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Bird

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12/8 2020

美しい鳥の羽根の世界

いろいろな羽根

「はね」と言われたら最初に頭に思い浮かべるものは何ですか? 鳥の羽根? 昆虫の翅(はね)? または飛行機や羽根つき、バトミントン、はたまた扇風機を思い浮かべた人もいるかもしれませんね。
「はね」は、それぐらい私たちがよく使うなじみ深い言葉です。今回紹介するのは、ほとんどの人(?)が思い浮かべたであろう鳥の羽根です。
本記事では、羽根の雑学や羽根の不思議、魅力をたくさん紹介したいと思います。

「羽根」「羽」「羽毛」

まずは羽根の表記ですが、「羽根」「羽」「羽毛」と一つではありません。
では、皆さんはこれらを意識して使い分けていますか? 意識して使い分けている人は少ないかもしれませんが、実はちょっとした違いがあります。
「羽根」と「羽」は日本語としての使い分けです。「羽根」は鳥の体から抜け落ちた1枚1枚を指し、「羽」は鳥の体についている状態のものや翼を指します。
鳥の体についているときは「羽」の基部(根元)が隠れていますが、抜け落ちると基部が見えるようになるから「羽根」と覚えておけば覚えやすいですね。このような違いから、「はねを伸ばす」「はねを休める」、物では飛行機や弓矢の「はね」も鳥の翼をイメージしているので「羽」を使います。
 

羽を伸ばすコハクチョウ

これに対して、「はね布団」「赤いはね募金」「羽子板のはね」などは1枚の「はね」をイメージしていますから「羽根」を使います。ヘリコプターや風車、扇風機の「はね」も1枚の「はね」をイメージしているので「羽根」です。そして学術的には、鳥の「はね」は全て「羽毛」とするのが正しいようです。「羽根」は「うこん」と読み、「はね」の根元の部分を指します。
ただし、「羽毛」は日本語としては羽毛布団やダウンジャケットの羽毛のように、ふわふわしたものをイメージして使っている人が多いと思います。ここでは私が最も馴染み深い表記という事で「羽根」で通していきたいと思います。

羽根とは?

羽根は鳥だけが持つ特別なもので、鳥が鳥であるために欠かせないものですが、見方を変えると鳥は羽根しか身につけていません(嘴や脚は除いて)。鳥は、飛ぶため、体を保温するため、求愛のため、ディスプレイで音を出すため、外敵から隠れるため、感覚器を司るためなど、多種多様な用途を羽根で対応しています。

ハリオシギの尾羽。高速で飛翔し音を出す

剛毛羽と呼ばれるヒゲにあたる羽根

しかし、その構造は羽軸、羽枝、小羽枝のたった3つから成り立っているシンプルなもので、その3つの構造だけで様々な用途を担っているのです。3つの構造はとても効果的に働いていて、それらが機能することで雨水をはじく効果もあります。

羽根の構造

羽根は羽弁と綿状羽枝に大別されますが、羽弁は羽枝から枝分かれして出ている小羽枝に鉤があるものとないものがあり、鉤があるものがないものを絡めとることで羽枝と羽枝を結合させて羽弁を形成しています。その細かく絡み合った状態は空気を保有し、雨水をはじくのです。この構造が保たれていないと雨水が浸透し、体温が低下、死に至ってしまうため、鳥たちは日々羽繕いをして羽根の手入れを怠りません。

羽づくろいをするカルガモ

また、羽枝と羽枝が引っ付かずバラバラの状態である綿状羽枝は、綿毛の様にふわふわした状態で、多くの空気を含み、保温効果を高めています。その恩恵は私たちも羽毛布団やダウンジャケットという形で受けているので、イメージしやすいのではないでしょうか。

羽根による鳥たちの表現方法

また、ディスプレイ等のために着飾る羽根にも目を見張るものがあります。通常二次元的な構造にしかなりえないシンプルな構造を、マガモやオウチュウのように形を三次元の構造にまで進化させているものまでいます。

マガモのカールした尾羽

オウチュウ科の尾羽(左:カザリオウチュウ,右:カンムリオウチュウ)

ローズフェザーとも呼ばれるヒヨクドリの飾り羽。片側だけに羽枝がある

カンムリヅルの冠羽。羽軸がねじれて羽枝が四方に伸びている

色や模様の表現も多様です。タマシギや海外種のセイランの羽根など複雑な模様をしている羽根もありますが、これは羽根の羽枝1本1本がそれぞれ異なった配色をしており、それが集まることで模様を形成しています。

セイランの目玉模様。羽枝1本に模様が付いているのがわかる

タマシギの目玉模様

羽根ができるまでを見てみると、羽根は最初、植物が芽を出すように伸びはじめ、羽根の先端から徐々に完成していきます。最初は羽枝の束のような形で伸長し、伸びたところから羽枝と羽枝が連結していきます。そうやって配色の違う羽枝がバラバラに伸びて、伸び切った羽枝がパズルのように組み合わさったとき、模様が表れるのです

羽枝1本の配色が違っていたら模様が成り立ちませんから、それだけでも神秘性を感じずにはいられません。野生の鳥は世界に約9,000種がいて、雌雄の違いや色違いなどの亜種まで含めるとその数は計り知れません。

その相当数の種類の鳥たちが、羽根のシンプルな構造をそれぞれの鳥がそれぞれの鳥であるために個性を多様に進化させてきたのです。
『世界の美しき鳥の羽根』ではこのような世界の美しい鳥の羽根を集めました。

世界一の羽根

では、その進化の結果、現在世界でいちばん番長い羽根を持つ鳥は何かご存じですか?
日本の野生種ではヤマドリの尾羽が70~80cmぐらいあります。海外種でも身近なところではインドクジャクやマクジャクの羽根がとても長く、160cmぐらいあります。
しかし、さらに長い羽根を持った鳥がいます。それはカンムリセイランというベトナムやラオスなどに生息するキジの仲間です。尾羽の長さは170cmを越えます。これは野生種のNo.1ですが、家禽までいれるとNo.1は日本の尾長鶏の尾羽です。
尾長鶏は高知県で生み出された鶏の品種で、尾羽が伸び切ることなく、延々に伸び続けます。日本の特別天然記念物に指定されており、記録では13.5mに達したものもいるようです。とはいえ、これは進化ではなく品種改良の賜物ですね。

羽根は身近な存在

そんな魅惑的な鳥の羽根ですが、ここまで読んで遠い世界の存在と感じている人はいませんか? 実はそんなことはありません。
鳥は古くなった羽根を抜け替わらせて新しい羽根にする「換羽」という生態があります。小さな鳥であれば年に1回全ての羽根を換羽します。大きな鳥でも毎年どこかの羽根を換羽しています。
つまり、私たちの周りにいる鳥すべてが年に1回羽根を落としているのです。よって、私たちの周りにはたくさんの羽根が落ちています。通勤途中や散歩のときでさえ、羽根に出会えるチャンスはあります。
また、鳥の羽根は私たちの生活の中にもたくさん存在します。先に出てきた羽毛布団やダウンジャケットにはじまり、装飾品や車の掃除をする毛ばたき、バトミントンのシャトルや羽根つきの羽根、釣りの世界ではウキの材料にクジャクの羽根が使われたり、古くは羽ペンとしての用途もありました。また、日本では矢に用いられたり、茶道では羽箒(はぼうき)として場を清めるために使われています。羽根は私たちの生活と切っても切り離せない存在なのです

羽根を使ったいろいろなグッズ

羽根をコレクションする

世の中にはこの魅惑的な羽根を集めている人がたくさんいます。私もその一人です。羽根の持つ芸術性というか、進化の結果たどりついた究極の構造物といえる羽根が、何でも飽きやすい私を今でも虜にしています。
羽根コレクターというのは、現在では意外に市民権を得ているようで、羽根を集めていると聞いて顔をしかめる人は今まであまり記憶にありません。執着しすぎていることに対して苦笑いする人は私の周りにたくさんいるのですが。 おそらく鳥の羽根が身近な物であり、その魅惑的なものを集めたくなるという心理が理解されているのだと思います。

羽根を識別する

私は元々羽根を識別することに興味を抱いて羽根を集めてきました。
同じような羽根でもどこか違うところがあるものです。鳥が個性を出すために進化してきたその種の違いが隠されていると思うのです。それはどの羽根も同じだと思って見ていると絶対に気づかないものです。何かが違うはず! そんな思いを込めて眺めていることで見えてくるものがあります。
ぜひ皆さんも羽根の世界に足を踏み込んでみて下さい。きっと魅了されて羽根を集めたくなるに違いありません!

●羽根の世界への一歩
『羽根識別マニュアル』


  • トータルで265種の鳥の羽根を掲載。サンコウチョウの尾羽やサケイ、ルリカケスなど貴重な羽も多数。

  • 眺めるだけでも美しい羽根を集めたページでは、識別のポイントをキャプションでわかりやすく解説。チャートでわかる絵解き検索つき。

  • もう一歩踏み込んだ、顕微鏡を使ってみる鳥の世界も掲載。


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Author Profile

藤井 幹

1970年、広島県生まれ。(公財)日本鳥類保護連盟の調査研究室室長としてワカケホンセイインコの分布状況調査やコアジサシの研究などを行う。羽根には学生のころから魅せられ、収集に明け暮れていたが、収集だけでなく識別点にもこだわって取りまとめてきた。著書に『動物遺物学の世界にようこそ!―獣毛・羽根・鳥骨編』(共著、里の生き物研究会)、『世界の美しき鳥の羽根 鳥たちが成し遂げてきた進化が見える』(誠文堂新光社)、『野鳥が集まる庭をつくろう―お家でバードウオッチング』(共著、誠文堂新光社)

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