街かどで肩を並べる植木鉢。道路のすみっこから生える植物。
日々誰もが目にしているはずだけど、とりたてて注目されることがない存在かもしれない。
私はそういった、路上で行われる園芸活動や、路上で育ってしまった植物が妙に気になり、「路上園芸」と勝手に呼びひっそり愛で鑑賞している。
「植物」というと、物言わず、可愛らしく、見ていると癒されるといったイメージをもたれがちのように思う。確かにそういう一面もある。しかし油断してはならない。街中には時として、とんでもない姿の植物たちが紛れ込んでいる。
この記事では、街の環境をしたたかに生きぬいた結果、独特の存在感を放ち、街の景観にちょっとしたスパイスを与える植物たちを、親しみと愛情を込め「奇景植物」と呼び、2回に分けてその姿形の謎に迫りたい。1回目は、街で見かける身近な植物を取り上げる。
最初の街かど奇景植物は、路上でおなじみのアロエ。そういえば実家に植えてあった、という方もいるかもしれない。
とげとげの葉を奔放に広げ威嚇するような見た目は、「街かどの暴れん坊」とでも呼びたくなる迫力がある。南アフリカ原産のアロエは、明治時代に日本に渡来して以来「医者いらず」の名で親しまれ、胃薬ややけどの薬などとして、一家の救急箱的に重宝されてきた。
見た目はいかついが、じつは心優しくみんなに愛される近所のおじさん、といった感じだろうか。
街中では時折、巨大化しているアロエを見かけることがある。とげだらけの大きな塊が路上にデンと鎮座する存在感は、まさに奇景。
このように巨大化する条件は、まず日当たりがよく温暖であること。関東近郊だと伊豆や三浦半島の三崎など暖かい場所では、とんでもないサイズのアロエに遭遇することができる。また土に地植えされている場合も巨大化しやすい。民家や町工場など建物脇の植え込みスペースで大きく成長したアロエをたまに見かけないだろうか。もとあった街路樹を誰かにゲリラで植えられたアロエが威嚇していることもある。
アロエは冬になると一斉に真っ赤な花を咲かせる。とがった葉の間からちょっとグロテスクな赤い花がにょきにょきっと顔を出す様もまた奇景だ。
ただし湿潤な日本の路上では、花の種から自然とアロエが増えることはほとんどなく、株分かれで増えることがメインのようだ。
人の手でこつこつと株分けされ路上に解き放たれたアロエたちが、野犬のように各地で暴れているのだ。
ツンツンの葉っぱを四方に広げ、
街の一角に鎮座する巨大アロエ玉
冬になるとダチョウの頭みたいな真っ赤な花が咲く
さて、次なる街かど奇景植物はツタだ。
壁を縦横無尽に這う様は壁画のようで美しいが、時として絡みついたものをたちまちオバケ化させ、街の一角がハロウィンパーティー状態となる。
ツタにぱっくりと覆われ緑の塊と化した建物
「ツタ」と一口に言っても、色々な種類がある。一般的に「ツタ」というと「ナツヅタ」という種類を指すが、路上ではナツヅタのほか、「キヅタ」という種類もよく見かける。ざっくり分類すると、ナツヅタはブドウ科ツタ属で冬に落葉し、キヅタはウコギ科キヅタ属で常緑という違いがある。どちらとも日本にもともと自生する種類だが、アイビーなど、ヨーロッパや西アジア原産の「セイヨウキヅタ」とも呼ばれる種類も路上でよく見かける。
対象物への張り付き方も異なる。ナツヅタは吸盤、キヅタは気根で張り付く。森の中では地面を這い回っているが、どちらも明るい場所を好み、明るくなると周りの樹に絡みついて光を求め伸びていく。森と比べて明るく、張り付く構造物にあふれた街中では、レンガからタイル、ガラス、コンクリートなど、様々な外壁や素材に、フリーダムに付着していく。
その結果、四角いものから棒状のものまで、いろんな形の緑のオバケを楽しむことができる。
街灯が緑のお化けに。「トリックオアトリート!」
さて、次にご紹介する街かど奇景植物はサボテン。
その独特な姿かたちは、まさに路上園芸界の個性派集団と言っても過言ではない。
街中では時折、植木鉢の中で所狭しと身を寄せ合う大家族サボテンに遭遇する。
至近距離でしげしげと眺めてみると、活発な造山活動で複雑な地形になってしまった島のようにも見える。ただし上陸すると傷だらけ間違いなしのデンジャラスな島だ。
サボテンはもともと雨の少ない砂漠や荒原、高山地帯出身。茎を太くして体内に水を蓄え、葉っぱをとげに変えて、厳しい乾燥に対応する体づくりをしてきた。
過酷な環境に生きるサボテンのような植物は、すでに確保している生育場所をそのまま守るスタイルを取ることがある。最適な時だけ生えてすぐ枯れる一年草とは逆の戦略だ。
親株が枯れた時の保険として、植木鉢の中で子株をどんどん作りリスクを分散させた結果、モリモリの大家族になったというわけである。
植木鉢からうねうねと流れ出るようなサボテン集団
上海雑技団並みのアクロバティックなサボテン大家族
樹木の場合は弱ってくると根元から若芽、いわゆる「ひこばえ」をたくさん出す。ということは、サボテンの場合も子株が多いほど親株が身の危険を感じているということなのだろうか。それはむしろ逆で、元気なうちに増殖し、リソースを子株に投資しておくという傾向がある。
子株の多さは、その場所で長く落ち着き、すくすくと育ってきたことの証なのだ。
ちなみに親株と子株を見比べてみると、子株の方が細かいトゲがふさふさしていることに気付く。これは、子株が動物に食べられないようにする戦略。
またサボテンの根元の茶色くなっている部分。これにもちゃんと理由がある。
サボテンは茎の表面で光合成を行なっているが、なんらかの事情で垂れさがったり無理な姿勢になってしまった時、根元の部分は木質化させ支えることに徹して、先っぽの部分に光合成を委ねているのだ。
「おれら頑張って支えるから、先頭のおまえたち、光合成よろしく頼むぜ!」という感じだろうか。
サボテン大家族は、様々な戦略の塊だった。
いかがだっただろうか。街でよく見かける植物を取り上げ、その奇景の理由を探ってみた。
どの植物も、最初はおとなしく、与えられた陣地におさまっていたのかもしれない。しかし成長の結果「へ??植木鉢ってなんのことだっけ?」とでも言わんばかりに、人目を盗んで縦横無尽に動き出しそうなほどの姿になると、不気味な迫力がある。
しかしそれぞれの奇景には、植物の戦略がギュッと詰まっているのだ。
少し意識して街を歩いてみると、奇景植物はふとしたところに潜んでいる。その存在をキャッチできるアンテナがついたら、とたんに見知った街がひと味違って見え、散歩が楽しくなる。
愛情とあきらめと放置と生命力と、いろんな要素がかけ合わさって生まれた光景には、なんとも言えない魅力と味わい深さを感じる。
奇景植物が伸び伸び育っている街ほど、その一帯に余白を感じ、なんだか居心地よく感じるのだ。
第2回目の記事では、街の樹木の奇景を考察予定。2回目もお楽しみに!
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街中の植物に造詣の深い佐々木知幸さん(造園家・樹木医、『散歩で出会うみちくさ入門』著者)に、「奇景」の理由について色々と教えていただきました。ありがとうございました。
生きもの好きの自然ガイド このは No.12 『散歩で出会うみちくさ入門 〜道ばたの草花がわかる!』
(佐々木知幸 著/このは編集部 編集)
Credit 協力:佐々木 知幸
Author Profile
村田 あやこ
路上園芸鑑賞家.街かどの園芸や植物に魅了され「路上園芸学会」名義で魅力を発信.『街角図鑑』(三土たつお編著・実業之日本社)に路上園芸のコラムを寄稿.好きな植物はアロエやシェフレラなどの丈夫な熱帯植物.
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