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3/7 2024

アリハンドブックでわかる 日本の身近なアリ

アレチウリの花から吸蜜しているウメマツオオアリ

だれでもどこでも見たことがあるはずの身近な虫、アリ。
じつはハチの仲間で、日本に約300種もいるって知っていましたか?
身近なアリを集めた『アリハンドブック 増補改訂第2版』(2024年3月発売)から、アリの基礎知識と特徴的な6種類をご紹介します。
 
さらに! アリハンドブックの著者にへのミニインタビューも掲載。これまでのアリハンドブックとの違いも解説してもらいます。

そもそも、アリってどんな生きもの?

アリは「アリ科」と呼ばれる、ハチ目の中のまとまった1つのグループに属する昆虫です。昆虫類は体が頭部、胸部、腹部の3つの部分からなるのですが、アリの体は真の胸部(きょうぶ)に、もともと腹部の第1節だった節(前伸腹節:ぜんしんふくせつと呼ぶ)が密着しており、やや特殊な体つきになっています。

アリ背面図

ハチの仲間との違い

ほかのハチ類との区別点は、胸部と腹部との間にこれらをつなぐ独立した節(腹柄部:ふくへいぶ)が1節か2節あり、かつこれらの節の背面が山状に盛り上がることと、前伸腹節(ぜんしんふくせつ)の側面の後端下部に後胸腺と呼ばれる部分があることです。
(※ただし一部の種で腹部とのくびれがやや不明瞭なものや、腹柄節の背面と腹面がほぼ平行となるものがあります。また、後胸腺を欠くものもあります)

アリは何種類いる?

アリ類は、陸上のさまざまな環境に適応して繁栄しており、北海道から沖縄までの日本のどの地域でも、最も身近に見られる生き物の1つです。2023年段階で、世界で16のグループ(亜科)に約14,170種が報告されており、日本では9亜科に300種が得られています。公園や校庭でもごく普通に見られ、家のちょっとした庭先でも10種類以上のアリがしばしば生息しています。

女王アリと働きアリ

アリの大きな特徴は、女王を中心に複数の個体が巣の中で集団生活をおくることでしょう。このような昆虫を「社会性昆虫」と呼びます。巣の構成員は、オス個体と、女王と働きアリの2つの階級からなるメス個体とに分けられます。これら3つの構成員は普通、同じ種でも大きく異なった形をしており、女王は通常最も大きく、交尾前には翅があります。
働きアリは産卵以外のさまざまな仕事を行い、野外で最も頻繁に見かけます。性的にはメスですが、産卵能力がないか、あるいはそれが著しく劣っています。同一の巣内であっても働きアリの大きさには変異がある場合が多く、極端な場合には2つあるいは複数の大きさや形の異なるタイプに分けられます。大型の個体は、巣を守る仕事を行う場合が多く、特に兵アリと呼びます。
オスは翅をもち、結婚飛行の時期に母巣から新女王とともに飛び立って行くことから、巣内にいる時期は限られています。

身近なアリ+特徴のあるアリ6選

クロヤマアリ

体長4.5〜6 mmで体は灰色がかった黒色。

最も普通に見られるアリの1つ。開けた場所の土中や石下に巣を作り、巣は、巣口を中心に、クレーター状に盛り土がある。巣の深さは1〜2mほどで、多女王の巣と単女王の巣が認められる。通常数個体の女王がいる。働きアリの数は、1巣で数千個体。東京では6月から8月上旬の午前中に結婚飛行が行われる。新女王が最初に産んだ卵は、約1ヶ月で働きアリになる。

ムネアカオオアリ

体長7〜12 mmと大型で、赤色が目立つ。頭部は黒色で、胸部と腹柄節は赤色。腹部は黒色で第1節の基部は赤色。脚は黒色。

森林に生息し、倒木や木の腐朽部に巣を作る。平野部でも見られるが、山地に多い。単女王制で1つの巣に数千個体の働きアリがいる。平野部では、5〜6月に結婚飛行を行うが、山地では結婚飛行の時期が遅くなり、8月まで見られる。

アメイロアリ

体長2〜2.5 mm。頭部と腹部は黒褐色、胸部と脚は黄色から黄褐色。胸部の色彩には多少とも変異があり、暗褐色の個体も見られる。

本州ではごく普通に見られ、草地や林内の石下、落葉層、腐倒木内等に営巣する。単女王制で、女王の産んだ卵は約45日で働きアリとなり、1つの巣には数十から300個体程度の働きアリがいる。秋に生まれた羽アリが巣中で冬を越し、翌年4月下旬から6月上旬の夕方に巣から飛び出す。

アズマオオズアリ

写真の大きな個体は女王アリ。体長は兵アリで3.5 mm、働きアリで2.5 mm。体は黄褐色から赤褐色。

林内の石下や朽ち木中に営巣する。ただし、公園のような整備された環境でも見られ、巣から餌場まで目立つアリ道を作る。兵アリの割合は数%から十数%で、巣の内外での大きな餌の解体や、餌や巣の防衛をおこなう。単女王制で、7〜8月に結婚飛行を行う。

アミメアリ

体長2.5 mm。頭部は褐色から赤褐色で脚はより淡色。腹部は黒〜黒褐色。

本種は例外的に女王アリをもたず、働きアリが産卵して働きアリを生産し、ごく稀にオスもいる。また、頭部がやや大きく、単眼をもつ個体が見つかることもある。定住巣を作らず、石下や倒木に野営の巣を作り、頻繁に移動する。大きなコロニーは数万から数十万の個体からなる。

ヒアリ(アカヒアリ)

体長2〜6 mmで、働きアリは小〜大型まで連続的な多型を示す。

裸地や草地、畑や牧草地などの開けた環境の土中に営巣する。女王は1日に1,500〜2,000個の卵を産む。1頭の女王が春に巣を作りはじめると、秋までに働きアリは数千頭、2年目には平均25,000頭になり、新女王が作り出される。多女王制と単女王制のコロニーが確認されている。

アリハンドブック 著者へのミニインタビュー

アリハンドブック 増補改訂2版』の著者お二人に、これまでのアリハンドブックとの違いを伺ってみました。
 
(1)今回の増補改訂2版はこれまでの増補改訂版と比べて、どのあたりが見どころですか?
 
寺山:各種の生態写真を多く差し換えました。以前のものよりもよりシャープな画像になっていると思います。
久保田:私の担当から言えば、やはり「アリを探す」「アリを撮影する」というページの新設で生態写真を多く載せられた点です。より多くの方にアリを身近なものと感じてもらえるのではないかと思います。写真も大きく載った写真が増えて、小さい図鑑ながらも迫力ある構成になりました。
 
(2)特に見て欲しい、読んで欲しいページや写真を教えてください。
 
寺山:本書では、近年大きな社会問題となっている「侵略的外来アリ」についても積極的に扱っています。現状を鑑みると、外来種の問題は日本の社会の基礎知識として知っておくべきことの一つだと思います。「アカヒアリ」以降の外来種のページは特に見ておいてほしい部分です。
久保田:読者の皆さんにはハンドブック全体を通じて、小さなアリを単にビジュアルとしてクローズアップしたものではなく、解説を読んでアリが個性あふれる存在であることを感じてもらえるとうれしいです。また外来種などアップデートされたアリの情報にも注目してほしいと思います。
 
(3)アリ観察のコツのようなものがあれば教えてください。
 
寺山:今回「アリを探す」というページを新設しました。アリはどこでも見られ、かつ種数も多く発見できます。観察したくなったら、庭や近くの公園に行って、容易に観察が出来る利点をもっています。まずは地面や樹幹に目を向けてみることでしょう。
久保田:私は最近、もっぱら東京の街なかのアリを撮影しています。特別なところに行かなくとも庭や花だんでアリ観察は十分可能ですし、時に大きな公園では園芸植物などについて侵入したと思われる種類を発見することもあります。ただアリはやはり小さいので、まずは携帯電話などのマクロ機能などを使って拡大してみることをオススメします。とにかく「一歩近づく」というのが観察のコツかもしれません。
 
(4)お2人が好きなアリは何でしょうか?
 
寺山:表紙にも大きく載っているアギトアリ(31ページ)です。まず“あぎと“が巨大で、体も大型のかっこいいアリです。しかも生態が謎で、近年急速に関東地方のあちらこちらで発見されるようになって来ており、探索の楽しみもあります。

久保田:改めてアミメアリ(53ページ)の美しさに魅了されています。あのあみ目模様や丸くかわいい腹部、行列をつくって歩く、蜜を並んで集める様子など、身近でアリの写真を撮影するシーンには事欠かない大切な存在です。

寺山氏、久保田氏によるアリづくしのトークイベントが開催決定!

見よう、撮ろう、足下に広がる魅惑のアリの世界
https://arinosekai.peatix.com
根強い人気を誇り、初版・増補改訂版・増補改訂2版と進化を続ける「アリハンドブック」。人々はアリのどういったところに魅せられるのでしょうか?アリの魅力を知る著者2名によるSPECIAL対談が実現しました。解説担当の寺山氏からはアリ観察の魅力やノウハウ、外来アリなど特に注目のアリについて語ります。そして写真担当の久保田氏はハンドブックで掲載した数々の迫力あるアリの生態写真がどのように撮影されたのか、その撮影裏話を紹介するので、昆虫撮影に興味がある方は必見です。
 
日時:2024/03/15 (金) 19:00 – 20:30
場所:オンライン(zoomで開催。Peatixホームページから申し込み)
参加費:無料

『アリハンドブック 増補改訂第2版』ってどんな本?

最も身近な昆虫であるアリを約80種、話題の外来アリを含めて掲載。小さくてなかなか観察できないアリでも、迫力ある生態写真と識別点を明示した標本写真で見分けられます。さらに、一覧形式で見やすい検索表のほか、第2版では季節や環境、生態を考慮したアリの探し方や、機材選びから解説する本格的なアリの撮影法を新たに収録しています。
 
2024年3月1日発売!!
 
各種書店で受付・お取り寄せできます。
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Author Profile

寺山 守(てらやま まもる)

1958年秋田市生まれ。サイエンスライター。東京大学他で非常勤講師を兼任。専門は昆虫系統分類学,群集生態学,保全生物学。著書に『昆虫のふしぎ』,『ポプラディア大図鑑 WONDA昆虫』(ポプラ社),『日本産有剣114類図鑑』(東海大学出版部),『日本産アリ類図鑑』,『最新応用昆虫学』(朝倉書店)等がある。理学博士。

Author Profile

久保田 敏(くぼた さとし)

1956年東京都中野区生まれ。都立高校教諭(生物)。長年、アリの生態写真撮影に取り組み、『南西諸島産有剣ハチ・アリ類検索図説』(北海道大学図書刊行会)、『しぜん―あり』(フレーベル館)等、専門書から幼児教育書まで幅広く、生態写真を提供している。

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