北海道の山地にすむナキウサギの基礎知識について、写真家の佐藤圭さんが美しい写真とともにご紹介します。
(本記事は『鳴き声できずなを結ぶ エゾナキウサギ』より抜粋・一部改変しています)
春の北海道大雪山。
『ピッ……。ピッ……。ピッ……』
どこからか、鳥の鳴くような声が聞こえてきます。
『ピッ……。ピッ……。ピッ……』
山のあっちからも、山のこっちからも。
ガレ場のナキウサギ
声の主は、エゾナキウサギ! ネズミのような小さな体をしていますが、ウサギの仲間です。
シラタマノキをくわえるエゾナキウサギ
エゾナキウサギは、大きな岩がつみ重なった「ガレ場」とよばれる場所にすんでいます。岩の下に広がる洞窟(どうくつ)のような空間を巣に利用します。中は迷路のようにつながっていて、たくさんの出入り口があります。
はるか昔の氷河時代、北海道のまわりの海は氷でおおわれ、北方のサハリンやユーラシア大陸とつながっていました。エゾナキウサギはそのころに海の上をわたって北方からやって来たと言われています。
きびしい寒さに適した体をしているため、北海道の中でも気温の低い、限られた場所でしか暮らすことができません。
エゾナキウサギは、なわばりをもつ動物で、いつもひとりきりで行動します。巣の外に出ているときは、よく見晴らしの良い岩の上でじっとしています。
岩の上のナキウサギ
Q1 エゾナキウサギは、北海道のどこにすんでいるの?
大雪山系以外では、日高山脈、夕張山地、北見山地に生息しています。ほとんどが標高400~2,200メートルの間にすんでいますが、例外的に標高が低い地域にもいます。ただし、国立公園や管理された山では登山道からしか観察できないため、すべての生息地がわかっているわけではありません。
ナキウサギの生息する地域
Q2 すみかのガレ場はどうやってできたの?
エゾナキウサギがすみかにしているガレ場は、火山のふん火で出た大量のマグマが冷えて固まり、割れてできた場所です。つみ重なった岩のすきまは風穴(ふうけつ)とよばれ、夏でも温度が低く保たれ、すずしい風がふいています。逆に冬は温かく、巣の出入り口近くの雪をとかすほどです。
急斜面のガレ場のナキウサギ
Q3 エゾナキウサギの大きさはどれくらい? 体の特徴は?
エゾナキウサギの子ども
エゾナキウサギの体長は15~20センチメートルで、手のひらに乗るくらいの大きさです。体重は約150グラム。初めて巣から出た子どもは、体長7~8センチメートルで、ちょうどいなりずしくらいの大きさです。せまい岩の下でも活動しやすいように、耳は小さくて丸く、あしも短いです。あしのうらには毛が生えていて、岩の上でもすべりにくくなっています。また、顔の倍もある長いひげは、真っ暗な穴の中でもぶつからないように、昆虫の触角のような役割をしています。
触角のような長いひげ
Q4 エゾナキウサギは絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)なの?
エゾナキウサギは、環境省のレッドリストに記さいされた「準絶滅危惧種」です。準絶滅危惧種は「現時点での絶めつ危険度は小さいが、生息条件の変化によっては絶滅危惧に移行する可能性のある種」とされています。エゾナキウサギは特定の環境でしか生きていくことができないため、みなが協力して保護していかなければいけません。
もっとエゾウサギについて知りたいなら…
『鳴き声できずなを結ぶ エゾナキウサギ』
13年にわたりエゾナキウサギを観察してきた写真家が、豊富な写真を通してエゾナキウサギの生活や生き様を紹介する、親子で読める写真絵本です。
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Author Profile
佐藤 圭(さとう けい)
1979年生まれ、北海道留萌市出身。SLASH写真事務所代表。北海道道北地方を拠点に自然風景と野生動物の撮影を続けている。現在は、大雪山の高山植物と野生動物の撮影に力を入れ、テント泊をしながら山に入り、エゾナキウサギやエゾシマリスなどの姿を記録している。アルパインブランド「MILLET」アドバイザー。著書に『山の園芸屋さん エゾシマリス』(文一総合出版)、『佐藤圭写真集・秘密の絶景in北海道』(講談社ビーシー』がある。