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Bird

  • 鳥

8/13 2021

ツバメの軒先暮らし 〜コンビニは超優良物件〜

ツバメ

東南アジア方面から日本に飛来する鳥、ツバメ。
家の軒先に巣を作られた経験がある人もいるかもしれません。
ツバメは何を条件に巣をつくる「物件」を選んでいるのでしょうか?

物件選びの条件

私の観察では、ツバメは特に子どもが学校に通っているような家や、学校の近く、お店の軒先、駅など、人の出入りが多い場所を見定め、巣を作っているように思えます。
普通の鳥は、人通りが多いところは避けるのに、なぜわざわざ人の出入りを重要視しているのでしょう。
人が家を選ぶとき,特に子どもがいる場合、その地域の治安についてはよく調べるはずです。街灯はきちんとついているか? 周囲に暗くて危険な道はないか? など気がかりな点をチェックするでしょう。
それと同じで、ツバメも「子育て中敵に脅かされない暮らし」を求めます。

コンビニの軒先で子育てするツバメ

ツバメの天敵
ツバメの敵といえば、真っ先に挙がるのはネコやヘビ、カラスです。特に、足場がなくても巣に近づけるカラスはいちばんの天敵です。
しかし、家の玄関先までカラスがやって来れば、人は驚いてカラスを追い払ってしまうでしょう。それこそがツバメの狙いです。
いわば、人はツバメの「ガードマン」として機能しているのです。
 
しかし、人からあまり気にされない敵もいます。
私の実家でも、ツバメが毎年繁殖していました。一日一回のフン掃除や観察をしていたのですが、一人暮らしを始めて家を離れたことで毎日巣の様子を見守れなくなりました。
それを好機とみたのか、近づいてきたのがスズメとイソヒヨドリです。
彼らにとっても、カラスやネコに近づかれないのは好都合。人が巣の近くにいることが減って、なおさら近づきやすくなったのでしょう。
スズメはツバメを追い出して巣を乗っ取ってしまいますし、イソヒヨドリは卵や雛を捕食してしまいます。
そうして実家のツバメは繁殖が成功しなくなりました。

スズメ

イソヒヨドリ

ツバメにとっての理想の物件は「巣を攻撃したりしない、不特定多数の人間が絶えず出入りするところ」です。そして、その条件を満たすツバメの人気物件が、高速道路のサービスエリアや24時間営業のドラッグストア、コンビニです。
そうした場所では防犯のために監視カメラが一店舗でも複数設置されています。監視カメラはツバメが巣を設置しやすいのも高ポイント。これだけでも好立地でガードマンつきの優良物件ですが、メリットはそれだけではありません。

監視カメラに作られた巣

コンビニに巣を作ったツバメ

コンビニはツバメの超高級マンション

周囲を田園に囲まれる千葉県南東部のとあるコンビニに、5つのツバメの巣を見つけました。複数の巣がかけられている店は今までも見かけたことがありましたが、これほどまでに多くの巣を見たのは初めてでした。

5か所につくられた巣

オーナーに話を聞いてみたところ10年前にツバメが巣を作り始めたのをきっかけに徐々に数が増えていき5年前に現在の巣の数になったそうです。手書きのイラスト付きのポスターを設置し、お客さんにツバメの巣があることを知らせて理解を求め、毎朝ツバメの巣の下に敷くダンボールを交換して衛生面にも気を遣っています。
深夜にアオダイショウがツバメの巣を襲ったことがあるそうですが、それも店員さんが阻止し、未遂に終わったそうです。
さらに、最近だと照明をLED電球に変える店が多いらしいですが、この店舗は昔ながらの蛍光灯を使用しているので、ツバメは蛍光灯に集まる昆虫を日夜問わず捕まえて雛に与えられる環境も整っています。
蛍光灯はLED電球の明かりよりも虫が誘引されるので、まさしく入れ食い状態です。これでこの場所は好立地24時間ガードマン、食べ放題付きの超優良物件となりました。
近隣のコンビニやスーパーでもツバメがは繁殖しているのは確認したのですが、2巣以上のツバメが繁殖しているのはこのコンビニだけでした。

巣立った後のツバメ

ツバメの雛たちは巣立った後もコンビニの巣の周辺で親鳥から食物をもらいながら、飛び方や虫を捉える方法を1週間程度学ぶようです。
その期間が終われば親からの独り立ちを始め、親とではなく兄妹と一緒にいることが多くなり、コンビニに留まることも減っていきます。親が2回目以降の営巣を始めれば、一番子たちを追い出すこともあります。

巣立ち後も食べ物を子どもに運ぶ親ツバメ

巣立ったツバメたちは群れを形成し、巣立った場所より少し離れた場所で、ほかのツバメが営巣していない人家、納屋、管理されていない竹林などに数日泊まるという暮らしぶりになります。
「親にいい場所から追い出されるなんて不利じゃないか」と感じるかもしれませんが、一番子たちにはそれなりのメリットがあります。獲物となる昆虫が多く発生する6月中旬に狩りの経験を積み、渡りに向けてのエネルギーを蓄えられるのです。
8月ごろになれば、分散していたツバメたちはさらに大きな群れを作るようになります。その規模は5千〜1万羽にもなります。彼らが寝床となるヨシ原に集まるのは「ツバメのねぐら入り」と呼ばれ、観察会なども開かれています。
そうして秋になれば去っていき、来年はあのコンビニに戻ってくるのでしょう。

Author Profile

岡本勇太

高校生のころにオカメインコを飼ったのと、近所の川にコハクチョウが飛来したのがきっかけで、バードウォッチングを始める。オカメインコの野生の姿が見てみたいと思い立ち、オーストラリアに行ったのがきっかけで、野生のインコ・オウム類の撮影がライフワークになる。『BIRDER』(文一総合出版)や『鳥ぐらし』(東京出版)などに記事の提供・執筆を行う。主な著書に『beauty in the nature』(イーフェニックス)、『インコのびのび』(文一総合出版)、撮影協力で『ダーウィンが来た〜東京で復活中!絶滅危惧種コアジサシ』などがある。

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