セミの羽化はセミの観察の中でも最も魅力的な瞬間の一つだと思います。種によってさまざまな色を見せてくれ、飽きさせません。ここでは、『セミハンドブック 増補改訂版』から、9種の美しい羽化シーンを写真で紹介します。
*なお、本書では30種が紹介されています。
ニイニイゼミ
エゾゼミ
アカエゾゼミ①
アカエゾゼミ②
アカエゾゼミの羽化は①のように全身がオレンジ色になることが多いのですが、個体によっては黄色や緑の部分が混ざって②のように黄色~緑の美しいグラデーションを見せることもあります。羽化が終わり時間が経つと色の違いは減ります。
クマゼミ
アブラゼミ
ヒグラシ
ハルゼミ
ツクツクボウシ
ミンミンゼミ
夏の夕方、偶然トコトコ歩いているセミの子(幼虫)を見つけて羽化観察をされる方も多いと思いますが、そのような偶然の出会いでは物足りず、積極的に羽化を見たい方のために……。
まずセミのぬけ殻がたくさん付いていた木、林、公園を思い出します。思い出せなければ、せめてセミがたくさん鳴いていた場所を思い出します。そして夕方、まだ十分明るいうちに現地に行きます。明るいうちに見つけたぬけ殻を採集して持ち帰るのもおすすめです。雌雄を調べたり、時期によって雌雄の割合がどのように変わるか、変わらないかを調べるもよし、ただ数を数えるのもよいでしょう。暗くなってきたら、調査域の下草や木の幹を見ていきます。懐中電灯が必須。照らしながら幼虫がいないか探索します。まだ歩いている幼虫、動いている幼虫がいたらそのままどこに行くか見届けて現場で羽化を見てもよいですし、採集して家の中で羽化させてもよいでしょう。カーテンにとまらせるのが手軽な方法です。ただし、周囲が明るいといつまでも歩き続けてなかなか羽化を開始しません。また、家の中で羽化させるときにはエアコンが強く入っている部屋は避けましょう。寒さと乾燥で羽化に失敗する可能性が高まります。
一方、葉裏や木の幹にとまってじっとしている幼虫を見つけたら、動かしてはいけません。定位といいますが、羽化の場所を決めてしばらくすると幼虫の中で「羽化のスイッチ」が入り、その後はどのようなことが起きても羽化のプロセスが進むからです。動かしてしまうと別の場所に脚でとまることができません。万一定位後の幼虫を動かしてしまった場合は、柔らかな布の上に幼虫を横たえ、殻から脱出後によじ登れるような場所を作ってやれば大丈夫です。幼虫が完全に定位したら、まわりを明るくしても羽化は進みます。幼虫がじっとして猫背に背中を丸めたら、羽化開始です。
税所康正 著 / 新書判 / 136ページ
ISBN 978-4-8299-8185-6 2025年5月26日発売
定価2,200円(本体2,000円+10%税)
野外に持っていけるポケットサイズの判型。二次元コードから鳴き声を視聴可能で、野外でのセミ学習にもぴったり。図鑑ページでは日本産をほぼ網羅する33種の生きたセミを撮影し、標本の写真と違って色あせていない自然な姿で識別できる。原寸大写真や白背景のセミ写真で特徴をわかりやすく解説し、分布も記述だけでなく色付けしたマップを掲載。地域・鳴き声・ぬけ殻から調べられる検索表つきで、多方面からセミを判別できる!
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Author Profile
税所 康正
広島大学工学研究科准教授、東京学芸大学特任准教授などを経て現在広島大学総合博物館客員研究員。日本セミの会会員。日本昆虫学会、日本半翅類学会、日本数理生物学会などに所属。
数学(確率論)や数理生物学の研究・教育のほか、セミ類の研究や撮影、録音を行なう。著書に改訂版 日本産セミ科図鑑(共編著、誠文堂新光社)、セミハンドブック(文一総合出版)。