一覧へ戻る

Bird

  • 鳥

11/14 2023

これはなんの鳥の羽根? 〜羽根図鑑で種類を調べてみよう〜

道端に落ちている鳥の羽根、なんの鳥のものなのか気になりませんか?
この記事では、はじめてでもわかりやすい羽根の基礎知識と、羽根の調べ方についてご紹介します。
(本記事は『羽根識別マニュアル 増補改訂版』からの引用・抜粋記事です)

羽根と羽

生活の中で「はね」という言葉を口にする機会は多いが、そのとき漢字までイメージしているだろうか。「はね」は漢字で書くと「羽」または「羽根」となるが、両者の違いは生物学的なものではなく、言語としての使い方の違いである。
 
日本語で「羽」は鳥の体に付いた状態のもの、または翼を表す。一方「羽根」は鳥の体から抜け落ち、1枚1枚の状態になったのである。例えば慣用句の“はねを伸ばす”は翼を伸ばすイメージなので「羽」、扇風機のファン(プロペラ)は1枚の「はね」をイメージしているので「羽根」を使う。このように日本語では両者をきちんと使い分けるが、生物学的には「羽毛」とすることが正しいようだ。
(※ほかに「翅という漢字表記もあるが、これは主に昆虫などの節足動物で用いられる)
 
『羽根識別マニュアル』ではこれらの表記の中から「羽根」を使っている。これは筆者のライフワークである識別に関する研究――野外で拾った1枚の鳥の「羽根」が誰のものなのかを突き詰める――が、鳥の体から抜け落ちた1枚の「羽根」を対象にしているからである

羽根の構造

●羽根の構造
羽根は大きく羽軸(うじく)、羽枝(うし)、小羽枝(しょううし)の3つのパーツでできている。3つというとシンプルに聞こえるが、飛行や保温といったいろいろな役割に対応するため、部位によって形状が変化している。例えば小羽枝の中には鉤(かぎ)構造がある「有鉤(ゆうこう)小羽枝」と、鉤構造がない「弓状(きゅうじょう)小羽枝」がある。両者が絡まり、結びついて羽弁(うべん)と呼ばれる板状の構造を形成する。
これに対し小羽枝に鉤構造がなく、羽枝同士が絡まずバラバラになっている部分は綿状(めんじょう)羽枝と呼ばれる綿毛のような形状になり、保温等の役割を担う。また、羽軸から羽枝が出ていない基部を羽柄(うへい)と呼び、その一部は体に埋まるか、皮膚の表面に付く。また、羽軸裏面の羽柄と羽弁(綿状羽枝)の境(羽枝の生え際)を特に上臍と呼ぶ。これらが基本的な構造である。

羽根の種類

羽根にはいろいろなタイプがあり、正羽、綿羽、半綿羽、剛毛羽、糸状羽、粉綿羽の6種類に分けられる。
 
● 正羽(せいう)
羽弁と羽軸を備えた羽根を指す。風切羽や尾羽、体の表面に見えている体羽など、鳥を覆っている羽根の多くが正羽である。

● 綿羽(めんう)
正羽に対し、羽弁がなく羽軸もほとんどない羽根。主に保温の役割を担い、ダウンジャケットや羽毛布団など、さまざまな場面で綿羽は活用されている。

● 半綿羽(はんめんう)
正羽と綿羽の中間型で、羽弁はないが羽軸はある羽根。綿羽同様、主に保温の役割をしていると思われる。

● 剛毛羽(ごうもうう)
鳥類のヒゲにあたるような存在で、羽枝、小羽枝が欠落し、羽軸は太くなっている。触覚のような役割をしており、空中での採食や眼の保護に役立つと考えられている。

● 糸状羽(しじょうう)
羽根の生え際から出ており、生え換わりのセンサーのような役割があると考えられている。綿羽を除く鳥類の羽根にはすべてこの羽根が付属している。通常、かなり小さいが、スズメ目の中には後頭部辺りで触角のように長く伸びるものもある。

● 粉綿羽(ふんめんう)
最も変わった羽根で、一生を通して成長し、成長しながらその過程でパウダー(粉)を作りだす。どの鳥類にもあるわけではなく、国内の記録種ではハトやインコの仲間、サギ類、モリツバメにあるとされる。サギ類やモリツバメはパッチ状に密集している部分があり、細長い特殊な羽根が見られる。また、サギ類では腹部の一部に粉面羽が密集しており、採食による汚れをパウダーでからめとってきれいにする役割もあるようだ。インコやハトの仲間は全身にパウダーがあり、粉綿羽も全身にあるとされているが、粉綿羽の存在やパウダーの出どころははっきりしない。

まずは、身近な鳥の羽根を調べてみよう

鳥の羽根の識別は奥深くて楽しい。難しくて壁にぶつかることもたくさんあるが、実際に拾う羽根の多くは市街地でも見られるような身近な鳥の羽根である。識別にあたっては、まずそういった種から調べてみよう。『羽根識別マニュアル』から、拾う機会が多い身近な鳥の羽根の識別点の一例を紹介する。

市街地で見つかる羽根の検索表一例(『羽根識別マニュアル』から抜粋・一部加工)

よく見かける羽根 ヒヨドリ

ヒヨドリの羽根:7〜11cm前後(目安)。Jは幼鳥、Aは成鳥の羽根。

市街地や住宅地周辺だけでなく、山野でもよく見かける羽根で、サイズが大きく目につきやすいだけでなく、個体数も多いことから、拾う機会の多い羽根の一つである。その特徴は羽軸(うじく)の色の濃い部分が基部近くまで広がっていること、内弁に薄いベージュ色の模様があることなどが挙げられる。成鳥羽の外弁は特徴的な色ではないが、幼羽の外弁は明るい茶系色である。

ねぐらの近くで拾える ムクドリ

ムクドリの羽根:5〜10cm前後(目安)

市街地や住宅地周辺、農耕地で拾える。ムクドリは数百~数千の集団ねぐらを作るので、ねぐらがある木の下に行けば相当数の羽根が落ちている。ヒヨドリとは対照的に羽軸の白い部分が先端方向に広がるのが特徴で、初列風切では外弁と内弁の基部が白い点も特徴となる。

拾う機会が多い スズメ

スズメの羽根:5cm前後(目安)

市街地や住宅地周辺、農耕地でも拾える。ヒヨドリやムクドリに比べると小さい羽根なので目につきにくいかもしれないが、人家周辺に多く生息しているので拾う機会の多い羽根である。また、駅前など遅くまで明るい場所にある街路樹では集団でねぐらをとるので、換羽が行われる夏にねぐらの木の下に行けば、相当数の羽根が落ちている。風切羽はヒヨドリのように内弁に薄いベージュ色の模様があるが、ヒヨドリとは大きさが全く異なる。初列風切では外弁の模様が2つに分かれているのが特徴で、尾羽は細くベージュ色に縁取られる。

野鳥じゃない!? ニワトリ

市街地や住宅地周辺でよく拾われるのがニワトリの羽根だ。羽弁の先端側が細くとがり、縁のあめ色の光沢が特徴である。住宅地でニワトリの羽がよく見つかるのには理由がある。それは車の掃除に使われている毛ばたきに使われているから。色は黒色や赤茶色など多様なので、先端が細くとがったあめ色の光沢をもつ羽根を見つけたら、まずニワトリを疑ってみよう。

 
●さらに羽根のことが知りたい人には…『羽根識別マニュアル 増補改訂版
羽根を拾えば、当然どの鳥のものかを知りたくなるだろう。それも細部まで観察することで、ヒントがいろいろ見えてくるはずだ。ぜひ、探偵になった気分で、自然からの挑戦状にチャレンジしてほしい。
honto
紀伊国屋書店
Rakutenブックス
Amazon

Author Profile

藤井 幹(ふじい たかし)

1970年,広島県生まれ。(公財)日本鳥類保護連盟の調査研究室室長としてワカケホンセイインコの分布状況調査やコアジサシの研究などを行う。羽根には学生のころから魅せられ,収集に明け暮れていたが,収集だけでなく識別点にもこだわって取りまとめてきた。著書に『動物遺物学の世界へようこそ!〜獣毛・羽根・鳥骨編〜』(共著,里の生き物研究会),『世界の美しき鳥の羽根 鳥たちが成し遂げてきた進化が見える』『野鳥が集まる庭をつくろう―お家でバードウオッチング(共著)』『野鳥観察を楽しむフィールドワーク』(誠文堂新光社)。

このページの上に戻る
  • instagram