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11/5 2021

奄美の魅力 〜世界自然遺産に選ばれた自然の生命力〜

ケンムン(奄美群島に伝わる妖怪)がすむというガジュマルの巨木

2021年5月10日、奄美大島のほか、徳之島、沖縄島北部及び西表島(鹿児島、沖縄)について、世界遺産委員会の諮問機関である国際自然保護連合(IUCN)は世界自然遺産への登録を勧告し、7月26日には正式決定しました。
世界自然遺産に登録されるには、登録に値する生物多様性の豊かさや固有種の存在だけでなく、それを含んだ生命力の強さが求められます。奄美の自然はとにかく生命力にあふれています。そこがすごさであり、魅力の源なのです。
 
そんな奄美大島の魅力をご紹介しましょう。

奄美の風景

奄美大島は「眠らない島」です。本土とは違い、冬場も比較的暖かく、年間を通して生物が活動します。島の木々は落葉樹が少なく、亜熱帯照葉樹林が多いのですが、特におもしろいのは2月下旬から3月の新緑の季節です。エゴノキタブノキシマウリカエデなど樹種によって少しずつ芽吹き始める時期が違うので、森はじわじわとその様子を変えていきます。
最盛期には優占種のスダジイ(オキナワジイ)が一斉に芽吹き、森はモコモコとした柔らかい黄緑色に包み込まれます。よく「ブロッコリー」と形容されるのですが、まさしくその通り。
私は奄美に移住して15年以上経ちますが、毎年この季節になると、「奄美に来てよかった」と心底うれしくなります。奄美の新緑は本土の紅葉に匹敵、またはそれ以上の見応えがあると思っています。

ヒカゲヘゴの新芽

ブロッコリーのようともいわれる新緑の森

一歩森に入ると、中は尾根や谷、小さな支流から川幅の広い本流まで多様な地形に富んでいます。
深い谷間では湿度が高く保たれるので、幹にいくつものシマオオタニワタリ(大型の着生シダ)をまとう木々が多いだけでなく、複数の希少な着生ランや着生シダのよりどころのようになっている巨木もあります。

奥深い森は希少種の宝庫。木の枝に乗っているように見えるのはシマオオタニワタリ(着生シダ)

キバナノセッコク(着生ラン)

ナゴラン

モダマ。世界最大級のマメ科の植物

さらに、奄美大島にはマングローブ林もあります。

マングローブの林。マングローブは種の名前ではなく、熱帯、亜熱帯の河口や汽水域沿岸に生える植物の総称

息づくものたち

奄美の生物といえばアマミノクロウサギが有名です。さぞ苦労しなければ見られないだろう、と思う人も多いようですが、実は集落にほど近い林道でも、夜間なら高確率で姿を表します。アマミノクロウサギ以外にもさまざまな希少種がいますが、私が奄美にやってきたばかりのころ、あこがれのカエル、アマミイシカワガエルが舗装道路の上にちょこんといました。こんなにあっさり出会えるとは、と拍子抜けしたことは今も強く印象に残っています。

見るだけで心が癒されるアマミノクロウサギの幼獣。国の特別天然記念物であり、国内希少野生動植物種

アマミイシカワガエル。鹿児島県の天然記念物であり、希少野生動植物種の指定も受けている

鳥もさまざまな種類が見られます。私が住んでいるところでは、季節によってオオトラツグミアカヒゲリュウキュウカショウビンサンコウチョウなどのさえずりが聞こえ、ルリカケスオーストンアカゲラなども観察できます。秋になればサシバシロハラなどの冬鳥が越冬でやってくるほか、珍鳥を含む多くの旅鳥・迷鳥も飛来します。

リュウキュウアカショウビン。4月末ごろから渡来する夏鳥

どんぐりを拾うルリカケス(センサーカメラで撮影)。日本固有種。鹿児島県の県鳥

冬になれば、暖かい奄美でも北風が強い日が多く、想像していた以上に寒く感じるかもしれません。そんな日は、変温動物の爬虫類や両生類は地面や岩のすき間などでじっとしていることもあります。でもそれは「冬眠」ではなく、気温が上がればすぐに動き出します。
本土でもアカガエルの仲間が真冬に産卵しますが、奄美でも真冬に繁殖期を迎えるカエルがいます。種ごとに繁殖期は異なりますが、繁殖期間は何か月も続き、常に何かしらの種が繁殖しているのです。

なかなかお目にかかれないアマミハナサキガエルの大産卵

夜にはリュウキュウコノハズクが鳴き、雨が降ればリュウキュウカジカガエルヒメアマカガエルアマミアオガエルの合唱が聞こえてきます。何ともぜいたくな環境ですが、奄美ではこれが普通で、天然記念物や絶滅危惧種ですら、「身近な存在」です。

鳴くヒメアマガエル

アマミアオガエル

私はかつて、島の住民は自然に関心が薄い人が多いと感じていたことがありました。でもそれは、昔から自然が身近にあることが当たり前過ぎて、意識しない状態だったからだったのかもしれないと思うようになりました。それほどまでに、奄美は自然と人との距離が近いのです。

生き物の密度

身近なところでも、そうでない深い森でも、奄美は生物の多様さだけでなく、とにかくその数の多さを感じます。例えば、雨が降ったときに林道に行くと、避けるのが困難なほどたくさんのカエルが出ていたり、山を歩けば体を揺らしながら歩くザトウムシの集団に出会ったり、冬場はリュキュウアサギマダラが風の当たらない枝に群れで休んでいたりします。野外に出て生物に出会わないことはなく、生物の多さを実感できます。そのことは、無数の生物を養える土壌動物や植物、昆虫類などが豊富に生息していることを示しているのです。
 奄美では近年になっても、植物や昆虫の新種が発見されます。そしてこれからも、未知なる生物が見つかる可能性が十分ある、そんな懐の深い自然を奄美はもっているのです。

豊かな自然を守るために

奄美大島では1979年に毒蛇のハブ対策のためにマングースが野に放たれました。その後マングースは数を増やし、分布を拡げ、ピーク時で推定1万頭近くになったとされます。増えたマングースはアマミノクロウサギや希少なカエルを捕食したほか、多くの在来生物を窮地に追いやりました。

日中でも油断は禁物、毒蛇のハブ

希少な生物を保護すべく、2000年から環境省による駆除事業が始まった結果、マングースは数多くの人の人力によって根絶宣言間近に迫っています。それに合わせるように、在来生物の状況もよい方向へ向かっています。
しかし、奄美にはまだ希少種の密猟・盗採、自然の過剰利用、ロードキル、住民と在来生物との軋轢(農業被害等)、開発や不法投棄など、さまざまな課題が残っています。まずは島内外の人にもっと奄美の自然について知ってもらうこと、いつまでもこの自然が維持され、自然と人間がうまく共存してゆける島であり続けるようにすること、それが世界自然遺産に登録された現在の奄美に暮らす私たちの、次世代へ向けた宿題だと感じています。

Author Profile

永井 弓子

2005年に奄美大島に移住。奄美フィールド歴16年。哺乳類や鳥類、両生類のフィールド調査や島の農業に携わっている。NPO法人奄美野鳥の会でも活動中。

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