自然好きのみなさん。暖かくなってきたこのごろ、こんな気分になってはいませんか?
「とにかく、自然に触れたい…」
「できれば人のいない、それでいて歩きやすいところがいい」
「おいしいものも食べた~い!」
そんなワガママなあなたにうってつけなのが、埼玉県毛呂山(もろやま)町。
え? 聞いたことない町だなあ? 大丈夫、今からたくさんの見所をご紹介いたします。
(編集:BuNa編集部 今井)
毛呂山町は、埼玉県の中央部に位置する人口約3万4千人の町。西側には山地、東側には平地が広がります。
特産品は関東では意外にも思える「ゆず」。実は、日本最古のゆずの産地とも言われ「南斜面で風当たりが弱く、霜がほとんど降らない」というゆず栽培に適した条件がそろっていたため、ゆず栽培が盛んに行われてきたのです。
しかし、毛呂山町役場の富沢さん(26歳)は、ある悩みを抱えていました……。
ウ〜ム。とってもお悩みの様子です。
毛呂山役場の富沢さん:実は…毛呂山町には自然がたくさんあるのですが、どうPRすべきか悩んでいます。お隣の町、越生(おごせ)町には関東三大梅林と言われる梅林があり、毛呂山町とも繋がっている大高取山ではハイキングや自然探索をされている方も多い。
もちろん毛呂山町にもハイキングコースや自然観察ポイントはけっこうあるんですが、毛呂山、と言うとあまり知られていないと思います……。
そのため、毛呂山の特産品のゆずや流鏑馬(やぶさめ)も合わせて、自然の魅力をどう発信すればいいものか、模索しているところなんです!
なるほど。確かに、私も取材に行くまで毛呂山町のゆずや流鏑馬のことは知りませんでした。
もしかしたら、富沢さんのように「まわりに自然はあるけど、どう活かしたらいいのかわからない」というお悩みを抱えている自治体は多いのでは?
そこで、「自然の魅力をなんとかPRできないか」という町のお悩みを解決すべく、植物観察会を主催されている佐々木知幸さん(『みちくさ入門』著者、「みちくさ部」の部長)をお招きしました!
それでは、佐々木さんと毛呂山町を歩きながら発見した町の魅力を、たっぷりご紹介します。
都心部の自然公園では柵があったり、採集が禁止のところもあり、じっくり野山を観察することが難しい昨今。でも、毛呂山なら大丈夫! いきなり山に行かずに、町の東側に位置する平野部から散策を始めます。毛呂山町には自然観察をするのにアクセスしやすい、越辺(おっぺ)川があります。
と、佐々木さんがさっそく河原近くで植物を物色しはじめました。
毛呂駅。池袋から1時間程度で来ることができる
越辺(おっぺ)川。中流部のゆるやかな流れ
カテンソウ
佐々木さん:地味だけど、デザインがいいんです。葉がお互いに重なってないですよね。森の中の割と暗いところに生える草なんですけど、暗いところに生えるので、光を効率よく吸収しようと葉がお互いに重ならないように螺旋状についていますね。
おお、そこらへんで踏んづけていた草も、佐々木さんがほめるとちょっとよく見えてきました。
カテンソウ。「死ぬほど地味な草がありました(笑)」と、佐々木さんからいきなりの地味な草宣言
ナヨクサフジ
佐々木さん:クサフジ…いや、外来種のナヨクサフジかもしれない(スマホで検索をはじめる)。
――図鑑じゃなくて、意外とスマホで確認するんですね。
佐々木さん:いがりまさしさん(植物写真家)の図鑑サイトには、似た仲間が多い植物の比較ページがあるので、迷ったときはそれを使わせてもらっています。クサフジの仲間は、托葉のところがポイントなんです。在来種のクサフジなら托葉は細くて目立たなくて、小葉の数が17~24枚と多いらしいので、これはクサフジではないな~。托葉がミトンみたいに切れ込んでいるので、これはナヨクサフジですね。きれいなんだけど外来種です。
川って大雨が降ると増水したりして、植物が流される「撹乱(かくらん)」が多いじゃないですか。撹乱があると、新しい隙間ができやすい。だから、川の近くにはそういう変化の多い環境に合った植物が生えるんですよね。ナヨクサフジの他にもミズキやノイバラ、イボタノキなんかが生えていると、すごく河原っぽい感じですね。ただ、隙間が多いぶん、河原はどうしても外来種が多くなっちゃいます。
ナヨクサフジ。きれいな花だが、河原によく生える外来種。
クララ
右手前のかたまりがクララ。関東では数が減っているというが、河川敷のすぐそばに元気よく生えている
葉をかじってみて、微妙な顔の佐々木さん。河川敷でたそがれているわけではない
佐々木さん:(クララの葉をかじってみて)苦い……。根や葉をかじるとくらっとするくらい苦いことから、クララ(苦参、眩草)という名前のあるマメ科の植物です。よく河原の草原に生えています。
いま草原は、植林したり放置されたりして森になっている場所が多いので、草原の生きものは絶滅しかかっているものも多いんです。なので、地味な植物だけど貴重。薬にもなる植物です。
河原と一口に言っても、植物それぞれにその場所に生えている理由があるもの。そこになぜ生えているのか? という目線でガイドしてもらうと、植物観察が一気に楽しくなります。
観察ポイント1:いきなり山奥に行かなくても、意外と河原に植物がたくさんある!
まずはアクセスのいい場所で、手にとって観察。
毛呂山町の駅から南側には、屋敷林や田畑が広がっています。さっそく佐々木さんが、私にはなんの変哲もないように見えたタンポポを発見しました。
タンポポを発見する佐々木さん
よく見ると、左下のものは花の緑色の部分が反り返っているが、中央のタンポポは反り返っていない
タンポポ
佐々木さん:カントウタンポポっぽいけど雰囲気が違うな……?
役場富沢さん:タンポポって、カントウとか、種類があるんですか?
佐々木さん:はい、在来種で言うとカントウタンポポの可能性が高いのですが、シナノタンポポとか、違う種もここらへんに生えている可能性があります。これはたぶん外来種のセイヨウタンポポとの雑種ですね。通称アイノコセイヨウタンポポと言います。見分けるポイントである総苞片(そうほうへん)が反り返っているとセイヨウタンポポの可能性が高いんですが、ここのは総苞片が反り返ってないものもあるので、日本のタンポポが混じっていると思う。タンポポでもハーフやクォーターがいるという感じですね。雑種同士でも交雑するので、だんだん見分けるのは難しくなってきます。線引きでここからここまで、というのはなかなかできないので、専門の人でも悩むところです。
――タンポポって意外と難しいですね。タンポポを見分けたい人へのアドバイスはありますか?
佐々木さん:とにかく数をいっぱい見てほしい。図鑑があてにならない部分もあるので、総苞片の幅が広いとか狭いとか、また別の識別ポイントである角状突起(かくじょうとっき)があるかないかも見ておきたい。ですが、それぞれの特徴の振れ幅がとても大きいので、たくさん見ておかないと典型的なものが何かがわからないんです。タンポポを見つけたら全部見る、くらいの勢いがあるとだんだんわかってきます。
観察ポイント2:見る回数を増やすことで、その種類の特徴が見えてくる!
さらに田んぼで車を走らせていると、田植えをしている一角にさしかかりました。
役場富沢さん:あ、チョウチョウだ
――蝶々ですか?
役場富沢さん:いえ、町長です
まるでギャグのような会話ですが、なんと、ここでまさかの毛呂山町の町長が田植えをしているところを偶然発見!
さらに、毛呂山町長から「じゃあ、トラクターに乗ってみますか。簡単ですよ」との田植えトラクター体験のお申し出が。町長は、朝3時に起きて8時には一仕事終えて、それから役場に向かうそうです。スゴイ。
「たくさん写真を撮っていてくださいね!」 取材にもノリノリな町長です
乗ってみました。ハンドル操作をするだけで全部自動で植え付けてくれるすぐれもの
佐々木さん:この田んぼの近くにノジスミレがたくさん生えているんですけど、都市部ではあまり見られないので、いい環境の田んぼですね。
町長:一番いいのはね、苦林(にがばやし)耕地。あそこは土側溝(どそっこう:コンクリートで固められていない側溝)だから、今でもメダカや水生昆虫なんかの生きものたくさんがいますよ。
と、町長から直々に有力情報が!
しかし、本当に残念なことに午後から強い雨が降り出したため、この日は苦林耕地には行けませんでした…。自然度の高い田んぼは、今や関東では見つけるのが難しい場所。植物観察に加えてぜひ、田んぼ周りをガサガサ(網で水路や水辺をガサガサして、生きものをとること)して、生きものを見つけてみたい場所です。
※田んぼの周辺で植物観察や生きもの探しをする際は、田んぼ所有者の方に許可をとるなど周辺の方への配慮をしましょう。
観察ポイント3:雨の予報を前もってチェック! 優先順位の高い場所から見てまわろう
毛呂山町の中心部には、臥龍山(がりゅうさん)という小さな山があり、その中に出雲伊波比(いずもいわい)神社が鎮座しています。出雲伊波比神社では、馬に乗って弓を引き的を射る流鏑馬(やぶさめ)が毎年3月と11月に行なわれ、多くの地元の人で賑わうそう。
しっかりお参りする佐々木さん
この道を先に行くと、山へ散策路がある。境内のすぐ隣にあり、流鏑馬の際には馬が通る
ヒノキ林の中を進んで行くと、山の北側に来ました。と、ここで佐々木さんのうひょう~!という歓声が。
ひっそりと佇むコアジサイの花
コアジサイ
佐々木さん:見事に満開ですね。コアジサイはアジサイとは違って、萼(がく)がひらひらして花びらに見せかけている「装飾花」の部分が無いんです。なので、小さくてかわいい花だけをつけます。ちょっと山奥の標高の高いところに生える木なので、街中みたいな暑いところだとうまく育たない。秩父とかにはいっぱい生えているはずですが、こんな街中に生えているというのは、平地に山が紛れ込んでいる臥龍山ならではですね。今日はコアジサイをこんなに見れたから、自分としてはもうこれで帰ってもいいかなーくらいの満足感があります(笑)。
花を詳しく見てみると、白い花の株や青っぽい色の花の株がありますよね? こういう色の違いがあるというのは大事で、例えば、前年に少なかった白いコアジサイが今年急にばーっと増えたのではなく、長い間ここで個性豊かなコアジサイが途切れずに生育してたってことなんです。そういう意味でも、ここはとてもいい環境ですね。
へえ~、こんなところに、と漏らす役場の富沢さん。植物好きの方なら嬉しいコアジサイの群落ですが、毛呂山町の役場のみなさんも知らなかったようです。
ここでポイントなのは、コアジサイの生えている場所が北斜面ということ。佐々木さんによると、北斜面は陽の光が柔らかく入ってくるため、全体的に変化がスローで繊細な植物がすみわけをして生きている場所なんだそうです。
佐々木さん:北斜面にはコアジサイのような低温で湿ったところが好きな繊細な植物がすんでいるので、たとえば一気に樹を伐ったりしてしまうと、一気に環境が変わってそういう植物は居なくなってしまう。ぜひ大事にしていただきたい環境ですね。林としてはいい環境がすごくきれいに残されている場所なので、今までやっていたような管理を続けてほしい!
コアジサイの生える斜面
ベニシダの生える斜面。コアジサイと比べて、光が差し込んでいる
道を進んだ先の西側の斜面には、ベニシダやヤブコウジが繁茂しています。よく見ると、西日の光が当たって乾燥するので、先ほどのコアジサイが居た場所とは違い、やや乾燥や強い日射に強い植物が生えているようです。山のような地形では、方位磁石を確認しながら方向を確認すると、植生の変化と日当りや水分環境の違いを推測できて観察がより楽しくなります。
観察ポイント4:斜面の方角や日当りにも注目しながら、そこにいる植物の変化を楽しもう!
iPhoneの方位磁石を活用する佐々木さん。植物の観察でも、スマホは大活躍
後編では、毛呂山町のスタミナ新名物「ぶったまげ丼」が登場!
山間部の方へも足を伸ばし、道中でたくさんの植物を見て歩きます。