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Insect

  • 虫

4/25 2018

花とハナバチの切っても切れない関係

ハギの花を訪れるミツクリヒゲナガハナバチのメス。押し下げられた花からおしべとめしべが出ているのがよくわかる

ドウダンツツジの花を訪れるトラマルハナバチ。このハチを重要なパートナーとしている花は多い

花とハナバチの関係

春に白い花をたくさんつけるドウダンツツジ。スズランのように下向きに咲いたこの花にやってくるのは主にハナバチの仲間です。
ハナバチとは、幼虫のえさとして花から得られる花粉と蜜を利用しているハチたちのことで、成虫のえさも同じです。口は舌が伸びて蜜を吸いやすくなり、体には羽毛のように枝分かれした毛があって花粉がつきやすく、さらに集めた花粉を蓄えるための特殊な毛(集粉毛)が、後脚や腹部の下面に生えています。それだけに花を訪れる回数や時間は、ほかの昆虫より多く、そのときのいちばんいい条件の花を選んで、その花にくり返して来る習性があります。
花にとってハナバチは、とてもありがたい花粉の運び手(送粉者)です。このため、ハナバチだけに来てもらえるように形や構造を変えた「ハナバチ媒花」といわれる花もたくさん知られています。例えばドウダンツツジは、下向きの花を長い柄の先に吊り下げるようにつけることで、逆さまになって止まるのが苦手といわれるチョウやハナアブを遠ざけるようにしているといわれています。

ドウダンツツジの花

フジとハナバチ

また、藤紫のきれいな花で春を彩るフジもハナバチ媒花で、ヒゲナガハナバチやクマバチなど中・大型のハナバチがよく飛んできます。
ここからはちょっとだけ理科のお話。フジの花は「旗弁」「翼弁」「舟弁」と呼ばれる5枚の花びらでできています。正面を向く1枚の大きな花びらが旗弁で、花を目立たせることと、蜜のありかを知らせる蜜標があります。その下に重なり合うように突き出ている花弁のうち、外側の2枚は虫が止まるときの足場になる翼弁で、内側でくっついている2枚がめしべとおしべを包み隠す舟弁です。

フジの花

翼弁と舟弁をハチがするように押し下げた写真

フジの花を訪れるニッポンヒゲナガハナバチのメス。
飛びながら体についた花粉を後脚の運搬毛に集めている

ハチが奥に隠されている蜜を吸おうとして顔を押し込んだときにかかる脚の力で、翼弁と舟弁が押し下げられ、外に出てきためしべとおしべがハチの体に付きます。レンゲ、シロツメクサ(クローバー)、ニセアカシア、ハギなど同じマメ科の多くが、よく似た形状の花をつけ、ハナバチが重要な送粉者になっています。

大きいけれどおとなしい、クマバチ

ところで、「藤の咲くところクマバチあり……」といっても過言でないくらい、よく見る大きなハチがクマバチです。藤棚の周りでなわばりを作り、ホバリングしながらメスを待つオスの姿や、大きな羽音を立てながら、花から花へと飛び移ってえさを集めるメスの姿がよく見られます。全身黒ずくめで、胸部だけが鮮やかな黄色い毛に包まれた、かなり目立つ大きなハナバチなので、その姿に恐怖を感じる人も少なくないようですが、見た目と違ってとてもおとなしく、つかんだりしない限り、目の前まで近づいても刺される心配はいりません。

フジの花を訪れるクマバチのメス。営巣初期によく訪れる。どちらにも大切なパートナーである

占有飛行をするクマバチのオス。メスが現れそうな場所でなわばりを作る。動くものに反応する

ミツバチのように家族の集団で巣作りせず、越冬明けのメスが交尾の後に、1匹で太い枯れ枝などに穴を掘って巣を作ります。枝の代わりに古くからある神社やお寺などの屋根の化粧垂木などを利用することも多く、1円玉サイズのきれいな丸い穴があったら、クマバチが巣作りであけた穴です。このハチは太くて丈夫な口吻を使い、花の外側から穴を開けて蜜だけを吸い取る「盗蜜バチ」として知られていますが、子育ての時期は蜜よりも必要な花粉をたくさん集めるので、送粉者としても充分に役に立っています。

ハナバチを観察してみよう

日本だけでも400種ほどのハナバチが知られていますが、花の中にはさらに特定のハチだけを選び、そのハチの口の長さや体形に合わせて、花の形や構造を変えたものも知られており、逆に特定の花だけを頼りにして訪花してくるハチもいます。
野生植物ばかりではありません。花粉交配によって得られる、トマトやナス、ピーマン、キュウリ、カボチャ、スイカ、メロンやイチゴ、リンゴ、ミカン、ブルベリーなど多くの野菜や果物は、ミツバチやマルハナバチ、マメコバチなどの助けを受けることで、人の手でやっていた花粉交配の手間が省け、収穫量も増え、安心かつ安全に、大量に生産することができるのです。野外で生産されている作物の場合は、多くの野生ハナバチたちも花粉交配の手助けをしてくれています。
ハチ=刺す……というイメージの人が多いかもしれませんが、ほとんどのハチはつかむなど、よほどのことをしない限り、刺してくるようなことはありません。必要以上に怖がることなく、そばで観察してみてください。花から花へと忙しく飛び回ってえさ集めをしている姿を見て、応援したい気持ちになってもらえればうれしいです。

Author Profile

藤丸 篤夫

1953年,東京都生まれ.育英工業高等専門学校(現サレジオ工業高等専門学校)卒業.観察テーマは自然全般が対象だが,中心は昆虫の生態.飼育観察が趣味で,磯で採集した小魚や甲殻類,カエル,イモリなどの両生類も飼育したことがある.飼育によって自然下ではなかなか観察できない行動(生態)をかいま見ることができ,後に役に立つことが多い.
著書に『ハチハンドブック』(文一総合出版)しぜんといっしょ(4)どんぐりむし』『しぜんといっしょ(7)カラスウリ』(そうえん社),『虫の飼いかたさがしかた』(福音館書店)せんせい!これなあに?(1)いもむし・けむし』(偕成社)など.

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