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菌類・粘菌

fungi, Slime mold

  • 菌類・粘菌

4/25 2018

これも地衣、あれも地衣

新緑の季節となりました! 自然が大好きな皆さんの中にはブナ林へ森林浴に出かける方も多いことでしょう。どっしりとしたブナの幹の表面のモザイク模様を眺めて見上げていくと、萌黄色の若葉が青空に映えています。そして息を大きく吸い込み目を閉じ、ゆっくりと息をはきます……。あぁ、やっぱり森のなかは街なかよりもいいなあと、心の中でつぶやいて、なんとも贅沢な至福の時間を噛み締めるのです。

私は地衣類研究者。日頃の「地衣類の地位向上」活動によってジワジワと認知されてきているようになったものの、未だに「地衣類って何ですか?」、「ああコケの仲間でしょ」のように言われてしまいます。実は、冒頭の本文の中にすでに「地衣類」を織り込んだのですが、お気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんし、そうでない方もいらっしゃるかもしれません。「ブナの幹の表面のモザイク模様」。そう、これが地衣類の正体なのです。「え、モザイクはブナそのものの模様ではないのですか?」と驚かれる方もしばしばいらっしゃいます。しかし、野外でそれらの模様にグーッと近づいてみると……。やや! 見えてくる、見えてくる! 灰色や薄緑、黄色など薄く広がった模様の上に、黒や錆色、肌色のイボがあったり、粉をふいていたりすることがあります。それだけでなく、今までコケ植物だと思っていた葉状や樹枝状のものも、どうも様子が違うぞ?? と気がつくことでしょう。それらは多くの場合、地衣類を見ていたのかもしれません。

ブナのモザイク模様は地衣類が正体だった!

近づいて見てみると様々な地衣類の形と色が見えてくる。結構にぎやかだ

地衣類の形や色はとても多様ですが、どの種類にも共通した特徴が備わっています。それは菌類と藻類から構成される「地衣体」と呼ばれる構造を作るということです。まったく異なる2つの生きものが1つの体を作っているのですが、藻類は光合成を行って栄養を作り、それを菌類が利用します。そして、菌類はいわば「家」を作り藻類を乾燥や紫外線から守っています。このように地衣類を構成する菌類と藻類はお互いに持ちつ持たれつの共生関係で成り立っているのです。「共生体である地衣類の名前はなにに対して付けられているのですか?」と聞かれることがあります。答えは「菌類」に対してです。「地衣類の名前=地衣類を構成する菌類の名前」ということになり、藻類には独自の名前が付いています。菌界に所属する子嚢菌(しのうきん)門と担子菌(たんしきん)門の中で藻類と共生するものを総称して「地衣類」と呼んでいます。

クロムカデゴケの横断切片

共生体というと山奥の秘境や特殊な場所に行かなければ生育していないイメージがあるかもしれません。しかし、地衣類は身近な街なかの環境でも簡単に見つけることができます。まずは、幹がペンキで黄色く塗られているようになっている公園の木や街路樹を探してみましょう。

街なかで地衣類を見つけてみよう!まずは黄色のペンキで塗ったようになるロウソクゴケがおすすめ!
(左)ケヤキ上のコロニー。(右) ロウソクゴケ。葉状の地衣体と粉芽がついている様子が見える

近づいて見ると葉状で黄色の地衣類「ロウソクゴケ」が生育していることがあります(粉状の器官が発達した群落になると葉状の地衣体の区別が難しくなる場合もあります)。観察するだけでも楽しいロウソクゴケですが、これを集めて溶かしたロウソクに入れておくと、ロウソクを黄色に染めることができます。ご家庭で簡単にできますので、是非挑戦してみて下さい。

ロウソクゴケを野外で分かるようになると、黄色だけではなく灰色っぽい色や緑っぽいものなど別の種の地衣類があることにもすぐに気が付くかと思います。色々あることに気づいてしまって「もっと知りたい!」と思われた方は、10倍程度のルーペをご用意頂くことをお勧めいたします。レンズを通して観る世界はもはや別世界!日常の風景の中にこんな「宇宙」があるのかと興奮したことを思い出します。また、このような不思議な世界を写真に撮って楽しむこともお勧めしたいです。接写撮影なんて機材が高そうで手が出せない、と思っていらっしゃる方もいるかもしれません。そんな方には100円ショップで売っているスマホ用のマクロレンズを使われると良いかと思います。たった100円なのに思いのほかよく写ります。
地衣類には季節性がないので一年を通していつでも観察できることも魅力的です。心地よい新緑の季節、みなさんも是非ルーペやスマホ用マクロレンズなどを準備して地衣類観察に出かけてみませんか?

スマホで地衣類写真を撮ろう!
(左)コンクリート縁石などによく見られるコウロコダイダイゴケ(右)100円のスマホ用マクロレンズで撮った拡大写真

Author Profile

大村 嘉人

1970年静岡県生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士後期課程修了。
博士(理学)。国立科学博物館植物研究部研究主幹。地衣類研究会幹事。日本国内のみならず東アジア地域を対象に地衣類調査の旅に頻繁に出かけている。特にサルオガセ属の分類が専門。社会の中に地衣類を位置づけるために、大気汚染などの社会問題と関連する研究も積極的に行い「地衣類の地位向上」を目指している。『地衣類ハンドブック』(文一総合出版)著者。

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