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6/7 2021

東京都心に “消えたインコのねぐら”を求めて 〜インコのねぐらは混沌だった

関東近郊に住んでいる人は、空を飛ぶ緑色の大きな鳥を見たことがあるかもしれない。
その正体はペットとしても人気の鳥、ワカケホンセイインコの可能性がある。

ワカケホンセイインコ。嘴や足を器用に使って、次々とヤマモモの実を食べていた

ワカケホンセイインコは本来インド南部やスリランカに生息している鳥だが、1960年代から飼い鳥が逃げ出したりして野生化し、群れを作って繁殖し、今でも関東近辺で暮らしている。

バードウォッチング専門誌『BIRDER』では、そのねぐらを取材したことがある。
この鮮やかなインコの群れはいったいどんな場所で暮らしているのだろう。

インコのねぐらを探せ!

東京のインコのねぐらといえば,東京工業大学(以下,東工大)大岡山キャンパスが有名だ。ここの主はホンセイインコ(亜種ワカケホンセイインコ)だが,1,000羽を超えるねぐらの喧噪は英語のリスニング試験に支障をきたす恐れがあったので,防音工事をしたというニュースが話題になったことがある。
しかし,都内のインコのねぐらに詳しい(公財)日本鳥類保護連盟の藤井幹氏に取材協力を依頼したところ,「東工大のねぐらは数年前に消滅しましたよ」という衝撃の事実が判明,取材は暗礁に乗り上げたかと思われた—。

6月14日、都内某所

2017年6月、ワカケホンセイインコはどこでねぐらをとっているのか、藤井氏からいくつかの情報をもらい、編集部が向かったのは、昭和の雰囲気が色濃く残る、都内のとある団地そばの公園だった。

6月14日のねぐら木。団地の中にある普通の公園だ

使用中止になった遊具が点在する園内を、ヤブ蚊の攻撃に耐えつつ歩くと、カラスの羽がやたら目につく。
ねぐら入りの前に、ここにインコが多数集まる証拠を探していた我々は「実はここはカラスのねぐらで、インコはいないのではないか……」と疑心暗鬼に駆られつつあったが、その直後に日本の鳥離れした光沢のある緑色の羽を複数見つけ、ひと安心してねぐら入りするインコを待つこととした。
 
17時45分、けたたましい鳴き声とともに南から最初のインコが数羽飛来。ちょうどそのとき、現地での案内をお願いした岡安栄作氏(藤井氏と同じく(公財)日本鳥類保護連盟所属)が自転車でさっそうと登場し、観察が始まった。

カラスとインコと中学生

岡安氏の話によると、このねぐらはカラスと共有という珍しいもので、インコは200羽くらいいるとのこと。
飛来したインコはねぐらに入る前に近くの別の木に止まり、採食したり休息をするという。
緑の葉の中に緑の鳥が止まると思いのほか目立たないが、木の上から“降ってくる”金属的な鳴き声を頼りに我々はインコを観察した。
しかし、公園を通る一般の人はインコには目もくれない。慣れているのか、あるいは正体がわからず関心がないのか、ほとんど素通りであった。
 
18時30分付近になるとインコの飛来はピークを迎えた。そしてインコに加えて数多くのハシブトガラスも飛来。さらに隣接する中学校からは部活動のかけ声が聞こえてくる。

ハシブトガラスと一緒にねぐら入りするワカケホンセイインコ。特に意識するでもなく、平然と同じ木に止まっている

3者の声が混ざり合って、現場はまさに「混沌(カオス)」とでも表現したくなるような喧噪に包まれ、ただただ圧倒された。ねぐらを共有するといっても、カラスとインコが仲良くということはなく、時々カラスがインコにちょっかいを出して散らし、インコは鳴き立てて対抗するという場面があると思えば、同じ木の隣の枝に止まってお互いに無関心といった場面もあり、日が完全に落ちても騒がしさが収まる気配はなかった。
 
藤井氏はこのねぐらが東工大のねぐらの規模縮小後にできたと考えている。
東工大での調査によるとワカケホンセイインコは20km以上離れた地点からもねぐらに飛来していたので、東工大ねぐらから分散した個体の一部ということになるだろう。
しかし、なぜカラスのねぐらにわざわざ侵入したのか、そして残りのインコはどこに行ったのか、その謎の手がかりを探すために、我々は消滅した東工大のねぐらに向かうこととした。

6月20日、東工大

梅雨の中休みといった晴れ間が広がるこの日、我々はかつて大規模なねぐらがあった東工大のキャンパスにいた。
藤井氏の情報によると、ねぐらはキャンパス内のイチョウ並木にあったとのことで、場所もすぐにわかったが、消滅が2015年ということもあり、その痕跡を見つけることはできなかった。

かつての大規模ねぐらだった東工大のイチョウ並木。今はその面影は残っていない

イチョウの木は太い枝が切られ、強剪定の痕跡が残っていた

インコたちが止まっていたであろうイチョウには太い枝が切られた跡がいくつか残っており、樹形が変わるほどの強剪定が行われたことがうかがえた。
藤井氏の話では6〜7年前に行われたこの剪定の時点で、ねぐらの規模はかなり縮小したとのことだ。さらに、ねぐらの隣に新しく建てられた建物によって、ねぐら前の視界はかなり遮られていた。止まり木が減り、周辺の環境も変わったことに加え、ねぐらにはオオタカやハヤブサ、ハシブトガラスが頻繁に襲来していたらしい。
これらの原因が重なって、インコたちはキャンパス内のねぐらを放棄したのではないかと推測されている。
 
ハシブトガラスといえば14日に訪ねたねぐらはカラスとの共有であった。外敵でもあるカラスと一緒にいるのはどういうことか?
ここからは想像だが、インコはカラスのねぐらにあえて入ることで、より強いオオタカやハヤブサに対する防衛にカラスを利用しているのかもしれない。数ある外来鳥の中で一大勢力を築いたインコだけあって、その程度のしたたかさがあっても、不思議ではなさそうだ。

同日夕方、都内某所

東工大を出た我々は、電車で新しいねぐらへ向かった。藤井氏によると、ここは東工大のねぐらが消滅したタイミングでできた、比較的新しいものだそうだ。
よく整備された公園で、14日に訪れた公園とイメージはかなり異なる。利用者も多く、ねぐらの木のすぐそばにはテニスコートがあり、夜間でも人の出入りはありそうだ。
ねぐらになっているのは青々と茂るイチョウとヒマラヤスギで、木の下で大量の糞と、ここにインコがいる証拠でもある羽を見つけた。
さらに到着したのは17時とまだ明るいが、その時点から散発的にインコの姿も見られ、ここは期待できそうだと、我々は安心してインコの大群が来るのを待つこととした。

6月20日のねぐら木。周りはよく整備された公園で明るく、人通りも多い

ムクドリとインコと 子どもたち

日は傾き、徐々に暗くなってきたが、相変わらずインコはパラパラと飛来するだけで、それよりも大量のムクドリが目についた。どうやらこの近くにはムクドリのねぐらもあるらしい。公園で遊ぶ子どもたちの声もにぎやかで、ここでも「混沌」な状況が展開されるのかと楽しみになる。
ふと、ねぐらの木からやや離れた場所で複数のインコの声が聞こえてくることに気づいた。近づいてみると、植栽されたヤマモモの木に多数のインコとムクドリが群がっている。
ヤマモモはちょうどおいしそうな実を付けており、どうやらねぐら入り前の腹ごしらえをしているようだ。よく観察してみると、嘴でもぎ取った実を、なぜか足で器用に持ち直し、それを再び嘴に運んで咀嚼しながら食べている。
隣に止まるムクドリが丸呑みにしているのとは対照的な、インコらしいしぐさであった。

ムクドリと一緒にヤマモモの実を採食するワカケホンセイインコ

それにしても近い—木のすぐそばまで行っても、ほとんど逃げることなく、むさぼるように実を食べている。
よく見ると、木に集まっているインコの大半は、頸に輪のない“ワナシホンセイインコ”で、藤井氏によると、これは巣立ったばかりの若鳥だという。

親鳥(右)に食物をねだる若鳥(右)

木のそばの電線を見ると、親に実をねだる若鳥の姿もあった。すぐそばに実がたくさんあるというのに、親にもらいたがる横着な若鳥もいるということだろう。
また、かつての東工大のねぐらには、ワカケホンセイインコ以外にもダルマインコなど別の種類のインコもいたそうだが、この日の観察ではワカケ以外のインコはいなかった。

18時30分を回ってもヤマモモの採食は続いていたが、ねぐらの木にもだいぶ動きが出たようだ。戻ってみるとヒマラヤスギの枝のあちこちにインコが止まっていた。
インコの黄緑色の体色は、濃緑色のヒマラヤスギの中だと意外に目立つ。周辺は明るく、さらにねぐらの木の前は開けているので、木に入ってくるインコを見ることも簡単だ。

ねぐらのヒマラヤスギに入ったところ。黄緑色の体色は意外とよく目立つ。数えてはいないが、情報では500羽以上は飛来しているらしい

14日の公園ではインコたちはねぐら前の集合場所から一気にねぐらに入り、後はあまり動きがなかったが、ここのねぐらは近くに採食場所があること、周辺が明るいこともあり、ダラダラとねぐら入りが続くような印象であった。
 
こうして都内の新旧のねぐらを取材することができた。現在のねぐらとなっている2か所は、いずれも喧噪に包まれ、しかしながら我々以外の人はほとんど見向きもしないというのが印象的であった。
東工大に集中していたインコたちは、そのねぐらの消滅に伴い、関東近縁に分散しているらしい。
皆さんの周りにも、人知れず、インコのねぐらができているかもしれない。今回、取材協力をお願いした(公財)日本鳥類保護連盟ではインコのねぐらに関する情報を集めている。
バードウォッチャーの目がなければ、どんなに騒がしくても存在に気づかれにくいインコのねぐらを、ぜひ探してみてほしい。
 
インコのねぐらに関する情報提供はこちら!
(公財)日本鳥類保護連盟 調査研究室(担当:藤井)
☎03-5378-5691
research@jspb.org
 
(本記事はBIRDER2017年8月号特集「インコ・オウム大事典」より同タイトルの記事を引用しています。)
(文章・写真:BIRDER,協力:藤井幹,岡安栄作)

Author Profile

BuNa編集部

株式会社 文一総合出版の編集部員。生きもの、自然好きならではの目線で記事の発信をおこなっている。

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