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  • 鳥

1/29 2021

鳥が好きな木の実の味は? 〜実際に味わってみた〜

野鳥の食べ物といえば木の実を連想する人は少なくないだろう。では、食べている実の名前は?その味は?鳥が好きな味は甘い味なのか?それとも渋い味なのか?
「野鳥と木の実」をテーマに多くの写真を撮影してきた叶内拓哉氏に、鳥の好む木の実の味を教えてもらった。

野鳥が好む木の実の味

「野鳥と木の実」というテーマでの撮影は、もう何年もやっていて、何冊かの本にまとめることもできている。それでも、「やりつくした感」はまったくなくて、やればやるほど奥が深くて、ますますのめり込んでいるところだ。
はじめは、野鳥が赤い木の実を食べているところを撮影できたらキレイで絵になるだろうと、単なる被写体として見ていたのだと思う。木の実といえば、秋から冬のイメージが強かったし、とにかく野鳥は赤い実を食べることが多いだろうと思い込んでもいた。
それが、ちょっと注意して見るようになると、大間違いだったことがすぐに分かった。野鳥は赤い実よりも黒っぽい実の方を好む傾向があること、秋から冬でなくても、木の種類によってあらゆる季節に木の実があり、野鳥たちはそれを見極めて、いろいろな時期に、自分が好む木の実を採食していたのだ。
そして、新たに分かったことも多かったし、野山を飛び回っていた子供の頃の経験を少しずつ思い出して、野鳥と木の実の組み合わせでの撮影にどんどんはまってしまった。
私が育ったのは東京郊外の三鷹市で、今では想像もつかないくらいの田園風景が広がっていた。武蔵野の森があり、水田や畑もたくさんあった。物心が付いたときには、私はすでに野鳥好きだったので、とにかく毎日野山を駆け巡って遊んでいた。
当時のそんな毎日での最高のおやつは、そこらに自然に実っている木の実だった。よく口にしたのはクワの実で、口の中だけでなく、唇や手も紫色にしたし、着ていた服にまで青いシミをつけまくって、親によく叱られたものだ。グミの仲間の実もよく食べた。渋い実と甘い実の区別は瞬時にできたし、口に頬張りながら先に口に入れていた種を吐き出す食べ方はなかなかの技術だったと思う。
春はウグイスカグラ、秋はカキもよく食べた。甘柿の木は少なかったが、自由に勝手に採れる甘柿の場所を知っていると、仲間たちの中ではちょっとしたヒーローになれた。
 

ウグイスカグラの実。野鳥はほぼ食べないが、熟すと甘くて美味しい

その代わり、たいした知識もないまま、目についた木の実を手当たり次第に口にしていたのだから、下痢をしたり、吐いたりしたことも一度や二度ではなかったような気がする。
だが、今となってみれば、当時のただの悪ガキのやんちゃな経験が絶対的に役立っている。まず、人間がおいしいと思う木の実と、野鳥が好む木の実はぜんぜん違うということ。そして、同じ樹種でも野鳥がよく食べる木と、ほとんど食べない木があることなどは、当時からなんとなく分かっていて、いまだに解決できない不思議に思うことの一つだ。
2006年に出版した「野鳥と木の実ハンドブック」の制作が始まる少し前から、野鳥がよく食べる木の実の味を調べ始めた。野鳥の好みと、人間が感じる味にどんな違いがあるのかを、子供時代や植木屋時代の経験などを思い起こしながら、ちゃんと確かめてみたいと思ったのだ。
毒性が強いと言われているものや、まずいことが分かっているのであまり口には入れたくないもの、高木で採取できないものなど、いろいろな木の実があったが、できるだけ口に入れて味わってみた。

トキワサンザシを食べるオナガ。トキワサンザシの実は口に入れると多少は甘いが、渋くて後味が悪い。 12月ごろ、トキワサンザシには2〜3時間おきにやってくる

 
思った以上に美味しかったとか、見た目ほど美味しくはなかったなど、味に関してはいろいろなことが分かって面白くはあったが、結果的には惨敗。木の実の味と、野鳥の好みの因果関係は全く分からなかった。
まず、その木の実を口にするタイミングが非常に難しかった。見た目で熟していると思っても、口に入れてみると違うと感じたこともあったし、同じ樹種でも木によって結構違う味のものも多かった。一応、ある程度は同じ条件で調べようとは思っていたが、実際にどういう状態が完熟なのかが分からないものも多く、時期をずらして同じ木の実を何度も口に入れたこともあった。
だが、考えてみれば、野鳥だって人間と同じで、完熟よりも早めに食べる方が好みだというものがいても不思議ではない。人間の好き嫌いと同じように、野鳥にも、野鳥の種類や個体によってもきっと好みがあるのだろう。人間と野鳥の採食条件は、やはり当然違うということを再認識しただけに過ぎず、結局、その野鳥の行動から、好き嫌いを判断するしかできないのかもしれない。
人間が食べておいしいと思う木の実は、野鳥はほとんど好まないようだということも改めて分かった。イチゴの仲間や、日本の原産ではないが野生化したフサスグリやマルスグリ(グーズベリー)などの実はあまり食べないし、一番よく食べると思われるカキも、甘柿よりも渋柿の方を好んでいる野鳥が多いようだ。渋柿は何度か霜がかかって、多少は渋の抜けたものを食べるようだが、それもやはり「好み」なのだろうと思う。

カキの実を食べるスズメ。完全に動物質だけしか食べない鳥は別として、私はカキの実を食べない鳥を知らない

 
食べ方も野鳥によっていろいろで、小さい小粒の木の実を採食する鳥には、木の実をそのまま丸呑みにするものと、木の実の果肉部分をつついて食べるものや、果肉部分は食べずに中の種子だけを食べるものなどがいて、野鳥の種類によって違いがあるようだ。これも、木の実の味に関係があるのか、ただの野鳥の大きさによるものなのか、やはり単なる好みなのかなど、疑問はつきない。
「野鳥が好む木の実の味」とはどんなものなのか。私のようなただのカメラマンが調べようと思っても、結局何も分からずに、よほど本気を出さないと相当難しいということもよく分かった。
私は勉強不足で見つからなかったが、「食品成分表」のようにたくさんの木の実の成分を調べた「木の実成分表」みたいなものがあれば、「野鳥が好む木の実の味」も少しは分かるのではないかと思っている。そんなことを調べている、物好きな植物研究者が現れないだろうかと心待ちにしている。
悔しいけれど、やはり「野鳥と木の実ハンドブック」は、この野鳥はこの木の実をよく食べるとか、この木の実にはこんな野鳥もやって来るというようなことを、ただお知らせするだけの本である。それでも、野鳥観察には必要な大きな情報だとは自負しているけれど。

『野鳥と木の実ハンドブック(増補改訂版)』より、木の実の味紹介

ナナカマド
好む鳥:ツグミ類・アトリ類・レンジャク類
味  :口に入れても味はないが、ジャムや果実酒などに適しているのは同じ仲間のタカネナナカマド。

ナナカマドを食べるヒヨドリ

ウメモドキ
好む鳥:ヒヨドリ・ツグミ類・メジロ
味  :味らきしものはなく、不快感だけが残る。

ウメモドキを食べるジョウビタキ

カラスザンショウ
好む鳥:ツグミ類・ウグイス類・ヒタキ類
味  :鳥からの人気が高いので、私も興味深かったが何の味もしない。鳥の好みの基準はわからない。

カラスザンショウを食べるハシボソガラス

ムラサキシキブ
好む鳥:ツグミ類・ウグイス・メジロ
味  :熟すとほんのり甘い。

ムラサキシキブ

ヌルデ
好む鳥:キジ類・ツグミ類・アトリ類
味  :しょっぱい感じがする。

ヌルデ

ヤドリギ
好む鳥:レンジャク類・ムクドリ
味  :たいへん甘く、一瞬、おいしいと思うがその後1時間くらいは口の中がべとべとして、不快感を味わうことになる。

ヤドリギ

もっと知りたい!木の実の味と鳥の関係!

『野鳥と木の実ハンドブック』 増補改訂版

叶内拓哉 著 / 新書判 / 104ページ

ISBN 978-4-8299-8167-2  

定価1,540円(本体1,400円+10%税)

木の実をヒントに鳥を楽しむ本。改訂版では鳥がよく食べる草の実も加え、木の実93種、草の実16種を掲載。実際の観察に役立つよう、木の実は赤や黒などの色別に並べ、鳥が食べる時期と実の色の変化を示す色変わりバーを掲載。どのくらい鳥に好まれるか、その実は人が食べてもおいしいのかといったユニークな解説を収録。


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Author Profile

叶内拓哉

1946年東京都生まれ。物心がついたときにはすでに野鳥好きだった。東京農業大学農学部農学科卒業。卒業後9年間造園業に従事し、その後フリーの野鳥写真家となる。著書に「野鳥と木の実ハンドブック」「ポケット図鑑 日本の鳥300」(文一総合出版)など、他多数。

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