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5/4 2018

注目の人に聞いてみた!
写真家・佐藤岳彦が写す得体の知れない世界

いま大注目の写真家、佐藤岳彦さん

以前からゆっくり話を聞いてみたいと思っていた人がいる。明治神宮の鎮座100周年を記念した写真集『生命の森 明治神宮』や『変形菌(Graphic voyage)』の写真を担当し、ここ最近メディアでたびたび名前を見かける写真家の佐藤岳彦(さとう・たけひこ)さんだ。
生物系のイベントや観察会などで何度かお会いしたことはあったが、いつもお互い挨拶を交わす程度で、写真のことや佐藤さんが普段どんなことを考えてフィールドに出ているのかなどの話を本人から聞く機会はなかった。
そこで今回、BuNaオープンをきっかけに、佐藤さんの写真がもつ独自の世界観や海外取材への思いなどを、フィールドを一緒に歩きつつ、答えてもらった。
 
取材当日は佐藤さんが普段から仲良くしている「株式会社いきもん」の皆さんにも同行してもらい、みんなでフィールドも堪能しました!
取材・編集:BuNa編集部 境野&今井

都心から電車を乗り継ぐこと約1時間。取材の場所は佐藤さんおすすめの郊外の里山だ。この里山は佐藤さんの家から近く、時間があれば、毎日のように生きものを探しに通っているフィールドとのことだ。

 
編集部(以下、――) 天気がいいし、今日は春っぽい天気ですねー! シュレーゲル(アオガエル)の鳴き声も爽やかでいい感じですね。
佐藤岳彦(以下、佐藤) ここはシュレーゲル多いです。ちょっと川の近くまで行くとカジカ(ガエル)ももう鳴いてますよ。
―― もうカジカ鳴いているんですか!? 今年は季節感がすこし早いような……。ところで今日はサンダルじゃなくて、靴を履いているんですね(笑)
佐藤 いつもここに来るときはサンダルなんですけど、取材だからと思って、珍しく靴履いてきました(笑)海外に行ったときのままのやつなんで、汚いですけど(笑)
―― 数回お会いしてますけど、初めて佐藤さんが靴を履いているところを見ました!!
 
 
佐藤 おっ! ルリタテハ。いまは翅を閉じてますけど、翅を開くときれいな青色してますよ。ただ、今日は風が強いので、なかなか翅を開いてくれないかもしれない……。
―― 佐藤さんって、いつもじっとしながら撮影しているイメージがあるんですけど、結構粘って写真を撮るタイプですか?
佐藤 そうですね。木漏れ日の感じだったり、空気感だったり、シチュエーションがよくて、なにか起きそうだなってときはいつまででも待ちます。

しばらく待つも、ルリタテハは翅を広げることなく飛び去る。
その後も、春の昆虫やヘビを探しながら歩く。
 
佐藤 久しぶりに日本の春をゆっくり歩いている気がします。この時期は毎年海外にいることが多いんで。
―― 春に海外に行くのは、なにか理由や目的があるんですか?
佐藤 やっぱり日本の冬って寒いじゃないですか(笑)そのまま春まで海外ってことが多いんです。
―― えっ!? でも佐藤さん寒いところ(宮城県)出身じゃないですか(笑)
佐藤 東北で育ったから南に強い憧れがあるのかもしれません。小学生のときから、友達と2人で沖縄の与那国島に虫採りに行っていたぐらいなのでどちらかと言うと南方思考です。
―― たしかに、生物を相手にしている人たちって、「北」派か「南」派かで分かれることありますね。

得体の知れないものを撮る

―― 佐藤さんは、1年のなかで“今年はこれを撮ろう!”みたいなテーマとか目標を設定してますか?
佐藤 年間のテーマとかはとくに設定しないです。ただ、ぼく自身のテーマというか軸として“得体の知れない「なにか」を撮りたい”っていう気持ちはつねにあります。生命というか自然にはどこかそういうところがあると思いますし、それは自分も含めた自然の根源的な部分じゃないかと思っています。なんて、さらりと言っても、それこそ得体が知れませんが、今そんな写真集をつくっているので、そちらを見ていただけるといろいろ感じてもらえるのではないかなと。なんにせよ、とんでもないものになりそうです(笑)
―― 普通の人が見たこともないような生物がたくさん載っているということですか?
佐藤 珍しいとか稀少な生物を見せるというよりは、写真群全体で世界の見方を表現するというか。図鑑や自然科学としての写真から適度に離れ、今までの枠に収まらない自然写真の世界を目指したいと思っています。それでも生きもの屋の性といいますか、載っている生物はマニアックなものもありますし、東京からアマゾンまで世界各地の得体の知れない「なにか」が入り乱れる内容になりそうです。
―― 佐藤さんが出す写真集だと、スゴそう……。
佐藤 でも写真集を出すのは、やっぱり難しいです……。
―― 佐藤さんでも、そう感じますか?
佐藤 生物もので純粋な写真集は難しいと思います。昨年出した『変形菌(Graphic voyage)』みたいな図鑑的な要素もある写真集なら、可能性はあると思いますけど、純粋な写真集となるとなかなか厳しいです。
―― 少し前に(2017年8月)、六本木の富士フイルムのギャラリーで明治神宮の写真展をやってましたけど、会場で佐藤さんの写真を観ている人は生物や自然写真のファン以外の人も多かった気がしますけど、どうでした?
佐藤 あれはすごくいい機会でした! 2週間でたしか23,000人だったかな、本当に沢山の人が来てくれました。場所柄もあると思いますけど、生きものや写真好きな人だけじゃなく、たまたま立ち寄った家族連れや、外国の方などいろいろな人が来てくれて、今まで出会うことのなかった人々と写真が触れ合う空間だったような気がします。隣のスペースでは富士の化粧品を販売してたんですが、そこに来た女性が、大きくプリントされた虫やヘビ、変形菌なんかを偶然見てしまうんです。極まれに悲鳴を上げる方もいましたが、大抵はいい意味で驚いてくれてました。この夏は大阪で巡回展をするので、楽しみです。

やばい!家賃払えない……

―― 1日外に出て、全然写真を撮らない日ってありますか?
佐藤 1枚も撮らない日、結構ありますよ。昔とぼく人が変わってしまったんです(笑)
―― 昔はかなり数を撮るスタイルだったんですか?
佐藤 見つけたもの全部は無理ですが、琴線に触れたものは、ものすごく凝って撮ってました。そういうことを大学のときくらいからずっとやってました。ライティングなんかもすごくこだわって、ストロボを何灯も炊いて、被写体がいちばん良く見えるように工夫して撮っていましたが、いまはあまりそういうことをやらなくなっちゃいました。なんか、その場の雰囲気の中で、そのときの瞬間的な光をそのままつかって撮れればいいかなーと。変ながっつきがなくなったとも言えるかもしれないです
―― 最近は、どちらかというとしっかりストロボを使って撮った写真の方が需要があるような気がしますが……。
佐藤 明治神宮の写真集を出すくらいまでは、結構そうやって撮っていたんですよ。それ以降ですね。もちろん今でも、そういう撮り方をしますけど、頻度は減りました。あとは生物じゃなくて、なんだろう……ただの籔とか一見見過ごしてしまいそうな瞬間を撮ることが増えました。そういうところに大切ななにかが潜んでいる気がするんです。
―― 自然光で撮影するスタイルになってきたということでしょうか?
佐藤 自然光に軽くストロボを混ぜて撮るということも多いです。もちろんストロボをつかわず自然光だけで撮影することも以前より断然増えました。その場の空気感の中で、そのときの刹那的な光や影を生かしたり。自然は多様ですから、撮り方も多様性が大事なのかなと思います。
―― 道具の話が出たので、ストロボにしても佐藤さんは道具にあんまりこだわりがない印象がありますが、実際どうですか?
佐藤 昔っから使ってるストロボはすごい安いやつで、不具合が多かったり、チャージに時間がかかったり、うまくいかないこともありますが、それがいい味になったり(笑)最近はオリンパスの最新の機材をつかえるようになりましたけど、ちょっとお金があると、道具や生活じゃなくて、つい海外行きのチケットを買っちゃいます。去年は本当にやばくて、気づいたら貯金残高が4,000円ってことありましたから(笑)やばい!家賃払えない……って焦りました。
―― そこまで苦労して海外に行って、1日の撮影で1枚も満足できないような日もあるわけですよね?
佐藤 自分の写真集に使うという意味では、使える写真は1年に数枚しか撮れないです。ほかの仕事であれば、そもそも求められていることが違うので、別の基準で写真を選びますけど、写真集となるとなかなか……。

―― 昔と比べて、とくに変わったな、と思うことはありますか?
佐藤 今日みたいな近所のフィールドだと、昔より自由な気分と言いますか、その場の雰囲気を楽しみながら撮るってことが増えました。その方が視野が広いというか、思いもよらない写真が撮れたりすることがあります。生物写真っていうと、生物がしっかり写っていないとダメとか、ピントがしっかり合っているとか、ブレていないとか大事なことがあると思いますが、ぼくは最近そういう気持ちがなくなってきています。その瞬間の持つよさが出ていれば、どんな写真でもいいと思ってます。それに、生物の知識や自然科学に引っ張られ過ぎると、写真としての自由さを失ってしまうこともあるような気がします。それが悪いというわけではありませんし、ぼくもそういう知識は大切にしていますが、あまり縛られず、もっと柔軟に、もっと自由にやりたいなと。
―― そうなんですね。図鑑などで使う生物写真というと、しっかりと種の特徴が写っていて、識別に使える写真というのが重宝されますけど、そういう写真も撮りますか?
佐藤 そういう写真を撮ることも大事だとは思ってますけど、両立は難しいです。需要のある図鑑的な写真も撮りつつ、自分の作品も撮るみたいにしたほうが稼げるとは思いますけど、ぼくの場合は自分の写真が最優先で、それに集中してしまうんです。だから、最近は極端な話、自分の写真が撮れないぐらいなら、あんまり稼げなくてもいいと思っています(笑)
 
―― あっ!! ここオタマジャクシがたくさんいる!
佐藤 ここ多いんですよ。アカハライモリやトウキョウサンショウウオも出ますよ。あ!サンショウウオの卵あった。中の幼生もかなり成長してますね
 
サンショウウオのきれいな卵のうを見つけた佐藤さんは、水中を覗き込むような姿勢でしばらく撮影を続けていた。以前、観察会でお会いしたとき、佐藤さんがずっと同じ格好のまま撮影をしていた姿がとても印象的だったが、今回もカメラを構えたまま、ほぼ動かずにシャッターを切り続けていた。
※このとき佐藤さんが撮影したサンショウウオの卵のうの写真がページの最下部にあるので、ぜひご覧ください。

―― 散歩してる人も結構いますね
佐藤 毎回会う人もいますよ。ちょうど家の近くから入ってくる道があるので、いつもそこを通ってここに来ています。道の途中でムササビに会ったり、フクロウを見かけることもあります。
 
この後、しばらくカエルやヘビを探して歩きまわるも結局この日は見つからず。気がつけば、予定の取材時間が過ぎ、日も傾きかけてきたので、取材はここで終了することに。
 
佐藤 なんか今日、全然写真撮ってない気がする……。取材これで大丈夫ですか? でも、こういう風景をじっと眺めていると、たまにはそういう日があってもいいかって気持ちになっちゃうんですよ。
―― 本当そうですね! なんかせこせこ仕事するの嫌になってきますね(笑)
佐藤 撮るってことで見えなくなるものもありますから。ただじっと生きものが自然の中にいる姿を楽しむ。こういう感覚がまた撮影に生きてくるような気がします。
 
取材後、無茶を承知で「このフィールドで撮影した写真を送ってもらえませんか?」と佐藤さんにお願いしてみたところ、後日佐藤さんから今春このフィールドで撮影した3枚の写真が届いた。

空と溶け合うトウキョウサンショウウオの卵のう
(撮影:佐藤岳彦)

光と影の中を舞うオナガアゲハ
(撮影:佐藤岳彦)

春の西日に照らされるアオダイショウ
(撮影:佐藤岳彦)

じつは、この取材当日、「生物業界などでは知ってくれている人はいますが、写真界全体から見るとまだまだ…。でも、自分なりの世界の見方で挑戦しているところ」と語ってくれた佐藤さんだったが、なんとこの取材直後に日本写真協会の新人賞の受賞の一報が届いた!!!
2018年日本写真協会賞 詳細
新人賞の受賞、本当におめでとうございます!
 
佐藤さんがこれからどんな「得体の知れない世界」をわたしたちに見せてくれるのか……。佐藤さんの今後の活躍にますます目が離せない。
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Takehiko Sato Photographer
HP:http://mothnake.wixsite.com/takehikosato
Blog:Tef Tef Life Blog 生命の織り成す世界
Twitter:https://twitter.com/Takehiko_Sato
Facebook​:https://www.facebook.com/mothnake

Credit  取材協力:株式会社いきもん

Author Profile

BuNa編集部

株式会社 文一総合出版の編集部員。生きもの、自然好きならではの目線で記事の発信をおこなっている。

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