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植物

Plant

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5/9 2018

街かど「奇景植物」の魅力と不思議にせまる【後編】街中で柔軟に生きる樹木たち

前編では、街中で異彩を放つアロエやサボテン、ツタといった身近な植物たちの暴れっぷりを紹介した。
今回の後編の主役はズバリ、不可思議な姿をした「街中の樹木」だ。
ありふれたはずの樹々が「奇景」になるその理由とは?!
 
 
街の環境をしたたかに生きぬいた結果、独特の存在感を放つ「奇景植物」。
第2回目の今回は、驚きの見た目をした街中の樹木を取り上げる。
 
樹木は人間とは生き方が全然違って、とてもユニークだ。
人間の場合、いま住んでいる場所が気に入らなかったり手狭になれば、別の場所に引っ越すことができる。しかし樹木の場合、生えている場所から自らの意志で動くことはできないので、体の形を変幻自在に変えて周辺環境への適応をはかる。たとえば強風が吹く場所だと風が当たる部分は成長点が潰れるため、風の吹く方向に幹がねじれたり、雪の多い場所では雪に押され根が曲がったりする。

風の強い海沿いに生えていたカイヅカイブキ

写真のカイヅカイブキのように、樹木のいまある姿かたちは、いままで起こったできごとを体現している。
人間だと、寒い地域でも暖かい地域でも、身体のつくりはほぼ共通しているが、樹木の場合、環境に応じて自分の姿かたちを柔軟に変化せざるを得ないため、同じ種類の樹でも、生える場所の特徴によってぜんぜん形が違うことがある。
 
年々幹が太く大きくなっていく樹木にとって、人の都合が優先され、さまざまな人工物で溢れる街中は、決してのびのびと生きられる環境ではない。しかしそんな中でも、樹はあらゆる方法で環境に対峙している。
 
今回も再び「みちくさ部長」こと佐々木知幸さん(造園家・樹木医)のご協力のもと、街かど樹木の奇景の不思議に迫ってみたい。

すきまからにょっきり

街を歩いていてふと道の端を見ると、壁と道路の間などのわずかな隙間から樹が生えているのを見たことはないだろうか。

家と道路の間から食い破るように生えるビワ

わずかな隙間から大木化したクワ。鳥が実を好む

驚くほど狭いスペースから大きく成長している様子は、アラジンの魔法のランプを彷彿とさせる。
舗装から急にニュッと出現したかのような、これらの樹々。芽生えのきっかけは、家主が苗木や食べた後のタネを何気なく植えるといった人為的なケースのほか、鳥が実を食べて種を運んだり(鳥散布)、風がタネを運んだり(風散布)したものが偶然隙間に流れ着いたりと、さまざまだ。鳥散布の場合は、上に鳥の止まり木となる建物やフェンスがあり、鳥がそこからフンをしたことで芽生えたり、道路の真ん中に落ちたフンが雨で隙間や側溝に流され溜まって芽生えたりといったケースがある。
 
ふだん好き勝手に動き回る人間目線で見ると、根元が舗装で覆われたこれらの樹々は、なんだかとても窮屈そうに見える。
なぜこんなに狭い隙間から大きく成長できるのだろうか。
 
まず1つのポイントは、根っこ。
樹木の根には、水や無機塩類を吸収する「吸収根」と、体を支える「支持根」という、役割の違う根がある。表面が舗装されていても、その下に柔らかい土が広がっていて、吸収根を伸ばす行き先があれば、大きく成長できるきっかけとなる。もし地中に硬いコンクリートの層があった場合は、根がぶつかってしまうので樹は大きくなれない。
こういった隙間には、行き場のない水が流れ込み、案外水分が多いことがある。

狭い隙間の下には意外に柔らかい土が広がっている可能性が

樹木側の性質も関係する。太くまっすぐな支持根はもたず、根の浅いタイプの樹木は、支持根を分散させるため、狭いスペースでも生きていけることがある。
また、特に鳥が運ぶタイプのタネは、サイズが大きく中に栄養を溜め込んでいることがある。この「貯金」のおかげで、葉が展開し光合成を始める前に、根を十分に伸ばして水分を確保することができるのだ。
 
このように、芽生える環境と、樹木そのものの性質が相まって、隙間から大きく成長することができる。
街路樹として人為的に植えられたものではない樹木が自然と成長し、こうやって街の景観をつくり出しているのは、なんだかおもしろい。

異物をぱっくり

人の都合が優先されがちな街中では、樹が芽生えたすぐそばに人工物が立ちはだかる場合がある。
人間の場合、目の前になにか障害物があったら、避けたり退散したりするが、樹木の場合、なんとその障害物自体を飲み込んでしまうことがある。
 
たとえばこの樹。柵にぱくっと威勢よくかぶりついている。

柵に「はむっ」と威勢よくかぶりつくスダジイ

またある時は、とんでもない樹に出会った。

ガードレールを吸い込むクロマツ。みごとに貫通している

かぶりつくどころか、ガードレースを吸い込んでしまっている。合成に失敗してしまった写真のようなおかしみすらあるが、なんだか異様な光景だ。
 
さらに驚いたのはこの樹。

柵をすり抜けるクスノキ(左)とエノキ(右)

まるで2本の樹が柵をすり抜けようとしているかのようだ。壁抜け男ならぬ柵抜け樹木。手品のワンシーンのようだ。用事があり急いでいたにもかかわらず、思わず立ち止まり、人目をはばからず写真を撮ってしまった。
 
あまりにすごい見た目なので、それぞれの写真について、こうなった経緯を佐々木さんにプロファイリングしていただいた。
 
まず1枚目の柵にかぶりついているスダジイ。
若いうちは柵から少し離れて生えていたはずだが、徐々に幹が太っていき、柵にぶつかる。ぶつかった部分は肥大成長できないので周りだけが育つようになる。本来、柵に接する部分に投入されるはずだったエネルギーが周りに投入されることで、柵に接した部分の周囲がどんどん細胞分裂し、膨らんだ状態となる。その結果、柵を飲み込むように成長する、というプロセスだそうだ。
 
そして2枚目のガードレールを飲み込んだクロマツ。
幹がガードレールを挟んで枝分かれしていることから、成長のどこかの段階で幹がガードレールにぶつかり、その刺激で枝分かれしY字型になったと推測されるそう。やがて元の幹と新しい幹がそれぞれ太くなって合体した結果、ガードレールを挟み込むように飲み込んでしまったものと考えられるとのことだ。
 
3枚目のクスノキとエノキ。
どちらも大きく太く成長する樹だ。あまりの立派さから、街路樹として植えられた樹のようにも見えるが、通常電柱の近くにこのような大きく成長する樹は植えないので、鳥の糞に入っていた種から芽生えた樹と思われるそう。
フェンスの手前で芽生えた苗が、光を求め、明るい川のほうへ向かってフェンスの間から頭を出す。幹が徐々に太くなり、フェンスの縦棒にくっつく。くっついた部分は細胞分裂しても太れないので足踏み状態の一方、くっついていない部分はどんどん太っていくので、凹型となる。やがて凹型の先端が合流。それを繰り返した結果、何本もの棒を飲み込んでしまった、というのが推測されるプロセスだそうだ。
 
このように異物を飲み込んでしまう大きな要因は、樹が生えたすぐ近くに飲み込む相手(対象)がいるということ。特に、鳥の糞でタネが運ばれるタイプの樹木の場合、飲み込む相手に偶然、鳥が止まったということも考えられるそうだ。
加えて、樹が旺盛に成長できる地盤があったことも要因となる。
 
異物を飲み込んでしまって、幹の中の水分や養分の行き来は大丈夫なのだろうかと気になってしまうが、水分や養分は、表皮のすぐ下の形成層の周辺(道管と師管)で行われるため、多少回り道になるものの、ほとんど問題はないそうだ。
 
芽生えた場所に根を張って、年々肥大成長する樹木。街中で驚きの見た目をした樹木の、姿かたちの経緯を知ると、その柔軟な変化や対応の仕方にあらためて驚かされる。また奇景を紐解いていくと、鳥や風、アスファルトの下の土など、普段なかなか気に留めることのない、別の世界が垣間見えてくる。

まとめ

以上2回にわたり、街中の奇景植物たちを取り上げ、その姿かたちの理由を探ってみた。
人の都合がとかく優先されがちな街中でも、植物は芽吹いた場所の環境をそれなりに利用し、したたかに、たくましく生きている。
 
植物の奇景を紐解くことで、一見整然と見える街に、人間とは別のルールで動いている世界が垣間見られる。
それを感じると、なんだかふっと肩の力が抜けるような気持ちにならないだろうか。
 
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街中の植物に造詣の深い佐々木知幸さん(造園家・樹木医、『散歩で出会うみちくさ入門』著者)に、「奇景」の理由について色々と教えていただきました。ありがとうございました。

Credit  協力:佐々木 知幸

Author Profile

村田 あやこ

路上園芸鑑賞家.街かどの園芸や植物に魅了され「路上園芸学会」名義で魅力を発信.『街角図鑑』(三土たつお編著・実業之日本社)に路上園芸のコラムを寄稿.好きな植物はアロエやシェフレラなどの丈夫な熱帯植物.
Twitter:@botaworks
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