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魚・甲殻類・貝類

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5/14 2018

こんなヤドカリ見たことない! 美しきヤドカリのグラビアの世界

ヤドカリの「宿」の中はどうなっている?

ヤドカリは貝を背負う姿や色彩だけでなく、体の構造も興味深い生物です。そもそも、ヤドカリは空になった巻貝の中に入りますが、貝とは違う分類の生きものです(貝は軟体動物、ヤドカリはエビやカニの仲間の甲殻類)。意外と知られていませんが、世界の巻貝の99%以上は右巻きで、ヤドカリの腹部は貝の中にあるため普段は見えないものの、多くのヤドカリの腹部も右巻きになっていると言われています。

ムニンオニヤドカリ
その名の通り、鬼のようなごつごつとしたトゲや色彩をもつヤドカリ

ヤドカリの標本を作製するときはヤドカリの入っている貝(=宿貝)を壊しますが、このときに正面から見ただけではわからない左右非対称な体構造を観察することができます。その際、隠れていた前甲や腹部を主に観察します。外から見えている部分と同じように、隠れている部分の形態ももちろん種類ごとで異なっているからです。例えば、ベニワモンヤドカリは外から見えている派手な模様が腹部にまで続いていますが、それは貝を取ることで初めて知ることができます。

ベニワモンヤドカリ
ふつうのヤドカリが入らないような、イモガイやタカラガイを好む (『ヤドカリのグラビア』より)

ちなみに、ベニワモンヤドカリは普通のヤドカリが入らないような扁平な貝を好みます。貝を取ることによって、それに適応したベニワモンヤドカリ自身の扁平な腹部の構造も観察することができます。

ヤドカリに魅了されたきっかけ

 
私は北海道出身で、現在は東京都港区にある東京海洋大学に通っており、今年で4年生になります。もともと海が好きだったものの、特定の生物に詳しいといえるような知識もなかったので、なにかしらの海洋生物のスペシャリストになりたいという思いで大学に入学しました。入学して最初の年、サークル活動を通じて海でシュノーケルをする機会が増えました。しだいに、北海道では見られないような、カラフルなヤドカリがたくさんいることに気づきました。特に私を魅了したヤドカリはベニホンヤドカリです。ベニホンヤドカリは本州において房総以南の潮下帯で見られる、色彩が非常に美しいおしゃれな普通種です。
 

ベニホンヤドカリ
鮮やかな紅い体、透き通るような緑の目が特徴的なホンヤドカリの一種

ベニホンヤドカリの貝を取った姿

大学生活をヤドカリに捧げることに 〜『ヤドカリのグラビア』の誕生〜

 
私はヤドカリに魅了されていき、大学生活をヤドカリに捧げることになりました。宿貝を取り除いたヤドカリを観察しているうちに、このヤドカリの姿を見やすいように本にしてまとめたらおもしろそうだと思い立ち、『ヤドカリのグラビア: My hermit life』という本の制作をはじめました。
 
『ヤドカリのグラビア』とは、私が制作した、ヤドカリだけを掲載した少しマニアックな写真集です。主に南方系のヤドカリの黒抜き写真や、水中撮影したものを掲載しています。見どころは、ほとんどの種類で正面からの姿と、貝を取り除いた背面からの姿を同時掲載しているところだと思います。

『ヤドカリのグラビア』の表紙。ヤドカリに関心がない人にも手に取ってもらえるようにキャッチーな印象を目指した

 
少々マニアックな代物なので、初めのうちは自分用に制作していました。しかしあるとき、制作過程を友人に見せたところ、「自分も欲しいし、興味を持つ人が絶対他にもいると思う」と言われ、印刷所に持ち込んで本格的に本にすることにしました。
 
本に掲載するヤドカリの写真は、サークルの合宿や長期の離島滞在などでたくさん撮り溜めていたので、素材には困りませんでした。とは言っても、私はヤドカリが好きだから武骨で地味な種類でも見ていておもしろいのですが、ヤドカリに関心がない人はそうとも限りません。そこで、ヤドカリに関心がない人でもパッと見てたのしめるように、カラフルな種類が多い南方種に絞って掲載してみることにしました。
 

ウスイロサンゴヤドカリ(上)と、クリイロサンゴヤドカリ(下)
殻に入っている場合と、殻を取った場合のヤドカリの姿を全部で33種掲載している(『ヤドカリのグラビア』より)

 
おのずと、ヤドカリが映えるように、本のデザインはモノクロ調のシンプルなものにし、写真にはより興味をもってもらえるよう簡単なキャプションも添えてみました。
また、正面からの写真はできるだけヤドカリの体がたくさん写っている角度の写真を選びました。そして極めつけに、ヤドカリに関心がない人にも手に取ってもらえるように『ヤドカリのグラビア』というインパクトのある名前を付けました。このタイトルは非常にあたりだったと今でも思います。
海洋大の学校祭の販売ブースでは、『ヤドカリのグラビア』を販売し、掲載した種類の多くを水槽で実際に展示しました。3日間にわたって多くの人が興味をもって足を止めてくださり、ヤドカリトークをすることができました。
いらっしゃった方には、
「よく行く水族館のスタッフにプレゼントします」
「マイナーな生物の良さを広めるためには素晴らしい方法だと思います」
などのコメントをいただきました。自分が好きになったヤドカリという生物は、周りの人から見てもおもしろいものなのだと思い、制作したかいがありました。
 

オガサワラヒメホンヤドカリ
筆者が実際にダイビングをして撮影した、海中のヤドカリの生態写真も多数掲載している。(『ヤドカリのグラビア』より)

『ヤドカリのグラビア』に載らなかった陸のヤドカリ、オカヤドカリ

 
ここで、『ヤドカリのグラビア』に載せることのできなかった種類を紹介します。本書には海中に生息しているものだけを掲載していました。しかし、ヤドカリにはオカヤドカリ類という陸上で生活する仲間がいます。
 
オカヤドカリ類は日本には7種(ヤシガニを含めると8種)の生息が確認されていますが、ヤシガニを除き全てが天然記念物です。特別な許可を得た場合を除き、触れたり採集したりすることができません。それゆえ、私は正面から撮影した写真しか持っておらず、宿貝を取り除いた背面からの写真は持っていませんでした。『ヤドカリのグラビア』のコンセプトにそぐわないかなと思い掲載しませんでしたが、オカヤドカリ類は海中に生息するヤドカリとはまた違った印象で、かわいらしい見た目をしています。
 

ムラサキオカヤドカリ
天然記念物に指定されるヤドカリの仲間。日本では南西諸島や伊豆諸島、小笠原諸島で見られる

ヤドカリが見てみたくなったら

もしこの記事をご覧になってヤドカリに興味をお持ちいただけましたら、ぜひ海へ行ってヤドカリたちを探して観察し、触れあってみてください。気軽な磯遊びや海水浴でも、意識して探してみると意外とたくさんのヤドカリがいることに気づくと思います。
そしてよく観察してみると、同じ種類がたくさんいる中でも別の種類が混じっていることがあります。自分が採集したヤドカリを種同定するのはきっと楽しいと思うので、ぜひチャレンジしてみてください。
 
 
※ご本人の手作り!『ヤドカリのグラビア』は、Amazon kindleから発売中です。
※笠谷さんもおすすめ!ヤドカリ探しには『海辺のエビ・ヤドカリ・カニハンドブック』(文一総合出版)もぜひ。
 

Author Profile

笠谷 海斗

北海道出身。東京海洋大学に入学後、ヤドカリの色彩の美しさとアシンメトリーな体構造に魅了される。撮影は素潜りによりOLYMPUS TG-4で行っているが、最近ダイビングのライセンスを取得したので、今後は深場のヤドカリにも手を出す予定。
Twitter:@kass_watering

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