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12/21 2020

シマエナガならぬ「チバエナガ」? 眉の薄いエナガの正体

木々の葉も落ちて野鳥が観察しやすい季節になりました。
林を散歩しているときに「ジュリリ、ジュリリ」という声をもとに木の上を探してみるとエナガが見つかるかもしれません。

かわいらしい姿で人気の小鳥、エナガ

エナガはちょっとした公園などでも見かけることができる身近な小鳥。白い体に凛々しい眉、長い尾羽が特徴です。
エナガの中でも北海道に生息する亜種シマエナガは顔が白く、ふわふわの雪玉のようでSNSでも大人気です。

下の2羽がシマエナガ。エナガのような黒い眉がなく、頭は白い。上に止まっているのはエゾアカゲラ

「チバエナガ」とはどんな鳥?

実は、関東でもシマエナガに似たちょっと変わったエナガを見ることができます。

通称「チバエナガ」。エナガほどはっきりした眉ではない

普通のエナガよりも眉がうっすらとしていますが、亜種シマエナガほど真っ白ではありません。眉以外の特徴は全て他のエナガとそっくりです。
こういった個体が主に千葉県北西部のみで見られると噂されていることから、この眉が薄い個体は通称「チバエナガ」と呼ばれています。
通称と書きましたが、実は「チバエナガ」は正式な名前ではありません。普通、日本の鳥は日本鳥学会が出版している日本産鳥類目録に名前が載っているのですが、「チバエナガ」は亜種ではないため目録に載っていません。

種と亜種の関係

そもそも、亜種とは何でしょうか?なんとなく聞いたことがあるけどよくわからない人のほうが多いかもしれません。身近なところではヤマガラと伊豆諸島南部にいる亜種オーストンヤマガラ、キビタキと南西諸島にいる亜種リュウキュウキビタキなどを想像してみてください。エナガと亜種シマエナガも同じような関係性です。
種の中にいくつかの亜種がいて、それぞれ地域によって羽の色やさえずりなどが違います。
亜種は、一種の中の識別可能な集団と言えるでしょう。
では、エナガとはちょっと見た目の違う「チバエナガ」の場合はどうでしょうか?通常のエナガより明らかに眉が薄い個体もいますが、普通のエナガと混在しており、生息している地域内で眉の濃さもバラバラ。また、眉が薄い個体同士の繁殖のほか、眉が濃い個体と薄い個体でつがいになって繁殖していることも確認されています。
エナガと「チバエナガ」をはっきりと分ける境界線は見た目以外に無いのかもしれません。

SNSで分析した「チバエナガ」の分布域

「チバエナガ」の分布域はどうでしょうか?
千葉県野鳥の会の情報によると、千葉県北西部で主に見られると言われています。
しかし、千葉県北西部以外でも見かけたという話もあり、きちんと調べた人はいません。
そこでTwitterで呼びかけて観察情報を集めたほか、個人の観察ブログ等の写真情報を集めてみました。
その結果、2006年から2020年までの観察情報が集まり、「チバエナガ」が27件、普通のエナガ情報が22件集まりました。地図にプロットすると以下のようになります。

 赤い丸に白星:「チバエナガ」
黒いピン:普通のエナガ
 
調べてみると、千葉県北西部以外にも、館山や銚子、栃木県の渡瀬遊水池などで眉が薄い個体の確認事例がありました。
はじめにいわれていたような千葉北西部だけではなく千葉の南端、館山でも記録があったことはちょっと驚きです。
渡瀬遊水池の記録は2009年3月の1羽のみの記録で、「チバエナガ」が移動していったのか、たまたま突然変異で頭が白い個体がその地域で生まれたのかはわかりません。実は長野でも眉が白い個体の記録があり、亜種シマエナガが飛来したとされていますが、もしかしたら部分白化で眉が消えたエナガの可能性も考えられます。
また、千葉県に近い東京都の水元公園でも確認できています。一方、千葉県の富津岬と神奈川県の三浦半島はわずか7kmしか離れていませんが、三浦半島では「チバエナガ」を見たことがないとの証言もありました。
他にもピンが打たれていない場所で眉が薄いエナガを確認した方はぜひ教えてください。

さらに広い視点から見る「チバエナガ」

また、もう一つ気になっている点がこちら。

世界のエナガの分布(Handbook of the Birds of the World Aliveを参照し作図)

これは世界のエナガの分布です。
エナガは世界で19亜種が知られており、大まかにNorthern, Eastern, Southern, Western の4グループにまとめることができるそうです。
Northernは顔が白いエナガ、それ以外のグループは全て顔に濃い眉が入るタイプです。
北海道のシマエナガはNorthernに含まれます。
この地図をみると、顔が白いタイプが分布域の大半を占めていて、分布域の端に顔が濃いタイプが分断されているように見えます。
これは過去にどう進化していったのでしょうか? 顔が白いエナガから、それぞれ独立に顔が濃い個体群が出てきたのでしょうか。
それとも、どちらか端から順に移動して行き、顔の濃い個体→薄い個体→濃い個体へと変化していった可能性もあるかもしれません。
千葉の個体はどのように位置づけられるのでしょうか?
これらのことはDNAを調べれば明らかになるでしょう。近年、DNA解析の技術の発達により過去の歴史推定をすることが出来るようになりました。
身近な鳥にもまだまだ謎が残されています。
千葉周辺にいるちょっと変わった「チバエナガ」。千葉に来たら探してみてください。

Author Profile

望月みずき

旧姓小島みずき。我孫子市鳥の博物館学芸員。仕事の傍ら国立科学博物館にて鳥類の分子系統の研究を行っている。現在のメインテーマであるキジバトとヒヨドリの研究が一段落したら「チバエナガ」など調べたい鳥はたくさんある。

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