小学校や中学校で、顕微鏡を使うことってありますよね。
そんなときにオススメな材料が、花粉です!
花粉は身のまわりの花からすぐ入手できて、扱いもカンタン。形もさまざまで見応えがあります。
とはいえ、慣れていないと観察しにくかったり、花粉をあとから見ようと思って保存してもカビてしまうことも…。
そこで今回は、茨城県下妻第二高等学校の生物同好会のみなさんが実際に行った花粉の観察実習をもとに、気軽にできる顕微鏡での花粉の観察方法と手順をご紹介します。
協力:農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)
花粉観察にはいろいろな方法がありますが、今回は講師である日下石 碧さん(『花粉ハンドブック』著者)のおすすめの方法をご紹介します。
まず、花粉を採取しましょう…と言っても簡単です。花をとってくればOKです。
すぐに顕微鏡で見る場合は、紙袋に花ごと入れて、袋に植物名・採取日・採取場所を記入します。
花の保管は、ビニール袋だと蒸れるうえに、エンピツなどでメモできないので紙袋がおすすめです。
雄しべの葯(花粉の詰まっている部分)が大きい花は、葯だけを採取し、花の採取は最低限にしましょう。
植物の種類がわからない時は、スマホでの同定アプリを使うのもひとつの手です。
農研機構の前田太郎さんによると、同定アプリは年々精度が良くなってきているとのこと。特に、「Googleレンズ」や「Biome(バイオーム)」といったアプリではすぐに種類の目処がたつというメリットがあり、BiomeではAIが候補の種名をいくつか挙げてくれて、自分で見当をつけた種名が違っていても詳しい人がコメントでいろいろなヒントをくれるというメリットもあるそうです。
一方で、
・Googleレンズは海外の種類を拾ってしまうこともある
・ネットがつながらない野外環境では使えない
・本当にその種類かどうかは、写真だけでわからない場合もある
といったデメリットもあります。
図鑑は使うのに慣れるまで時間がかかりますが、アプリよりも正確性の高い記述や写真が掲載されています。例えばアプリでいくつかの候補に絞ったあとに図鑑でその種を調べるなど、アプリと図鑑のどちらも使いこなすことで、楽しく、確実に名前を知ることができます。
すぐに観察するなら、花からそのまま花粉(または葯)を取り、ピンセットでスライドガラスにのせます。
花粉を3日間くらい保管する場合は、紙袋に入れたまま冷蔵庫で保管します。
それより長いときは、標本を作成してしまいましょう!
方法はとっても簡単。
1. 小型の容器(ピルケースやマイクロチューブなど)を用意しておき、そこに花ごと入れます。容器に油性ペンなどで植物名がわかるように記入しておきます。
→花が大きく、入り切らない場合は花を切って入れておきます。葯や花粉だけを容器に入れても構いませんが、花ごと入れたほうが簡単です。
なぜこうするかというと、葯や花粉だけを入れた場合よりも、植物の名前の取り違いなどを防ぐことができます。例えば、容器の中にピンク色の花が入っていて、ラベルにセイヨウタンポポと書いてあった場合、明らかに違うことがわかります。このように、花ごと入れることで、省力化と取り違えの防止をします。
2. タッパーに、除湿剤やお菓子用のシリカゲルを入れ、そこにチューブの蓋を開けて入れます。タッパーのふたは閉めて、常温で放置し、乾燥させます。
→花や花粉を湿ったまま保管するとカビが生えてしまうため、保管前に十分に乾燥させる必要があります。乾燥するとカビが生えにくくなるので、チューブなどに入れたまま常温で保管することができます。
タッパーにシリカゲルを敷き詰め、花(花粉)を入れたチューブを埋め込む
3. 完全に花粉を乾燥させる場合は1ヶ月ほど、通常は20日くらい放置し、乾燥完了。
4. シリカゲルのタッパーからチューブを取り出し、ラベルを作成して、チューブの側面に貼り付けます。植物名・採取日・採取場所・採取した人を記入しましょう。
5. 別の保管場所にチューブを移動して整理しておき、観察したいときに取り出します。
チューブにつけたラベルの例。日下石さんによると、このタッパーにシリカゲルを入れる方法で乾燥させた花粉は16年ほどは観察できており、今でも保管記録を更新中とのこと。
講師の日下石さんの花粉コレクションのケース。荷物整理用のケースに、厚紙を切ってチューブが入る仕切りを自作し、そこにラベルをつけたチューブをどんどん入れていきます。現在では1,300種もの花粉を保管しているとのこと(驚!)
では、花粉が用意できたら顕微鏡で観察してみましょう。
ここで大きなポイント! それは、「スライドガラスにのせた花粉に、砂糖水を1滴たらして観察すること」です。
なぜ砂糖水なのかというと、13%の砂糖水(0.4mol/Lのスクロース溶液)は、多くの花粉に対して等張液(花粉の中と同じ濃度で、花粉が凹んだり破裂したりすることを防ぎます)であるためです。また、砂糖(スクロース)の溶液は粘性があるため、花粉が沈殿しにくくなります。
つまり、砂糖水を使うとほどよく膨張させたまま花粉のカタチを保つことができ、しかも顕微鏡で見やすくなるのです。
今回取材させていただいた生物同好会の顧問の先生も、「今までは花粉をそのままスライドガラスにのせて観察していて、この方法は知らなかった」とのこと。
他にも、顕微鏡での花粉観察方法としてセロハンテープに花粉をそのまま貼り付けて観察するという方法もありますが、空気が入って見にくかったりもするので、一歩進んだ観察をしてみたい場合はぜひこの砂糖水の方法で試してください。
○砂糖水の作り方
ビーカーなどに、水20mLとスティックシュガー3gを入れて溶かしておきます。これが13%の砂糖水になります。
(研究の場合は0.4mol/Lのスクロース溶液を作成してください:水100mlにスクロース13.7gを入れて溶かす)。
○顕微鏡での観察方法
スライドガラスでの花粉観察方法(『花粉ハンドブック』より)。顕微鏡のレンズは、対物10×接眼10(→100倍)で観察できますが、細かい部分を観察するのであれば対物40×接眼10(→400倍)が必要です。もし、油浸用の対物レンズがある場合は100×対物10(→1000倍)で観察してみるのもよいかと思います(日下石)。
どんな花粉が見えたかな…?
見えました! ブタナの花粉です
花粉が見えたら、まとめシートに花の情報と、花のスケッチを記録しておきましょう。スケッチも同時に描くことで、写真に写りにくい細かい部分を残しておくことができます。もし顕微鏡についているカメラ等があれば、花粉の写真を撮り、貼り付けておくのもおすすめです。
それらを作成後に、花粉の大きさを測ります。
花粉観察まとめシート
今回取材させていただいた生物同好会の顧問の先生は、普段からミツバチの巣箱を観察していて、そこに来ているハチがどんな花粉を集めているか気になっていたそう。
そこで、取材時には行いませんでしたが、ミツバチやハチミツから花粉を観察する方法を簡単にご紹介します。
【ハチミツの中から花粉を探す方法】
①ハチミツを容器に取り出す
②2倍くらいまで薄める
③スライドガラスに垂らし、カバーガラスをのせる
【ハチについた花粉を探す方法】
①チューブ・カップなどに訪花していた昆虫(ハチなど、生きていない状態)を入れる
②スクロース溶液を入れる
③スクロース溶液で、虫の体についている花粉を洗う
④花粉が入ったスクロース溶液をスライドガラスに垂らし、カバーガラスをのせる
※昆虫(ハチ目)を扱う時は刺されないように注意が必要。
※研究を目的とした場合では、等張のスクロース溶液をサンプル管に入れ、その中に含まれる花粉数を係数(カウント)後、入れたスクロース溶液を希釈倍することで昆虫体表に付着した花粉数を推定します。
花粉観察の方法、いかがでしたでしょうか?
最後に、講師の日下石さんからのコメントをご紹介します。
「花粉は見るだけでもおもしろいのですが、植物の繁殖や農作物の生産にも欠かせない存在です。今回紹介した方法は、小中学校の理科室で簡単に観察できる内容になっています。身の回りに咲いているほとんどの花には花粉があります。植物の種類によって大きさや形が違いますので、身のまわりに咲いている花を気軽に観察してみてください。ちょっとしたコツで花粉観察は簡単になりますので、数を推定したり、まとめシートを作成したりしてみて調べ学習や自由研究に役立ててみてほしいです。」
保管しておけば1年中楽しめる花粉観察。
みなさんもぜひチャレンジしてみてください!
花粉ハンドブック
身近な植物89科186種の花粉を紹介する図鑑。理科の授業で使用する光学顕微鏡での実際の見え方の写真を掲載。線画スケッチと花の写真も合わせて載っているので、調べやすく、実験・調べ物学習のお供として役立ちます。
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