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5/15 2019

ツバメはどこから飛来する? 『小笠原諸島〜伊豆諸島 ツバメの渡り調査』でわかったこと 前編

初夏。そろそろツバメのヒナが巣立つころですが、春先に日本各地へやってきたツバメはいったいどこからやってくるのでしょうか?その謎を解く調査について、『小笠原諸島〜伊豆諸島 ツバメの渡り調査』の代表である重原 美智子さんに解説していただきます。

小笠原諸島や伊豆諸島で観察されるツバメはどこから飛来するのだろうか?(イラスト:重原美智子)

春になったら南の国から渡ってきて、商店街や駅、住宅の軒先などに巣をつくり人のすぐそばで繁殖する身近な野鳥の代表格のツバメ。ツバメと名がつく鳥には、ツバメ科のコシアカツバメ、イワツバメなどのほかに、アマツバメ科のアマツバメなどもいますが、ここでは小笠原諸島や伊豆諸島でも観察される和名ツバメ(学名Hirundo rustica)がどこからやって来るのか、それを解き明す調査『小笠原諸島〜伊豆諸島 ツバメの渡り調査』についてお話しします。

2019年3月下旬、父島の前浜に到着したばかりのツバメ。撮影:辻井浩希

アホウドリの島にツバメが飛来する不思議

きっかけは私の大好きな鳥のひとつでもあるアホウドリでした。
絶滅の危機に瀕したアホウドリが繁殖する絶海の孤島、鳥島(とりしま)。
鳥島は伊豆諸島の島の一つで、無人島です。特別天然記念物のアホウドリの繁殖地として知られています。東京から南へ約580km離れた場所に位置し、そのさらに南に沖ノ鳥島や南鳥島を含む小笠原諸島があります。小笠原諸島の中の聟島(むこじま)列島、父島列島、母島列島の3つの列島のことを小笠原群島といいます。父島は東京からおよそ1000km。鳥島は東京と小笠原群島のほぼ中間の位置にあります。

伊豆諸島と小笠原諸島。聟島列島、父島列島、母島列島の3つの列島をあわせて小笠原群島という。

10年ほど前に、その鳥島にもツバメが春に飛来することを知りました。
すぐそこで暮らしている身近なツバメが、あの遠く離れたアホウドリの鳥島にやってくるとは。不思議でたまりませんでした。
鳥島に飛来したツバメはどこからきたのでしょう? 小笠原から飛来してもっと北の八丈島や三宅島へと渡っていくのでしょうか。そして、小笠原のツバメはどこから来るのでしょう? もっと南の島?
地球儀で小笠原諸島と伊豆諸島を探したら、太平洋の大きさに比べて小さすぎて点にもなりません。こんな広い大海原を渡ることができる小鳥がいるのだろうかと不思議に思うばかりでした。

アホウドリが繁殖する鳥島の南側。燕崎という斜面にコロニーがある。2016年4月撮影。

日本で繁殖するツバメの主な越冬地はフィリピン、インドネシア、マレーシアなどの東南アジアの国々であることは環境省が山階鳥類研究所に委託して行っている鳥類標識調査などから明らかになっています。また、気象庁の動物季節観測のツバメの初見日などの記録からは、ツバメが春には台湾や沖縄などを通って九州から北上していくことが明らかになっています。けれども、小笠原諸島ではツバメの標識調査は行われておらず、父島の気象台でもツバメの初見日調査は行われていないので、小笠原諸島で観察されるツバメについては情報がほとんどありません。
ツバメは伊豆諸島の三宅島などでは繁殖をしていますが、八丈島では繁殖していません。小笠原諸島からさらに南に位置するはずの越冬地もわかっておらず、小笠原諸島で観察されるツバメが毎年越冬地と繁殖地を行き来している渡り鳥であるかどうかは明確ではなく、なんらかのアクシデントで飛来する迷鳥かもしれないのです。父島や母島で鳥を観察している方にお聞きしたところ、毎年4月ごろには見かけるが、見かけない年もあるということでした。

どこから飛来するの?

越冬地かもしれない太平洋の島々と小笠原群島までのおよその距離。

先ほどの疑問に戻りますが、小笠原のツバメはどこから飛来するのでしょうか。サイパン島、グアム島などが含まれるマリアナ諸島から? ニューギニアかパラオ? もっと遠いオーストラリア?
その中のどこかだとしても、一番近いマリアナ諸島の北端の島からでも数百キロ、その先のどこかだとすると数千キロを越える海の旅になります。
海上ではツバメは羽を休めることができません。また、小笠原ではツバメは越冬も繁殖もしていません。つまり、春に小笠原に飛来したツバメは太平洋のどこかの越冬地から大海原を超えて飛来したということだけが確かなことなのです。
 
小笠原諸島や伊豆諸島で観察され、アホウドリの鳥島にも飛来するツバメが、世界で一番広い太平洋を渡る渡り鳥だとしたら、その姿を自分の目で見てみたい。この調査はそんな気持ちからはじまりました。

小笠原村役場の前の方位柱。パラオまで2342km、グアムまで1538km。

伊豆諸島、小笠原諸島のツバメについて調べる

最初にしたことは、2011年の秋、鳥島にすこしでも近い島、八丈島へツバメを探しにいくことでした。このときは残念ながらツバメを観察することはできなかったのですが、八丈島歴史民族資料館で、江戸時代に出版された小寺応斎の『伊豆日記』を拝見し、その中の2羽のツバメが波の上を飛んでいる絵の写真を撮らせていただきました。絵はツバメっぽいのですが「国地のつはめより、かたちおほきく、高く飛。とほめに見るに、はらまでみなくろくみゆる。」とあるので、このツバメはアマツバメのことかもしれません。

小寺応斎の『伊豆日記』のツバメ。

私が小笠原を初めて訪れたのは世界遺産に登録された翌年の2012年。小笠原諸島の島々は今まで一度も大陸と接した事のない海洋島で、独自の生態系をもち、生きものの進化のようすを観察出来ることが注目されています。島の気候は亜熱帯気候で、大正から昭和初期にかけて農業や漁業がさかんになり人口も7000人を越えましたが、戦争中は強制疎開が行われ、戦後、米軍の占領下に置かれました。1968年に日本に返還され、昨年は返還50周年を迎えました。現在、一般の人が暮らしているのは父島と母島だけで、イルカやクジラさまざまな野鳥などを観察することができる人気の観光地でもあります。父島も母島も豊かな自然にあふれた島ですが、その島にツバメがやってくることは、地元の人もあまり知らないようでした。
 
小笠原でツバメを観察しようにも、いつ頃、何羽くらい飛来するのかもわからなかったので、父島や母島で鳥の調査や研究をしている方から情報を集め、一番たくさん数が飛来しそうな時期を選び、小笠原を再び訪れたのは4年後、2016年4月でした。
 
父島と母島では飛来するツバメのカウント調査を行い、伊豆諸島ではなく聟島列島にある鳥島にはドルフィンスイムのツアーの船に同乗して行きました。鳥島の斜面には巣立ち間際のコアホウドリやクロアシアホウドリのヒナがおり、そこを飛び交うツバメの群れを観察することができました。どの島でもツバメたちは元気に生き生きと飛び交っていました。その姿を実際に観察し、小笠原に飛来するツバメは迷鳥ではなく繁殖地へ向かうという目的をもった生きものだと感じたのです。

小笠原群島のなかの聟島列島の鳥島。ツバメの群れを観察した。

聟島列島の鳥島のクロアシアホウドリとコアホウドリの巣立ち間際のヒナたち。左側の黒いヒナたちがクロアシアホウドリで少し離れた右側の白っぽいヒナがコアホウドリ。

クロアシアホウドリとコアホウドリのヒナたちがいた斜面を数羽のツバメが飛び交っていた。揺れる船から撮影した動画より。

 
翌2017年の春、6年ぶりに八丈島を再訪しました。全国鳥類繁殖分布調査の一環で行われている東京都鳥類繁殖分布調査に参加したのです。前回の調査は一人でしたが、この調査では仲間とチームを組んで決められた調査コースを歩いて調べます。ツバメの繁殖は確認できませんでしたが、その姿は観察することができました。この繁殖調査は内地(本州)の東京〜伊豆諸島・小笠原諸島の人が住んでいる島々の全島で行われています。日本の鳥たちの大切な基礎調査で、将来に渡って貴重な記録になるでしょう。
 

全国鳥類繁殖分布調査と東京都鳥類繁殖分布調査のシンボルマーク

東京都鳥類繁殖分布調査のロゴマーク

私はツバメばかりでなく太平洋を渡る他の鳥のことをもっと知りたかったのでこの調査に参加したのですが、この調査に一緒に参加した別の方から、「それぞれの島に住んでいる人に協力していただいてツバメの渡りを観察したら、ツバメがどのように移動しているのか調べられるのではないか」というアイデアをいただきました。
 
渡りの時期という限られた期間にいくつもの島へ一人で調査に行くことは難しいけれど、その方法ならば出来るかもしれないと考え、2018年の春に『小笠原諸島〜伊豆諸島 ツバメの渡り調査』を始めることにしたのです。調査への参加をよびかけるチラシを1500枚作成し、各島の観光協会などに設置をお願いしました。調査の具体的な方法は、ツバメを見かけたら、いつ、どこで、だれが、何羽、どんなようすだったのかという5項目を満たした観察記録をメールで送っていただくというものです。
 
その結果、ありがたいことに全島で、のべ194名のかたから240件の観察記録が届き、ツバメの初認日は南にある島ほど早い日にちである傾向があることがわかりました。東京都鳥類繁殖分布調査で知り合った方や、調査のチラシを見てツバメの渡りに興味を持って下さった方たちが、日常の暮らしの中でツバメを観察した記録を送って下さったのです。最南端の母島から、最北端の大島までの貴重な記録です。それらの島ごとのひとつひとつの記録から、ツバメが南の島から北の島へ移動している様子がわかったのです。
 
小笠原諸島や伊豆諸島のツバメに感心を持つきっかけになったアホウドリは、近年では推定で生息数が5000羽を超え、八丈島や小笠原へ向かう航路でも観察されるようになり、おがさわら丸で父島へ調査に向かう時の楽しみになりました。
 
次回は2018年の調査のくわしい結果と、越冬地のひとつかもしれないパラオのツバメのこと、現在進行中の2019年の調査の最新情報などをお知らせ致します。

ツバメが観察されることが多い父島のウエザーステーションから、母島方向を観察中。

Credit  イラスト・写真・文:重原美智子

Author Profile

重原 美智子

本職はイラストレーター、デザイナー。子どもの頃から鳥好きだったが、1995年にヒマラヤを越えるアネハヅルの衛星追跡の調査でモンゴルへ行った事がきっかけで、地球をわたる鳥たちに感動。鳥の絵の仕事に、『シジュウカラからシジュウカラ きこえてくるよとりのこえ』(岩崎書店)『鳥たちの旅』(NHK出版)『わたり鳥の旅』(偕成社)などがある。日本ワイルドライフアート協会会員、日本鳥学会会員。
 
太平洋のツバメの観察記録、募集しています。
『小笠原諸島〜伊豆諸島 ツバメの渡り調査』のHP
http://oga-izu-swallow.jp/
イラスト、デザインのHP
http://michiko-shigehara.art.coocan.jp/

Information

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