から〜識別への道

“海鳥は似た鳥が多くて見分けるのが難しい”と感じる人は、結構多いのかも知れない。確かに酷似した鳥もいるが、特徴をしっかり観察できれば見分けられる場合が多い。海鳥を覚えるには、とにかく観察が第一。はじめに普通種を知ることで、そうでない鳥や注意すべき種が見えてくる。何が普通種かは、時期や場所、日によっても変わるので、ここでは私がおすすめする5種を紹介したい。

オオミズナギドリ

オオミズナギドリ(左:千葉県沖、右:神奈川県沖)

春から秋の日本近海で、もっとも目にする機会の多いミズナギドリ類。白色の顔に、黒褐色の斑が散在する。暗色の上面と、白色の下面のコントラスト、ゆったりとした飛び方が特徴的。似ているオナガミズナギドリは翼下面のすじ状の斑点がないことで区別できる。魚が多い場所に多数集まり“鳥山”になることもある。

コアホウドリ

コアホウドリ(千葉県沖)

北海道から本州中部の太平洋側で周年見られる。ミズナギドリ類より大型で翼が非常に長く、あまり羽ばたかずに飛び続ける。白い体と目のまわりの黒色が特徴。アホウドリ類の中ではクロアシアホウドリとともに見る機会が多い。

トウゾクカモメ

トウゾクカモメ(千葉県沖)

秋から春にかけて、主に北日本の太平洋側で見られる。本種とクロトウゾクカモメ、シロハラトウゾクカモメはよく似ていて識別が難しいが、本種はやや大型で、成鳥の中央尾羽がスプーンのような形に突出していることで区別できる。ほかの鳥を激しく追いまわし、吐き出した食物を横取りする“盗賊行為”を行うことで知られる。

ウミスズメ

ウミスズメ(青森県沖)

冬に北海道から九州にかけての太平洋側・日本海側海上に渡来し、繁殖地の北海道手売島周辺では春以降にも見られる。ずんぐりした体形で、上面が灰色、下面が白色のツートーンカラー。大きさや羽色が似ているカンムリウミスズメは、成鳥の頭に長い冠羽がある点などが異なる。

ウトウ

ウトウ(千葉県沖)

北海道から三陸にかけての島嶼と知床半島で繁殖する。北海道天売島の営巣数は約38万巣と推定され、日没後に営巣地に戻るウトウの大群を間近に見られる場所として知られる。秋から春にかけては北海道から本州、九州までの沿岸海上で見られる。ウミスズメよりもずっと大型で、オレンジ色の嘴と基部の突起が特徴だ。

観察が先か、撮影が先か

“普通種”の羽色や形、大きさ、飛び方、行動などをくり返し観察すると、次第にその鳥を細部まで観察しなくても感覚的に識別できるようになる。このような雰囲気や印象はJizz(ジズ)と呼ばれ、海鳥に限らず野鳥観察にとても重要なものだ。普通種をぱっと見てすぐわかるようになれば、悩む回数も減り、海鳥観察はずっと楽になる。

写真を撮って、あとから図鑑を見ながら識別するのも一つの方法だが、手当たり次第に撮ると後々の写真整理が苦痛になる。また、観察を通して得られる鳥の大きさ、飛び方、動き、他種との比較点などは、写真では記録できない。海鳥を覚えるには、やはり観察を第一にすることをおすすめしたい。鳥が現れたときにまず観察してある程度、種を絞り込み、次に撮影へと移行すれば、おさえるべき識別ポイントも狙って撮ることができるようになるだろう。

遠方を飛ぶウトウの群れ(稚内市)。大きな頭に短い頸、太めの体形。写真ではわからないが速い羽ばたきで水面を低く弾丸のように直線的に飛ぶ。鳥によっては細部まで観察できなくても、全体の形や飛び方などをもとに識別できる。

海鳥観察を楽しむには予習が大切!

わからない鳥を図鑑で調べるのは当たり前のことだが、船上では事情が異なる。動く船から飛んでいる海鳥を追える時間は短く、せいぜい1〜2分のことだ。限られた時間の中では、その場で図鑑と照らし合わせる余裕などない。むしろ、鳥が見られている間は観察や撮影に集中したい。海鳥観察に図鑑は必携だが、出現が予想される鳥はあらかじめ図鑑で特徴を抑えておきたい。予習していた鳥が実際に現れて、その特徴を双眼鏡でとらえたときは、なかなか興奮するものだ。

 
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・多くのバードウォッチャーが識別に悩むオオハムとシロエリオオハム、ハイイロミズナギドリとハシボソミグナギドリ、暗色ウミツバメ類、カワウとウミウ、トウゾクカモメ類については、写真も交えて詳細に比較・解説。
 
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Author Profile

箕輪 義隆

1968年、新潟県生まれ。科学イラストレーターとして、鳥類を中心に生物を描く。出版物の図版制作を手掛けるほか、作品展を定期的に開催している。千葉県の水辺を中心に野鳥観察やカウント調査を続ける。著書に『鳥のフィールドサイン観察ガイド』、『身近な野鳥観察ガイド(共著)』(以上、文一総合出版)、『見る読むわかる野鳥図鑑(共著)』(日本野鳥の会)などがある。
箕輪義隆挿絵工房

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